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テイラー・シェリダンによる現代版西部劇三部作の完結編「ウィンド・リバー」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ボーダーライン」「最後の追跡」の脚本家 テイラー・シェリダンが脚本・監督を務めた『ウィンド・リバー』ですよー!

ホークアイ役のジェレミー・レナーとスカーレット・ウィッチ役のエリザベス・オルセンという「アベンジャーズ」コンビが、先住民居留地ウィンド・リバー」での少女“殺人”事件の謎を追っていく過程で、ウィンド・リバーの過酷な現実とアメリカの闇を描き出す骨太な社会派ミステリーです!

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画像出典元URL:http://eiga.com

概要

最後の追跡』などの脚本を手掛けてきたテイラー・シェリダンが監督と脚本を務めたサスペンス。ある事件を調べる女性FBI捜査官と地元のハンターが、思わぬ真相にたどり着く。『アベンジャーズ』シリーズなどのジェレミー・レナー、『マーサ、あるいはマーシー・メイ』などのエリザベス・オルセン、『スウィート・ヘル』などのジョン・バーンサルらが出演。『最後の追跡』で音楽を担当したニック・ケイヴウォーレン・エリスが本作でも組んでいる。(シネマトゥディより引用)

感想

現代アメリカのフロンティア、辺境の地の現実を探求する三部作完結編

脚本・監督を務めたテイラー・シェリダンによると本作は、
メキシコ麻薬戦争を描いた「ボーダーライン」
家族の土地を守るため銀行強盗を繰り返す兄弟と、彼らを追う年老いたテキサス・レンジャーを描いた「最後の追跡

に続く、現代アメリカのフロンティア、辺境の地の現実を探求する三部作の完結編。なのだそうです。

とは言っても、それぞれの作品に関連性はなくて、テイラー・シェリダンが同じテーマで描いた三作品であり「現代版西部劇」三部作という感じ。

そして、本作のキャラ配置や役割はほぼ「ボーダーライン」と一緒で、FBI捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)が、まったくルールの違う土地に放り込まれて、その土地の内情を知り尽くした男コリー(ジェレミー・レナー)と協力して事件に挑む。という内容。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 地元警察はほぼ左のオッサンしか登場しないのです。

まぁ「ボーダーライン」ほどFBI捜査官が完全に蚊帳の外って訳ではない。という違いはありますけども。

で、捜査を進めるうちに事件やその土地に横たわる過酷な背景を、“よそ者”であるジェーンの目を通して観客が知っていくという構成なんですね。

ただ、アメリカと日本の警察システムの違いや、ウインド・リバー(先住民居留地)という土地の成り立ちや状況を知らずに観ると、劇中の描写だけでは日本人にはちょっと分かりづらいかもなーって思ったりしました。

ざっくり解説

というわけで、映画の背景となる警察組織のあり方や、ウィンド・リバーの状況を「タマフル」での町山智浩さんの解説をパク…参考にざっくりと解説したいと思います。

アメリカの警察システム

アメリカの場合、警察は市警察・州警察・連邦警察(FBI)があります。
西部劇などに出てくる保安官は、警察ではなくて郡に属する政治家に近い立場の人で、地元の選挙で選ばれるのだそうですね。

市・州・連邦警察にはそれぞれ管轄があって、市警察はそれぞれの市の中以外は捜査権がなく、州警察は主に市と市を繋ぐ高速道路などが管轄。市や州をまたぐ事件はFBIが捜査する決まりなんですね。

で、今回のウィンド・リバー(先住民居留地)は連邦政府、つまりFBIの管轄なのです。

で、物語は少女の遺体をコリーが雪山で発見することからスタートするんですが、少女の死因は零下30度の冷気を吸い込んだことで肺が凍って死亡、つまり一応は自然死なんですね。

遺体を調べるとレイプされていることが分かるんですが、レイプ事件は連邦法ではなく州の法律で規定されているので、FBIには捜査が出来ない。

しかし、州警察や市警察は連邦政府の管轄である居留地の中では捜査権がないので、レイプ犯を捕まえることも裁くことも出来ないのです。

で、このウインド・リバーは鹿児島県と同じぐらいの面積に2万人以上の先住民が暮らしているのに、警察官はたった6人

そんな状況もあって、ウィンド・リバーでは(ほかの土地と比べて)異常にレイプとか女性の行方不明者が多いっていうルポ記事がニューヨークタイムスに載って、それを読んだテイラー・シェリダンが、(居留地在住のネイティブ・アメリカンの)友人のつてで地元を調査して脚本を書いたのが、本作「ウィンド・リバー」なのです。

ウィンド・リバー先住民居留区

ご存知のように、アメリカは元々はネイティブ・アメリカンの土地だったのを入植してきた白人が奪っていった歴史があって、ネイティブ・アメリカンの多くは、合衆国が管理する先住民居留区に押しやられてしまったわけですが、このウィンド・リバーもその一つ。
ワイオミング州の山岳地域にあるので、とにかく寒い不毛の土地なんですね。

そこに暮らす先住民たちは、仕事や収入も少なく(10代の)自殺者もずば抜けて多いらしいし、石油? は出るけど土地は政府のものなので、採掘権がない住民は全然潤わない。

つまり、この映画は少女の死の真相を描きながら、アメリカという国が抱える原罪を暴いていくストーリーなのです。

ざっくりストーリー紹介

物語は、雪の中18歳の少女が“何者か”から走って逃げているシーンからスタートします。この時、女性の声で詩の朗読がオーバーラップするんですが、これは後のある伏線になってます。

場面変わって、合衆国魚類野生動物局の害獣ハンターであるコリー( ジェレミー・レナー)が奥さんと話してるシーンに移るんですが、奥さんは元々ウィンド・リバーの先住民で二人は離婚してるんですね。

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画像出典元URL:http://eiga.com / ジェレミー・レナーは弓をライフルに持ち替えて大活躍

どうやら二人が離婚したのには何か理由があることが匂わされます。

そして、コリーは息子を連れて依頼を受けたウィンド・リバーに仕事に行くんですが、その最中に少女の遺体を発見。警察所長はFBIに連絡し、女性捜査官のジェーン(エリザベス・オルセン)が派遣されます。

しかし検死の結果、少女はレイプされ逃げている途中で零下30度の冷気を吸い込んで肺が凍ってしまったことによる“自然死”であることが判明。

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画像出典元URL:http://eiga.com / 唯一捜査権を持つFBI捜査官として孤軍奮闘するエリザベス・オルセン

それだとFBIは捜査が出来ないので、ジェーンは詳しい検死結果が判明するまでの6日間で、何とか捜査を進めようとしますが、FBIの増援は頼めないので、地元の警察所長と、ウィンド・リバーを知り尽くすコリーの協力を得ながら捜査を進めていくのだが……。という物語。

少女に何があったのかと、ウィンド・リバーの特殊な事情が並行して描かれて行くわけです。

“謎解き”がメインではない

冒頭で社会派ミステリーと書きましたが、基本的には一本道のストーリーなので事件の謎解きがメインの物語というわけではありません。
むしろ、捜査を進めるうちにウィンド・リバー居留地という土地の特殊性や実情を徐々に明らかにしていく事が物語のメインなんですね。

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画像出典元URL:http://eiga.com / ジェレミー・レナーが胸につけてるアレがずっと気になった。(湯たんぽ的な何か?)

 また、物語が進む中でコリーと奥さんとの離婚の理由なども明らかになっていきます。

その辺の物語の進め方、伏線の張り方と回収の仕方は、さすが脚本家として評価の高いテイラー・シェリダンだなーと思ったし、不穏な空気が高まり、突如始まるバイオレンス描写も「ボーダーライン」を彷彿させるなーと思いました。

不満点

物語が進むごとに善悪の境界があやふやになって、観客の倫理観を揺さぶる「ボーダーライン」とは違って、本作はわりと善悪がハッキリしているし、クライマックスで行われる報復もアバンの少女と対になってたりして、観ていてスッキリするんですね。

ただ、中盤で会って間もないジェーンにコリーがベラベラと身の上話を語るシーンや、コリーが被害者の父親を慰める(というより説教) シーンは、物語全体のトーンから浮いているように感じました。

それと北国住まいの観からすると、零下30度の冷気を吸い込むと肺が凍るっていうのや、そんな状況で少女が10キロ走り続けたってのも、ちょっと飲み込みづらいっていうか。
少女は零下30度の中を、薄着のまま“裸足”で走り続けたから体温が低下、さらに口から大量の冷気を吸い込んだ事で肺が凍ったってことだと思うんですが、ただ零下30度の冷気を吸い込んだから――では、少々説明不足かなと。

あと、雪山が舞台という特殊な状況もあるかもですが、絵面にそんなに変化がないとか、脚本家としては優秀だけど監督としては荒いなーと思う部分もあったりしました。

デジタルで撮影してるから、映像がのっぺりしているみたいなのは、個人的にはそれほど気にならなかったですけども。

テーマがテーマなのでドスンと重い映画ではありますが見ごたえがあるし、映画としては若干地味ではあるけど印象深い作品だと思いましたねー。

興味のある方は是非!!!

 

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