ぷらすです。
今回ご紹介するのは、リレハンメル五輪の選考会での「ナンシー・ケリガン襲撃事件」のを軸に、2度の冬季五輪にも出場したトーニャ・ハーディングのスキャンダラスな半生を描いた伝記映画『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』ですよー!
バカとクズの連鎖によって、事態が最悪な方向に転がっていく様子を疾走感たっぷりに描きつつ、格差や貧困、大衆やフィギュアスケートのシステムにまで言及した超面白い映画でした。
画像出典元URL:http://eiga.com
概要
第75回ゴールデン・グローブ賞作品賞(コメディー/ミュージカル)にノミネートされたほか、さまざまな映画賞で評価された伝記ドラマ。五輪代表に選ばれながら、ライバル選手への襲撃事件などのスキャンダルを起こしたフィギュアスケーター、トーニャ・ハーディングの軌跡を映す。監督は『ラースと、その彼女』などのクレイグ・ギレスピー。『スーサイド・スクワッド』などのマーゴット・ロビー、『キャプテン・アメリカ』シリーズのセバスチャン・スタンらが出演。(シネマトゥデイより引用)
感想
先に個人的なことを書くと、僕はフィギュアスケート(というかスポーツ全般)に殆ど興味がなく、件の「ナンシー・ケリガンを襲撃事件」についてもテレビで見て「へー」と思った程度なんですね。
なので、この映画も最初はまったく興味がなかったんですが、「スーサイド・スクワッド」のハーレイクイン役で世間の注目を浴びたマーゴット・ロビーが主演(制作にも名を連ねている)だしネット上での評価もすこぶる高い。だったら一応観てみるかとレンタルしたら、これが超面白かったのです!
“事実”ではなく“真実”を描いた作品
本作は、主人公トーニャ・ハーディングを始め、母親やコーチ、夫、夫の友人やマスコミなど、「ナンシー・ケリガン襲撃事件」に関わりのある人間のインタビューパートとドラマパートを交互に見せていく構成なんですが、誰か一人の証言からドラマを作っていくのではなく、それぞれの証言の食い違いも、そのままドラマにして見せるんですね。
例えば、トーニャと旦那ジェフ(セバスチャン・スタン)の夫婦ゲンカでは、ジェフに殴られたトーニャがショットガンを撃ちながら(ジェフ視点)、カメラに向かって「そんな事するわけないじゃない」(トーニャ視点)と言ったりするわけです。
それが、コメディー演出として機能しながら、“事実”をあぶり出すのではなく、それぞれの語る“真実”からトーニャの半生を立体的に描いていくわけです。
こういう構成は、黒澤明の「羅生門」から名前を取って「羅生門スタイル」と呼ぶんだそうですね。
母と娘
そんなトーニャ・ハーディングの人生は、母ラヴォナとの歴史でもあります。
まぁ、アリソン・ジャネイ演じるラヴォナってのが、いわゆる毒親でしてね。
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スケートリンクでタバコは吸う、トーニャの演技を全否定する、母子喧嘩では投げたナイフがトーニャに命中、その辺のオッサンに金を渡してトーニャを野次らせるなどなど。
ただ、これもラヴォナに言わせれば、娘の才能を見出し、ウェートレスで得た少ない収入でトーニャにコーチをつけてスケートを習わせ、衣装を手縫いしてやって、娘の性格上、怒りがパワーになる事を知ってたから否定し続けた。となるわけです。
しかし、トーニャにしてみれば、親から得られなかった愛情を埋めるために夫ジェフとの交際、結婚するんですが、このジェフがDV夫のクズなんですよね。(親から虐待された子供は暴力を振るうパートナーを選びがちな傾向にあるんだとか)
で、このジェフの友達ショーンってやつがいるんですが、この男、いわゆる自宅警備員で、誇大妄想狂っていうか、自分をプロの諜報員だと言い張る超イタイやつ。
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そして、トーニャとショーンとの出会いが、後の「ナンシー・ケリガン襲撃事件」へと発展していくわけです。
まぁ、この事件の顛末に至っては、あまりにバカすぎて出来の悪いコントみたいですが、その後の、トーニャにとっての悲劇的な結末を見るととても笑えないっていう。
そうした背景には、アメリカの格差問題やフィギュアスケートという競技のシステムもあり、本作はトーニャの半生を通して、その背後に横たわる“歪み”も炙り出しているんですね。
フィギュアスケート版「ウルフ・オブ・ウォールストリート」
この映画、映画評論家の町山智浩さんは小林勇貴監督の『全員死刑』に似ていると言っているし、ライムスターの宇多丸師匠は『グッドフェローズ』と同じスタイルだと言っているんですが、僕はこの映画を観て『ウルフ・オブ・ウォールストリート』みたいって思いましたねー。(マーゴット・ロビーも出演してるし)
いわゆるホワイトトラッシュ(貧乏白人)の家に生まれたトーニャが、世間の偏見と戦いながら、アメリカ人初のトリプルアクセルを成功させたことで一気にスターダムに上り詰めるも、「ナンシー・ケリガン襲撃事件」であっという間に叩き落とされる。
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そんな彼女を悲劇のヒロインとして祭り上げるのではなく、「不屈の闘志を持つ女性」として良いところも悪いところも(制作者がジャッジせずに)そのまま描く姿勢っていうか。
その上で、エンターテイメントとして、疾走感たっぷりに2時間の物語として描ききったところが痛快だし素晴らしいと思いました!
興味のある方は是非!!
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