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昭和と令和をバランスよくMIX「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」(2013)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』ですよ。

昨年公開されネット上ではかなりの高評価だった本作。僕は先日Amazonprimeで鑑賞したんですが、評判通りメッチャ面白かったですねー!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

水木しげる原作の「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する鬼太郎の父と、水木という男との出会いを描いたアニメーション。行方不明になった妻を捜すため、とある村を訪れた鬼太郎の父と、密命を帯びたサラリーマンの水木が惨劇に遭遇する。ボイスキャスト関俊彦木内秀信古川登志夫沢城みゆき野沢雅子など。監督を『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』なども担当した古賀豪が務める。(シネマトゥディより引用)

感想

原作版とアニメ版の融合

ゲゲゲの鬼太郎」は、1954年の紙芝居「ハカバキタロウ」からスタート。その後、漫画、アニメ、映画、小説、ドラマ、ゲーム、舞台などに展開しながら、半世紀以上に亘って様々な関連作品が作られ続けている日本を代表するオカルトヒーローです。

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TVアニメ版は1968年の第1期から、キャラデザやストーリーを時代に合わせて変えながら現在第6期まで放送されていて、この第6期をベースに、2008年フジテレビで放送され水木先生の貸本時代のマンガ版鬼太郎をフューチャーした深夜アニメ「墓場鬼太郎」第1話で描かれた鬼太郎出生の物語を融合。その前日譚となるのが本作なんですね。

ざっくりストーリー紹介

そんな本作のストーリーは、血液銀行の職員で龍賀製薬を担当する水木は、龍賀一族の当主・時貞の死に伴い、ある密命を帯びて村を訪れる。そこで謎の男“ゲゲ郎”と出会い最初は反目するも、やがて二人で龍賀一族と、彼らが牛耳る哭倉村のおぞましい秘密に迫る。という物語。

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これはネタバレにはならないと思うので書きますが、このゲゲ郎という男は幽霊族の生き残りであり、生き別れの妻を探してこの哭倉村に来ていて、ゲゲ郎と妻の子供が鬼太郎なんですね。

本作の主人公はゲゲ郎と水木で、鬼太郎は最初と最後以外は登場しないので、鬼太郎の活躍を期待している人は期待外れだと思うし、ストーリーの方は横溝正史の「犬神家の一族」的な、龍賀財閥の遺産相続のイザコザと、一族に支配され外界から閉鎖された村のドロドロした因習や因縁がメインの物語なので、一応PG12指定ですが、実質R-15くらいの内容だと思いましたねー。

絶妙なバランス感覚

鬼太郎の原作者、水木しげる先生といえば戦争で片腕を亡くし、何度も死にかけたという壮絶な体験をされています。
なので貸本時代の鬼太郎は、当時の世相や権力体制を皮肉るようなシニカルなブラックジョークが満載でしたが、「週刊少年マガジン」掲載の1967年に「墓場鬼太郎」から「ゲゲゲの鬼太郎」にタイトルが変更されてから、鬼太郎は悪い妖怪を倒すヒーローとして描かれるようになり、テレビアニメ化以降はみんなが知っているオカルトヒーローの鬼太郎になっていくんですね。

しかし本作はアニメ版第6期をベースにしながらも、ストーリーの時代背景は戦中・戦後になっていて、戦地での上官の保身による理不尽な扱いや無茶な命令によって、無駄に命を落とす仲間の姿を見てきた水木の描写には、明らかに原作者である水木先生自身の体験を基にしています。

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戦後、水木を始め大人たちが会社と言わず列車内と言わずどこでもブカブカ煙草を吸っている描写や、龍賀製薬が開発した眠らなくても戦える(働ける)薬は、当時は合法だった麻薬、ヒロポンがモデルになっていて、「三丁目の夕日」的“古き良き時代”として描かれがちな戦後日本の嫌だ味の部分にフォーカスを当てて描いています。
また龍賀一族の家父長主義や家制度など、前時代的かつ、もしかしたら今も続く日本の権力構造。その理不尽さや嫌だ味と、それらに利用され奪われる龍賀沙代や長田時弥といった被害者たちの姿も容赦なく描いているんですね。

その物語にはまったく救いがなく、結論を言えば誰一人幸せにはならないんですけど、それでも本作を観ていてそこまで辛い気持ちにならないのは、アニメ版「墓場鬼太郎」をブリッジに第6期のイマドキな絵柄で水木とゲゲ郎のホモソーシャル的な関係性を物語の中心に置き、キャラ萌え要素を入れ込んでいる事。

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それと悪役を絞って物語をある程度単純化しつつ、ある種の伝奇ファンタジーとして描く事で、物語の嫌だ味をある程度オブラートに包んでいる事で、エグみの強い物語とのバランスを取っているからだと思いました。

もちろん、それをこのレベルで表現出来るのは、鬼太郎というキャラクターの持つ歴史と、どの時代にも通用する柔軟でありながら普遍的な強度を持つ設定ゆえであり、それは突き詰めていけば水木先生自身の人間性にも通じるんですよね。

アクションとガジェット

そんな本作では、鬼太郎の父親であるゲゲ郎のアクションシーンも見どころになっています。龍賀一族を陰から支え鬼太郎の宿敵でもある鬼道衆との闘いでは、まるでフリーハンドで描いたような線でぬるぬる動くアニメーションと、体内電気やリモコン下駄など鬼太郎でもお馴染みのガジェットが大活躍。また今まで描かれる事が無かった鬼太郎の霊毛ちゃんちゃんこの誕生シーンも描かれています。

そんなガジェットを使いこなして鬼道衆や妖怪たちと闘うゲゲ郎のアクションは、鬼太郎のそれと似ているけど、迫力満点にカッコよく描かれているので、ああ、この人は鬼太郎の父親なんだなと納得できるんですよね。

また、ここまでしっかりとストーリー、メッセージ、アクションを盛り込みながら、わずか105分に収めているのは見事だと思いました。

あと、前日譚ということで関連作品をチェックしないと楽しめないのではないかと心配している人もいるかもですが、基本、何となくでも鬼太郎を知っていれば、本作だけでも十分に物語は分かるし楽しめるようになっているので、安心して観てらえればと思いますよ。

興味のある方は是非!!