ぷらすです。
今回ご紹介するのは、アカデミー賞でウィレム・デフォーが助演男優賞にノミネートされた事でも話題になった『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ですよー!
映画を観たあとだと、「真夏の魔法」という副題の「天丼( パクチー、チーズたっぷりトッピング) 」的な余計なことすんなっぷりに辟易してしまいました。
いや、まぁ、一人でも多くの人に映画を観てもらうための企業努力に文句つけるのもアレですけども。
画像出典元URL:http://eiga.com
概要
全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』などのショーン・ベイカーが監督・脚本を務めた人間ドラマ。フロリダで貧しい生活をしている母娘と二人を取り巻く人々の日常を、6歳の少女の視点から描く。主人公を子役のブルックリン・キンバリー・プリンスが演じ、母親役にベイカー監督がインスタグラムで発掘したブリア・ヴィネイトを抜てき。モーテルの管理人を演じたウィレム・デフォーは、第90回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。(シネマトゥデイより引用)
感想
この作品、僕はテレビ・ラジオ・ネットなどの映画評である程度どんな内容かを分かった状態で観たんですが、劇場公開時に、カラフルで多幸感あふれるポスタービジュアル&副題に騙されて観てしまった人は一体どんな気持ちになったんだろうと他人事ながら心配になってしまいましたよw
この映画は、一言で言うなら「魔法の国のすぐ裏は地獄でした」という内容。
フロリダのディズニーワールドのすぐ近くにある安モーテルを舞台に、最底辺の貧困層母子の“最後の夏休み”を、子供の視点をメインに淡々と描いていく作品なのです。
ざっくりストーリー紹介
家を失った無職の母親ヘイリーと娘のムーニーは、ディズニーワールドのすぐ近くにある安モーテル「マジック・キャッスル」で暮らしています。
母親のヘイリー(ブリア・ヴィネイト)は誰にでも悪態をついて法的にギリアウトな商売で日銭を稼いでる超DQNだし、娘のムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)は言葉使いも汚くて、友達と悪さばかりしている悪ガキを通り越したクソガキで、管理人のボビー(ウィレム・デフォー)を困らせてばかり。
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そんなある日、ムーニーが起こしたある事件をキッカケに、唯一の親友アシュリーからも見捨てられたヘイリーは、いよいよ追い詰められて……。
という内容。
ネット評では、多くの人に高い評価を受ける一方で、まったく成長しないDQNママのヘイリーに「同情も感情移入も出来ない」「自業自得」という批判もあって賛否両論という感じでしたねー。
確かに、ヘイリーの言動は母親として間違っても褒められたものではないし、批判する人の気持ちも分からなくはないはないです。
が、彼女が置かれた環境は、努力で変えられるような生易しいものではなかったのではないかとも思えるんですよね。
まぁ、彼女の風体や態度をみれば、若い頃からロクでもない人生を歩んできたのは間違いないだろうし、今の状況も、そのツケが回ってたのだと見れば自業自得と言えなくもないけれど、彼女がそういう風にしか生きられないくらい、貧富の差が固定化されたアメリカのシステムが背景にあるのではないかとも思うんですよね。
そして、外から見ればダメな母親ではあるけど、少なくともムーニーにとって彼女はサイコーの母親だということがよく分かります。
どれだけ追い詰められても、ヘイリーは決してムーニーに暴力を振るったり当たり散らしたりはしないし、常にムーニーを楽しませようとしてるんですね。
タイトルの意味
で、本作のタイトル「フロリダ・プロジェクト」のプロジェクトって何かというと、低所得者のために用意された集合住宅のことだそうです。
しかしながら、このマジック・キャッスルは当然、低所得者用の集合住宅ではなくて観光客狙いの安モーテル。
映画評論家の町山さんによれば、低所得者向け集合住宅には、犯罪歴や逮捕歴があると入れないんだそうで、そういう人たちは一週間分ずつ料金を払って安モーテルに暮らしている、いわば「隠れホームレス」なんですね。
つまり「フロリダ・プロジェクト」というタイトルは、それ自体が監督ショーン・ベイカーの強烈な皮肉になっているのです。
子供たちの視線で描く「魔法の国」と大人視点の現実
そんな風に書くと、どんだけ悲惨な映画なのかと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。いや、物語自体は悲惨なんですよ?
でも、そういうのは全部物語の裏側に回して、表面的にはムーニーや友達のジャンシー、スクーティなど子供の視線で大部分が描かれていているんですね。
モーテルの階段の下を秘密基地に友達とおしゃべりしたり、手入れがされてない草をかき分けて走り回ったり、倒木に座ってジャムをたっぷり塗ったパンを食べたり、プールサイドのトップレスおばさんを冷やかしたり、ソフトクリームを買うために子連れのお母さんに小銭をねだったり、一個のソフトを三人で回し食べしたり。
真夏の高い空や、ディズニーワールドを意識したパステルカラーの町並みも相まって、どこまでも続く「魔法の国」の大冒険のようなワクワク感で満たされています。
しかし、一旦大人の視点で引いて見ると、子供たちの周りには危険がいっぱい。
ムーニーたちが遊ぶ廃墟は、麻薬取り引きに使われているし、道路には車がビュンビュン走ってるし、子供たちが集まって遊んでいると変質者が寄ってくる。
そんな時、強面管理人のボビーが、さっと駆けつけて変質者から子供たちを守り、仕事の合間にそれとなく子供たちを見守っているわけです。
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デフォー演じるボビーは、顔は怖いけど実は優しいオッサンなのです。
しかし、ボビーはただの雇われ管理人なので、もどかしく思いながらも子供たちを見守ったり、変質者から子供を守るくらいしか出来ないんですよね。切ない。
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それでも何とか楽しく暮らしていたヘイリーとムーニーでしたが、ムーニーが起こしたある事件をキッカケに親友アシュリーから見捨てられ、経済的にも追い詰められたヘイリーはとうとうある一線を超えてしまいます。
その様子を大人目線でハッキリ映すのではなく、最初は一緒にお風呂に入っていた二人が、やがてムーニー1人で大音量で音楽をかけながらお風呂に入るようになる。という描写でそれとなく分からせる演出が、逆に辛さ倍増なのです。
“夏休み”の終わり
そんな環境でもムーニーは、親友のジャンシーと楽しく無邪気に遊びまくっているんですが、そんな“夏休み”にもいよいよ終わりが近づいて。
多分、敏い子なムーニーは、母親のやっている事や自分の身に迫る現実をちゃんと分かっていて、それでも楽しい事だけに目を向けることで、もうすぐ子供でいられなくなる辛い現実を少しでも遠ざけようとしていたんじゃないかと思うんですね。
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なので、いつもキャッキャと楽しそうに笑って、悪さをして、走り回って、決して弱みを見せないように気丈に振舞っていた彼女が、親友の前で堰を切ったように感情を顕にするシーンは、もうね、辛すぎて涙なしでは見てられません。
そして、親友ジャンシーに手を取られ、二人で現実から逃げる先が……っていう最高に皮肉の効いたキレのいいあのラスト、曲なしでうっすら環境音だけが流れるEDロールも相まって……、もうね、嗚咽ですよ!
一見、特に脈絡なく小さなエピソードが連なっているだけの日常系作品に見える本作ですが、実は物語的にも映像的にも、伏線や見せ方がしっかり練られていて、巧みに組立られた見事な構成なんですよね。
本作は、フロリダの安モーテルを舞台にしたミニマムな物語ですが、それはそのまま世界の縮図だし、この映画で描かれる貧困問題は日本だって決して他人事ではないですよね。
ヘイリーが叫ぶ「ファッ〇・ユー!」が、一体誰に向けられた言葉なのか、見終わったあとに色々考えずにはいられない傑作でした!
興味のある方は是非!!
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