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圧倒的世界観に溺れる99分「JUNK HEAD」(2021)

ぷらすです。

一足遅れながら地元のシネコンで限定公開されていたので観てきましたよ『JUNK HEAD』をね!

先に一言で感想を言うなら、孤高のクリエイター・堀貴秀の脳内が100%表現された圧倒的世界観に溺れる99分でした!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

絶滅の危機に瀕した人類が地上で暮らし、地下には人工生命体が住む世界を舞台に描くSFストップモーションアニメ。地下調査員が人工生命体たちと協力しながら人類再生の道を模索する。堀貴秀が監督や原案などを一人で手掛け、制作に約7年の歳月を費やした本作は、第21回ファンタジア国際映画祭で、長編アニメーション審査員特別賞を受賞した。(シネマトゥデイより引用)

感想

製作期間7年!クリエイターの執念と狂気

個人的に「JUNK HEAD」という作品自体は、数年前にYouTubeにアップされていた30分版を観て知っていたし、これだけの規模とクオリティーの作品をたった一人で作り上げたという事にビックリしたんですよね。

www.youtube.com

このYouTube版で、 監督、原案、絵コンテ、脚本、編集、撮影、演出、照明、アニメーター、デザイン、人形、セット、衣装、映像効果、音楽、声優すべてをたった一人で担当した堀貴秀さんは高校卒業後、本職の内装業の傍ら芸術活動をしてきたそうですが、新海誠さんがデビュー作「ほしのこえ」を1人で作り上げたことを知って「映画は1人でも作れるんだ!」と衝撃を受け、そこから本職の内装業(といってもテーマパークなど、アート色の強い仕事が多かったらしい)と並行しながら2009年から4年の歳月をかけて、このYouTube版「JUNK HEAD1」を独学で完成。

そして、クラウドファンディングに失敗したり、英語が分からなくてハリウッドからのオファーをうっかり断ってしまったりしつつ、平均3名のスタッフと凡そ3年の時間をかけ、YouTube版を膨らませる形で本作、劇場版「JUNK HEAD」を完成させたのだそうです。

こうしてまとめてしまえば「へー凄いね」くらいの感じでしょうが、たった一人、ストップモーションアニメをイチから独学で学びながら計7年もの間作り続ける堀監督の執念には(いい意味で)狂気を感じるし、そのバックストーリーからもう面白いんですよね。

それは再開発で取り壊されそうになった台湾の「彩虹眷村」の建物を自身の壁画で埋め尽くした黄永阜氏と同じで、まず作品に圧倒され、バックストーリーを知って二度圧倒されるみたいな。
そういうある種の狂気すら感じる過剰さが伝播して、観客の心を動かすのです。

堀貴秀の脳内を100%表現した圧倒的世界観

そんな本作を要約すると、遺伝子操作で長寿になった代償に生殖機能がなくなり絶滅の危機にある未来の人類は、地下世界に暮らす人口生命体[マリガン]の遺伝子情報を調査するため主人公を広大な地下世界へと送り込むのだが――というストーリー。

このあらすじだけ聞けば「どっかで聞いたような設定」って思うかもしれません。
しかし、本作の面白さはその発想自体ではなく、自身の発想を自身の手で100%再現した圧倒的世界観と、その世界観を構成するディテールの作り込みにあるのだと僕は思うんですよね。

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画像出展元URL:http://eiga.com  / 職場の倉庫に作られたセット

例えるなら特撮マンから監督になったギレルモ・デル・トロと同タイプの作家性というか。

人間とは違う進化を遂げた人工生物マリガンたちの、グロかわいいルックや作品世界の独自原語(ポルトガル語かロシア語っぽい?)、食物連鎖が日常だったりマリガンたちにも階層や差別があったり。
そういう堀監督の脳内に広がるイメージを、物語の都合で希釈することなく、主人公を通して僕ら観客に追体験させてくれるんですね。

さらに、作劇場重要なキャラクターが割とあっさり死んでしまったり、っていうかそもそも主人公が劇中で計3回死んでしまったりする展開なんかは、いわゆるハリウッド的作劇とは全然違うし、ストップモーションアニメ界のトップランナーでもあるアードマン社やライカとも違う。その死生観も含めどこか仏教的というか東洋思想がベースにあるような。

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画像出展元URL:http://eiga.com  /この人が…

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画像出展元URL:http://eiga.com  / こんな姿に

かといって、じゃぁ中国・韓国・インド映画っぽいかというとそういう訳でもなく、もちろん邦画とも何か違う。あえて言うなら純度100%「堀貴秀の世界」なんですよね。

それはつまり、作劇に他人の考えが入らなかったからこそ実現した純度の高さだと思うし、(色々苦労もあったでしょうが)たった一人で制作していた時間が長かった事の恩恵と言えるかもしれません。

”独学”ゆえのオリジナリティー

あと、恐らく堀監督が元々映像や創作畑の人ではないってのも本作のオリジナリティーに繋がっていて、もちろんストップモーションアニメだから出来ないっていうジャンル的制限もあるかもですが、映画関係のプロなら(映像的にも物語的にも)絶対切るだろうっていうシーンが生かされてたり、逆に、入れれば絶対に盛り上がるシーンやカットが抜けていたり。

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画像出展元URL:http://eiga.com 

そんなある種の違和感や歪さは、観る人によって評価の分かれるところなのだと思うんですが、個人的にはもし脚本や映像・編集などのプロが関わって観客が見やすい様に本作の凸凹を均して観やすく整地されてしまったら、こんなには面白くはなってないと思うんですよね。

劇中の違和感や歪さも含めて「JUNK HEAD」という作品世界を構成しているし、物語自体は王道でストレートなのに、本作には油断したら何処に連れていかれるか分からない緊張感が常にあるのです。

で、そんな感じで圧倒されていると、いきなりジャンプの打ち切りマンガみたいな終わり方をするわけですが、実はこの作品、堀監督の計画では3部作の第2部なのだそうです。(SW的な?w)

で、続編が作られるかどうかは本作のヒットおよび、堀監督の会社「株式会社やみけん」で制作されたパンフレットの売り上げに掛かっているらしい。

というわけで、もしこれから本作を観る機会があれば絶対映画館に観に行った方がいいと思うし、続編を観るためにも鑑賞後はパンフ購入必須ですよ!

興味のある方は是非!!

 

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