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古くて新しい物語「Vフォー・ヴェンデッタ」(2006)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは「ウォッチメン」「フロム・ヘル」などの原作コミックでストーリーを担当したカリスマコミックアーティスト、アラン・ムーアの代表作を実写映画化した『Vフォー・ヴェンデッタ』ですよー!

制作・脚本は「マトリックス」3部作で知られ、原作コミックの大ファンでもある、あのウォシャウスキー姉妹(元・兄弟)です。

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画像出典元URL:https://www.amazon.co.jp/ref=nav_logo

概要

第3次世界大戦後のイギリスを舞台に、孤高のテロリスト“V”が国家に立ち向かう近未来スリラー。『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟が製作と脚本を手掛ける。『マトリックス』のエージェント・スミスことヒューゴ・ウィービングが仮面をつけた謎の男“V”を演じ、“V”に協力するヒロインを『クローサー』のナタリー・ポートマンが演じる。過激で政治色の強いストーリー展開が異色のアクションエンターテインメント。(シネマトゥディより引用)

感想

アラン・ムーアとは

本作の原作コミックでストーリーを担当したのは、イギリス人コミックアーティストのアランムーア
ザック・スナイダー監督で実写映画化された「ウォッチメン」やジョニー・デップ主演で映画化された「フロム・ヘル」の原作者で、昨年公開された「ジョーカー」で引用された元コメディアンという出自も、彼のアイデアなんですねー。

また、1980年代、それまで子供向けだったヒーローコミックにリアリティーと哲学、古典文学からの引用を持ち込んで大人のコミックにしたことで、低迷したアメコミ界を復活させた彼は、同じくコミックアーティストのフランク・ミラーと並ぶアメコミ「モダン・エイジ」の立役者でもあるのです。

原作コミック版「Vフォー・ヴェンデッタ

そんなムーアが、作画担当のデヴィッド・ロイドとタッグを組んで世に出したコミックが「Vフォー・ヴェンデッタ」です。

最初はイギリスのコミック雑誌「ウォリアー」で連載(お金がないので白黒マンガだった)されていたんですが、完結を待たずウォリアー誌が廃刊。作品も長期中断を余儀なくされたんですが、1988年にアメコミ出版者DCコミックスからカラーとなって無事復刊・完結することが出来たんですね。

ちなみに本作でVが被っているガイ・フォークス”の仮面は、後にネット上でハッキングやクラッキングを駆使して抗議行動を行う集団「アノニマス」のメンバーが被るお面として知ってる人も多いのではないでしょうか。

ガイ・フォークスと「火薬陰謀事件」

では、このガイ・フォークスとは何者かと言うと、イングランドのヨークで生まれ育ったカトリック信者です。

ものすごくザックリ説明しますが、イギリスの国教はプロテスタントですね。
なので、その昔少数派のカトリック信者は迫害されていたらしいんです。

どういうことかと言うと、離婚問題のこじれという個人的な理由でローマ教皇庁と対立したイングランドヘンリー8世は、1534年に国王至上法を発布し、ローマ教皇に代わって自らがイギリス教会の首長であることを宣言しカトリックと絶縁。自分に従わない聖職者を処罰・処刑したり、修道院の所有していた土地や資産を没収するなどの政策を推し進めるんですね。

で、ヘンリー8世の死後、熱心なカトリック信徒だったメアリー1世は、今度はプロテスタントを弾圧(これで彼女はブラッディー・メアリーと呼ばれるように)。
続くエリザベス1世は、プロテスタントカトリックどちらにも傾倒しない「中道政策 」に舵を切るんですが、彼女を排除する計画に関わったスコットランド女王メアリー・ステュアートを逮捕、処刑し、やはりカトリック教徒を迫害します。

そのメアリーの息子であるスコットランド王ジェームズ6世は、1603年にイングランドジェームズ1世として即位。
カトリック教徒だった彼の即位に、カトリック信者は希望を持つんですが、1604年1月、ハンプトン・コートに各宗派の代表を集めた会議で、国教会(プロテスタント優遇政策堅持の宣言しちゃうのです。

これに怒ったイングランドの貴族でカトリック信者のロバート・ケイツビーは、11月5日ウェストミンスター宮殿内にある議事堂の爆破、国王や国会議員を皆殺しにする軍事クーデター(火薬陰謀事件)を企てるんですね。
で、その実行犯として加わったのがガイ・フォークスなんですが、仲間の密告でこの計画は失敗。彼は処刑されちゃうのです。

で、イギリスでは11月5日にガイ・フォークス人形を作って町中を引き回し、夜になると焼き捨てる「ガイ・フォークス・ナイト」という習慣が生まれたらしいんですねー。(現在はもっぱら打ち上げ花火を楽しむ祭りになってるらしい)

そして、本作はこのガイ・フォークスと火薬陰謀事件が、モチーフになっているのです。

本作のざっくりストーリー紹介

舞台は第三次世界大戦後の世界。アメリカは事実上崩壊し、イングランド(イギリス)は独裁者アダム・サトラーによって全体主義国家と化しています。

そんな11月4日の夜、国営放送に務めるイヴィー・ハモンドナタリー・ポートマン)は、夜間外出禁止令を破っての外出。ところが秘密警察「フィンガー」に見つかってレイプされそうになるところを、ガイ・フォークスの仮面を被った謎の男“V”ヒューゴ・ウィーヴィング)に救われるんですね。

そして彼はイヴィーの目の前で裁判所の爆破テロを敢行するのです。

さらに、翌日出勤したイヴィーはVの電波ジャックに遭遇。Vは現独裁政権を打倒し自由を取り戻すため、翌年の“11月5日”に国会議事堂の前へ集まるよう国民達に呼びかけるんですね。

鎮圧のため駆けつけたフィンガーの手を華麗に切り抜けたVは、重要参考人として手配されていたイヴィーを自らの隠れ家「シャドウ・ギャラリー」に匿います。

その後、Vは国民に国家の異常さを訴えながら、国営放送のプロパガンダ番組のキャスターでもあるルイス・プロセロ英国国教会アンソニーリリアン司教、そして女医のデリア・サリッジといった、サトラーの党幹部達を個人的な復讐のため次々と血祭りに。

そんなVの目的を探る警察官エリック・フィンチ警視スティーヴン・レイ)は、彼の足取りを追う内に、現体制の根幹を揺るがす壮大な陰謀を知ることになる――。というストーリー。

このストーリー自体は概ね原作準拠ですが、長い原作を約130分の物語にするため、Vとイヴィーのエピソードを中心としたストーリーに集約。またイヴィーのキャラクターも、原作のVの手駒となる若い女の子から知的で深みのある女性へと改変されているんですね。

ナタリー・ポートマンがひどい目に遭う映画

そんなVを演じるのは「マトリックス」でエージェント・スミスを演じたヒューゴ・ウィーヴィングですが、Vは劇中仮面を外さないので彼の顔は出てきません
そんなVに巻き込まれるヒロインのイヴィーを演じるのがナタリー・ポートマン

映画序盤でレイプされかけたり、Vの爆破テロ事件の重要参考人として当局に追われたり、“秘密警察”に捕まって坊主にされたり拷問されたりと、まぁ色々ひどい目に遭わされます。

彼女自身は元々、現政権に対し反感は持っているものの彼らに逆らうつもりは毛頭なく、自分の生活さえ守れればいいという、まぁ一般的な市民です。
というのも、幼少期に弟がイギリス全土を襲ったウィルスに感染して死んだ事をキッカケに、反サトラーの政治活動家となった両親が当局に捕まって殺されていたという過去があり、当局の恐ろしさが身に染みて分かっているからなのです。

また、この独裁国家の中で女性である彼女は蹂躙される側=味社会的弱者であり、政府批判など声に出すことは出来ない。(それが冒頭のレイプ未遂シーンで明かされる)

本作はそんな彼女がVと行動を共にし、数々の試練を乗り越えることで、人としての尊厳を取り戻していく物語でもあるんですね。

テロと革命

この作品の主人公“V”は、いわゆる「ヒーロー」ではありません。
映画冒頭でいきなり爆破テロをかますし、(個人的復讐のため)何人もの人を殺していくし、直接的ではないにせよ彼のアジテーションに触発された子供が秘密警察に撃ち殺されるシーンもあるし、彼と同じ仮面を被って強盗を働く不届きものも登場します。

つまり、一般的に見ればVはただのテロリストなんですね。
しかし、彼の側から見れば例え違法かつ暴力的な手段を使っても現政権を倒すという大義を成すことは正義であり、自由を取り戻すための革命であるわけです。

2001年の9.11以降、中東によるテロのニュースは増えているものの、彼らがテロを起こすに至った理由について語られることは殆どなく、その違法性・暴力性・非道性だけが伝えられ危機感が煽られ、安全保障の名のもとに国家・政府による一般市民への監視が強まっている。

もちろん、いかなる理由であれ暴力と恐怖で人を従わせようとするテロ行為を容認する気は微塵もありませんが、一方で遥か昔から時の為政者たちが一般市民の不安を煽ることでコントロール(独裁)した事例は枚挙に暇がありません。

原作コミックでアラン・ムーアが描いたのは、そうした為政者たちの暴走に目を瞑ると恐ろしい世界になりますよっていう事と、多数派・少数派に関わらず意見を言える社会=多様性の大切さを説いているんですね。

だから本作では露骨なくらい分かりやすくヒトラーナチスを連想させ敵を描いているし、VがVになるキッカケもナチスによる大量虐殺ホロコーストを下敷きにしているわけです。

古くて新しい作品

とはいえ、原作コミックが発表されたのがサッチャー政権でイギリスの右傾化が進んだ1982年、本作が公開されたのが「9.11」以降の2005年。

多分、公開時にこの映画を観ていたら、僕はあまりピンと来てなかったかもしれません。むしろ世界各国が色々きな臭い今の時代に観たからこそ、よりリアリティーを感じるというか、80年代にこの物語を書いたアラン・ムーアの先見性に驚いたというか。

劇中「サトラーの党が政権を取るとは、当時だれも予想しなかった」的なセリフがあるんですが、これはちろんナチ党の話の引用ですが、そのまま現トランプ政権誕生にも通じますよね。

いわゆるナチス的な悪役の出てくるデス・トピア物語は山ほどありますが、単に独裁者を倒すヒーロー映画ではなく、そこからさらに深堀してみせた本作は「古くて新しい物語」と言えるのではないかと思いましたよ。

興味のある方は是非!!

 

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