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日本映画界のトップランナーが描く“家族”の物語「万引き家族」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、日本映画界のトップランナー是枝裕和監督の最新作『万引き家族』ですよー!

「これはパルムドールも取るよね」と納得の美しくも凄まじい映画でしたねー!

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概要

『誰も知らない』『そして父になる』などの是枝裕和監督による人間ドラマ。親の年金を不正に受給していた家族が逮捕された事件に着想を得たという物語が展開する。キャストには是枝監督と何度も組んできたリリー・フランキー樹木希林をはじめ、『百円の恋』などの安藤サクラ、『勝手にふるえてろ』などの松岡茉優、オーディションで選出された子役の城桧吏、佐々木みゆらが名を連ねる。(シネマトゥディより引用)

感想

是枝監督が描き続けてきた“家族”の結論

僕は全作観たわけじゃないのでハッキリと断言はできませんが、是枝監督は「家族」を描き続けてきた作家だと思います。

「誰も知らない」(2004)では1988年の巣鴨子供置き去り事件を元に親に捨てられた子供たちを。
そして父になる(2013)では産婦人科による子供の取り違えから、ふた組の親子の姿を。
海街diary(2015)では、母親の違う4姉妹が家族になるまでの物語を。

これらの作品で、是枝監督は「家族を家族たらしめているものは何か」という問いをずっと観客に問いかけてきているんですよね。

それは同時に、血脈=家族という世の中の枠組みや常識の是非を、作品を通して世に問い続けているという事でもあります。

だから、彼が描く作品の登場人物の多くは、そうした枠組みから弾かれたりはみ出してしまった人々なんですよね。

そして、本作でもそうした「社会の枠組み」や「正しさ」から弾かれ、外れてしまった6人の登場人物が家族として都会の片隅で身を寄せ合い暮らす物語であり、彼が長年描き続けてきた「家族」というテーマにひとつの結論を出した作品と言えるのではないかと思います。

ざっくりストーリー紹介

日雇い労働者の柴田 治リリー・フランキー)とクリーニング工場で働く妻・信代安藤サクラ)、風俗に勤める信代の妹の亜紀松岡茉優)、息子の祥太(城桧吏)、治の母・初枝樹木希林)は、初代の年金と僅かな収入、そして万引きで盗んできた商品を頼りに東京の下町で身を寄せ合うように暮らす「家族」です。

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ある日、治と祥太は万引きの帰り道で、寒さに震える幼女じゅり(佐々木みゆ)を見かねて家に連れて帰ります。
見ず知らずの子供と帰ってきた夫に最初は困惑する信代ですが、DVで傷だらけの彼女を見て世話をすることにするのだが――という物語。

序盤から中盤にかけては、貧しいながらも楽しい我が家という感じの柴田家の様子が描かれますが、ある出来事をキッカケに、彼ら家族に隠された本当の姿が見えてくるという、ほんのりミステリー要素を含んだ構成になってるんですね。

物語内リアリティー

本作は冒頭から治と祥太の万引きシーンからスタートします。
治は祥太に指サインを送ったりして、明らかに常習犯であることが分かるんですよね。

その帰り道、真冬のベランダに放置されている痩せっぽちの幼女じゅりに「コロッケ食べる?」と声を掛ける治。

劇中ハッキリとは提示されませんが、恐らく治は前々から寒空に放置される彼女(じゅり)の事を気にかけていた事が分かります。

場面変わって彼らの家。

ビルの隙間に取り残されたように建つ平屋のおんぼろ屋敷で、ゴチャゴチャと汚い居間には、5人の家族がひしめき合うように暮らしていて、その中にポツンとじゅりがいるんですよ。見捨てて置けずに治が連れてきてしまったんですね。

治は冒頭で息子を使って万引きをして、しかもコツがどうこう自慢げに教えるという世間的には最悪の父親ですが、寒空に放置された幼女は見捨てて置けずに家に連れてきてしまう。
それに対して、さほど驚く様子もなく共に食事をする家族の描写で、彼らの正しくはないし常識もないが悪人ではないというキャラクターが説明なしでそれとなく分からせる作劇になってるんですよね。

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それにしてもこの家がですね、古臭くて汚くてゴチャゴチャしてて、周囲の建物に埋没して時代に忘れ去られたみたいな家でしてね。
そんな中、大人も子供もごちゃまぜで生活音と話し声が混じり合っているカオスっぷりは、どこか「ALWAYS 三丁目の夕日」的というか、家も住人も下町の原風景を思わせる温かみがあるし、リリー・フランキー演じる治の、日雇い労働者で基本怠け者で生活力なしという設定は落語的な感じすらあります。

そして、彼らのセリフのやりとりはアドリブっぽいというか、演技してる感がないというか。
でも、いわゆるリアルとは少し違って、敢えて言うなら“生々しい”んですよ。
彼らの醸す空気感や距離感は、物語の中でキャラクターが本当にこの家で生活している感じがするのです。

なので一見、役者がアドリブで好き勝手に喋っている様子を無造作に撮影してる様に見えるんですけど、実はキャラクターの配置や距離感などを周到に計算して、画的な説得力を観客に感じさせる是枝監督の演出と、リリー・フランキー安藤サクラ樹木希林松岡茉優という日本屈指の実力派俳優陣の演技ががっちり噛み合って、物語内リアリティーを生み出しているんですよね。多分。

唯一、この“家族”の中で松岡茉優演じる亜紀だけがちょっと浮いているように見えるんですが、それも実は作劇上の演出であることが、後に分かるような仕掛けになっているのです。

“生々しい”と言えば、中盤描かれる治と信代の濡れ場
二人で素麺を食べていると思ったら雰囲気が盛り上がって信代が押し倒したところでカットが変わり事後、オールヌードでうつ伏せの安藤サクラの体がですね。
“エロい”っていうよりも“艶かしい”という表現の方がしっくりくるんですよね。
それでいて、リリー・フランキーと全裸で会話する夫婦感も残している絶妙なバランスだったりします。

徐々に浮き彫りになる“正しくなさ”

そんな感じで彼ら家族は昭和感溢れる暮らしを満喫したり、みんなで海に行ったり、見えない花火を見上げたり。じゅりもすっかり打ち解けて貧しいながらも幸せな家族に見えるんですが、それと並行するように彼らの“正しくなさ”がじわじわ暴かれていき…。

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それはつまり、家族としての暮らしの終わりが近い事を示唆し、同時に現代社会の被害者であり弱者であると思われた彼ら家族が、実はそう単純ではなかった事が明らかになっていく。

そして後半のある出来事を境に、正しくはないけど憎めない大人として描かれていた初絵と治と信代の圧倒的な“正しくなさ”が詳らかになる様子を、(主に祥太の目線で)見せていくんですね。

あ、やっぱりコイツらダメなんじゃんと。

そしてある日、彼ら“家族”はいともあっさりと崩壊してしまうのです。

本作がカンヌでパルムドールを受けた事に対して、「日本人がみんなこんなだと思われたくない」とか「犯罪を美化している」と言う人がいたとかいないとかネットで見かけましたが、もしそんな事を言う人が本当にいたのだとしたら、その人たちは本作を観てないか、目が節穴かのどちらかだと思いますねー。

是枝監督は、本作を通して彼らの“正しくなさ”をこんなにも辛辣に糾弾していますからね。

そして、家族の崩壊は“正しくなさ”の報いであり、同時に救いでもあります。
彼らは家族の崩壊によってそれぞれが成長していくのです。

そんな彼らにそっと寄り添うように、是枝監督は家族の別れを描いているんですね。

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それは、オープニングの出会いと対になるラストカットを観れば明白で、“正しくない家族”に救われたじゅりは、しかし確かに彼ら彼らから何か大切なものを受け取っているのです。

好き嫌いは分かれるかも

というわけで、僕は面白かったし好きな映画ですが、正直好き嫌いは分かれるかもしれません。
というのも、本作は是枝監督の怒りや主張が割とハッキリ前面に出ているんですよね。
それを是と取るか否と取るかで、本作の評価は分かれそうな気がしました。

ただ、ケイト・ブランシェットが舌を巻いたというクライマックスでの安藤サクラの泣きの演技は正に圧巻だったし、個人的に観て損は絶対にしない作品だと思いましたねー。

興味のある方は是非!!!

 

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