ぷらすです。
今回ご紹介するのは、アカデミー賞作品賞を受賞した1999年の映画
『アメリカン・ビューティー』ですよー!
漫画家の山田玲司先生が、自身のネット番組で激推しされてたので観てみました。
実際の事件を元にしたブラックコメディー? ですが、「アメリカ人の理想」という名の幻想を名匠サム・メンデスが皮肉たっぷりに描いた名作でしたよ!
画像出典元URL:http://eiga.com
あらすじと概要
舞台を中心に活躍してきた英国の俊英サム・メンデスが、映画監督デビュー作にしてみごと第72回アカデミー賞で作品賞ほか全5部門を受賞したファミリー・ドラマ。あるサラリーマン家庭の崩壊劇を通して、現代アメリカの理想的家族の裏側に潜むそれぞれの孤独や不全感をシニカルな眼差しで描き出す。
主演はケビン・スペイシー、共演にアネット・ベニング、ゾーラ・バーチ、ミーナ・スヴァーリ。郊外住宅地で妻と高校生になる娘と平和に暮らすレスター。ところがある日、勤めていた広告代理店からリストラ宣告を受けてしまう。これをきっかけに、一見幸せに思えた彼の日常の歯車が少しずつ狂い始め…。(allcinema ONLINEより引用)
感想
元々は実話を元にしたミステリーコメディーだった?
映画評論家の町山智浩さんによれば、本作は元々、アメリカで実際に起こった殺人事件を元にしたコメディータッチのミステリー映画として脚本が書かれたようです。
しかし、「007/スカイフォール」「スペクター」などの監督で知られるサム・メンデスが、ビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」や「アパートの鍵貸します」などから着想を得て、撮影監督のコンラッド・L・ホールと共に、格調高くアーティステックな映像に。さらに“ジャンル映画”に括られないようミステリー部分は排除して「文芸映画のようなコメディー?(ん? 逆かな?)」として本作を作り上げたんだそうですよ。
そう言われてみれば、確かに劇中にはコメディーシーンやミステリーっぽさがアチコチにあるんですよね。
「アメリカン・ビューティー」はバラの品種
本作のタイトルでもある「アメリカン・ビューティー」は、真紅の花をつけるアメリカ発祥のバラの品種。
劇中、この薔薇は「豊かな家庭の象徴」や「官能の象徴」の象徴として描かれています。またこのタイトルは、表向きはアメリカ人の理想と思われている家庭が、その裏ではとっくに破綻しているという、痛烈な皮肉を表すダブル・ミーニングでもあるわけです。
ふた組の家族が織り成す物語
そんな本作で描かれるのは、どこにでもいる中流階級のある家族を中心にしたホームドラマ。
冒頭、ビデオカメラに撮された女の子が撮影相手に向かって「娘の友達を見てパンツの中にナニを発射する父親なんて恥ずかしい。死んでほしい」と言うと、「僕が殺してやろうか?」と撮影者。
するとジェーンが「殺ろしてくれるの?」と撮影相手を見つめるところでシーンは切り替わって、閑静な住宅外の空撮に。
その映像に乗せて男の声で「僕の名前はレスター・バーナム。僕は一年以内に死ぬ」(うろ覚え)というナレーションが入るんですね。
その声の主が本作の主人公レスターで、演じるのは名優ケヴィン・スペイシー。
レスターは朝シャワーの時オ〇ニーするのが日課で、上昇志向の嫁さんと反抗期の娘には無視され、会社ではリストラ候補最有力のどこにでもいるボンクラなオヤジです。
アネット・ベニング演じる嫁さんのキャロラインは不動産売買の仕事をしてて、上昇志向が強く、理想の家庭と立場を手に入れようと、自己啓発のテープとか聞いちゃうような意識高い系ヒステリーおばさん。
ソーラ・バーチ演じる娘のジェーンは反抗期真っ最中で両親を絶賛軽蔑中なんですね。
郊外の閑静な住宅街に庭付きの一戸建てを構えるのは、外から見れば誰もが羨むアメリカ人の理想なんですが、その実彼らは家族としてとっくに破綻していて、冒頭の女の子はジェーンなんです。
で、レスターのナレーションで彼が死ぬことがあらかじめ分かっていて、最初は「レスターが誰に殺されるのか」というミステリー要素が推進力になって物語が進むんですが、徐々にバーナム家と、隣に引っ越してきた、ふた組の家族の物語へとシフトしていくんですね。
そんなある日、嫁さんに娘のチアリーディングを観に無理矢理連れて行かれたレスターは、そこで娘の親友アンジェラに一目惚れしてしまいます。エロ妄想の止まらない彼は、ジェーンとアンジェラが部屋で話してるのを盗み聞きするんですね
「あんた(ジェーン)のパパがもうちょっとマッチョだったら、私、抱かれてもいいわ」なんてアンジェラの言葉にすっかり舞い上がってしまうレスターは、急にジョギングや筋トレを始める始末。
同じ頃、隣の家に引っ越してきたのが、元海兵隊大佐のフランク・フィッツ大佐(クリス・クーパー)。ほぼ廃人の妻バーバラ(アリソン・ジャニー)、その息子リッキー(ウェス・ベントリー)の家族で、リッキーはビデオ撮影(盗撮)が趣味で大麻の売人です。
で、嫌々ながら嫁さんに連れて行かれた、不動産屋のパーティーでリッキーと出会ったレスターは、リッキーの「お客さん」になり、同時にリッキーのある行動に感銘を受けた彼は、それまで押さえつけていた「何か」が一気に弾けてしまいます。
長年勤めた会社を辞め、上司を脅迫し、若い頃憧れたファイヤーバードを購入。
ハンバーガー屋でバイトして、大音量で70年ロックを聞きながら、ガレージで筋トレしてリッキーから購入した大麻を吸うようになるんですね。
このレスターの行動で、破綻はしてはいても、それまで辛うじて家族の体裁を保っていたバーナム家は完全に崩壊してしまうのです。
一方、隣に引っ越してきたフィッツ家は、強権的な父親フィッツ“大佐”のDVに支配されている家族で、奥さんも息子リッキーも、フィッツ“大佐”には絶対服従なのです。
しかしその裏で、リッキーは大麻の売人で儲けてるわけですね。
つまり両家はそれぞれに「古き良きアメリカ」「強いアメリカ」の象徴で、しかしそんな幻想はとっくの昔に崩壊しているという痛烈な皮肉を、このふた組の家族に乗せて描いてるのです。
過去と現代アメリカを象徴するキャラクターたち
レスターは典型的なミドルエイジ・クライシス(中年の危機)です。
年齢的に人生のゴールが見えてきた中高年が陥る、ある種のうつ状態ですね。
それが娘の友達と隣の家の息子に触発されて、自分のままならない人生を変えようと行動を起こすんですが、でも、やってることは若かった頃の自分に戻ろうとあがいているだけ。「あの頃は良かった。もう一度戻りたい」と、美化した若き日の自分の行動を繰り返しているだけなのです。
一方、嫁さんのキャロラインは、理想の自分、理想の家族、理想の暮らしにとり憑かれていて、旦那や娘もそのためのコマでしかないんですね。
しかも、自分自身にハッキリ「理想」の形などないので、仮に「今の理想」が実現しても決して満足は出来ないんですよ。
つまり彼女は「資本主義」を象徴するキャラクターなのです。
なので向上心がなく、挙句にグレてしまう旦那や、反抗期で言うことを聞かない娘に対していつもι(`ロ´)ノムキーってなってるわけですが、本当は頑張ってるのに理想の自分に辿り着けない自分自身に苛立っているわけですね。
で、お隣のフィッツ大佐は、元海兵大佐で非常に強権的な夫であり父親。
ずっと、気に入らない事があると、奥さんや息子に対して日常的に暴力を振るってきたことが分かります。
しかし本来の彼は小心者。軍人だったという経歴だけが彼の心の拠り所で、同時に社会から身を守るための鎧なんですね。(なので自己紹介でも名前に必ず「大佐」をつける)
奥さんのバーバラや息子のリッキーにも、そんな彼の本性はとっくにバレていて、二人は自衛のためにフィッツ大佐の機嫌を損ねないよう自分を殺しているのです。(そして専業主婦で逃げ場のない奥さんは心の病に)
言うまでもなく、フィッツ大佐は「強いアメリカ」の象徴で、彼の家族は、そんなのはとっくの昔に瓦解しているというメタファーになってるんですね。
対して、その子供たちは現代アメリカを象徴していて、娘のジェーンは胸にコンプレックスがあって豊胸手術のお金を貯めてるし、父親の前では従順なリッキーは、影で大麻の売人をして稼いでいるし、ジェーンの親友アンジェラは「平凡」と言われることを何より恐れています。
それぞれの「美」
で、この二世代6人は、それぞれに自分が抱いている理想の「美」があって、その違いを描くことで世代間の決定的な溝を暴いているんですね。
そして「理想のアメリカ」だの「古き良きアメリカ」なんてものは最早ただの幻想だと、重厚で美しい映像と、コントギリギリなコメディー描写で皮肉たっぷりに笑い飛ばしつつ、冒頭の振りから続くラストシーンで「本当の美ってこれだろ」と提示して見せるんですね。
つまり本作は「お前のその幻想をぶち殺す!」っていう映画なのですw
映像の素晴らしさ
そんな身も蓋もない内容でありながら、観終わったあとに感動してしまうのは、主演のケヴィン・スペイシーを始めとしたキャスト陣の快演もさることながら、やはり名匠サム・メンデス監督と大ベテランの撮影監督のコンラッド・L・ホールが作り上げた映像の素晴らしさがあるからだと思います。
キャラクターが置かれている状況や思想、心理状態、関係性などを一発で分からせる構図や色彩。シーンの繋ぎでそれとなく韻を踏んだり、逆に思い切りギャップを見せたり。
コメディーシーンでも、決して軽く下品になりすぎないように計算された画作りも含めて、非常に映画的で素晴らしいんですよねー。
まぁ、映像が凄すぎてコメディーシーンでも「これ…笑っていいのかな?」って戸惑っちゃうわけですけどもw
興味のある方は是非!!
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