今日観た映画の感想

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今観ても色褪せない「仁義なき戦い 代理戦争」(1973)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、深作欣二の代表作シリーズ『仁義なき戦い 代理戦争』ですよー!
ぶっちゃけ衝撃度では、一作目の「仁義なき戦い」二作目「仁義なき戦い 広島死闘編」には及ばないものの、今観ても色褪せない面白さでしたー!

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あらすじと概要

 “仁義なき戦い”シリーズの第3弾。ヤクザ組織の抗争の中で展開する欲望と裏切り、そして凄惨な復讐のさまを描く。
トーリー昭和35年、広島。広島最大のヤクザ組織・村岡組のナンバー1杉原が、博奕のもつれから九州のヤクザに殺される。これを機に、村岡組の跡目を巡って熾烈な抗争が勃発。やがて、それは日本を代表する巨大暴力団同士の、広島を舞台とした代理戦争へと発展していく……。(allcinema ONLINEより引用)

 

感想

豪華キャスト総出演の大人気シリーズ第三弾!

仁義なき戦い』を知らない人のためにざっくり説明すると、このシリーズは実在するヤクザ美能幸三が獄中で書き綴った手記をベースに、飯干晃一が1972年に「週刊サンケイ」5月26日号から連載したノンフィクションを、深作欣二監督で映画化した『実録ヤクザ映画』の人気シリーズです。

時代劇、任侠映画で数々のヒット作を出してきたものの、時代の流れと共に斜陽の一途を辿っていた東映が正月映画として制作・公開した一作目が大ヒット。
試写を観当時の社長はヒットを確信し、一作目公開前に続編の製作を決定したそうです。

続く二作目『広島死闘編』は原作が追いつかず、一作目と同時期に起こった広島市の事件を描いた、いわば番外編的作品。

そして三作目となる本作では、一作目の“その後”が描かれています。

驚くべきは、この三作はすべて1973年に公開されているということ。
一作目が1月、二作目が4月、そして本作『~代理戦争』が9月に公開され、その続編『~頂上決戦』が翌年1月という、今では考えられないハイペースで制作・公開されているんですねー。

菅原文太、梅宮辰夫、松方弘樹千葉真一北大路欣也小林旭渡瀬恒彦ら、後の大スターたちが勢ぞろいした、今観ると超豪華な作品でもあります。

とにかく登場人物が多い!

このシリーズの特徴は、テンポの早さと抗争のド迫力、あと、人間関係の複雑さにあります。

とにかく登場人物が多い!w
そして、第三作となる本作では、この人間関係の複雑さが極致に達します。
さらに、前作、前々作で死んだはずの梅宮辰夫や川谷拓三などが、別人として登場するので、初見の人は混乱してしまうかも。

あと、物語となんの脈絡もなく、割と重要だったりそうでもなかったりする人物が次々と死んでいくのも本作の特徴ですが、それは実在の事件をモデル作られた「実録モノ」なので、まぁ仕方ないんですよね。

ただ、観るとき登場人物をすべて覚える必要はなくて、
一作目なら、菅原文太(主人公)、梅宮辰夫(仲良し)、松方弘樹(仲良し→敵)、金子信雄(敵)。

二作目は、千葉真一(敵)と北大路欣也(主人公)。

本作では、菅原文太金子信雄小林旭(仲間→敵)、渡瀬恒彦(子分)、田中邦栄(腰巾着)と、それぞれ重要人物だけ何となく分かれば十分楽しめると思います。

テンポの速い展開と、ド迫力の抗争シーン

そして、本シリーズの見どころは何と言ってもテンポの速い展開と、ド迫力の抗争シーン。
まさにジェットコースタームービーっていう感じで、次から次へと事件や抗争が起こるので退屈する暇がなく、2時間弱があっという間に過ぎてしまいます。
敵対する組員同士の抗争シーンでは、手持ちカメラで抗争をすぐ間近で撮影してるので、自分も抗争に巻き込まれているような気分が味わえますよ!

本作では、広島を牛耳る大親分の引退が発端となり、呉と広島の二大勢力に神戸の巨大組織が絡み、その中での裏切りと謀略をメインに描いているんですが、何と言っても金子信雄加藤武金田一耕助シリーズで「よし、わかった!」って言う警部の人)の二大ヘタレ親分に、菅原文太を始めとした主要人物たちが振り回されて無駄死にしたり失脚したりする様子が見どころです。

戦争、組織のメタファー

本シリーズはヤクザの抗争を描いていますが、これは戦争と組織のメタファーです。
ヤクザ組織という巨大な権力の流れに翻弄され、命を落とす若者たちを描く青春映画としての一作目。

戦争を体験した世代と、していない世代の価値観の違いを描いた二作目。

そして本作では、タイトルの通り、日本を二分する巨大暴力団の抗争に巻き込まれていく主人公を、東西冷戦のメタファーとして描いています。

本シリーズでヤクザ組織という社会の縮図を通して、脚本の笠原 和夫は戦争や組織を描いているんですね。

キャスティングから生まれる化学反応

本作でこれだけの豪華キャストが揃ったのは、映画産業の斜陽によって五社協定(簡単に言うと役者の引き抜きをしないという映画会社同士の約束)が崩れたことにあります。

そうして、今まで共演の考えられなかった若き大スターたちが一同に介し、熱量やプライドのぶつかり合いから化学反応が起こったことが、このシリーズの迫力や緊迫感に繋がり、40年以上経っても尚、色褪せない輝きを放っているんだと思います。

ヤクザものということで食わず嫌いしている人も、一度観たらハマってしまう普遍的な面白さを持つ、邦画の中でも一二を争う傑作中の傑作ですよ!

興味のある方は是非!!

 

▼関連作品感想▼

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世界よこれが五社英雄だ!!「雲霧仁左衛門」(1978)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「鬼龍院花子の生涯」の五社英雄監督が、1978年に名優 仲代達矢主演で制作した時代劇『雲霧仁左衛門』ですよー!

「WOWOWぷらすと」で映画評論家の町山智浩と、時代劇研究家の春日太一さんが紹介していたのを見て、気になったので観てみました。
そしたらこれが、もうね、なんていうか、とにかくスゴイ作品でしたよー!

で、本作に限っては、ネタバレしても面白さに影響はない…というか先にある程度内容を知ってたほうが楽しめる映画だと思うのでネタバレ全開で書いていこうと思います。
なので、内容を知らずに観たいという方は、映画を観てから、この感想を読んでくださいねー!

いいですね? 注意しましたよ?

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あらすじと概要

非情な武家組織に追われて盗賊と化した男と、彼に熾烈な闘争を挑む火付盗賊改めの姿を描く、池波正太郎原作の同名小説の映画化。脚本は「影狩り」の池上金男、監督は「暴力街(1974)」の五社英雄、撮影は「愛情の設計」の小杉正雄がそれぞれ担当。(映画.comより引用)

トーリー:享保七年頃、江戸では盗賊の雲霧仁左衛門仲代達矢)率いる雲霧一味によって、豪商富商が次々と襲われ大金を奪われる事件が頻繁に発生していた。
安部式部(松本幸四郎)率いる火付盗賊改めは雲霧一味を捉えようと躍起になるも、雲霧一味はそんな彼らを出し抜き、まんまと大金をせしめていく。
そして、江戸での盗み働きに見切りをつけた仁左衛門は、最後の大仕事として、尾張屈指の呉服商、松屋丹波哲郎)を狙うのだが…。

 

 

感想

池波正太郎の原作を鬼才五社英雄が壊しまくる!

池波正太郎の原作、もしくは中井貴一版テレビドラマで「雲霧仁左衛門」をご存知の方も多いかと思います。
ざっくり簡単に言うと、怪盗団vs火付盗賊改めの出し抜き合戦というか、例えるならルパン一味vs銭形警部率いるインターポールみたいな感じの、ノワール(犯罪)作品(シリアス版)みたいな感じ。

原作とドラマ版での雲霧仁左衛門率いる「雲霧一味」は、ターゲットの豪商富商(大金持ち)に部下を潜入・調査して、ターゲットの金庫にある大金を盗むわけですが、強盗のように殺しはせず、盗まれたほうが気づかないほど一切の証拠を残さずに雲か霧のように消える鮮やかな手口で犯行を行う怪盗団。

そんな雲霧一味を追う安部式部率いる火付盗賊改め(鬼平犯科帳でお馴染みですね)との、知恵比べが見所なんですね。

と・こ・ろ・が、本作で五社監督は原作の醍醐味である知恵比べや出し抜き合いのロジックをバッサリとカット。
かわりに、ビックリするほどの血飛沫ぶっしゃー! 、首がぽーん! 、おっぱいバイーンの、エンタメアクション作品に仕上げたんですねー。

なので、ストーリーはぶっちゃけしっちゃかめっちゃかですが、とにかく映像のインパクトが凄すぎて「なんか凄いもの観た」って思わされる作品でしたねー。( ゚д゚)ナンカスゴイ…

超豪華キャストによる複雑な人間関係

実はこの作品、人間関係はかなり複雑だったりするんですが、その辺の描写をほぼ省いているので何も知らずに観た観客は「??」ってなっちゃうかもしれません。
というわけで、登場人物・グループの相関関係を書こうと思います。

雲霧一味

仲代達矢演じる雲霧仁左衛門によって結成された盗賊集団。
火付盗賊改めを出し抜き、次々と盗みを成功させ名を上げた。

火付盗賊改め

凶悪な組織犯罪に対抗するべく作られ、武力行使も許可されている刑事集団。
若き日の松本幸四郎(当時は先代の市川染五郎だった)演じる安部式部は、当時の長官。雲霧一味を逮捕することに執念を燃やしている。

星一

雲霧一味とは逆に、放火・殺人・強姦などなんでもありの盗賊。
映画冒頭で雲霧一味が狙っていた商家に押し込むも、火付盗賊改めに踏み込まれ壊滅状態に。

尾張藩

十年程前、当時家臣だった仁左衛門らに公金横領の罪をかぶせ、親族一同を殺し、家を焼き払ったうえ、許婚者まで奪った。

辻蔵之助

仁左衛門の兄。仁左衛門とともに尾張藩の追っ手から何とか逃げ延び、以来尾張藩に復讐の機会を狙っている。
演じているのは初代松本白鸚(当時は先代の松本幸四郎

富の市(宍戸錠

辻兄弟抹殺のため、尾張藩から派遣されたものの返り討ちに合う。
それでも何とか生き延びたが盲目になったため、按摩に身を窶し仁左衛門への復讐を誓っている。

大体こんな感じ。
メインは雲霧一味と火付盗賊改の対決ですが、後半では尾張藩仁左衛門の兄、富の市、暁星一味の残党が絡んで物語が進んでいくんですねー。

“権力”への復讐劇

ここで重要なのは、本作が辻伊織(雲霧仁左衛門)と兄の蔵之助、それぞれの復讐劇でもあるということ。
兄は「侍の誇りのために」自分たちを陥れた尾張藩に復讐の機会を狙っていて、弟は「天下の大盗賊」として名を成し、幕府(政府)の信用を落とすことで復讐しているんですね。
そして尾張で二人は出会い、待ちに待った機会が訪れるので一緒に復讐して欲しいと頼む兄に、仁左衛門は侍として死ぬなどバカバカしいと突っぱねる。

そんな二人の立場がラストで逆転するんですが、ここはまさに胸熱な展開なんですよねー!
実はさらにもう一人、密かに尾張藩への復讐を行っている人物が登場するんですが、それは見てのお楽しみ。
尾張藩(権力)に対しての復讐のスタンスが三者三様のアプローチなのが、個人的には「おぉ!」ってなりました。

こまけぇこたぁ、いいんだよ! 

とまぁ、ストーリー的にはこんな感じなんですが、本作の見所はそこではなくって、何と言っても映像のインパクです!

冒頭、多分誰もが「なんで!?」と驚くオープニングの後、商家に忍び込んだ暁星一味がとにかく犯す殺すの大暴れ。そこに火付盗賊改登場なんですが、馬に乗ったまま扉を突き破って馬に乗ったまま屋敷の中に突入し星一味を斬りまくるっていう衝撃的なスタートは、観ている誰もが「何が起こってるんだ!?」と混乱すること間違いなし!
っていうか、馬から降りたほうが絶対戦いやすいと思うし、馬の頭は木の扉を突き破るほどは固くないよ! っていうw

そして、岩下志麻演じる七化けの千代が超エロい
尾張の豪商、丹波哲郎演じる松屋と屋形船の中で濃厚な濡れ場があるんですが、ここでの岩下志麻は超色っぽいし、丹波哲郎とのキスシーンがとにかく濃厚です!
おっぱいも出てくるけど、ここは本人じゃなくて吹き替えだそうですが。
でも、誰のであれ、おっぱいには変わりありませんからねー!( ゚∀゚)o彡

あと全体的に、血しぶきの量が半端ない!
切られるたびにビックリするくらい大量の血しぶきがぶっしゃーで、
観てて思わず笑っちゃうくらいですw

中盤、尾張で雲霧一味の狙いを掴んだものの出張中の火付盗賊改に捕まり、司法取引でその情報を江戸の安部式部に話すため搬送される、櫓の福右衛門(成田三樹夫)を始末するため、仁左衛門自ら出陣するんですが、刀で籠を一刀両断、籠に乗っていた護衛(影武者だった)の首が真上にぽーんと飛ぶっていう、物理法則無視のド派手なシーンは、本作最大の見所かもしれませんw

ちなみに、雲霧仁左衛門の表の職業はストリップ小屋の経営者なんですが、そのストリップでかかる音楽がズンドコズンドコっていうアフリカの音楽っぽいw
そんな中、ストリップ嬢がポールダンスさながらにロウソクたての棒を掴みながらズンドコズンドコ髪を振り乱して腰を振るシーンは最高です!( ゚∀゚)o彡オッパイ( ゚∀゚)o彡オッパイ

しかし、何より最高なのは何と言っても、雲霧仁左衛門を演じる仲代達矢のカッコ良さ! 佇まいや話し方、声のトーン、目力。
荒っぽさがなく知的で、どこか実在感のない雰囲気はまさに雲霧仁左衛門といった感じ。でも「怒らせたらヤバイ」オーラはビンビン伝わってくるんですよねー!
さすがは名優 仲代達矢です。

そしてラスト、亡き兄の代わりに、兄の名を名乗って名古屋城に単身乗り込む時の、忍者装束と鎧の中間のような衣装姿が超カッコイイんですよねー!
そしてここで初めて怒りを顕にするですが、その時の迫力はそれまでの抑えた演技を一気に開放したようなド迫力でした!

殺陣もカッコイイし、背も高くてスタイルもいいし、さらにあのギョロっとした目で周りを見回す時の殺気には痺れました!

あと、劇中仲代さんは瞬きしないんですよね。
そこがまた、実在感のなさや迫力に繋がってるんじゃないかと。

あ、あと最後の最後に梅宮辰夫がいきなり出てきてあっという間に死にます。

とまぁ、こんな感じでとにかく見どころも突っ込みどころ満載の本作ですが、
うるせー! こまけぇこたぁいいんだよ! 面白ければそれでいいんだ!」という五社英雄監督のサービス精神が炸裂してる感じがして、約2時間半もある作品なのに、観ていて全然退屈しないんですよねー!

よく「過ぎたるは及ばざるが如し」なんて言いますけど、こと映画においては過ぎてる方が面白いに決まってますからねー。

そういう意味でも本作は、五社英雄作品に興味のある人なら必見の作品だと思いますよ!

興味のある方は是非!

 

 

ヨーロッパ映画の香り「六月の蛇」(2002)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは2002年の塚本晋也監督作品、『六月の蛇』ですよー!
僕がこれまで観た塚本作品は「鉄男」「鉄男 THE BULLET MAN」「野火」くらいだったんですが(あと悪夢探偵も)、少しづつ過去作を観ていこうかなと思い、今回選んだのが本作です。

個人的に好きな作品だったんですが、いざ感想を書こうと思うと言いたいことを上手くまとまらなくてかなり難航しましたよw(書いてるとどんどん言いたいことが湧いてくる感じ)

なので、全然的外れな事を書いてるかもですが、ご容赦くださいねーw

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あらすじと概要

“都市と肉体”をテーマに作品を撮り続けてきた鬼才・塚本晋也監督が放つ、2002年ベネチア国際映画祭審査員特別大賞に輝いた愛とエロスの物語。見知らぬ男からの脅迫をきっかけに、秘めた欲望を露わにしていく人妻の姿を通し、生を実感できない現代人の孤独、心の渇きを描く。主演は『愛について、東京』の黒沢あすか潔癖症の夫役にコラムニストの神足裕司、ストーカー役を塚本監督自身が怪演。降りしきる雨や青みがかったモノクロ映像が鮮烈な印象を残す。

トーリー:梅雨の東京。潔癖性の夫と暮らす電話カウンセラー・りん子(黒沢あすか)のもとに、彼女の自慰行為の盗撮写真と携帯電話が届く。彼女の言葉で自殺を思いとどまった道郎(塚本晋也)からの脅迫だった。その日から、りん子の恥辱と恐怖に満ちた日々が始まる。(シネマトゥデイより引用)

 

感想

ヨーロッパの映画の香り

本作を観ながら、僕は「なんかヨーロッパ映画みたい」と思いましたねー。
恥ずかしながら黒沢あすかさん、神足裕司のことを知らなかった(神足さんは役者さんじゃないんですね)のも、邦画感を感じなかった理由の一つですが、青いフィルターをかけたモノクロのような美しい映像と、アブノーマルな性愛の形をソリッドな映像で描く塚本監督独特の乾いた“湿度”を感じさせない表現に、昔観たヨーロッパポルノ文学の映画化作品の香りを感じたのかもしれません。

主人公のりん子(黒沢あすか)は「心の健康センター」で電話相談を受けるカウンセラーで、潔癖症の夫 重彦(神足裕司)と二人暮らし。
セックスレスだけど、真面目で「優しい」夫とゆとりのある平穏な暮らしに表面上満足しているものの、心の奥底では夫に女として見られない不満や孤独を感じているわけです。
そこに、以前カウンセリングで自殺を思いとどまらせた末期ガンのカメラマン道郎(塚本晋也)が、盗撮した彼女の自慰写真を送りつけてきたことで、物語が動き出します。

前半は弱みを握られたりん子が、道郎の電話での指示に従ってミニスカートにノーパンで歩かされたり、大人のおもちゃを買わされたり、それを入れて街を歩かされたりというSM展開になっていくんですが、その行為がそれまで緩やかに鬱屈していた彼女の心を開放し、中盤からは立場が逆転していきます。
この二人は最後まで、電話でのやりとりとカメラのレンズを通しての「見る」「見られる」だけの関係で、直接的な接触はないんですが、カメラマンである道郎と、夫から見て(向き合って)貰えない事に孤独を感じるりん子にとって、この行為はセックスと同義なんですね。

一方の夫 重彦は、優しくて真面目で一見申し分ない夫に見えて、実は幼稚で神経質で弱い男だということが、次第に明らかになっていきます。
その弱さゆえ、りん子に発した“ある言葉”がその後に起こる取り返しのつかない事態を引き起こす引き金となってしまうんですね。

「性」と「死」を通して「生」を描く物語

アブノーマルでエロチックな描写が多い作品でもあるので、本作は一見「性」を描いた作品に思えるし、実際それも本作の一面ではあるんですが、本作が描いているテーマは大きく二つの軸があると思います。
「人は死を意識して初めて生を実感んできる」ってことが一つ、もう一つは「コミュニケーションについて」

カメラマンの道郎は、それまでブツ取り(静物)専門のカメラマンで他者とのコミュニケーションから逃げていた男です。
しかし、末期ガンであることが分かり、一度は捨て鉢になって自殺を考えるも「心の健康センター」で電話相談で「やりたいことをやれ」とりん子に励まされ(ガンのことをりん子は知らなかった)、りん子を盗撮。目前に迫る死を前にして、初めて生を実感するわけです。(相当ねじ曲がってますけどもw)

多分最初は、りん子(人間)を撮影したかっただけなのかもですが、そこでりん子の秘密を知った道郎は、(強制的に)りん子が心の奥に隠していた本当の欲求を開放します。

それは別にりん子が羞恥プレイに憧れてたとかではなく、「女として見られたい」、もっと言えば「自分を見て(認識して)欲しい」という欲求なんですね。

道郎は「死」に直面することで、りん子は「性」を開放される事で、初めて「生」を実感し、「生」とコミュニケーションは密接な関係があるというか。人は他者に認識されなければ「生」を実感することは出来ない的な?

中盤の山場での、道郎のカメラのシャッター音とフラッシュの中でのりん子の絶頂の叫びは多分、人として女として、互いに初めて認識しあった二人の「産声」なんだと思います。

そしてここでもう一人の登場人物である重彦ですが、彼は根本的には道郎と同種の人間で、「生」と向き合う事から逃げ続けてるんですね。
だから母親の最後にも立ち会わないし、ひとつ屋根の下で暮らすりん子とも向き合うことが出来ませんし、自分の暮らしから有機的な痕跡を異常なまでに排除しようとします。
そんな重彦に擬似的な「死」を体験させることで、道郎は(強制的に)重彦の目をりん子に向けさせようするんですね。

それは、道郎が恋した女の「本当の望み」を叶えてやったとも取れるし、自分と同種の人間、重彦というアバターを使って自分の「最後の望み」を叶えたとも取れるし、あるいは両方なのかもしれません。
また、最終的にこの三人の間にコミュニケーションが成立したのかどうかも人によって解釈が異なるところだと思います。

そこを明言せずに、りん子と重彦の絶頂の叫び(産声)でスパっと物語の幕を引く塚本監督の切れ味はさすがだなーと。

とはいえ、特に冒頭部分は人によって(特に女性にとって)は、不快に思うかもですし、ハッキリと結論が出ない物語が苦手という人にはあまりオススメ出来ない作品ではあります。

ただ、映像は綺麗だし時間も77分と短いので、観たことはないけど塚本作品が気になってる人の入口としては最適な一本なんじゃないかと思いますよー。

興味のある方は是非!!

 

豪華キャストがフルスロットルの演技「GONIN」(1995)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、映画関係者→漫画家→脚本家→映画監督という異例の経歴を持つ石井 隆監督が描いたバイオレンス映画『GONIN』ですよー!

僕は公開後、レンタルビデオで観たはずなので今回が2回目の鑑賞なんですが、内容を殆ど忘れてたので、今回初見みたいな気持ちで観ましたよw

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あらすじと概要

暴力団の金庫から現金強奪を企てた5人の男たちの顛末を描いたバイオレンス・アクション。バブル崩壊により暴力団・大越組に多額の借金を抱えてしまったディスコのオーナー万代。彼はさまざまな出会いにより知り合った4人の男たちと共に、大越組事務所からの現金強奪を実行する。しかし、それも些細なミスから大越組に知れ、彼らは命を狙われることになる……。(allcinema ONLINEより引用)

 

 

感想

「GONIN」とは

ざっくり言うと、ヤクザのお金を奪った人生どん詰まりの五人の男が、ヤクザに報復されるというバイオレンス映画で、ニューヨークでタランティーノの「レザボア・ドッグス」を観た盟友、竹中直人から大筋だけを聞いて石井監督が想像で作ったのが本作ということらしいです。(そしてタランティーノは本作のファンなんだとか)

それ以外でも本作では、竹中直人がお金や役者集めなど色々サポートしているらしいですね。

で、そんな本作に登場する5人はというと、

・元々は音楽をやってて、バブル期にディスコ経営で時代の寵児となったものの、バブルが弾けてヤクザからの借金で首が回らないナルシスト男 万代樹木彦 (佐藤浩市

・男娼のフリをしてかかった客を脅して金を巻き上げる美青年で、実はゲイ? の三屋純一 (本木雅弘

暴力団のチクリによって汚職がバレてクビになった元刑事の氷頭要 (根津甚八

・家のローンを抱えているのにリストラされたサラリーマン荻原昌平 (竹中直人

・パンチドランカーの元・ボクサーで、タイ人の恋人がいるジミー(椎名桔平

そんな五人に報復のため送り込まれたヒットマン役がビートたけし木村一八で、ビートたけしはこの時バイク事故から復活したばかりで、片目の眼帯は役作りじゃなくてまだ治ってなかったらしいです。

他にも、鶴見辰吾、永島敏行など、豪華キャストたちがリミッターなしのフルスロットルで熱演。今でもカルト的人気を誇っている名作で、それから19年後の2015年に公開された「GONINサーガ」へと繋がっていくんですね。

今観れば色々思うところはあるけれど

とはいえ、約20年前の作品ですからね。
今観れば、画面の古さや、バブルの残り香満載のファッションや音楽、時代を感じさせるオーバーアクト、ケレン味たっぷりなアブノーマル設定、説明台詞など、「あー昔っぽいなー」と思うのは致し方なしです。
しかし、その後隆盛を極める韓国ノワール映画のような荒れた空気感だったり、バイオレンスを際立たせるカメラワーク、思いもよらない展開など、多分、その後に続く日本のバイオレンス映画に、多大な影響を与えた作品なのだろうと推測させるインパクト抜群の映画であることは間違いありません。

一旦は成功したかと思われた強奪計画が、ある男の行動によるほんの小さな綻びから破綻、その後の目も当てられない惨劇に発展していく展開には、見ているこちらも手に汗を握ってしまうし、その途中にあっと驚く「真相」を挟み込む上手さは、さすがだなーと思いました。

このシーンがスゴイ

中でも今観ても衝撃的だったのは、計画がバレて、引き込み役となる椎名桔平演じるジミーが、横山めぐみ演じるタイ人の恋人のナミィーと共にヤクザの拷問を受けるシーンは、裸で椅子に縛り付けられ拷問されるジミーとチンピラたちに陵辱されるナミィーを、引きの画で同じ画面に収めているんですが、それによって陰惨さが増してるんですよね。
しかもその後、ジミーがナミィのワンピースを着て組長に復讐しようとするシーンでの、椎名桔平の鬼気迫る演技は凄かったですねー。

あと、金を手にした荻原が家に戻ってからのシーンは中々のホラー展開で、真相が分かった瞬間に、遡って「あれはそういう事か!」と衝撃を受けました。
まさに、竹中直人の真骨頂といった凄みのある恐ろしいシーンです。
そこに踏み込んできた、ヒットマン二人の関係が明らかになるのも衝撃的でしたねー。
お前もかーい!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ っていうね。

ヤクザの事務所を襲撃するシーンでのモッくんの身のこなしは、思わず目を奪われる見事な中二アクションで、超かっこよかったですよ!(;゚∀゚)=3ハァハァ

残念だったシーン

ただ、やっぱり残念なシーンが多いのも確かで、特に全体的に無駄な説明セリフが多いのは気になりました。
ゴチャゴチャ言わないでキスするだけで良くない? とか、そこは表情と行動で分かるのになんでセリフで言っちゃうかなーとか、芝居がかったリアクションとか。
その辺は、時代もあるのかもしれませんけど。(観客に分かりやすくするための説明セリフは常識だった)

あと、基本登場人物が全員トリッキーと言うか、特に、竹中直人、モッくん、永島敏行の三人は“芝居しすぎ”な感じがしました。
キャラ的に仕方ない部分もあるんですが、演技がオーバー過ぎてちょっと引いちゃうし、嘘っぽく見えちゃうんですよね。

根津甚八が(キャラ的にも)抑えた演技で物語のトーンを引き締めているので、そこまで気にならずに済んでるものの、やりすぎのオーバーアクトで、物語のリアリティーやキャラクターの実在感が薄れてる部分が多いのがもったいないなーと。

トーリー自体が突拍子もない話なので、キャラクターやセリフでリアリティーを出していたら、もっと引き込まれたかもとは思いました。
まぁ、それも今の感覚で観てるからなんだと思うんですけども。

ともあれ、とても面白い映画だったのは間違いがないし、「GONINサーガ」を観てみようと思うなら、予習の意味でも先に本作をチェックしていたほうがいいと思いましたよ。

興味のある方は是非!

 

 

ついにコングは王(キング)からゴッド(神)に! 「キングコング 髑髏島の巨神」(2017)

ぷらすです。

今日の朝一番で『キングコング 髑髏島の巨神』を2D字幕版で観てきましたー!
先に書いちゃうと、これはアレですよ。
大画面大音響で観ないとダメなヤツです!!(;゚∀゚)=3ハァハァ

というわけで、まだ公開したばかりの作品なので出来るだけネタバレしないように気をつけて書きますが、これから本作を観に行く予定の方は、先に映画を観てからこの感想を読んでくださいね!
あと、一つだけ注意なんですが、本作はEDロールが始まっても席を立たずに最後まで観たほうがいいですよ!

いいですね? 注意しましたよ?

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あらすじと概要

キングコングを神話上の謎の島に君臨する巨大な神として描いたアドベンチャー大作。島に潜入した調査隊が正体不明の巨大生物と遭遇し、壮絶な死闘を繰り広げる。監督は、主にテレビシリーズに携ってきたジョーダン・ヴォート=ロバーツ。調査遠征隊のリーダーを『マイティ・ソー』シリーズなどのトム・ヒドルストンが演じるほか、『ルーム』などのブリー・ラーソンサミュエル・L・ジャクソンらが共演。巨大な体でリアルな造形のキングコングの迫力に圧倒される。

トーリーコンラッドトム・ヒドルストン)率いる調査遠征隊が、未知の生物を探すべく、神話上の存在とされてきた謎の島に潜入する。しかし、その島は人間が足を踏み入れるべきではない“髑髏島”だった。島には骸骨が散乱しており、さらに岩壁には巨大な手の形をした血の跡を目撃する。そして彼らの前に、神なる存在であるキングコングが出現。人間は、凶暴なキングコングに立ち向かうすべがなく……。(シネマトゥデイより引用)

 

感想

東宝キングコング!?

米国の「キングコング」は1933年の初出以来、同年に続編の「コングの復讐」、1976年にリメイク版「キングコング」、1986年に76年版の続編「キングコング2」、2005年にリメイクされた「キングコング」、そして本作と計6本が製作されています。
また、東宝が、1962年に「キングコング対ゴジラ」、1967年に「キングコングの逆襲」を製作・公開している人気のモンスターです。
僕が観たのは、多分1976版「キングコング」と86年の「キングコング2」の2本じゃないかな?

基本ストーリーは、未知の孤島で王として君臨していた大きなゴリラが、見世物としてニューヨークに連れてこられるも、大暴れの末に殺されるという悲劇でして、コングと美女とのロマンス? が入るのもお約束。

植民地制作が盛んだった1930年代の物語なので、キングコングは奴隷として欧米に連れてこられた黒人の暗喩であると言われ、差別的な物語として批判もされたりしていたようです。

対して本作は、2014年ハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」を作ったレジェンダリー・ピクチャーズ制作で、怪獣映画を同一世界観のクロスオーバー作品として扱う「モンスターバースシリーズ」第2作目(一作目がゴジラ)。

つまり怪獣版「アベンジャーズ」みたいなシリーズで、初代ハリウッド版「キングコング」を踏襲しつつ、東宝版「キングコング対ゴジラ」の流れにある作品なんですね。

舞台はベトナム戦争時の「髑髏島」

なので過去作品とは時代設定も変わり、本作はベトナム戦争が終了した直後の1973年、衛星写真に映った知られざる孤島「髑髏島」に米国の秘密研究機関モナークに派遣された調査団が、キングコングや巨大生物と遭遇するという物語になっています。

この辺の基本的な物語の骨格は1933年版「キングコング」を踏襲しているわけですが「地獄の黙示録」よろしく、プレストン・パッカード大佐率いる米軍が軍事ヘリで島に乗り込んで行くんですね。

で、“地質調査”と称して、ヘリに搭載したスピーカーからゴキゲンなロックを流しながら島のあちこちに爆弾を落とすヒャッハーぶり。

そりゃ、コングじゃなくても怒るわw

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画像出典元URL:http://eiga.com 怒りのキングコング

で、案の定キングコングの怒りを買った調査団のみなさんは、ボッコボコにされてバラバラに不時着。
こりゃヤバイと脱出を図るも、この島の驚異はキングコングだけではなく……。という物語です。

個性派派俳優陣と“怪獣”たち

本作では、個性豊かな俳優陣が大集結。

SAS大尉で、ベトナムでは米軍の仕事を請け負うフリーランスの傭兵で、サバイバル術を買われて調査団に動向することになる主役のジェームズ・コンラッドを演じるのは、「アベンジャーズ」で悪役のロキを演じたトム・ヒドルストン

ベトナムで活動していた反戦カメラマンで、髑髏島の調査ミッションに陰謀の匂いを感じて、コネを駆使して調査団に潜り込むヒロインメイソン・ウィーバーを演じるのは「ルーム」で長年監禁された母親役を演じたメイソン・ウィーバー

太平洋戦争中、交戦していた日本軍の戦闘機と共に墜落し、島に取り残された老人ハンク・マーロウ役にはピクサーの「シュガー・ラッシュ」でラルフを演じたジョン・C・ライリー

全ての元凶となる「モナーク」のメンバー、ビル・ランダを演じるのは、「10 クローバーフィールド・レーン」でシェルターの主を怪演したジョン・グッドマン

そして、調査団の護衛としてやってきたプレストン・パッカード大佐役は、みんな大好きサミュエル・L・ジャクソンですよー!

そんな人間たちを迎え撃つのが、超でかいクモやタコや水牛、ナナフシ、コウモリ(翼竜?)、そして凶暴な巨大トカゲスカルクローラー

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画像出典元URL:http://eiga.com / こいつにだけは出くわしたくないスカルクローラー

そんな巨大“怪獣”+サミュエル・L・ジャクソンを相手に、過去最大の31.6メートル(東宝版は除く)のキングコングがドッカンドッカン大暴れするんですから、そりゃぁもう大迫力ですよ!(;゚∀゚)=3ハァハァ

これはもう、出来る限り大画面と大音響で観た方がいいに決まってるのです!

キング(王)からゴッド(神)に

東宝版を除けばこれまでのキングコングの扱いは、あくまで「超巨大なゴリラ」であり、だからキング(王)コングだったわけです。
しかし、本作のキングコングはただデカイだけじゃなく、髑髏島最強の「神」として崇められています。

軍事ヘリを片手でなぎ払い、爆弾や炎を物ともせず、ドラミングからの咆哮、巨大で凶暴なタコやらスカルクローラーにも打ち勝つ姿はまさに神の風格で、人間に捕まってニューヨークに連れてこられる悲劇の主人公ではありません。

日本でゴジラガメラを始めとした“怪獣”は、災害のメタファーであると同時に、妖怪や神の系譜にある生物として描かれてきました。
一方キングコングを始めとしたハリウッドのモンスターはあくまで“巨大生物”だったんですが、本作でついに巨大生物から怪獣になり、キング(王)じゃなくゴッド(神)=怪獣として描かれているんですね。

これは、前述した「モンスターバースシリーズ」の流れもあるし、若干32才で本作に抜擢されたジョーダン・ボート=ロバーツ監督やハリウッド版ゴジラのギャレスエドワード監督など、日本の特撮やアニメに馴染みのある世代に「怪獣」という概念が根付いてきたという部分もあるんじゃないかと思うんですよね。

僕らが子供の頃に観ていた、東宝の怪獣シリーズが時を超えてついに、ハリウッドのビッグバジェットで復活するなんて夢のようだし、日本生まれのゴジラとアメリカ生まれのキングコングの、「二大怪獣」がこれから同じスクリーンに登場するなんて、考えただけでもワクワクしますよー!

そして、そんな“怪獣”キングコングを相手にメンチを切り合うサミュエル・L・ジャクソンは、もはや人間の怪獣といっても過言じゃないですし、ファンなら「あのセリフ」が飛び出すかどうかも気になるトコロじゃないでしょうか!

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画像出典元URL:http://eiga.com / キングコングVSサミュエル・L・ジャクソン

その辺も含めて、絶対に映画館で観るべき映画なのは間違いありません!

興味のある方は是非!!

そして、しつこいようですがEDロールが始まっても、最後まで席を立っちゃダメですよー!

 

▼関連作品感想▼

note.mu

スコセッシが『インファナル・アフェア』をリメイク「ディパーテッド」(2007) *ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、巨匠マーティン・スコセッシ香港映画「インファナル・アフェア」をリメイクしたアクションサスペンス『ディパーテッド』ですよー!

主演にマット・デイモンレオナルド・ディカプリオ、ギャングのボス役には名優ジャック・ニコルソンという豪華な布陣で挑んだ意欲作です。

で、この映画結構入り組んだ構造になっているので、今回は若干ネタバレありで感想を書いていきたいと思います。なので、これから本作を観る予定の方は、映画のあとに感想を読んでくださいね。

いいですね? 注意しましたよ?

 

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画像出典元URL:http://eiga.com

あらすじと概要

巨匠マーティン・スコセッシが、香港映画『インファナル・アフェア』をリメイクしたアクションサスペンス。マフィアに潜入した警察官と、警察に潜入したマフィアの死闘がスリリングに描かれる。レオナルド・ディカプリオマット・デイモンが主人公の警察官とマフィアをそれぞれ熱演。名優ジャック・ニコルソンがマフィアのボス役で脇を固める。ボストンを舞台に描かれた本作は、スコセッシ監督らしいバイオレンスシーンと、敵対組織に潜入した男ふたりの心理描写に注目。

トーリー:犯罪者の一族に生まれたビリー(レオナルド・ディカプリオ)は、自らの生い立ちと決別するため警察官を志し、優秀な成績で警察学校を卒業。しかし、警察に入るなり、彼はマフィアへの潜入捜査を命じられる。一方、マフィアのボス、コステロジャック・ニコルソン)にかわいがられて育ったコリン(マット・デイモン)は、内通者となるためコステロの指示で警察官になる。(シネマトゥディより引用)

 

感想

元ネタを知らない方が楽しめる!?

まず最初に書いておきたいのは、ネットレビューなどを何本か読んでみると、リメイク作品としての出来は良くないという評判だったんですが、僕は本作の元となったインファナル・アフェア』は観ていないんですね。

ただ、本作はインファナル・アフェア』をベースにはしているものの、マサチューセッツ州ボストン南部、通称「サウシー」というアイルランド系アメリカ人のコミュニティーや、実在のアイリッシュギャングをモデルにしたキャラクターなどの要素を入れ込んでいるので、結末なども含め『インファナル・アフェア』とは別物と考えたほうがいいのかもしれません。

登場キャラクターたち

本作の大筋はインファナル・アフェア』と同じで、二人の若者がギャングと警察にそれぞれ送り込まれ、密告者として任務を遂行する物語です。

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画像出典元URL:http://eiga.com

レオナルド・ディカプリオ演じるサリバンは、警察学校を卒業し私服刑事になりますが、父型の親族が全員ギャングのボス、コステロの息のかかった犯罪者という家系。
父親は犯罪には手を染めずに空港職員として働き、サリバンは母親の下で育ったんですね。
で、刑事になった途端に潜入捜査官としてコステロの一味になるよう命令されます。

一方のマット・デイモン演じるコリンは、子供の頃からコステロに可愛がられて育ち、コステロに言われて警察学校へ。
同じく私服警官として州警察の組織犯罪担当の部署に配属されます。
そこで彼はコステロの手駒として、警察の動向をスパイしているわけです。

で、冷酷無比なアイリッシュギャングのボス、フランク・コステロを演じるのが名優ジャック・ニコルソン
ちなみにこのフランク・コステロは架空のキャラクターですが、実際に「サウシー」を牛耳っていたアイリッシュギャングのジェームズ・ジョセフ・バルジャーがモデルになっているそうです。

ブルーレイの特典映像では、このバルジャーの経歴が解説されてるんですが、バルジャーの写真を見ると、ジャック・ニコルソンが容姿をかなりバルジャーに寄せている事が分かりますね。

本作の脚本を担当した ウィリアム・モナハンは、このボストン南部の出身だそうで、バルジャーについても詳しく、劇中のコステロの性格や言動はバルジャーそのものだそうです。こんな人絶対近づきたくないw

また、コステロFBIに情報を流す代わりに逮捕されないという設定も、実際のバルジャーと重なるんだそうですね。

サウシーと差別

ご存知の様に米国は移民の国でして、なので肌の色だけでなく白人同士でも差別があるそうです。
物凄くざっくり書くと、アメリカ人の圧倒的多数はイングランド系で、アイルランドイングランドに支配されていたこと。
また、カトリックプロテスタントというキリスト教派閥の違いなどから、アイルランド系アメリカ人は差別を受けていたようなんですね。(その他にも入植の順番とかもあるっぽいですが)

なので、アイルランド系の「サウシー」の人々は繋がりが強く、政府や警察に頼らずコミュニティーの中で問題を解決するという背景があり、そんな背景の中からバルジャーのようなギャングも多数生まれてくるわけです。
スコセッシが好んで描くイタリア系ギャングも同じような背景があり、本作の当時も差別によって選べる職業が少ないため犯罪組織を選ぶ若者が多いようで、劇中の「警察かギャングのどちらかしか選べない」というコステロのセリフはここから来ているわけですね。

冒頭、先輩刑事ディグナム(マーク・ウォルバーグ)がディカプリオ演じるサリバンに罵倒罵声侮辱的な言葉を吐くんですが、それはサリバンの潜入捜査への適正を確かめるだけでなく、多分アイリッシュ系の(しかも父型の親族がもれなくコステロ配下の人間だった)サリバンに対しての差別心があるんでしょうね。

また、順調に出世していくコリンへの同僚や上司の態度が何となく冷たいのも、同じくアイリッシュ系という彼の出自が関係しているんだと思います。

まったく正反対の二人

ここから、サリバンはギャングの構成員として、コリンはエリート警察官として、それぞれの組織(サリバン→警察・コリン→ギャング)に情報を流していくわけですが、二人の置かれた状況は正反対。

コリンはエリート警察官として順調に出世し(コステロに手柄を回してもらってるから)、素敵なマンションに住んで精神科医の彼女も出来ます。
対して、サリバンの方はギャングに信用されるために経歴を消して刑務所に入り、ギャングの取立て、望力、殺人などを一年以上見せられ、しかもバレたら即殺害されるという緊張の日々。彼は次第に心を病んでいきます。

そんな正反対な二人を繋ぐのがヴェラ・ファーミガ演じるマドリンで、コリンと恋人になった彼女の「患者」として訪れるのがサリバン。
やがて、マドリンはサリバンにも惹かれていき……。っていうね。

情報が筒抜けなので、双方にスパイがいる事を悟った二人は、互いの正体を探るために罠を張り、お互いの情報源を使って、通報者の正体を突き止めようとします。

そこはインファナル・アフェア』と同じで、いつサリバンとコリンの正体がバレるのか、双方の駆け引きが、本作を引っ張る物語の牽引力となるのです。

封筒の中身

で、色々あってついにお互いの正体を知った二人の対決となるんですが、その前にサリバンはマドリンに一通の封筒を託します。
この封筒の中身についてはネットレビューでも諸説あるようですが、僕はこの封筒にはコリンが内通者であることの証拠(か告発文)が入っていて、自分が死んだ場合ディグナムに渡して貰う手はずになっていたんだと思います。
唯一信用出来る上司が亡くなり、他にもギャングの内通者がいるかもしれないと思ったサリバンは最後に、自分を嫌い、上司を殺され、アイリッシュ系を憎んでいたディグナムだからこそ信用し、全てを託したんじゃないかなーと思うんですよね。

面白いけど……。

と、実に盛りだくさんの2時間30分で、個人的には凄く面白かったんですが、ただ、色々盛り込みすぎて全体的に散らかっている感じがある気がしました。
それでも、映画としては十分に面白いんですが、スパイサスペンスというコンセプトが、スコセッシの持つカラーを薄めてしまった感が否めないように思いましたねー。

舞台もニューヨークではなく、ギャングもイタリア系じゃなくてアイリッシュ系だったからか、スコセッシのギャング描写がいつもより距離があったように見えたというか。
なので、スコセッシのギャング映画を期待した人には少々物足りなさが残るだろうし、インファナル・アフェア』のリメイクとして観た人にはコレジャナイ感があったんじゃないかと思います。

ただ、映画職人としてのスコセッシの手腕はさすがで、僕は2時間30分が早く感じたし、物語的にもとても面白かったですよ。

興味のある方は是非!!!

 

他人事と割り切れない恐怖「葛城事件」(2016)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年公開された『葛城事件』ですよー!
まず最初に一言で感想を言うなら地獄のような映画でした!(褒め言葉)

昨年は本当に邦画の当たり年って言われていて、特に振り切ったバイオレンス系映画が何本も公開されたわけですが、本作はそんな作品群の中でも、一番観ててしんどい作品なんじゃないかと思いますねー。

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あらすじと概要

劇団THE SHAMPOO HATの旗揚げメンバーで劇作家にして、『その夜の侍』で監督も務めた赤堀雅秋がメガホンを取ったヒューマンドラマ。次男が無差別殺人を起こして死刑囚となってしまったことで運命が狂い出した、ある家族の行く末を見つめる。『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』などの三浦友和、『さよなら歌舞伎町』などの南果歩をはじめ、新井浩文若葉竜也らが出演。家族、死刑、贖罪(しょくざい)などさまざまなテーマをはらんだ物語に圧倒される。

トーリー父親から受け継いだ小さな金物屋を懸命に切り盛りし、マイホームを手に入れ、妻の伸子(南果歩)と共に長男・保(新井浩文)と次男・稔(若葉竜也)を育て上げた葛城清(三浦友和)。理想の家族と生活を築いたと考えていた彼だったが、21歳になった稔が8人を殺傷する無差別殺人事件を起こして死刑囚になってしまう。自分の育て方に間違いがあったのかと清が自問自答する中、伸子は精神的に病んでしまい、保は勤めていた広告代理店を解雇される。やがて、稔と獄中結婚したという女・星野が現れ……。(シネマトゥディより引用)

感想

実際の連続殺人事件をモチーフにした舞台劇の映画化

赤堀雅秋監督は劇作家でもあり、本作は元々ご自身の戯曲を映画化しているらしいんですね。
僕は舞台演劇は門外漢ですが、確かにそう言われてみれば、劇中の登場人物の台詞回しとか少し舞台劇っぽい感じはしました。

で、どんな内容かといえば「連続殺人加害者の家族の物語」でして、葛城家の次男が連続殺人で死刑になるまでと、そこに至る家族の過去を交互に見せていくんですね。
「加害者の親族映画」って、これまでに何本も作られてると思うんですが、最後の方でいい話っぽくまとめられてる作品が多くて、ここまで身も蓋もない作品は初めてじゃないかなと。

最初の戯曲では「附属池田小事件」をベースに、サイコパスの身内を持った家族の悲劇だったそうですが、映画化にあたって「土浦連続殺傷事件」や「秋葉原通り魔事件」、「池袋通り魔殺人事件」を参考にしつつ、「黒子のバスケ」脅迫事件の最終意見陳述の要素も入れ込んで本作が生まれたそうです。

ちなみに、本作の主人公は連続殺人犯の葛城稔ではなく、三浦友和演じる父親清なんですね。

どこにでも居そうな普通の家族

親から継いだ金物店を切り盛りしている清は、いわゆる団塊の世代の強権的な父親
これがもうホントどうにもならないオッサンで、南果歩さん演じる妻の伸子に暴力は振るうし、長男の嫁の家族を招いての食事会では店員にクレームつけるし(しかも超しつこい)、事件が起きた後も行きつけのバーに通って「地獄のリサイタル」を開き、稔と獄中結婚をしたという女、田中麗奈演じるという星野にチューしようと迫るというね。

この清は親から継いだ金物店しか知らないことがコンプレックスで、その裏返しで「自分の理想の家庭」に執着したり、他人にナメられないように攻撃的な言動をしたり、薄っぺらな言葉で社会を語ったり、家族を型に嵌めようと強権的になったりしてるんです。

妻の伸子は長年、そんな清に対して事勿れ主義の見て見ぬふりで、新井浩文演じる長男の保は父親に逆らう事が出来ず、若葉竜也演じる次男の稔はそんな父親を嫌悪しつつ、でも家族の中で一番清に似ています。

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そんな葛城家の(多分最初は)小さな歪みが、長年の蓄積でいつしか手のつけようのない歪みになって、劇中の「ある出来事」を境に家族は一気に崩壊してしまうんですね。

でも、葛城家の家族は決して特別じゃなくて、清も伸子も保も稔も、(少なくとも事件前は)全員がどこにでも居そうな普通の家族なんですね。

だからこそ、本作を観た人は自分の中に清や伸子や保や稔を感じ、「他人事」と割り切れない地続きの怖さを感じてしまうんだと思うんですよね。

語り部としての星野

そんな葛城家の崩壊を外から見る「語り部」の役を担うのが、事件を起こして死刑判決を受けた保と獄中結婚をする女、星野です。
彼女は死刑廃止論者で、保が事件を起こして死刑判決を受けた保を“改心させる”という信念から結婚したんですね。

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本作では、この星野との会話から事件前の回想シーンに入っていく構造で、観客は彼女を通して葛城稔が連続殺人事件を起こすまでの過程を知る構造になっていきます。

本作ではこの星野の設定が上手くて、彼女ってぶっちゃけ、感情移入出来ない観客の多くが嫌悪感を持つようなキャラクターなんですね。
監督は感情移入出来ない星野を語り部に配置することで、葛城家の家族が単純な加害者にも被害者にもならないように、観客が物語に入り込めないように突き放したバランスを取っているんじゃないかなと思いました。

リアルな連続殺人シーン

こうして、劇中で現在と過去を行ったり来たりしつつ、ストーリーはついにクライマックス、稔の連続殺人のシーンへと突入します。

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画像出典元URL:http://eiga.com

このシーンがすごいのは、ちっともドラマチックじゃないんですよね。
普通なら夥しい流血で、視覚的なショックをと考えそうだし(もし僕が監督ならそうすると思いますw)、画的にも稔に近い位置でカメラを回して、迫力と狂気をよりドラマチックに盛り上げそうなものですが赤堀監督は真逆で、あえて引きの画で血も殆ど見せず、まるで監視カメラ映像のような無機質な感じにしてるんですね。

それまで葛城家を寄りの画で極めて主観的に撮影していたのに、映画的に一番盛り上がりそうなこのシーンだけは、引きの画で客観的に見せているわけです。

それが逆に、リアルな事件現場のような凄惨さがあって超怖かったですねー。((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタ

そんな感じで本作は、120分間ずっと居心地が悪くて不快っていう地獄みたいな映画だし、僕は正直もう二度と観ないと思いますが、逆に言えばそんな気持ちになってしまうくらい映画の中に引き込まれたわけで、そういう意味では本当に凄い映画だと思うし、ただ嫌な気持ちになるだけじゃなく、本作を観た人は全員、葛城家の家族と自分を重ね合わせて「何か」を感じるのではないかと思います。

興味のある方は是非!!