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凄すぎて逆に凄さが伝わらない「2分の1の魔法」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは日本では今年8月に公開されたピクサー作品『2分の1の魔法』ですよー!

公開時は「何か他の作品と比べてパッとしないなー」と食指が動かなかったんですが、今回Amazonvideoでレンタルして観て、劇場に行かなかったあの時の自分をぶん殴ってやりたくなりましたよー!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

ディズニー&ピクサー異世界を舞台に描くアニメーション。科学や技術の発展によって魔法が影を潜めてしまった世界に生きる兄弟の冒険が描かれる。監督は『モンスターズ・ユニバーシティ』などのダン・スキャンロン。声の出演は、『スパイダーマン』シリーズなどのトム・ホランド、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズなどのクリス・プラットのほか、ジュリア・ルイス=ドレイファス、オクタヴィア・スペンサーら。(シネマトゥディより引用)

感想

ピクサーとは

本作は1995年公開の「トイ・ストーリー」から数えて22作目となるピクサーのアニメーション作品です。
ピクサーは最初ルーカスフィルムの一部門でしたが、その後スティーブ・ジョブズに買収され、ハードウェアとCG用のソフトを開発、販売する会社としてリスタート。

しかしコンピュータおよびソフトウェアの業績が悪かったことから、ジョン・ラセターらアニメーション開発部門は商品宣伝のためCGアニメーションを制作、その後ディズニーと共同制作で「トイ・ストーリー」を制作、この1本で世界中にピクサーの名を轟かせ、2006年にディズニーに買収されてディズニー・ピクサーとなって現在に至るわけです。

そんなピクサーの特徴は、全作品がスタッフの実体験からくる私小説的な作品であるということ。
例えば「トイ・ストーリー」シリーズは子供たちの成長を見守るオモチャたちを描いたシリーズですが、これはピクサースタッフと子供たちの関係のメタファーであり、またオモチャというモチーフは=ピクサー(アニメーションスタジオ・アニメーター)のメタファーになっています。

それ以外の作品やシリーズでも、親子、家族というモチーフはピクサー作品の多くで描かれており、それは監督・スタッフの実体験が出発点になっていることが多いためと言われています。

つまり、ピクサー作品は個人的なエピソード=私小説的ストーリーを基に、極上のエンターテイメント作品を作り上げているところが他スタジオのアニメーションとは一味違うところでもあるのです。

で、そんなピクサー22作目となる本作は、それまで長年にわたってピクサースタジオを率いていたジョン・ラセターの手を離れた最初の作品で、監督は「モンスターズ・ユニバーシティ」も手掛けたダン・スキャンロン

本作の主人公イアンと同じく自身が1歳の頃に父親を亡くした経験や兄との実体験を基に本作の脚本を練り上げていったそうですよ。

ざっくりストーリー紹介

まずはそんな本作のストーリーをざっくりご紹介。
誰もが簡単に使える便利な科学に取って代わられ、すっかり魔法が廃れてしまったファンタジー世界が舞台。
内気なエルフのイアントム・ホランド)は、引きこもり?で“歴史”オタクの兄バーリークリス・プラット)、シングルマザーの母ローレル(ジュリア・ルイス=ドレイファス)と3人暮らし。

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16歳の誕生日、イアンは母から亡き父親が残したプレゼントを渡されます。
それは魔法の杖と魔石、そして「復活の呪文」のセット。
兄バーリーによれば、この杖と石を使って呪文を唱えれば24時間だけ死者を復活させることが出来るというんですね。
早速バーリーが呪文を試しますが魔法は発動せず、一人になったイアンが何気なく呪文を口にすると魔法が発動します。

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すわ「お父さんに会えるのか!?」と思ったら、魔石のパワーが足りず復活したのは父親の下半身だけ

1/2の父親を完全復活させるため、イアンとバーリーはもう一つの魔石を求めて冒険に出るのだが――というストーリーなんですね。

この、「魔法が科学に取って代わられた世界」という設定も、主人公の兄弟が少年でもなく大人でもなく、高校生と大学生の青い顔をしたエルフの兄弟というビジュアルも、これまでのピクサー作品と比べて正直パッとしないというか、新鮮味がなく興味をそそられないって思った人は多いのではないでしょうか。

例えば
モンスターズ・インク」でサリーとマイクが務める大企業モンスターズインク(通称MI)やモンスターの世界。
「ウォーリー」でウォーリーが取り残されたゴミの山と化した地球の姿。
リメンバー・ミー」でミゲルが迷い込む『死後の世界』などなど。

ピクサー作品といえば観客がそれ一発でワクワクするような世界観を描いたビジュアルが売りだと思うけど、本作ではビニールプールでスマホをいじる人魚や、野良化して町中のゴミ箱を漁るペガサスはいるけど、舞台はいかにも現代のアメリカの田舎町だし、現代人と変わらない生活を送るファンタジー世界の住人というキャラ設定は既視感があるし、何なら色合いもちょっと地味目で全然ワクワクしない。

と・こ・ろ・が!

いざ観始めると、とにかくそのストーリーテリングの完璧さにビックリしてしまうんですよねー。

凄すぎて凄さが伝わらない

まず本作の世界観は、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)の古典「ダンジョンズ&ドラゴンズ」がモチーフになっているんだそうです。
兄バーリーは大学にもいかずTRPGマジック・ザ・ギャザリングがモチーフのカードゲームなどにハマっているゲームオタクなんですが、本人曰く、これらのゲームは史実を基に作られているのだそう。
そんな“歴史“を愛するバーリーは、遺跡を取り壊して開発しようとする工事の邪魔をしたりしてみんなに街の厄介者扱いされているんですが、父親を復活させる旅の過程で、彼の主張が正しかったことが次々と証明されていく。つまり、この冒険は厄介者で役立たずだと思われていたバーリーを再評価=多様性の受容する旅でもあるし、本作が典型的な行きて帰りし物語」のテンプレをなぞっているのにも、ちゃんと理由があったのです。

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また、主人公のイアンがいつも自分に自信が持てないのは、病で亡くなった父親との記憶がない事に起因していて、逆にバーリーがファンタジー世界に傾倒しているのも父親との死別が(多分)原因なんですね。

で、イアン16歳の誕生日に父親から贈られた魔法セットは、成長した息子たちと一目会いたいという父親の願いでもあり、その思いは息子たちと共有され、その思いの達成が本作の原動力になっているわけです。

そんな彼らが魔石の地図を求め最初に向かうのが、ライオンの体にコウモリの羽、サソリの尻尾を持つマンティコアの酒場。

いかにも恐ろし気な館のドアをバーリーが恐る恐る開けると、中はすっかり郊外のファミレスのようになっていて、経営者のマンティコアもすっかり野性を失っているんですよね。

ここはもちろん一流の面白ポイントではあるものの、実は世界中の「物語」を略奪しては漂白して子供向けにしてしまう親会社ディズニーへの痛烈な批判でもあり、そう考えると野性を取り戻したマンティコアが炎でマスコットキャラの着ぐるみを燃やしてしまう件は、中々痛快だったりします。

で、そんな冒頭から中盤にかけての、キャラの何てことないセリフや行動・ギャグが実は全部クライマックスからラストに向けての伏線になっていて、それもいわゆる「伏線の為の伏線」ではなくて、ちゃんとエピソードを有機的にリンクさせてクライマックスに向けて物語にドライブをかけていく歯車として機能しているんですよ!

ネットでは「兄のバーリーがウザすぎるうえに最後まで役立たずでむかつく」みたいな感想も目にしましたが、いやいや、ちょっと待ってくれと。

イアンが冒険で成功するときは必ずバーリーのサポートがあるときだし、逆に失敗するときはバーリーの言うことを信じない時です。

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まぁ、バーリーがウザいのは事実だから仕方ないけど、その実、彼はずっと弟をサポートし続けていて、それがあったからクライマックスのイアンの決断、そしてあの感動のラストへと繋がっていくわけですよ。

あと、残念ながら魔法の杖は使えないバーリーですが、彼に関わったキャラクターたちは劇中で(結果的に)失っていたものを取り戻す=世界が少しだけ変わるわけです。
それはつまり、人と人が影響し合うことでほんの少しだけ世界が変わる事がまさに魔法なんだよ。的なメッセージも込められているわけですね。

そういう意味で、本作の脚本はストーリーテリングの教科書のような見事で一分のスキのない脚本なんですが、あまりに凄すぎて逆に凄さが伝わらないというか、あまりに完璧すぎてテンプレに乗っただけの無個性で工業的な作品にすら見えちゃうっていうか。

逆に、物語的にもう少し若干の齟齬や歪さがあった方が、作家性のある作品だと観客は思ったかもしれません。
トイ・ストーリーなんかはシリーズを重ねるうちに、そうなってましたよね。

ともあれ、ピクサーの過去作品と比べてもビジュアル面は群を抜いて地味な本作ですが、ことストーリーで言えばピクサー作品の中でも1・2を争うくらい見事だと思ったし、個人的に大好きな作品でしたよ!

興味のある方は是非!!!

 

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