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「野火」(2015) ネタバレ感想

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、デビュー作『鉄男』以来、強烈な作家性で独自の路線を突き進む塚本晋也監督が、20年に渡り構想を練った“自主制作映画“『野火』ですよー!

公開直後から話題を呼び、ネットでも概ね評価が高かった本作。
しかし残念ながら僕の地元では劇場公開がなく、やっとレンタルが始まったので、早速借りてきました!

なお、本作はネタバレしないように書くのは難しいし、実際、物語の筋が分かったところで、本作の魅力は一切目減りしないと思うので、そのつもりで書かせていただきます。なので、これから本作を観る予定の方は、まず映画を観てから、この感想を読んでください。

いいですね? 注意しましたよ?

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画像出典元URL:http://eiga.com/

概要とあらすじ

主に小規模作品を制作しながらも、独自の世界観で世界的知名度の高い塚本晋也監督が、大岡昇平の同名小説で1959年市川崑監督で映画化された同名小説を再映画化。

太平洋戦争末期、希望の見えないフィリピン戦線での地獄のような“戦争“での究極的な飢えと孤独、狂気と絶望を、主人公の田村一等兵塚本晋也)の視点で描く。
ちなみに、本作で塚本監督は、制作、監督、脚本、撮影、編集、主演と一人六役をこなしている。
というのも、企画は自体は持ち上がるもののスポンサーが集まらず、ネットを通じてボランティアスタッフを募集し、超低予算の“自主映画“として制作されたから。

出演は主演の塚本晋也の他に、リリー・フランキー中村達也、森優作、中村優子他。

 

感想

基本的に僕は、戦争で起こる理不尽を描くフィクションが苦手なので、『戦争映画』は避けてますし、なので、原作も市川崑版も、読んでいないし観ていません。
つまり『野火』という作品は本作で初めて知ったんですね。
事前に、『戦争映画』『追い詰められ人肉を食う男の物語』『ゴア描写も凄まじい』という程度の情報は得てましたけど、ほぼ白紙の状態で観ました。

ざっくり内容

本作の舞台は、太平洋戦争末期のフィリピンが舞台。
主人公の田村一等兵は肺病を煩い、上官に野戦病院に行くよう指示されます。
しかし野戦病院は戦闘で傷ついた重症患者で溢れかえり、肺病程度の彼は追い返され、部隊に戻れば張り飛ばされと、何度も部隊と病院を往復するハメになります。

ここはいわゆる『てんどんギャグ』なんですが、同時に日本が軍隊の体を保てないほど疲弊しきっている様子を表すシーンでもあります。

また、深刻な食糧不足により、部隊で防空壕を掘っている仲間も痩せ細った幽鬼のようで、そのくせ目だけがギョロっとしている何とも恐ろしい姿。
一方、野戦病院は、ウジの湧いたほぼ死人にような兵隊で溢れかえっている。
その中を行ったり来たりする田村は、まるで地獄を彷徨う亡者のようでした。

そんな田村は、飢えと、孤独と、絶望の中で、現地人を撃ち殺すという、初めての過ちを犯してしまいます。
そこで手に入れた僅かな食料を持って、目的もなくジャングルをさまよい歩く田村。
その道すがらには、無残に転がる死体の山。

物語中盤、そんな田村にわずかな希望の火が灯るものの……。
という内容。

低予算ということもありますが、戦闘によって人が肉塊に変わっていく残酷さと、狂気の中で人が獣に変容していく残忍さ。
塚本監督は、この二点に焦点を絞り、ある意味でドキュメンタリーチックな映像で、身も蓋もないほど容赦なく“戦争“を、自身が演じた田村一等兵の一人称として描き出しています。

役者 塚本晋也と役者陣

そんな塚本監督は、約8キロの減量をして、本作で主役を演じています。
デビュー作の『鉄男』から、自身も役者として出演している塚本監督ですが、(全部の作品を見たわけではないですが)僕の知る限り、本作は、役者 塚本晋也のキャリアの中でも郡を抜いて素晴らしかったです。

また、頼りになる伍長を演じる中村達也、小ずるい安田を演じるリリー・フランキー、安田と行動を共にする青年 永松を演じる森優作の演技も各々素晴らしかったですねー。
特に、永松役の森優作がラストの方で観せる狂気は、観た人全員が震えるんじゃないかと。

無駄のない演出

そんな本作、なんと87分しかありません。
2時間超えが普通の昨今の映画状況としては、驚くべき短さですが、少なくとも観ていてその短さを感じることはありませんでした。
何故かといえば、映画の密度が濃いからです。

とにかくただの一秒も無駄がないんですよ。
そして、セリフに頼るのではなく、ほぼ映像で全てを語りきっているんですね。
なので、とにかく情報量が多く、観終わった時にはヘトヘト。
というのも、観客はこの『地獄』を、主人公 田村を通して追体験しているからなんですね。誰とは言いませんが、最近の映画監督はこの作品を見習って欲しいものです。

ただの反戦映画ではない。

戦争の悲惨さを描いた映画は、どうしても「反戦映画」というレッテルを貼られてしまいがちですし、実際、塚本監督自身この映画には反戦の願いを込めているわけですが、しかし、本作は通り一遍のただの『反戦映画』ではありません。

なぜなら、田村を始めとした登場人物たちは単なる被害者ではなく、加害者でもあるからです。
多くの(特に邦画の)戦争映画で避けられたり、ヒロイックなセリフでごまかしてきた『我々は被害者であると同時に加害者でもある』という命題を、塚本監督は本作でしっかりと描いてるんですね。
それを、セリフで押し付けがましく語らせるのではなく、映像とアクション(戦う方じゃなく動きや表情の意味)で被害者性と加害者性を提示するからこそ、本作を観た観客はショックを受けるんじゃないかと思うんですよね。

特に終戦後なんとか生きて帰ってきた田村が一人で食事をするシーンは、もう、怖いやらいたたまれないやら、何とも言えない気持ちになりました。

もちろん、戦後の豊かな時代に生まれた僕が、この映画を観ただけで戦争を知ったような気になって「これが戦争の真実だ」なんて言うことは出来ませんが、『戦争の一面』を知るためにも、本作を観ることに価値はあるんじゃないかと思います。(実際塚本監督は、映画製作に向けてフィリピン戦線を体験した方に綿密な取材をしたそうですし)

まぁ、グロ描写とか相当キツイし、決して愉快な作品ではないので、正直積極的にオススメは出来ませんが、もし、機会があれば、是非観ていただきたい作品です。

興味のある方は是非!!