今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

新宿の名物おじさんを追ったドキュメンタリー「新宿タイガー」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、ド派手なカツラに奇抜な衣装、タイガーマスクのお面がトレードマークな新宿の名物おじさんを追ったドキュメント映画『新宿タイガー』ですよー!

先日観たネット番組の中で紹介されていて、面白そうだったのでアマプラビデオでレンタルしてみました。

https://eiga.k-img.com/images/movie/90479/photo/6c4ad01a74eb3459.jpg?1545194476

画像出展元URL:http://eiga.com

概要

新宿タイガーと呼ばれるド派手な格好で虎のお面を着けて新宿に出没する人物を追ったドキュメンタリー。長年タイガーを知る人々の証言から、お面の裏に隠された彼の意図や、彼を受け入れる新宿という街に迫る。撮影時69歳だったタイガーのほか、俳優の渋川清彦や八嶋智人宮下今日子夫妻、井口昇監督らが登場。『ハー・マザー 娘を殺した死刑囚との対話』などの佐藤慶紀が監督を務め、女優の寺島しのぶがナレーションを務めた。(シネマトゥデイより引用)

感想

新宿タイガーとは

パーティーグッズのアフロカツラに安手の原色バリバリな服を重ね着し造花やぬいぐるみで装飾。そしてタイガーマスクのお面を被って新宿の街を闊歩する謎の男、通称「新宿タイガー

そんな彼の正体は50年以上新宿を担当する現役最古参の新聞配達員(当時)で、もちろん仕事中もマスク姿を貫き通すっていうか、寝る時以外はサイケデリックな衣装に身を包み決してマスクは外さない――らしいんですが、映画の中ではわりと早い時間にあっさりマスクを外して素顔を見せたりするので、別に仮面で正体を隠したいわけではないみたい。

https://eiga.k-img.com/images/movie/90479/photo/93c3b576ff0f22ed/640.jpg?1550545371

 

それだけなら、何処の街にもいる目立ちたがりのちょっと変なおじさんって感じですが、タイガーさんが凄いのは有名無名を問わずとにかく人脈が広いことなんですよね。

シネマと美女と夢とロマン」だけを追い求めているというタイガーさんは有名なシネフィルで、1日数本観ることはザラだし洋邦・メジャーマイナー・ジャンルを問わず何でも観るそうで、本作ではやはりシネフィルで知られる映画監督の井口昇氏によれば「映画館に行くと必ず前の席にいた」とのこと。

また、一回り以上も年下の女優や女性アーティストとデートをしたり、知り合いの女優が舞台に出演すれば花束を持って同じ劇を何度も観劇し、映画監督や男性俳優にも友人多数。
反骨の映画監督として知られる若松孝二にも可愛がられたなんて逸話も。

更には各種メディアへの露出も多く、タワーレコード新宿店のオープンとリニューアルの際ポスターに起用されたり、朝日新聞で1年に渡って特集されたり、海を越えて韓国の女性ファッション誌にも登場するなど、名実ともに新宿を代表する名物おじさんとして知られているようです。
僕も昔、テレビか雑誌で見て、新宿タイガーさんのことは知ってましたしね。

で、タイガーさんは大学進学のため故郷の長野県から上京。
読売新聞の新聞奨学生として新聞販売店に住み込みで働き、大学は2年で中退するも、新聞配達はそのまま継続。以降、今年(2020年)2月に引退するまで現役最古参の新聞配達員として働きながら、50年以上も新宿という街の移り変わりを見てきた生き証人でもあるんですね。

お面何か被ってるから寡黙な人かと思えば、中身はビックリするくらい饒舌で人懐っこいおじいちゃんで、そんな彼を五月蠅いと嫌う人もいるけど、彼が通う飲み屋のマスターやママには概ね愛されている。
ゴールデン街にあるバーのマスターは五月蠅いからタイガーさんを店を出禁にしろというお客に「タイガーを出禁にするなんて、そんなのはゴールデン街じゃないだろ!」と言い放ったなんて良い話もあったり。

ヘンテコな恰好(しかも場所を取る)で歩き回るし、お喋りだけど何を言ってるのかよく分からないし、男女問わずやたらとハグしたがるけど、その人懐っこさには裏がなくて自身が壁を作らないオープンな人だから、周りの人もついつい彼に心を開いてしまうんでしょう。

ただ、そんなタイガーさんですが、新宿タイガー誕生のキッカケについては何故か話したがらないんですよね。

そんな彼がタイガーマスクのお面をつけ、今のような活動?を始めたのは1972年からだそうで、「少しでも新宿が明るくなればと思って、たまたまお祭りで見つけたトラのお面を被り始めた」というのが本人談の公式プロフィールなんですが、なぜ虎のお面なのか、何があって新宿を明るくしたいと思ったのかに言及されると、いつもはぐらかすんですよね。
本作ではあの手この手で新宿タイガー誕生キッカケの真意を聞き出そうと試みているわけですが、結局最後まで明かされることはありませんでしたw

ただ、タイガーさんはいわゆる団塊の世代で、上京したのはまさに学生運動が盛り上がっていた頃だし、彼がタイガーのお面を被り始めた1972年は「あさま山荘事件」で実質的に学生運動が終焉を迎えた年でもあります。
同年代の若者たちが次々と大人たちに負け、理想の平和国家を目指して集まったはずの仲間たちが、理想とはかけ離れた形で自滅していったり。
タイガーさん自身はノンポリだったみたいですが、そうした動乱の新宿をその目で見て何かを感じ、人間を止めてトラになったのかも――なんて勘ぐってしまうんですよね。

新宿の妖精

タイガーさんが“新宿タイガー”になった真意を探るというのは、本作のテーマの一つだと思うんですが、もう一つ、「新宿タイガー」を撮ることで新宿という街、ひいては日本という国の変容を記録することが本作のメインテーマなのだと思いました。

多分、タイガーさんが「新宿タイガー」として今日まで約50年生息できているのは、文化やカルチャーの発信基地として、メジャーからサブカル、アングラまで雑多な文化を包み込むだけの懐の深さが新宿にあったからで、他の街ではそうはいかなかったと思うんですよね。

https://eiga.k-img.com/images/movie/90479/photo/16726b4a588a2162/640.jpg?1550545370

 

そして、そんな新宿を根城に長年にわたって活動するうち、いつしか彼自身が新宿の一部としてなくてはならない存在になったんだと思うのです。

昔は、そんな名物おじさん(おばさん)がどの街にも一人くらいはいたものですが、時代と人の移り変わりで今や殆ど絶滅してしまいました。
タイガーさんはそんな数少ない絶滅危惧種の生き残りでもあり、今や彼が”視える“人に小さな幸福をもたらす妖精のような存在になっているんだと思います。

果たして、今の新宿(日本)にどのくらい彼が「視える」人が残っているのか、そして新宿タイガーが消えるそう遠くない未来、新宿は、日本は、どんな風に変わっているのか。

作中でお気に入りの美女とご機嫌にお喋りするタイガーさんを見ながら、そんな事を考えてしまいました。

興味のある方は是非!!

 

 ▼良かったらポチッとお願いします▼


映画レビューランキング