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西部劇を“殺した作品”「許されざる者」(1993)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、監督作を何本も制作して、今や巨匠となったクリント・イーストウッドが、監督と主演を務めて第65回アカデミー賞で監督賞、作品賞、助演男優賞編集賞の4部門に輝いた作品『許されざる者』ですよー!

そのうち観ようと思っているうちにすっかり忘れていて、先日まだ観てなかった事を思い出したので、早速レンタルしてきましたー!

で、今回は古い作品だしネタバレを気にせずに感想を書いていきますので、もしもこれから観てみようという人は、先に映画を観てからこの感想を読んでくださいねー。

いいですね? 注意しましたよ?

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画像出典元URL:http://eiga.com

あらすじ

荒事からは足を洗っていたウィリアム・マニーの元へ若いガンマンが訪れる。娼婦に傷を負わせ賞金をかけられた無法者を追うためだ。マニーのかつての相棒ネッドを加えた3人は追跡行に出かけるが、その頃、町の実力者の保安官ビルは疎ましい賞金稼ぎたちを袋叩きにしているところだった。やがてビルの暴力が黒人であるネッドにも及んだ……。(allcinema ONLINEより引用)

感想

クリント・イーストウッドといえば、西部劇のテレビドラマ「ローハイド」でブレイクを果たして以降、数多くの作品に出演した大スターで、さらに数々の作品を監督し、数々の賞に輝く名監督でもあります。

特に、西部劇は「夕陽のガンマン」や「荒野の七人」など多くの作品に出演、監督もしていて、本作もそんなイーストウッドが監督主演を勤めた西部劇ですが、公開時には「イーストウッドが西部劇を殺した」と物議を醸したのだとか。

というのも、本作は徹底的にリアリティーにこだわった作品で「西部劇なんて全部嘘っぱちだから」という内容なんですね。

西部劇とは

そもそも西部劇とは、日本で言えば歌舞伎、講談など、実在の人物の逸話や武勇伝を元にした活劇から派生した時代劇と同じ構造で、正義のガンマンがならず者や悪徳保安官、もしくは正義の保安官がならず者や悪漢を退治する勧善懲悪ものが多いんですね。

中には伝説の保安官ワイアット・アープや、ならず者のビリー・ザ・キッドなど、実在の人物を英雄的に描いた作品も多く、それらはダイムノベルという10セントで買える安価な大衆小説で描かれる美化・英雄化されたガンマンたちがベースになっているんだそうで、本作でも、“伝説のガンマン”イングリッシュ・ボブに同行するライターが登場します。

しかし、この作品は彼の武勇伝の種明かしをして、「伝説」の正体なんて所詮こんなもんだということを辛辣なまでに描いていきます。

主人公は元極悪非道のならず者

そんな本作の主人公は、昔、極悪非道の限りを尽くしたならず者のウィリアム・"ビル"・マニー(クリントイーストウッド)

そんな彼でしたが、美人の奥さんと出会って会心し、今は貧しい農民として2人の子供と粗末な家で暮らしていて、奥さんはといえば天然痘が原因で三年前に亡くなっているんですね。

そんなある日、昔の知り合いの甥っ子スコフィールド・キッド(ジェームズ・ウールヴェット)が彼に、賞金稼ぎの話を持ってくるわけです。

ビッグ・ウィスキーという町の酒場で、娼婦が客のカーボーイとトラブルになり、ナイフで顔を斬り刻まれる事件が発生。
しかし、保安官のリトル・ビル・ダゲット(ジーン・ハックマン)は、このカーボーイたちを逮捕も裁判もせずに、被害にあった娼婦ではなく、酒場の主人に馬7頭の賠償を命じて事を収めてしまいます。

これに納得の行かない娼婦たちは、自分たちの貯金をかき集めて、2人のカーボーイを殺してくれる賞金稼ぎを雇おうとするんですね。

で、その話を聞いたキッドが、伝説のワルだったマニーに声をかけて一緒にカーボーイを殺そうと持ちかけてくるわけです。

一旦は断るマニーですが、子供の将来を考えると金は欲しいと、結局キッドの話に乗り、さらに旧友で“射撃の名手”ネッド・ローガン(モーガン・フリーマン)も誘って、ビック・ウィスキーに向かうんですね。

許されざる者」は誰なのか

本作を観る前、伝え聞いた断片的な情報から僕は、更生した主人公が過去に犯した過ちからすったもんだあって最後に死んじゃう話だと想像していたんですが、実際観てみると全然違う物語でした。
っていうか、そもそもこの物語は誰が悪者で誰が善人か分からないのです。

そんな本作の脚本を書いたのは「ブレードランナー」の脚本も担当したデヴィッド・ピープルズ。映画化される10年以上前に書いた脚本を、イーストウッドが映画化権を買ったあと、自身が主人公のマニーと同じ年齢になるのを待って映画化したんだとか。

その構造は複雑で、西部劇の勧善懲悪やカッコイイガンファイトとはかけ離れたものなんですね。

主人公マニーは、亡くなった奥さんと出会って引退したものの、昔は女子供も平気で殺すような極悪人だし、おそらく相棒のネッドも彼の仲間だったんでしょうが、今はネイティブアメリカンの奥さんを貰い、マニーと同じく貧しい農民として暮らしています。

しかし「娼婦の顔を切り刻んだカーボーイ」というキッドの話を聞いて、「それはひどいな…」と呟く彼らの顔には、傷ついた女性の復讐という正義の大義名分を得た人間の目になるわけですね。

しかし、10年前にならず者を引退し年老いたマニーは、拳銃を撃つ手もおぼつかず、馬にもなかなか乗れない始末。
ネッドは、生意気な若造に対抗して腕自慢をするものの、いざ本番となると怖気付いて計画から降りてしまう口だけ番長だし、キッドも「5人殺した」なんて嘯いてるけど、実は今回が初めての殺人っていう、どいつもこいつも役立たずばかりなんですね。

一方、街の保安官リトル・ビルは、最初は穏健派で人のいいおっさんぽいんですが、酒場の店主から女たちが賞金稼ぎを雇ったと相談され、「町の治安を守る」ため街の入口に「拳銃の持ち込み禁止」の看板を立て、賞金の噂を聞いて町を訪れたイングリッシュ・ボブ(リチャード・ハリスから銃を取り上げ、公衆の面前でボコボコにリンチして見せしめにしたり、同じ理由でマニーもボコボコにします。

まぁ、無法者から町を守るためなら仕方ないと一瞬思いますが、そもそも彼がカーボーイたちに正当な手続きで裁きを加えていればこんな事にはならなかったし、明らかに女性差別主義者(もちろん当時の男は多かれ少なかれそうなんでしょうけど)で、娼婦たちを見下していたからこそ、女性ではなく店主への賠償という自分勝手な判断で場を収めて自体を悪化させてるんですね。

イングリッシュ・ボブをボコボコにしたのも、独立記念日にやってきてアメリカをバカにした彼への怒りがメインで、町の治安云々は実は二の次。
さらに、マニーたちがカーボーイの一人を殺したあとにネッドを捕まえたリトル・ビルは、法の手続きを経ずにネッドを拷問死させたうえ、酒場の前に晒すわけですが、これもイングリッシュ・ボブを生かして追放したことを考えると、彼が人種差別主義者である事が分かるんですね。

しかし彼は最後の最後まで、自分が悪いことをしたとは微塵も思っていません。
むしろ正義のために行動したのに、なぜ自分が殺されるのかと本気で思っているわけです。

前述のキッドも、初めての殺人のあと「あいつは殺されて当然だ」と言って自分を正当化しようとしますが、マニーに「俺たちも同じだけどな」とつっこまれてシュンとしたりし、もう人殺しは嫌だと逃げ帰ります。

マニーたちを雇った娼婦の方は被害者だから悪くないかといえば、法の手続きなしで勝手に殺人依頼をしてるわけで、それは今後また同じことが起こらないようにという自衛のためという大義名分があるけど、ぶっちゃけ問題のカーボーイは恐らく、以前からトラブルを起こすやつで、みんな「やつが死ねばいい」と思っていたっところに、件のトラブルが起きたことで大義名分を得たってことじゃないかなって思うんですね。

つまり、本作に登場するメインキャラは全員が、「正義」という大義名分を得て暴走した人間ばかりで、全員が「許されざる者」なのです。

さらに言うと、この物語はネイティブアメリカンから土地を奪い、正義の大義名分を傘に着て、他国と戦争を繰り返す米国の歴史そのものへの内省的な物語でもあり、保安官のリトル・ビルはそんな保守派の米国人を象徴するキャラクターでもあります。

劇中、彼は一人で理想の家を作っているんですが、素人な上に不器用な彼の作る家は歪んでいて、ちょっと雨が降れば盛大に雨漏りするようなガタガタの家。
これは、そのまま当時の(そして現在の)米国の象徴なんですね。

この映画でイーストウッドは、西部時代を描きながら、西部劇は人殺しを美化した嘘っぱちだと、それまでの西部劇や伝説のヒーローを真っ向から否定し、それは同時に数多くの西部劇でヒーローを演じてきたイーストウッド自身(=米国人のスピリット)の否定でもあるんです。人殺しに正義も悪もないっていうね。

現にマーニーは、保安官と荒野で正々堂々対決をするわけではなく、保安官たちがいる夜の酒場に押し入ってライフルを発射。友人の仇討ちを果たすんですが、真っ先に撃ち殺したのは丸腰の酒場の店主で、これは西部劇のヒーローにあるまじき卑怯な行為です。

だから、本作公開後にイーストウッドは「西部劇(=アメリカンスピリット)を殺した」と言われたんですねー。

そんな感じで、西部劇的な活劇感は微塵もない本作ですが、しかしそこはイーストウッド。文芸性だけでなく、しっかりエンターテイメント性も盛り込んだ面白い映画でしたよ。

 興味のある方は是非!!!

 

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