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アートの本質を問うドキュメンタリー「バンクシーを盗んだ男」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、世界を股に掛けるストリートアーティストのバンクシーが、2007年にパレスチナベツレヘムで描いた「ロバと兵士」という壁画の行方を追いながら、アートの本質に迫るドキュメンタリー映画バンクシーを盗んだ男』ですよー!

この作品もあるネット番組で知りアマプラに入っていたので、早速観ましたよ!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

アーティストのバンクシーが描いた1枚の絵が、世界に与えるインパクトに迫るドキュメンタリー。パレスチナイスラエルを分断する巨大な壁に描かれたバンクシーの絵がオークションにかけられ、波紋が広がる。ミュージシャンのイギー・ポップがナレーションを担当した。(シネマトゥデイより引用)

感想

「ロバと兵士」の足跡を追う旅

バンクシーと言えば、メッセージ性の強いステンシル画を世界各国の壁に描く、正体不明、神出鬼没のストリートアーティストで、社会的、政治的な自身のメッセージをユーモアと皮肉込めて描くスタイルで知られています。

2018年のオークションでは、1億5千万で競り落とされた途端、額に仕込まれたシュレッダーで絵を裁断したことで話題になりましたよね。

その一方で、ディズニーランドを正面から皮肉ったテーマパーク「ディズマランド」を設営したり、パレスチナベツレヘム地区にある分離壁の目の前に“ 世界一眺めの悪いホテル”「T h e Walled Off Hotel」を開業したり。
かと思えばマドンナやBlurのアルバムジャケットを手掛けるなど、その活動は多岐にわたります。

本作は、2007年にバンクシーが1 4 人のアーティストと共にパレスチナイスラエルを分断する高さ8m、全長450kmにも及ぶ超巨大な壁にグラフィティアートを描くプロジェクトで手掛けた6作品の1つ「ロバと兵士」を、パレスチナの商人が描かれた壁ごと切り取ってネットオークション「eBay」で売ったという話からスタートするんですね。

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画像出展元URL:http://eiga.com

「ロバと兵士」は(イスラエル)兵士がロバのIDをチェックしているという風刺的なグラフィックですが、これを見たパレスチナの人たちに「自分たちをロバ呼ばわりするのか!」(中東ではロバは侮辱の意味がある)と怒りを買い、本作冒頭で登場する135㎏の巨漢タクシー運転手ワリド”ザ・ビースト”の提案で彼のボスが壁画が描かれた建物を買い取り、絵の描かれた壁を切り取って「eBay」に出展、海外に売り払ってしまったというのです。

この行為にバンクシー本人は怒ったらしいですが、ここから本作はストリートアート(無断で描かれる壁画)の所有権・著作権は誰にあるのか、壁に描かれた絵を第三者が勝手に移動(保存)する事の是非について――という話にシフトしていくんですね。

要約すると、

1・バンクシーらストリートアーティストは、そもそも人の家や公共の建物に無断で描いた落書きと同じなのだから、建物の所有者がその絵を消そうが売ろうが文句は言えない説。
2・それが名のあるアーティストの”作品“である以上、著作権は作者にあるのだから勝手に売買するのは違法だろ説。

3・バンクシーを始め、多くのストリートアーティストの作品は、描いた場所にメッセージや意図があるわけで、作品を切り取って場所を移してしまえば文脈は失われ作者が作品に込めたメッセージも失われてしまう説。

4・雨風に晒され風化し数年で消えてしまえば、その作品に込められた作者の意図やメッセージも“無かったこと“になってしまう。だから、芸術史観的な意味でも作品の保護、保存が必要である説。

ベツレヘムから海を渡りデンマーク→ロンドン→ロスアンゼルス→ロンドンという「ロバと兵士」の足跡を追うのと同時進行で、美術品の収集家やディーラー、芸術修復家、キュレーター、著作権専門の弁護士、ストリートアーティスト、そしてパキスタンの人々などへのインタビューを重ねることで本作は構成されていますが、それぞれの立場、スタンスで多少の相違があれど、概ね上記の4つの意見に分かれるんですね。

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画像出展元URL:http://eiga.com

さらには、
ピカソの絵が競売に掛けられた時、語られるのは彼の芸術ではなく競り落とされた金額だけ」(意訳)

「(文脈というなら)ゴッホの絵だってアルルの明るい日差しの下でこそ観られる価値がある――という事になってしまう」(意訳)

と、話はストリートアートに留まらず、アートとビジネスの関係、アートの所有権と役割という、より本質的な方向へと掘り下げられていくのです。

そして6年後、再びベツレヘムに戻ったスタッフは、ワリドや「ロバと兵士」を売り払った彼のボスで地元の名士M・カナワティベツレヘムの市長や壁の前でバンクシーの絵のプリントグッズを売って生計を立てているおじいさんなどのインタビューを行うんですね。

ボスのM・カナワティは「ロバと兵士」を売り払ったお金を全て教会に寄付したと言い、ボスから一銭の分け前も貰えなかったワリドはバンクシー嫌いに拍車がかかり、分離壁が作られる前は地元住民相手の雑貨店を営んでいたおじいさんは壁の出現で経営困難になるも、2007年のプロジェクト作品を見にやってくるようになった観光客相手に、バンクシーの絵をプリントしたグッズを売って暮らしているんですね。(バンクシー公認らしい)

入れ子構造

とまぁ、そんな感じで本作は「ロバと兵士」をメインに据えながら、アートの在り方を言及するドキュメンタリー映画になっていて、もちろんそれだけでも十分に見ごたえがあるんですが、観終わった後に振り返ってみるとこの作品が実は「入れ子構造」になっていることに気づきます。

“大国“の都合と思惑によって分断の壁で分けられたイスラエルパレスチナ

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「ロバと兵士」はそんな状況への批判や平和への願いを込めて描かれた作品なのでしょうが、作者であるバンクシーの意思とは無関係に壁から切り取られ、売り払われ、バイヤーや収集家に振り回されるように北欧、イギリス、アメリカを転々とします。

それって大国(第三者)の意思によって勝手に祖国を分断され、居場所を追われたたパレスチナ人と重なりませんか?

つまり、本作はバンクシーとストリートアートを描くドキュメンタリーでありながら、その実、監督のマルコ・プロゼルピオパレスチナの国や人と「ロバと兵士」を意図的に重ねて本作を「入れ子構造」にすることで、国と人と世界というより普遍的なテーマを観客に突きつけているのだと僕は思いました。

興味のある方は是非!!!

 

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