今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

居場所を巡る物語「羅小黒戦記〜ぼくが選ぶ未来〜」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、現在絶賛公開中の中国アニメ映画『羅小黒戦記〜ぼくが選ぶ未来〜』ですよー!

正直最初は「レンタルで観ればいいかー」なんて思ってたんですが、ネット上に上がる本作に対する感想たちが激熱だったので劇場に観に行ったら、もう、超面白くて激ヤバかったっす!(←語彙力)

https://eiga.k-img.com/images/movie/92048/photo/07f4390807361b87.jpg?1602146985

画像出展元URL:http://eiga.com

概要

中国で動画サイトのフラッシュアニメから人気に火がついたファンタジーアニメの劇場版。自然破壊により妖精たちの居場所が失われた世界で、黒猫の妖精が新たな住みかを探し求める。漫画家でアニメ監督のMTJJが原作と監督、脚本を兼ね、制作をMTJJが代表を務めるアニメ制作会社の北京寒木春華動画技術有限公司が手掛ける。ボイスキャストは、花澤香菜宮野真守櫻井孝宏などが担当する。(シネマトゥディより引用)

感想

「羅小黒戦記」とは

本作はFlashで制作され、WEB公開されている2Dアニメシリーズ(本編)の前日単となる劇場アニメで、2019年9月から一部の映画館で日本語字幕版が公開され、今年(2020)の11/7より、日本の声優による日本語吹き替え版が公開されたんですね。

内容をざっくり説明すると、人間の自然破壊によって居場所を無くした黒猫の妖精シャオヘイ/小黒(花澤香菜)が、人間たちに襲われているところを同族の妖精フーシー/風息(櫻井孝宏)に助けられます。

https://eiga.k-img.com/images/movie/92048/photo/9fdefc19b020e5f4/640.jpg?1602146902

画像出展元URL:http://eiga.com

フーシーに連れられ故郷の森に似た隠れ処の島を訪れたシャオヘイは、風息の仲間であるロジュ/洛竹(松岡禎丞シューファイ/虚淮(斉藤壮馬テンフー /天虎(杉田智和)らと出会い、安息の居場所が見つかったと喜んだのもつかの間、最強の執行人ムゲン/無限(宮野真守)の急襲を受けて捕まり、妖精が集う「館」へと連行される――というストーリー。

https://eiga.k-img.com/images/movie/92048/photo/2891a1e435e623e8/640.jpg?1602146903

画像出展元URL:http://eiga.com

そんなシャオヘイを取り戻すため、フーシーらは館のある町でシャオヘイとムゲンを待ち伏せ、クライマックスではムゲンとフーシー、そしてシャオヘイの超異能バトルが繰り広げられるわけですねー!

そんな本作の監督を務めたのは、「羅小黒戦記」の原作者であり、Web版の監督も務めるMTJJ
色々調べてはみたんですが、この人の経歴も年齢もよく分かりませんでした。
それでも断片的な情報を見ると、元々は漫画家?で、2011年から自身の飼い猫をモデルにしたシャオヘイを主人公にしたWeb版の本編シリーズを「ビリビリ動画」に投稿しはじめ9年間で28話をアップ、徐々に人気は高まり累計2.3億回再生を記録したんだそうです。

日本で言えば、作風は全然違うけど(出自も含めて)新海誠に近い映画作家と言えるかもしれません。

そして、たった一人で制作したという第1話の時点で、この映画版のストーリーは頭にあったんだそうですよ。

ミクスチャー的表現だけどオリジナリティーを持つ

そんな本作は、2Dアニメということもあって日本アニメと比べられたり、日本アニメの影響について語られたりしています。

確かに、冒頭のシャオヘイが住む森の描写は、ジブリの「もののけ姫」感があったり、ラストの方で登場する「館」のデザインなどは「千と千尋の神隠し」を連想する人も多いかもしれません。

また、クライマックスでのムゲンとフーシー、シャオヘイの戦いなんかは、大友克洋の「童夢」や「アキラ」感があるし、スピード感あふれる空中戦などは「ドラゴンボール」を思い出すかも。

そんな感じで、確かに本作には随所に日本のアニメやゲームの影響が見えるし、MTJJ監督自身もインタビューなどで日本アニメの影響を公言はしていますが、例えばクライマックスの戦いは「マトリックス」的だったり、それ以外にもディズニーやピクサーアニメ、ハリウッドアクション映画などで観たような表現も入っていて、作品作りにプラスになると思った表現方法は、洋の東西を問わず素直に取り入れるミクスチャー的というか、非常に現代的な感性の監督だと思いましたねー。

っていうかまぁ、そもそも論でいえば「千と千尋~」の建物や街並みのデザインだって元々は中国(台湾)がオリジナルだし、「マトリックス」の発想の基になっている「胡蝶の夢」だって元はと言えば荘子が考えたヤツですからね。

つまりは元は中国から輸出され輸出先の国で独自の発展した表現や発想を逆輸入したっていうか、日本で言えば、マネ、モネやドガセザンヌゴッホロートレックなどの影響を受けた作品を描いていたら、その源流は浮世絵でした。みたいな?(あれ、違う?w)

監督本人はそんな事を考えていないだろうけど、影響を受けた世界観や表現にはそもそも監督自身と同じDNAが入っていて、それが本作のオリジナリティーを担保しているっていうか。

https://eiga.k-img.com/images/movie/92048/photo/bff6931786e00d8d/640.jpg?1602146903

画像出展元URL:http://eiga.com

個人的に面白いなーと思ったのは、生き物すべてが持つ生命と能力の源であるという「霊域」の表現で、フーシーはシャオヘイの持つ特殊能力を説明するため、イメージ化した自身の霊域に彼を招き入れるわけですが、この背景は多分3DCGが使わているんですね。

でも、その背景は小さな家とその周辺の自然という必要最低限しか描かれてなくて、その周囲は真っ白なまま。ジオラマというよりヴィネットみたいな感じで、それが個人的に凄く新鮮だったんですよね。

作画監督のフー・シソーが中心になった作画クオリティーも安定しているし、激しいアクションの間にちょっとした動きの遊びを入れて観客に一息吐かせる演出も上手い。
特にクライマックスの戦いのシーンは色んな場所で色んな事が同時進行で起こっていて情報量は多いんだけど、観客が混乱しないようしっかり設計・整理されているのも素晴らしかったです。

あと、特に音の演出もとても良かったですねー!
どの映画もそうですが、音の演出だけは専用の音響システムがある映画館で観なければ分からないので、この一点だけでも本作を映画館で観る価値があると思いましたよ。

もちろん100点満点の完璧な作品というわけではなく、作劇場の細かい粗はいくつかあったし、登場人物が多くて「お前は誰やねん!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ」状態もあったりはしたけど、もしかしたら彼らはWeb版の本編に登場するキャラなのかな?

 ちなみに、何の前振りもなくクライマックスで登場した超強いっぽい執行人のナタ / 哪吒(水瀬いのり)は藤崎竜の「封神演義」にも登場する哪吒(なたく)と同一キャラで、中国の人なら名前を聞いただけで分かる、孫悟空的な古典キャラらしいです。

「居場所」を巡る物語

本作は主人公のシャオヘイ、フーシー、ムゲンの三人の「居場所」を巡る物語です。
人間によって自分の「居場所」を奪われたシャオヘイとフーシー、人間でありながら長寿で、妖精を圧倒するほどの強さを持つゆえに、人間側にも妖精側にも居場所がない孤独な男ムゲン。

https://eiga.k-img.com/images/movie/92048/photo/4007c3493de133b0/640.jpg?1605149681

画像出展元URL:http://eiga.com

人間から自分の「居場所」を取り戻したいフーシーと、人間社会との共生を目指す「館」の執行人ムゲンとの間で、シャオヘイが見つけた答えとは――っていうのが本作のメインテーマなんですね。

でも、本作が面白いのは人間が悪役になっていないということで、妖精側のキャラクターは概ね長寿で人間の上位種なので、人間社会との共生を目指す「館」側の妖精たちも殊更人間が愛着があるとか友好的というわけでもなく、環境破壊を繰り返し自分たちの居場所を奪う人間に対し「そういう生き物」として、ある種の諦観を持って見ているんですよね。

一方で、人間が生み出したスマホなどの道具を普通に使うし、なんならネットやSNSとかも普通に楽しんでるっぽい。

その辺の設定が僕にとってはとても新鮮で、確かに何百年、何千年と人間を見ていれば、館の妖精たちの反応はむしろリアルなんだろうなと思ったりしました。

あるシーンでの「切られて木材にされるだけだろ」「いや、公園になるかもしれんぞ。有料の」と話すナタとキュウ爺 / 鳩老(チョー)という妖精の短い会話に、人間社会への皮肉がちょこちょこ入ってる一方で、人間社会に順応して楽しんでいる花の妖精・紫羅蘭(宇垣美里)や、人間好きなシュイ/若水豊崎愛生)みたいな妖精もいたり、そんな多様なキャラクターたちとシャオヘイとの出会いがそのまま本作の普遍的なテーマと直結していて、これはもう作劇として「お見事!」という他ないなーと思いましたねー。

アニメ作品としても映画としても、超面白いエンターテイメント作品でありながら深くて普遍的なメッセージ性もあり、でも子供にも伝わる様に工夫もされているっていう僕が観た中でも相当レベルの高い作品でした!!

興味のある方は是非!!!

 

▼良かったらポチッとお願いします▼


映画レビューランキング