ぷらすです。
今回ご紹介するのは、先日亡くなられた高畑勲監督1994年の作品『平成狸合戦ぽんぽこ』ですよー!
実は僕はこの作品は初見でして、「まぁ、大体こんな感じでしょ」と気楽な気持ちで観始めたんですが物語が進むうち……。
怖い! 高畑勲怖いわー。((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタ
って思いましたねーw
画像出典元URL:https://www.amazon.co.jp
概要とあらすじ
「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」の高畑勲監督が、人間による自然破壊から自分たちの住処を守ろうと奮闘するタヌキたちの姿をユーモラスに描いたファミリー・アニメ。自然の恵み多き東京は多摩丘陵。そこに住むタヌキたちはのんびりとひそやかに暮していた。しかし、宅地造成による自然破壊によって、タヌキたちのエサ場が次第に少なくなっていた。自分たちの住処を守るため、タヌキたちは先祖伝来の“化け学”で人間たちに対抗することにするが……。(allcinema ONLINEより引用)
感想
以前、「火垂るの墓」を観て以来、高畑勲作品はほぼ観ていないと書いたと思いますが、なので僕、本作は今回が初見なんですね。
環境を破壊する人間から住処を守るためにタヌキたちが色んなものに化けて戦う物語。
位のことは何となく知ってましたが「まー、タヌキが人間を化かして居場所を守る愉快な話でしょ」と、あまり興味もわかないままこれまでスルーしてきたんです。
でも、縁あって今回初めて観たら、
「高畑センパイ、ナメててサーセンしたー!」
ってなるくらい、作家 高畑勲の全てがギュウギュウに詰め込まれたとんでもない映画でしたよ。
「火垂るの墓」の続編?
高畑さんが監督した「火垂るの墓」は、現代(公開当時1988年)になっても成仏出来ない主人公 清太の幽霊の回想(というか繰り返される煉獄)という形で物語が進み、妹 節子の霊魂と共に神戸市の夜景をじっと見つめるというラストでした。
そのラストカットによって、高畑さんは戦争と現代は地続きであることを描き、終戦後の価値観の変化によって日本人が失った精神性、コミュニティーの破壊などの問題提起をそれとなく提示したと思うんですね。
しかし、残念ながら作品に込めた高畑さんの真意はほとんどの人に伝わらず、「火垂るの墓」は高畑勲の反戦映画として受け取られてしまったのです。
本作では、宅地開発によって生きる場所を失おうとしているタヌキたちを主人公に、高畑さんは「火垂るの墓」ではぼやかして描いていた部分を、よりハッキリと鮮明に描こうとしているのではないかと思いました。
人間の一方的な開発によって。生きる場所や故郷を奪われようとしているタヌキたちが人間相手に闘う姿は、タヌキたちが決して一枚岩ではなく、それでも力を合わせて決行した妖怪大作戦の失敗を経て絶望し、最終的にはハト派、タカ派、過激派に分裂し、人間に完全に敗北するところも含めて、例えば空港建設反対闘争だったり、ダム建設反対闘争だったり、学生運動だったと、戦後日本のあらゆる抵抗運動の歴史の隠喩なのは明白です。
隠神刑部が命と引き替えに行った妖怪大作戦も結局はタヌキたちの一人相撲に終わり、レジャーランドの宣伝に利用されたり、テレビのオカルト特集のネタにされてしまう始末。
本作ではそんなタヌキたちの物語を、正吉の回想という形で、まるでドキュメンタリーチックな突き放したタッチで描いているんですね。
アイデンティティの喪失
前述したように「火垂るの墓」で高畑さんが描こうとしていた、戦後の価値観の変化で日本人が失った、精神性や文化、コミュニティー、伝承、祭祀、宗教などを、タヌキたちは全部持っています。
しかし、人間の宅地開発を止めるための会議で、すでにタヌキたちが人間の文明に侵され始めている様子が、マクドナルドや天ぷら、ビールという形で提示されているんですよね。
そしてタヌキたちは物語が進み敗北の色が濃くなるごとに、彼らは自分たちのアイデンティティを一つ、また一つと手放していくのです。
それはそのまま戦後日本の歴史を謎っていて、本作でタヌキたちは僕ら観客を映す鏡になっているんですね。
ラストシーン
こうして人間に敗北を喫したタヌキたち。
結局過激派の連中は警察に特攻をかましてあえなく討ち死にし、化けられないタヌキたちは新興宗教に溺れて「死出の旅」に向かい、残りのタヌキたちは人間に化けて生活したり、人間の出した残飯を漁ったり、人間に餌をもらったりしながら何とか生きています。
正吉たちの最後の抵抗が人間たちに小さな変化を起こし、僅かばかりの緑地と、地形を生かした公園は残った事が彼らにとっての唯一の救いだったかもしれません。
そして、満員電車にゆられて栄養ドリンクを飲みながら人間社会で暮らす正吉はたまたま、排水口に入っていくタヌキを発見。
追いかけていくとそこには、芝生の上で宴会をしているタヌキたちの姿が。
アイデンティティを失い、散り散りになりながらも彼らは「どっこい生きている」のです。
うんうん、ハッピーエンドで良かったねーと安心していると、仲間に加わろうとした正吉が突然カメラに向かって言う一言で、観ているこっちはドキっさせられるし、さらにカメラが引いていくと彼らが宴会しているのはゴルフ場だということが分かるというオチ。
もー、高畑さん最後まで容赦ないわー! 怖いわー!
宴会する彼らの向こうに街の灯りが広がっているのも、「火垂るの墓」のラストシーンとシンクロしてるように感じるのは僕だけでしょうか。
で、このラストシーンをタヌキたち=日本人のたくましさと取るか、それともアイデンティティの喪失と取るかで、この映画がハッピーエンドかバットエンドかの解釈は変わると思いますが、個人的には後の「かぐや姫の物語」の結末も踏まえて、前者寄りの結末なのかなーと思ったりしました。
何にせよ、子供映画とナメてる観客をガチでぶん殴りにくる高畑勲、恐るべしですよ!
興味のある方は是非!!!
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