今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

サブロウタ萌え!な映画「昭和極道怪異聞ジンガイラ 仁我狗螺」(2014)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、アマプラでたまたま見つけた2014年の邦画『昭和極道怪異聞ジンガイラ 仁我狗螺』ですよー!
押井守らが審査員を務めたアクション映画専門の映画祭「ハードボイルド・ヨコハマ シネマジャンクション2013」で監督賞を受賞したという作品で、ざっくり言えば極道版「呪術廻戦」って感じでしたねー!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

不思議な秘術を操る極道たちの姿を描いた、オカルトとヤクザのジャンルを融合させたアクションホラー。とある森の中へと足を踏み入れた呪術の使い手でもあるヤクザたちが、思わぬ事態に直面する姿を活写する。メガホンを取るのは、『Holy+Dog』などの近藤啓二。『サムライゾンビ・フラジャイル』などの正木蒼二、『日野日出志のザ・ホラー 怪奇劇場 ~第二夜~』の高東楓らが出演。独特な世界観に加え、フィルム傷などを盛り込んだクラシックな雰囲気漂うビジュアルも作品の雰因気を盛り上げる。(シネマトゥディより引用)

感想

極道xオカルト

荒ぶる極道社会において漢たちは本来、「博徒」と「香具師」に分かれている。
博徒とは賭博を生業とし主に都市部に定住する漢たちである。
香具師とは、薬草の神・神農皇帝を崇め、日本各地を旅しながら様々な呪術を身につけていった漢たちである。
彼ら、香具師の中でも特に術に長けていた物を「技師」と呼んだ。

というナレーションから始まる本作。

香具師(やし)は、祭りの縁日などで露店で出店や、街頭で見世物などの芸を披露する、または興行を取り仕切るヤクザの事で、古くは流しで歯医者的な事もしたり薬売りもしていたらしいので、その辺が本作の発想の基になってるのかもしれません。

冒頭、江州梅本一家の香具師サジキ・ジントウと弟分で”技師“のクゼ・サブロウタは、組長同士が兄弟分である梓黒組が待つ深い森の入り口に現れます。

この森は梓黒組の力の源となる聖域ですが、また梅本一家の組長と兄弟分である梓黒組の組長はこの森に張られた結界の中に入ったまま行方不明になってしまっているらしく、サジキは組長の命を受けて結界内を調べにきたらしいんですね。
で、梓黒組の人たちとすったもんだの後、サブロウタの術で結界の中に入ったサジキは、紛れ込んだ異物を結界から排除する「傀儡」と遭遇し――というストーリー。

この溢れ出るオカルト系厨二設定………大好物でした!!(*゚∀゚)=3

( ゚∀゚)o彡°サブロウタ!( ゚∀゚)o彡°サブロウタ!( ゚∀゚)o彡°サブロウタ!

また、サジキとサブロウタのビジュアルも、いかにも厨二っぽくてグッときちゃうんですよねー!

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画像出展元URL:http://eiga.com :主人公サジキ(右)と技師のサブロウタ(左)

最初こそ、サブロウタのいかにも過ぎるビジュアルに辟易するんですが、クライマックスにくる頃には「うっは、サブロウタ超かっけーーー!!(*゚∀゚)=3」ってなるんですよねー!

一応、結界に入って調査する兄貴分のサジキが主人公で、サブロウタは外からサポートする相棒的役周りなんですが、傀儡に狙われて右往左往するばかりのサジキより、呪術の知識と技を駆使して必死に兄貴分を救おうとするサブロウタの方が、実質主人公っぽいっていうw

さらに性格は明るく、顔を隠してるくせに感情表現が一番豊かっていうところもオタクはみんな大好き!って感じなナイスキャラなのです。

また、本作で使われる結界は、同じ場所にいくつもの次元の層が折り重なっていて、侵入者を皆殺しにする「箱入り娘」っていう呪術が仕掛けられている。
で、結界から戻ってくるには小さな祠に入っている「箱入り娘」のパズルを解く必要があるんだけど、このパズルのピース一つ一つが異次元の扉になっていて、パズルを動かすたびに自分たちも別次元に飛ばされる――というアイデアも面白かったですねー!

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画像出展元URL:http://eiga.com :パズルのピースを動かすと次元も動くというナイス設定

低予算のインディー映画らしく、出演しているキャストは知らない人ばかりだし、舞台はずっと山林だし、デジタル撮影を自主制作のフィルム映像っぽく加工した映像はいかにも安っぽいんですが、そうしたマイナス部分を香具師=呪術師、山林=結界という設定をつけることでプラスに転換させているのはクレイバーなやり方だなーと思いましたよ。
あと、アイデアもですが構図も全体的に実写映画というよりアニメっぽくて、本作の近藤啓二監督はもしやオタク畑の人なのでは?って思ったりしましたねー。

残念ポイント

ただ残念なことにこの作品、圧倒的にテンポが悪いっていう弱点があって、せっかくのパズルと呪術を連動させるという設定も同じ展開の繰り返しで飽きちゃうし、物語の運びも上手くないので、中盤のあるどんでん返し展開を見せられても「でしょうね!」としか思わないんですよね。

あと、一番の問題は迫りくる傀儡の怖さやスリルが感じられないんですよね。
まぁ、ホラーじゃなくてアクション映画だからなのかもですが、傀儡の攻撃は基本物理だし、体は固いし力もあるし武器も持ってるけど、そこまで絶望的な戦力差ではなくて、効きはしないけど殴ったり蹴ったり拳銃で撃つなどの反撃は出来る。

あと、走って追いかけたりもしないし、突然現れて不意打ちしたりもしないので、常時主人公たちと傀儡の間には一定の距離があるんですよ。

サブロウタの説明で傀儡やべえって事は分かるんだけど、それを映像で見せてくれないし、テンポも悪く見せ方も上手くないので実感として傀儡の怖さもヤバさも伝わらないっていう。

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画像出展元URL:http://eiga.com :ヤクザの腸を引きずり出してご満悦の傀儡タン

傀儡のビジュアルデザインは良かっただけに、そこはかなり勿体ないなーと思いましたねー。

極道版「呪術廻戦」

事程左様に、いかにも安物B級映画っぽいし、タイトルやビジュアルもホラーっぽいので、ついつい敬遠しちゃうかもですが、ぶっちゃけ怖さはゼロだし、どちらかと言えば設定も物語も少年漫画っぽいんですよねw

例えるなら(コッチの方が先に作られてるけど)極道版「呪術廻戦」って言えば作品の雰囲気は伝わりますかね?

テンポが悪くて観づらい部分は多々あるけど、クライマックスのサブロウタの活躍シーンは最高にアガるし、ぶっちゃけ無口な香具師の皆さんの中、解説役として物語を回してるのもサブロウタだし、ラストカットで〆を飾るのもサブロウタっていう、「もうサブロウタが主役でいいじゃない!」っていうサブロウタ映画になってましたねーw

今ならアマプラ見放題で無料で観れるし時間も81分と見やすいので、サブロウタ興味のある方は是非!!

 

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お見事です!「スパイの妻 劇場版」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、第77回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清監督作品『スパイの妻』ですよー!

朝一の回を観に行ったんですが、平日にも関わらず結構な数のお客さんが入ってたのが印象的でしたねー。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

トウキョウソナタ』『岸辺の旅』などの黒沢清監督によるドラマの劇場版。太平洋戦争前夜を背景に、運命によってもてあそばれる夫婦の試練を描き出す。蒼井優高橋一生が『ロマンスドール』に続いて夫婦にふんし、『犬鳴村』などの坂東龍汰や、『コンフィデンスマン JP』シリーズなどの東出昌大らが共演。『寝ても覚めても』などの濱口竜介監督と、濱口監督の『ハッピーアワー』などの脚本を担当した野原位が、黒沢監督と共に脚本を手掛ける。(シネマトゥデイより印象)

感想

テレビドラマを劇場版に再編集

本作は今年(2020)6月6日、NHK BS8Kで放送されたテレビドラマのスクリーンサイズや色調を調整し劇場版として再編集した作品で、黒沢監督の教え子でもある「ハッピーアワー」の濱口竜介監督と脚本を担当した野原位コンビが脚本を担当。

当初はプロデューサーから神戸という場所だけを指定された濱口・野原が、「黒沢さんに興味を持ってもらわないと始まらない」と、以前、黒沢が着手してけっきょく頓挫した「一九〇五」という歴史ものの企画を意識したことから、太平洋戦争前夜である1940年の神戸を舞台にした本作が生まれたようです。

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元が8K(横×縦の解像度が7680×4320画素)の映像ということで、とにかく映像の輪郭がハッキリしていて色味も鮮やかという印象を受けた一方で、キャラや背景の輪郭を曖昧にすることで映像の中の不穏さや怖さを浮き立たせる、黒沢清のJホラー的演出とは相性が悪いようにも感じましたかねー。

スパイごっこの妻

そんな本作は「スパイの妻」と銘打っているものの、厳密に言えば職業スパイは登場しないんですよね。

太平洋戦争前夜の1940年、神戸の貿易会社を営み裕福で幸せな暮らしをしている福原優作高橋一生)と聡子蒼井優)夫婦。

彼らは甥の竹下文雄坂東龍汰)と3人で、趣味の自主映画を撮影したり(大正時代にパテベビーという9.5㎜フィルムの小型カメラで個人映画を撮影するブームがあったらしい)、執事やお手伝いさんがいる豪邸に住んで、洋酒を飲みフォークとナイフで食事する、ザ・富裕層という感じ。

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しかし、一方で優作のビジネス仲間の外国人(ピラメキーノに出てたダルさんだった)がスパイ容疑で当局に連行されるなど、戦争の足音は確実に近づいてきているのです。

そんなある日、聡子の幼馴染で優作とも面識のある津森泰治東出昌大)が、神戸憲兵分隊本部の分隊長として赴任。
優作や聡子に洋風な生活を改めるよう忠告をするんですね。

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その後、仕事のため文雄と共に満州に出張した優作は、そこで恐ろしい国家機密を偶然知ってしまい――というストーリー。

義憤にかられた優作は文雄と共に日本軍の非道な行いを国際舞台で告発しようとしますが、何も知らされない聡子はそんな優作が浮気をしているのではないかと疑います。
そして、真相を確かめるため訪ねた文雄から優作に渡すようあるノートを託されたことをキッカケに、「セカイの真実」を知った彼女の人生が一変するという物語で、これは黒沢清の過去作品でもたびたび描かれてきたテーマでもあります。

ただ、この作品で優作は別にスパイというわけではなく、たまたま仕事で行った満州でたまたま日本軍の非人道的な行いを知ってしまったので、その事実を世界に向けて告発するべく秘密裏に動いている。

つまり、彼がやっているのは「スパイごっこであってスパイではないんですね。
それは、冒頭で描かれる彼の趣味の個人映画と呼応しているように思いました。
それも結局は「映画ごっこ」だし、もっと言えば映画自体が「ごっこ遊び」の延長線上にあるんですよね。

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そして、映画中盤で優作が隠したフィルムを見た聡子も秘密を知り、ここから二人の「スパイごっこ」が始まるわけですが、本作を観た人なら、同じ方向を見ているようで実は二人が全く逆方向を向いていることが分かると思います。

それは(どっちが良い悪いではなく)男女の性差による、モノの見方や価値観の違いではないかと僕は思うし、本作における分断というテーマを表すエピソードだとも思いました。

クライマックスの解釈について

中盤で真実を知った聡子がとった“ある行動”と、クライマックスで優作がとった行動は少なくとも表面上は全く同じです。
ただ、僕はここでの優作の意図と聡子の「お見事です!」の意味をどう解釈するべきかでまだ悩んでいるんですよねーw

つまり優作のアレは、中盤での聡子の行動に対する意趣返し(復讐)なのか、それとも自分の「スパイごっこ」に聡子を巻き込まないための優しさだったのか。
そして、聡子は優作の行動をどう受け取ったのか、その後の「お見事です」は彼女の計算だったのか。
この解釈次第で本作は全く別の物語になっちゃうんですが、そこであえて押しつけがましく説明せず、解釈を観客に任せるラストは好感が持てたし上手いなーと思いました。

高橋一生の上手さにビックリ

そんな本作の格を上げている一因がキャスト陣の演技であるのは間違いないでしょう。
主演の蒼井優は今や日本でも指折りの実力派女優と言って過言ではないと思いますが、本作での時代掛かったセリフ回しは見事で、勿論僕はその頃の上流階級女性の話し方は知らないけれど、語尾の処理の仕方とかちょっと早口に喋るところなんかは、(上手く言えないんですが)昔の邦画に登場するヒロインの話し方と同じというか。
あと、舞台演劇のようなややオーバーアクトな演技も、本作の箱庭的な世界観を見事に表現していたように思いました。

むしろ僕が驚いたのは優作役の高橋一生で、その佇まいや話し方や所作まで、蒼井優とは対照的に抑えた演技ながら当時のインテリ男性に見える説得力があって「この人こんなに芝居が上手いんだ!」って改めて驚きましたよ。
恐らくですが、彼が本作のリアリティーラインをコントロールしているんだと思いましたねー。

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そしてもう一人の重要人物である東出昌大は……うん、今回もしっかりぎこちなかったですw
いや、この人に求められているのは芝居の上手い下手じゃなくて、あの独特の存在感というか、どの作品でも浮いてしまう異物感だと思うんですよね。
本作でも、彼のぎこちなさや画面の中での異物感が、恐怖を醸す装置としてしっかり機能していたと思いました。

銀獅子賞?

そんな感じで個人的には超楽しんだんですが、その一方で「銀獅子賞(監督賞)をとるほどの作品か?」っていう思いも。
いや、僕も黒沢清作品をそんなに沢山観てるわけではないですが、もっと凄い黒沢作品は他に沢山あるんじゃないの?と思ったんですよね。
で、映画評論家の松崎健夫氏が言うには本作が銀獅子賞を取った要因は2つ。

1・黒沢清が、Jホラーの手法で史実を基にした人間ドラマを獲った。

2・これまで邦画では、この時代や戦争を舞台にしたスパイもの(ノアールもの)は初めて。

という事らしいです。

1については、黒澤清がJホラーの大御所であることが海外でも知られていて、その彼が――という部分が評価されたわけで、つまり黒沢清ありきの受賞だったと。

2については、「いや、ジョーカーゲームとかあるし!」と思ったりもしましたけど、あれはノアールものの文脈とはちょっと違いますしね。

あと、言論・表現の自由が徐々に侵食され、人々が分断されていく1940年~の日本を描くことで、リアルでもネットでも排他主義や分断が進む現代社会を表現するという構成も2010年以降の映画としての世界基準を満たしていて、当然そこも受賞理由になっているんだろうと思いました。

でもまぁ、そんなややこしいことは置いておいて、前述したように(観終わった後に解釈で悩むのも含めて)個人的には超面白かったし、ストーリーや黒沢映画ならではの箱庭感がある映像も凄く良かったです。
あと、2時間弱っていう上映時間も、長すぎず短すぎず丁度良かったですねー。

興味のある方は是非!!

 

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ジョン・カーペンター&ダン・オバノンの長編デビュー作「ダーク・スター」(1981)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、巨匠ジョン・カーペンターと「エイリアン」の脚本などで知られるダン・オバノンの長編デビュー作『ダーク・スター』ですよー!

アマプラでたまたま見つけて見たんですが、タイトルからシリアスな作品かと思ったら、ポンコツ船員たちが宇宙で繰り広げる、ゆるふわ日常系SFでしたよw

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画像出展元URL:https://www.amazon.co.jp/

概要

銀河開拓の旗艦ダーク・スターの航海を描いた、J・カーペンターとD・オバノンの学生時代の作品をリメイクしたSF。脳だけ生きていて冷凍室から指揮する船長、ビーチ・ボール状エイリアン、思考する爆弾等の魅力ある小道具と忘れ得ぬラスト・シーンがこの作品をカルト・ムービーにさせた。乗員の生活風景や船内の描写は後のオバノン脚本作品「エイリアン」に受け継がれる。(allcinema ONLINEより引用)

感想

自主製作映画を商業映画にリブート

南カリフォルニア大学(USC)映画学科で映画を学んだジョー・カーペンターは、大学時代に出会ったダン・オバノンと意気投合し、USCの仲間も集めて本作の原型となる同名の自主製作映画を製作。
この作品がジャック・H・ハリスというプロデューサーの目にとまり、「シーンを撮り足し長編映画にすれば、この映画を配給し劇場公開する」と持ちかけられたそうなんですね。

ちなみにこのジャック・H・ハリスという人は、「マックイーンの絶対の危機(SF人喰いアメーバの恐怖)」(1965年)という低予算SF映画を大ヒットさせた映画プロデューサーですが、金は出さないが口は出すタイプの困った人物だったらしく、カーペンターもオバノンもかなり苦労したようですね。

で、結局苦労の末1974年に完成し、翌年何とか公開にこぎつけた本作でしたが、早々に打ち切られ評価も散々だったらしいです。

しかし、作品の持つユーモアを理解した若い観客を中心にカルト的な支持を得た本作をきっかけに、カーペンター、オバノンの二人は後のキャリアを築いていったのだそうです。

ゆるふわ日常系SFながら……

そんな本作の設定をざっくり説明するとこんな感じ。

人類が宇宙に進出した未来、4人の船員を乗せた宇宙船ダーク・スター号は人類の植民の邪魔になる不安定惑星(人類が住む惑星に何らかの危害を加えそうな、挙動の安定しない惑星?)を核爆弾?で爆破して回る任務のため宇宙の彼方で孤独な航海をしているわけです。

冒頭の地球?からの通信では、互いの通信を受信するまで10年かかると話してるので、地球からは相当遠い事が分かります。

また、ダーク・スター号は長年の航海ですっかりオンボロに、あちこち故障だらけで、放射能の事故によって船長は死んでしまったらしい。

そんな船の乗組員は、死んだ船長に変わりダーク・スターを取り仕切るドゥーリトル(ブライアン・ナレル)、船の屋根部分に取り付けられたドームに閉じこもり、一人宇宙を見ているタルビイ(ドレ・パヒッチ)、ヤバい威力の光線銃を撃ってストレス発散するボイラー(カル・ニホルム)、本当は船員でもピンバックでもなかったけど、間違いで乗船してしまったピンバックダン・オバノン)。

本作の8割はそんなポンコツ船員である彼らのゆる~~い日常と、ドタバタや失敗を描く「ゆるふわ日常系SF」なんですねー。

しかし、彼らは30年以上前に地球を出発したものの、光速で宇宙を進んでいるため3歳しか歳を取っていないとか、前述したように距離が離れれば通信に(年単位)で時間がかかるとか何気にSFの化学考証はしっかりしてるし、物語もフリとオチが意外としっかりしてたり、ピンバックが船内で飼っているビーチボールに足の生えたエイリアンとの追いかけっこは、基本はドタバタコメディーなんだけど観ていて結構ドキドキハラハラしたり。

低予算のB級SF映画で映像もチープ。
2001年宇宙の旅」や「博士の異常な愛情」、「宇宙大戦争」など名作SF映画のパロディーがふんだんに盛り込まれたコメディーでもあるのでナメてしまいがちですが、随所にSF知識をベースにした発想や映像センスが光る作品でもあるんですよね。

また、後のカーペンター、オバノンが手掛ける事になる「エイリアン」や「SW」「ハロウィン」「遊星からの物体X」などなど、名作の「芽」のようなものが、確かに本作に見て取れるという意味で、歴史的、資料的な価値のある作品だと思いましたねー。

いや、だからってあまりハードルを上げて観ちゃうと肩透かしを食らうのは確実だし、ぶっちゃけて言えば、別に面白くはないんですよ?

ただ、何て言うかこう、ショボい映像の中に後のジョン・カーペンターダン・オバノンの源流を探す宝探し的な楽しさのある映画なのかなって思いましたねー。

興味のある方は是非!!

 

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鬼才ジム・ジャームッシュ初のゾンビ映画「デッド・ドント・ダイ」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」や「パターソン」で知られるジム・ジャームッシュ初のゾンビ映画デッド・ドント・ダイ』ですよー!

残念ながらおらが町では公開されなかった本作ですが、昨日?Amazonビデオでレンタルが開始されたので、早速観ました!

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画像出展元:http://eiga.com

概要

『パターソン』などのジム・ジャームッシュが監督を務めたゾンビコメディー。町にあふれ返ったゾンビと戦う人々を描く。ジャームッシュ監督作『ブロークン・フラワーズ』などに出演してきたビル・マーレイをはじめ、『スター・ウォーズ』シリーズなどのアダム・ドライヴァー、『少年は残酷な弓を射る』などのティルダ・スウィントン、『ボーイズ・ドント・クライ』などのクロエ・セヴィニーらが共演する。(シネマトゥデイより引用)

感想

ジャームッシュ作品常連の豪華俳優によるオフビートなコメディー……だが

公開が決まった時、「あのジム・ジャームッシュゾンビ映画を!?」と映画好きの間でかなり話題になったものの、公開後はとんと話題を聞くことがなかった本作。

おやおや?と思ってたんですが、今回観てその理由がよく分かりましたw

本作には、大御所ビル・マーレイ、酷評のSWで一人評価を上げたアダム・ドライバー、みんな大好きティルダ・スウィントン、この人が出てる映画は大体面白いでお馴染みスティーヴ・ブシェミなど、ジャームッシュ作品の常連の豪華キャストが大勢出演し、田舎町を舞台にオフビートな笑いと小粋な会話で淡々と描いていくわけですが、これ、監督がジム・ジャームッシュじゃなかったら「駄作」の一言で切り捨てられかねない作品でもあるんですよね。

例えば、カントリーの大物スタージル・シンプソンが本作の為に書き書き下ろしたというタイトルと同名のテーマ曲がパトカーのラジオから流れ、ビル・マーレイが「なんで俺はこの曲を知ってるんだろう?」と呟くと、部下のアダム・ドライバーが「テーマ曲だからですよ」とメタ発言したり、新しく町にやってきた葬儀屋のティルダ・スウィントンは床の間に置かれた仏像の前で日本刀の稽古をし、ゾンビだらけの町を颯爽と歩きながらゾンビの首を刎ねる謎のキャラ。

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金髪で日本刀姿は「キル・ビル」のユマ・サーマンを連想させるし流れ的に最重要キャラっぽい雰囲気を醸し出してるわけですが、結局本筋に絡むことはなく。

その後、ゾンビに殺されたダイナーのオーナーたちの死体を見るや、アダム・ドライバーは即「ゾンビの仕業」だと言い出し、事あるごとに「最悪の結末になりそう」と言うんですね。

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ゾンビ発生の原因は最後まで明かされませんが、どうやら極地での水圧工事で地軸がズレた事に関係があるらしいという「イマドキそれ!?」って思うような理由で、ラストは世捨て人のトム・ウェイツ作品のテーマを全部セリフで喋って終わるっていう、投げっぱなし状態。

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それぞれのエピソードに登場する町人たちは最後まで銘々バラバラなままで合流もせず、伏線も全く回収されないのです。

もうね、「おれは100分間何を観せられてるんだ」状態ですよw

ロメロ版「ゾンビ」のアップグレート版?

こんなん普通なら「悪ふざけの駄作」とか「ジャンルに愛がない」とか「豪華俳優陣の無駄遣い」とか言われるんでしょうけど、そこは鬼才ジム・ジャームッシュ監督作ということで好意的に深読みしようと思えば出来なくもないし、「面白くない」なんて言おうものなら「分かってない奴」って思われそうなトコが、非常に質が悪いんですよねーw

監督自身インタビューで「消費社会の中で自分の事しか考えず欲望を満たす現代人はゾンビみたいなもの」(意訳)と話してるんですが、これはゾンビ映画の父ジョージ・A・ロメロ1978年の作品「ゾンビ」と同じテーマで、しかし、登場人物(生き残り)がいつまで経っても合流しないままという展開は、分断の進む国家や個人という2010年以降の世界を反映している=「ゾンビ」のアップグレード版をジャームッシュ監督ならではの切り口で――とか何とか。まぁ、どうとでも言えちゃう。

実際、劇中で町を訪れる若者たちが乗っている車は、ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」と同車種だったり、ゾンビもイマドキな”走るゾンビ”ではなくロメロ版の”歩くゾンビ“だったり、ロメロに対しての敬意は感じるんですよね。
言われてみれば田舎町だったり墓場が舞台なのも「ナイト・オブ~」感があるし。

でも「じゃぁ面白いのか」と聞かれれば、僕にとってはハッキリ「面白くはない」作品で、ビル・マーレイアダム・ドライバーのメタな会話も上スベりしてるし、この映画にティルダ・スウィントン必要!?って思っちゃう。
僕はわりとストーリー重視で映画を観ちゃうタイプなので、余計にそう思うのかもしれませんが。

ただ、賛否は分かれてるっぽいので好きな人には面白い作品なんだと思うし、ゾンビ映画とはいえ、グロ描写や恐怖演出は少ないので、ゾンビものが苦手な人でも安心して観られるんじゃないでしょうか。

興味のある方は是非!!

紹介した作品はこちらで視聴できます(有料)

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世界一ポップで可愛いナチス映画?「ジョジョラ・ビット」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは第92回アカデミー賞では6部門にノミネート、脚本賞を受賞した『ジョジョ・ラビット』ですよー!

僕は公開時「レンタルでいいかー」とスルーしてしまったんですが、その後のコロナ禍や行きつけのTSUTAYA閉店などなど、色んな要因が重なってのびのびになり、昨日、遅ればせながらアマプラビデオレンタルで観ましたよー!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

マイティ・ソー バトルロイヤル』などのタイカ・ワイティティ監督がメガホンを取り、第2次世界大戦下のドイツを舞台に描くヒューマンドラマ。ヒトラーを空想上の友人に持つ少年の日常をコミカルに映し出す。『真珠の耳飾りの少女』などのスカーレット・ヨハンソンや『スリー・ビルボード』などのサム・ロックウェルらが共演。ワイティティ監督がヒトラーを演じている。(シネマトゥデイより引用)

感想

タイカ・ワイティティ監督の面目躍如

家族や恋人など小さなコミュニティーにスポットを当てた小さな物語の向こうに広がる、大きな社会問題や歴史的事件などを間接的に描くという手法は、多くの映画、特に戦争映画ではよく使われていますが、本作「ジョジョ・ラビット」もそうした作品群の1つです。

本作で描かれているのは第二次世界大戦末期のドイツやナチスによるホロコーストを、ヒトラーに憧れる10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)の目を通して寓話的に描くという聊か変則的な作品で、「シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア」やMCU作品「マイティ・ソー バトルロイヤル」のタイカ・ワイティティが監督と、主人公の少年ジョジョのイマジナリーフレンドであるアドルフ・ヒットラー役を兼任しているんですね。

自らヒトラー役を演じる事に関してワイティティ監督はインタビューで、「父がマオリ、母がユダヤ人の自分に演じられるのは(有色人種とユダヤ人が嫌いな)ヒトラーにとって最大の屈辱だろう」的な事を言ったらしいです。うん確かにw

そんな自身の言葉通り、劇中では(ジョジョの妄想の)アドルフやナチスを茶化しまくっていましたねーw

その辺、もともとコメディー畑出身のワイティティ監督の面目躍如といった感じですが、題材の性質上、作品の賛否が分かれるのは致し方なしかもしれません。

ざっくりストーリー紹介

10歳の主人公ジョジョの目線に合わせたカメラワークでスタートするアバン。
鏡に向かって弱気になっている自分を鼓舞する彼の後ろから、軍服の男(の足が)カットイン。
二人の会話と特徴的なビジュアルから、男はアドルフ・ヒトラーでありジョジョのイマジナリーフレンドであることが分かります。

そして、“アドルフ”に励まされテンションの上がったジョジョは家を飛び出し、町ゆく大人たちに挨拶をしながら目的地に走っていくっていう、ある意味非常に微笑ましい情景なんですが、そんなジョジョの挨拶は「ハイル・ヒットラー」なんですよね。

まぁ、あまりに連呼しすぎて、ちゃんと言えてないあたりが笑いどころになってるんですけどもw

で、ここでナチスヒトラーを支持する若者たちの姿を(多分)ライブラリー映像をコラージュしたOPのテーマ曲はビートルズの「I Want To Hold Your Hand(抱きしめたい)」(ドイツ語バージョン)

つまり、ナチスの登場を熱狂的に支持した当時の国民(若者)をビートルズファンに重ねるという痛烈な皮肉をここで一発かましてるわけですね。

そんなビートルズの曲に乗ってジョジョが向かったのがヒトラーユーゲントのキャンプ。

ヒトラーユーゲントとは、10歳から18歳の青少年が加入するナチス党青少年教化組織で、10歳になったジョジョは、この日からヒトラーユーゲントのキャンプで行われる軍事訓練に親友のヨーキー(アーチー・イェーツ)と参加するわけです。

そんな彼らを指導するのは、戦場で片目を失いキャンプ担当になったという通称「キャプテンK」ことクレンツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)。

ドイツの劣勢ぶりを知り近い将来敗北することが分かっている彼は、投げやりながらもとりあえず職務としてキャプテン役をこなしているという感じ。

初日の座学では、「ユダヤ人は魚と交尾をするからとても臭い」「頭には角が、口には牙が生えている」「芽キャベツの匂い」などと教え込まれるジョジョ達。

ここでは、子供たちに非科学的かつとんちんかんなデマ(とうかヘイト)を教え込むナチを批判する一方で、その内容のあまりの滑稽さを笑いにしてるわけですが、もう一つ、ヘイトや差別の根本的な構造をサクッと見せているんですね。

つまり、子供にヘイトを教えるのは大人たちだと。

ナチスヒトラー)が行ってきた優生思想やホロコーストを通して、排他主義的なヘイトがまかり通る現代社会への批判と警鐘こそが本作のメインテーマなのです。

そして翌日、上級生?に目をつけられたジョジョはウサギの首を折って殺すよう命令されますが、出来ずにウサギを逃がそうとしたことで「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名で囃し立てられ、その場を逃げ出します。

1人落ち込むジョジョの前に現れたのは、またまた妄想のアドルフ。
ヒトラーに鼓舞されたジョジョは、自分が男の中の男であることを証明すべく手榴弾の訓練に飛び込んでいきーーというストーリー。

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ヒトラーに父性を求める少年

ではなぜジョジョが、アイドルのようにヒトラーを崇拝するようになったかと言えば(もちろんナチスの教育もあるでしょうが)父親の不在から。
その寂しさを埋めるために、父性の象徴でもありイマジナリーフレンドでもある“アドルフ“を生み出してしまったわけですね。

またお姉さんのインゲもインフルエンザで亡くなっていて、ジョジョはお母さんのロージー(スカーレット・ヨハンソン)と二人暮らしなのです。

彼女はジョジョを「私の子ライオン」と呼び、まだ自分では結べないジョジョの靴ひもを結んでやり、ナチスヒトラーに傾倒していく彼に悩みながらも、彼の無邪気な”ファンタジーとしてのナチスを頭から否定することはしないし、大怪我を追って家から出ることを怖がる息子の背中を押して一緒に外出する優しいお母さんですが、その一方でユダヤ人を匿い町中で吊るし首にされた人々から目を背けようとするジョジョに「しっかり見なさい」と目を背けることを許さず、「彼らはするべきことをした」と言い切る強さも併せ持っています。

この一言で、劇中での彼女のスタンスも分かりますよね。

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そんな母親に守られ、空想力豊かなジョジョの見るドイツはとてもカラフルですが、物語が進むにつれ色あせていく――つまり現実が空想を侵食していくわけですが、同時にそれはジョジョの成長ともリンクしているんですよね。

こんな風に書くと、メッセージ性の高い重たい映画と思われてしまうかもですが、決してそんな事はありません。だって、基本的にはコメディーですしね。

ただ、前述したようにナチスドイツやホロコーストを描くにあたって、ナチの残酷さ、非道さという”リアル”を描くべき的に考えている人もいるでしょうから、本作をコメディー仕立てにしたことは、評価は分かれるだろうと思います。

あえて10歳の少年に焦点を絞ることで、そうした目を覆いたくなる現実のアレコレはかなりボヤけていますからね。

ただ、本作のメインテーマが、当時のナチズムのようなヘイトが堂々とまかり通る現代社会への警鐘である以上、笑いとヒューマニズムを塗すことで物語を飲み込みやすくするという手法は、よりライトな(普段映画を観ない)層に本作を届けるという意味では有効だと思うし、イマドキの映画にもかかわらず108分と非常にコンパクトに物語をまとめているのも好感が持てましたよ。

それに、ストーリーにキャラクターの魅力、音楽の使い方や前のエピソードから韻を踏むように有機的に後ろのエピソードへと繋がることで物語にドライブがかけていくのも、さすがワイティティ監督だと唸りましたねー。

あ、あと、ジョジョの親友ヨーキーが超絶可愛かったですw

興味のある方は是非!

 

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「で?」っていう「CLIMAX クライマックス」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、挑発的な問題作を次々と世に送り出す鬼才ギャスパー・ノエ監督最新作『CLIMAX クライマックス』ですよー!

僕は本作がギャスパー・ノエ作品初鑑賞なんですが「好き嫌いが分かれそうな監督だなー」って思いましたねー。

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概要

エンター・ザ・ボイド』『LOVE【3D】』などのギャスパー・ノエがメガホンを取った異色作。ドラッグの入った酒を飲んだダンサーたちがトランス状態に陥る。『キングスマン』などのソフィア・ブテラらが出演し、プロのダンサーたちが共演した。ダフト・パンクザ・ローリング・ストーンズの楽曲が使用されている。(シネマトゥディより引用)

概要

ギャスパー・ノエ監督の印象

前述したように僕はギャスパー・ノエ作品ってこれまで観たことがなくて、本作の情報と共に「どうやら問題作ばかり撮っている監督らしい」という情報が入ってきたんですね。

そういう監督って個人的にはあまり得意ではないんですが、予告編が面白そうだったので「この作品は観たいなー」と思っていて、今回アマプラビデオにあったのでレンタルして観たわけです。

で、本作を観て個人的に、「この人は映画が上手い監督」という印象でした。

雪の中を血まみれの女が泣きながら逃げている姿を真上から撮影→いきなりEDロール?が流れるオープニング演出には驚いたものの、その後の22人のダンサーたちのオーディション映像→10分以上のダンスシーン、そしてその後の打ち上げパーティーでの何てことない会話などが、キャラクター個々の性格や関係性を観客に印象付けながら、後半の展開への伏線にもなっているんですよね。

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とはいえ、登場人物が多すぎるのでもちろん全員は把握出来ないんですけど、物語的にあまり重要でないキャラは比較的早めに退場させることで人員整理をして、観ているこっちが混乱しないよう考えられていました。

その辺の見せ方というか、映画としての語り口のスマートさに関心しただけに、グズグズな展開や画面酔いしそうなカメラワークが続く後半は観ていて苦痛でしたねー。

ざっくりストーリー紹介

本作を一言で言うなら「裏・ハングオーバー」です。

ハングオーバー」は泥酔から目覚めた翌日から、散々やらかした前日を振り返るという、ある種のミステリー構成ですが、本作はリアルタイムで酔っ払いの乱痴気騒ぎを延々見せられるという地獄のような映画なんですね。

舞台は1996年の冬、廃墟の校舎。

オーディションで集められた舞踊団のメンバーたちはアメリカ公演に向けての入念なリハーサルを終え打ち上げパーティーを開くんですが、メンバーの”誰か“がサングリアにLSDを混入したからさぁ大変。

麻薬入りサングリアを飲んでラリってしまったメンバーたちは、抱えていた欲求、うっ憤、不満が大爆発。

打ち上げは阿鼻叫喚の地獄に変わっていく――というストーリー。

前述したように前半部分では非常にスマートにキャラ紹介や人間関係などを語って見せたノエ監督でしたが、この後半では、打ち上げパーティーLSD入りのサングリアを飲んでどんどんラリっていくキャラクターたちを、ワンカットの群像劇風に追っていくんですね。

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ただ、ほぼ全員がラリっていて理屈の通った行動はしないので、追ったところでドラマが生まれるでもなく、前半で築き上げた形がただ崩壊していく様を延々見せられるわけです。

多分この作品で、ノエ監督は音楽とダンスとトランス状態という仕掛けを用いて、理性や倫理という皮むいた人間の本性というか獣性みたいな部分を描こうと思って、だからソフィア・ブテラ以外のキャストに役者ではなく、より肉体表現に優れたプロのダンサーを選んだんだと思うんですね。

そんな彼ら(彼女ら)のダンスは現代的だけど、古代の宗教儀式や黒ミサのようでもあり、そんな彼らのダンスを真上から撮影すると超人的な動きも相まって、彼らが別の生き物、もしくは儀式によって召喚された悪魔的な何かにも見えるんですよね。

なので、本作でのノエ監督の狙いは概ね成功していると思うんですが、観ているこっちは酔っ払いどもの乱痴気騒ぎに放り込まれた状態なので、「俺は一体何を見せられているんだ……」という気分になっちゃうっていうw

「で?」っていう

黒人ダンサーの2人組が徐々に盛り上がっていく世界一下品な会話は、「スネークマンショー」の親方と弟子がシンナーでだんだんラリっていくコントと同じ構成だし、ダンサーの後頭部に火が付いて「ギャー!」っていうシーンもほぼコントでしたしね。

太った黒人のおじさんDJが、金髪のカツラを被って青年のダンサーに自分の乳を吸わせたり、金髪の女性ダンサーが仁王立ちでおしっこしたり。

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それ以外のメンバーも泣いたり笑ったり踊ったり叫んだり。

いや、こうやって字で書くと何か楽しそうに感じるかもですが、そんな無節操無秩序な乱痴気騒ぎの様子を原色のライトの中でカメラをグルグル回しながら、超嫌な感じで撮るから画面酔いするし、ドラマ的な進展もなく延々彼らの痴態を見せ続けられるので、これはもうちょっとした苦行と言っても過言ではないです。

いや、やりたい事は何となく分かるし、それ自体は表現出来てると思うけど、観てるコッチ的には「で?」っていうw

(人間の本性を暴いた)その先に”何か“があるわけではない(ように僕には見える)ので、中途半端に放り出されたような気持ちになるっていうか。

オチのない夢の話を延々聞かされたような気持ちになりましたねー。

もしかしたらギャスパー・ノエが好きな人はそこがたまらないのかもしれませんし、他の作品を観れば印象が変わるかもですけどね。

興味のある方は是非!

 

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あっさり風味ながら完結編としては納得「イップ・マン 完結」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、ブルース・リーの師匠として有名な武術家・葉門(イップ・マン)の生涯をドニー・イェンが演じた人気シリーズ完結編『イップ・マン 完結』ですよー!

コロナの影響で作品の公開延期が続く映画界で、てっきり本作も公開延期されてると思い込んでいたんですが、何気なく地元映画館の上映スケジュールをチェックしてみたら公開されていたので、慌てて観に行ってきました!

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概要

ブルース・リーの師匠だった武術家イップ・マンを主人公にしたアクション『イップ・マン』シリーズの完結編。サンフランシスコに渡ったイップ・マンの戦いが描かれる。第1作から監督を務めるウィルソン・イップが本作でも続投。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などのドニー・イェンのほか、スコット・アドキンス、チャン・クォックワンらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

「イップ・マン」とは

シリーズ過去作の感想でも書いていると思いますが、本シリーズの主役イップ・マンは武術家であり、ブルース・リーの師匠として知られる実在の人物。

本シリーズでは、そんなイップ・マンの生涯を基にしたフィクション映画で、イップ・マン役を世界的アクションスター、ドニー・イェンが演じた事で話題に。

そんなシリーズ第1作「イップ・マン 序章」が本国で大ヒットを受けて、イップ・マンを主役にした類似作品が多く作られ一時的にイップ・マンブームになったものの、結果的にこのドニー・イェンの本家シリーズだけが残った形なんですよね。

そんな「イップ・マン」シリーズは、

日中戦争で故郷広東省に侵略してきた日本軍とイップ・マンの闘いを描いた第1作「イップ・マン 序章

終戦後、妻子と共にイギリス領となった香港に移って武館を開き、カンフーマスターになるまでを描いた第2作「イップ・マン 葉問

カンフー・マスターとして香港の名士となったイップ・マンと妻のラブストーリーを主軸に、マイク・タイソンや、同門の若きカンフー・マスター張天志と詠春拳の正統後継者をかけて闘う第3作「イップ・マン 継承

そして、晩年のイップ・マン、最後の闘いを描いた本作「イップ・マン 完結

の4作となります。

ただ、日本軍が悪役ということで第1作「~序章」は日本では劇場公開が見送られ、第2作「~葉門」のヒットを受けて劇場公開されたという経緯があります。

ざっくりストーリー紹介

1964年香港。

愛する妻を病で亡くしたイップ・マンドニー・イェン)は次男チン(ジム・リウ)と暮らしていましたが、自身も咽頭がんであることが発覚。

そんな時、彼の武館にかつての弟子ブルース・リー(チャン・クォックワン)の弟子が、ブルースの出場するカリフォルニアの空手大会へ招待したいという伝言もってやってきます。

最初は乗り気ではないイップ・マンでしたが、チンは学校で暴力沙汰を起こして退学になった事を受け、彼をアメリカに留学させるため単身渡米。

しかし、カリフォルニアの地でワン・ゾンホア(ウー・ユエ)が代表を務める中華総会と米軍の白人至上主義者であるバートン・ゲッデズ一等軍曹スコット・アドキンス)との争いに巻き込まれ――というストーリー。

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主演のイップ・マンやシリーズを通してメガホンをとったウィルソン・イップ監督がどこまで意図したかは分かりませんが、コロナによる公開延期の期間にアメリカで巻き起こった警察による黒人“殺人事件”に対する抗議運動や、彼らとトランプ支持者との対立などのアレコレで、本作に込められたメッセージ性が作り手が意図した以上に大きくなってしまったかもしれませんね。

ブルース・リーついに登場!

また、第2作から思わせぶりにカメオ的に出演していたブルース・リーが本作でついに登場。
空手大会では組手や代名詞でもあるワンインチパンチを披露したり、空手使いのアメリカ人を相手に、(控えめながら)怪鳥音とヌンチャクアクションを披露してくれます。

www.youtube.com /本人映像

ちなみにブルースを演じるのは、チャウ・シンチー監督の「少林サッカー」でブルース・リーそっくりなゴールキーパーを演じたチャン・クォックワン。

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画像出展元URL:http://eiga.com

小さな頃からブルース・リーを崇拝しているだけあって、本作でのアクションはまさに完コピでしたねー!

アクションが……

ただ、ブルース・リー以外のアクションシーンは、総じてパッとしないというか、一本調子というか。

「序章」はドニー・イェンのカンフーアクション自体が新鮮だったし、「葉門」ではドニー・イェン演じるイップマンと、サモ・ハン・キンポー演じるホン師匠のテーブル上での対決シーン、「継承」ではタイ人の暗殺者とのエレベーターや階段を使ったアクションと、どこか1か所は目新しいアクションがあったんですけど、本作にはそれが感じられなかったんですよね。

いや、本作ではブルースのシーンがそれにあたるのかもだし、クライマックスでの倒れた敵の後頭部へ高速連続パンチとか見どころは多いんだけど、個人的にはちょっとあっさりし過ぎて物足りない印象でした。

まぁ、設定上本作のイップ・マンはほぼ70代ですからね。
前3作よりもアクションが控えめなのはリアルと言えるし、アクション監督がサモハン・キン・ポーから前作・本作はユエン・ウーピンに変わったのも、原因の一つかもしれません。

あと個人的には物足りなさが残るものの、シリーズ完結編としてはしっかりまとまっているし、シリーズ全作を追ってきたファンには納得の作品と言えるかもしれませんね。

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画像出展元URL:http://eiga.com / 次男チンに武術を教えるイップ・マン

ただ一つ不満点を挙げるなら「あのラストにするなら、EDロールに本人による木人映像を流すべきでしょ!!」

とは思いましたけどね。

興味のある方は是非!!

 

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