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70年代スラッシャーホラーを現代風にアップデート「X エックス」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのはA24制作のホラー映画『X エックス』ですよー!

この映画、三部作の1本目でして。2作目の「パール」の公開時の評判がメッチャ良かったので配信で観ようと思い、だったらせっかくだし3部作の1本目から順番に観ようということでアマプラで視聴しました。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

ある老夫婦が暮らす家に足を踏み入れた若者たちの運命を描くホラー。1979年のアメリカ・テキサス州を舞台に、3組のカップルが映画撮影のために訪れた農場で悪夢のような出来事に遭遇する。監督・脚本は『キャビン・フィーバー2』などのタイ・ウェスト。『サスペリア』などのミア・ゴスがヒロインを演じ、『ザ・ベビーシッター ~キラークイーン~』などのジェナ・オルテガ、『プロムナイト』などのブリタニー・スノウ、『スコットという名の男』などのスコット・メスカディらが共演する。(シネマトゥディより引用)

感想

70年代スラッシャーホラーを現代にアップデート

本作は、続編の「Pearl パール」「MaXXXine(原題)」と合わせ、A24初の3部作シリーズとなる予定の1作目です。

舞台は1979年のテキサスの田舎。そこの農家にポルノ映画の撮影に訪れた6人の男女が史上最高齢のシリアルキラー夫婦に襲われるという、超のつくどシンプルな物語で、ホラー好きなら「悪魔のいけにえ」などの1970年代スラッシャー映画をやろうとしてるんだなとピンとくると思います。

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実際、衣装や大道具、小道具や映像もしっかり当時を再現していて、出演者もちゃんと当時の人に見えるようになっているし、冒頭の画角も「悪魔のいけにえ」の16㎜フィルムと同じアスペクト比を納屋?のドア枠を使ってアナログ的に再現するなど、細かい工夫がなされているんですよね。

また劇中では70年代~80年代のホラー映画の名シーンを引用オマージュしつつ、前半で使った構図と同じ構図を、後半の違うシチュエーションで使うことで、伏線回収――というよりは韻を踏むように重ねるという、ヒップホップ的な手法で70年代スラッシャー映画を現代的にアップデート。同時にその手法にテーマ性やストーリー&映画的な効果を盛り込んでいくあたりが、「あぁA24ぽいなー」と感じました。

一人二役

史上最高齢シリアルキラーババアのパールと、ヒロインであり本作のファイナルガール(最後に生き残る女の子)でもあるマキシーンを、本作ではミア・ゴスが一人二役で演じています。

この一人二役にもちゃんと物語的意味があって、マキシーンはスターを夢見るストリッパー。恋人で自称プロデューサーのウェインが製作しているポルノ映画を足掛かりに成り上がろうという野望を抱いていて、一方のパールの方は、昔ダンサーだったらしい事が本人の口から語られます。

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つまり、パールにとってマキシーンは美しく輝いていた過去の自分の姿であり、マキシーンにとってパールは(なりたくない)未来の自分という相関関係になっているのですね。

パールの劇中最初の殺人シーンはライトの点いた車の前で行われ、被害者の血がライトにかかって真っ赤な照明で照らされたようになり、殺人が終わると彼女はその赤い照明に照らされて踊るというシークエンスがあるんですが、それは彼女の脳内が殺人によってダンサーだった自分に戻っていることを示しているんだと思います。

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老いとジェネレーションギャップ

そんな本作のテーマの一つは「老い」もう一つは「ジェネレーション」で、パールは若く美しいマキシーンに嫉妬を感じながらも、美しかった過去の自分を重ねて執着している。一方でパールの夫ハワードも、同じ様にまだ若く“現役”のウェインやポルノ男優のジャクソンに嫉妬を感じているわけです。

同時に、その嫉妬は「若さ」だけではなく、パールとハワードは二度の大戦によって多くの時間を失っているし、時代的にも自由に生きる事が難しかったことは想像に難くありません。

少なくともハワードは、大国アメリカの繁栄は自分たちの命がけの戦いの上に成り立っている。と思っているハズ。

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しかし、彼の農場にやってくる若者たちはハワードたちが手に出来なかった自由を謳歌し、乱れた性行為を行う。さらに両者はベトナム戦争を挟んで分断されているので、ハワードやパールが持つ、”古き良きアメリカ”という常識や思想を若者たちは受け継いでいない、もしくは否定しているように(二人には)見えるわけで、ハワードやパールはそんな彼らとのジェネレーションギャップにも憤りや嫉妬を感じているんじゃないかと思いました。

家のテレビでずっと流れているキリスト教原理主義の集会(ミサ?)は、そんな二人の心情の現れなのだと思います。

ややかったるい

そんなわけで、一見単純な物語ながら、幾重にもレイヤーが重なった構成は非常に上手いし、A24らしいとは思うんですが、本作の構成上、まるっと前半は後半へのフリに使われていて、これといってホラー的なことは何も起こらないんですよね。

個人的には、この何もないフリの時間が正直長いし、ややかったるいと思いました。

その分、後半に入っての畳みかけは凄いんですけど、全体を通して観ればちょっとバランスも悪い感じがするし、やや物足りなさも感じてしまいましたねー。

まぁ、とはいえ三部作の一作目でもあり、パールとハワードというシリアルキラー夫婦の紹介編でもあるので、これ以上のショックやスラッシャー展開は続編となる「パール」で展開されるのかもしれません。

興味のある方は是非!!