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面白いけど語りすぎ「アス」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、黒人差別を題材にしたホラー映画ゲット・アウト」でアカデミー脚本賞を受賞したジョーダン・ピール監督の新作ホラー『アス』ですよー!

ホラーと言ってもワッ!と驚かされる系の「お化け屋敷映画」ではないので、ホラーが苦手という人でも安心して観られるんじゃないかと思いましたねー。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

第90回アカデミー賞脚本賞を受賞した『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督と、製作を務めたジェイソン・ブラムが再び組んだスリラー。休暇で海辺にやって来た一家が、自分たちにそっくりな人物に遭遇する。『それでも夜は明ける』で第86回アカデミー賞助演女優賞に輝いたルピタ・ニョンゴが主演を務め、『ブラックパンサー』などのウィンストン・デューク、ドラマシリーズ「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」などのエリザベス・モスらが共演。(シネマトゥディより引用)

感想

ドッペルゲンガーもの

この作品を一言で言うと「“自分の分身”に襲われる家族」を描いた、いわゆるドッペルゲンガーものです。

ドッペルゲンガーとは自分とそっくりの姿をした分身で、自分のドッペルゲンガーを見た人間は死ぬとか、分身に取って代わられると言われていて、怪談や都市伝説のネタとして有名ですよね。

本作では、前作「ゲット・アウト」で(表面化しない)黒人差別を描いたホラーで評価されたジョーダン・ピールが、ドッペル・ゲンガー(=自分の分身)に襲われる家族の恐怖を描いた異色のホラー映画なのです。

ざっくりストーリー紹介

1986年の夏、両親とともにサンタクルーズにある行楽地を訪れたアデレード・ウィルソンルピタ・ニョンゴ )は、ビーチに建てられたミラーハウスに迷い込んで自分にそっくりな少女と出会うんですね。
ミラーハウスから戻った彼女はそのトラウマから失語症になってしまいます。

そして2019年、失語症を克服し2児の母になったアデレードは、夫ゲイブ(ウィンストン・デューク)、長女ゾーラ(シャハディ・ライト=ジョセフ )、長男ジェイソンエヴァン・アレックス)と夏休みの家族旅行でサンタクルーズにあるビーチハウスを訪れるんですね。

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画像出展元URL:http://eiga.com / バカンスに来たせいでひどい目に遭ってしまうウィルソン家のみなさん

ゲイブは嫌がるアデレードを説得し、4人でビーチに出かけ友人のタイラー一家と落ち合います。

その夜、ビーチハウスに戻ったアデレードはゲイブに、昔この場所で起こった出来事によってトラウマを負ったことを打ち明け、ゲイブはそんな彼女をなだめるんですが、突然停電が起こり、ジェイソンが玄関先に4人の不審者が立っていると言いに来て――というストーリー。

もちろん、玄関先に立っているのはウィルソン家のドッペルゲンガーで、4人はそれぞれ自分を殺そうと襲ってくるドッペルと戦うハメになるんですねー。

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画像出展元URL:http://eiga.com / ウィルソン家を襲うドッペルゲンガーたち。本作ではメインキャラを演じるキャスト全員、一人二役を熱演してます。

重要なキーワード

そんな本作ではいくつか、物語を象徴する重要なキーワードが登場します。

・11:11

映画冒頭、幼少期のアデレードがミラーハウスに向かう横に浮浪者が立っているんですが、彼が持っている段ボールの切れっぱしに書かれているのが「11:11」です。

これは「エレミヤ書」という旧約聖書の一書で、エレミヤさんという人の書いた預言書らしいんですね。
で、その11章11節に書かれているのが、

それゆえ主はこう言われる、見よ、わたしは災を彼らの上に下す。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない。」です。

平たく言うと「私を裏切った彼ら(民族)に災いを与えるし、助けを求めたってガン無視する」って神様が言ってるよ。ってこと。

本作の中で”神を裏切った彼ら“が誰なのか、彼らに与えられた“災い”とは何かってところが、本作のメインストーリーでありテーマでもあるんですね。

また「11:11」という数字は作中、ジェイソンが夜に指さした時計が表示していた時刻や、救急車のナンバーなどにも記されているんですが、これはまぁ、ドッペルゲンガー=自分と対になる分身であることの象徴で、”彼ら“の武器がハサミなのも、左右対称の2枚の刃が繋がっているからだと思います。

・うさぎ

本作では、冒頭のシーンで檻に入れられた大量のうさぎが登場します。
うさぎはキリストの復活とも関連付けられているイースターの象徴。
で、これまた旧約聖書の一書「レビ記」では、
野うさぎ、これは、反芻するけれども、ひずめが分かれていないから、あなたがたには汚れたものである。(11章6節)
これらはあなたがたに忌むべきものであるから、あなたがたはその肉を食べてはならない。またその死体は忌むべきものとしなければならない。(11章11節)」という記述があるんですね。
ここでも間接的に「11:11」がキーワードとして出てくるわけですが、汚れたウサギの肉を食べている(食べさせている)ということが、前述のエレミヤ書とリンクしてくるわけです。

・ハンズ・クロス・アメリ

これも冒頭、部屋で映っているテレビのCMで流れているんですけど、アメリカで行われたチャリティーイベントなのだそうです。

ニューヨークからカリフォルニアまで、参加費10ドルを払った何百万人もの人々が手を取り合って一列になり、飢餓への支援基金を募るというイベントらしいんですが、本作ではかなり意地悪な使い方をしています。

映像特典のインタビューでもピール監督はこのイベントに対して「やらなければいけない事から目をそらして、良いことをした気になってる」(意訳)とバッサリw

多分ですが、子供のころにこのイベントを観た監督は、単純に(カルト的な)「気味の悪さ」を感じていて、だから本作ではある種の恐怖演出と皮肉を込めてこのイベントを引用しているのだと思います。

そんな感じで本作では、聖書やアメリカで実際に行われたイベントなどを劇中で引用してて、キリスト教国のアメリカ人ならピンとくるんでしょうが、日本人的にはちょっと分かりにくいかもしれません。

テーマ

そんな本作のテーマを一言で言うと、格差と差別です。
本作に登場するドッペルゲンガーたちはアメリカ国内の貧困層、被差別人種であり、大国アメリカに搾取されている(されてきた)国々の人たちなど、いわば”持たざる者“のメタファーであり、本作はいつかそんな彼らと自分の立場が逆転するかもしれないという、他民族国家アメリカ(特に富裕層・中流層)の潜在的な恐怖や格差・差別による分断の危うさを描いているんですね。

前作「ゲット・アウト」でも同様のテーマを描いているピール監督ですが、本作ではよりハッキリとテーマ性を打ち出していると感じましたねー。

ただ、個人的にはテーマを上手くエンタメに落とし込んだ前作と違って、本作はストーリーやエンタメ性よりテーマや主張がやや前に出すぎているなー(´ε`;)ウーン…とも思いましたけど。

まぁ、元々社会的主張の強い監督ではあるし、スパイク・リーとも仲良しだから、つい言いたいこと・伝えたいことが溢れちゃったのかな?

蛇足感

序盤~中盤までは不気味さや笑いを入れ込みながら、いい感じに進んでいたんですけど、中盤~後半にかけてドッペルゲンガーの正体についての説明などは正直クドいと思ったし、ハッキリ蛇足だなって思いました。

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画像出展元URL:http://eiga.com

いや、最後のどんでん返しのために必要な描写なのも分かるし、「ネタ晴らし」することでテーマ性は強まるんだけど、ホラー映画としては全てに理屈が通っちゃうと興醒めしちゃうじゃないですか。

説明パートをまるっと削ってドッペルの正体はぼかしても本作のテーマはちゃんと伝わると思うし、むしろ作品としての切れ味は増すような気がしました。

とはいえ、だからつまらないという事ではなくて、むしろ映画として十分面白さの基準を満たした作品だけに「何かもったいない」と思ったって話で。

特に前半の超ウザいパパが子供や奥さんに冷遇されてるって件は、元コメディアンであるピール監督のセンスが光るお気に入りのシーンでしたw

興味のある方は是非!!

 

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