今日観た映画の感想

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コミュニケーションを描いた新感覚SF「メッセージ」(2017)*ネタバレ有り

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」をドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が実写化した現在公開中のSF映画『メッセージ』ですよー!

アカデミー賞8部門にノミネート、音響編集賞を受賞した本作ですが、なんてういかこう……スゴイ映画でしたよ!(小並感)

で、今回はネタバレ無しで感想を書く事が出来ないので、感想の途中からゴリっとネタバレしていきます
ただこの作品は、まずは何も知らずに観るのが一番楽しめると思うので、これから観る予定のある人は、まず先に映画を観て、その後に答えあわせがてら、この感想を読んで頂けたらと思います。

 いいですね? 注意しましたよ?

 

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概要とあらすじ

テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」を基にしたSFドラマ。球体型宇宙船で地球に飛来した知的生命体との対話に挑む、女性言語学者の姿を見つめる。メガホンを取るのは、『ボーダーライン』などのドゥニ・ヴィルヌーヴ。『ザ・マスター』などのエイミー・アダムス、『アベンジャーズ』シリーズなどのジェレミー・レナー、『ラストキング・オブ・スコットランド』などのフォレスト・ウィテカーらが結集する。

トーリー:巨大な球体型宇宙船が、突如地球に降り立つ。世界中が不安と混乱に包まれる中、言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は宇宙船に乗ってきた者たちの言語を解読するよう軍から依頼される。彼らが使う文字を懸命に読み解いていくと、彼女は時間をさかのぼるような不思議な感覚に陥る。やがて言語をめぐるさまざまな謎が解け、彼らが地球を訪れた思いも寄らない理由と、人類に向けられたメッセージが判明し……。(シネマトゥディより引用)

 

感想

宇宙人とのファーストコンタクトもの

本作は、ざっくり言うと「ばかうけ」そっくりの巨大宇宙船に乗ってやってきたクラゲ? 型宇宙人ヘプタポッド(7本脚という意味)と人間のファーストコンタクトものです。
宇宙人とのファーストコンタクトものと言えば、スピルバーグの「未知との遭遇」(1978)が有名ですが、本作もこの系譜の作品といえるかも。

ただ「未知との遭遇」が「音(ヒヤリング)」で宇宙人とのコンタクトを図るのに対し、本作は「文字」でのコンタクトを試みるという違いがあり、また彼らの言語体系を理解することで主人公が受けるある影響について描かれています。

ある日突然、地球各国にやってきた12機の巨大宇宙船。
そんな彼ら(宇宙人)の目的を知るため、各国は学者を招集してコンタクトを試みるわけです。

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そのコンタクトで得られた情報はすべて共有され、次第に宇宙人の言語体系が明らかになっていくんですが、中盤で解明されたある「言葉」をきっかけに、各国の足並みは乱れ一触即発の緊張状態になるのだが……というのが本作のざっくりした流れ。

アメリカに降り立った宇宙人とのコンタクトをとるため招集されたのは、エイミー・アダムス演じる言語学者のルイーズと、ジェレミー・レナー演じる数学者のイアンです。

最初はヒヤリングによるコンタクトを試みるルイーズですが、あまりにも違う言語体系のため不可能と判断、彼女は文字による意思疎通を図っていくわけですね。

で、本作の半分以上は宇宙人 の言語の解読と地球に来た目的を解明する過程とルイーズの「回想」が並行する形で構成されています。

そして、この二つの一見関係ない流れが一つになり、謎が明かされた時に驚愕の真実が明らかになるという仕掛けなんですね。

円環構造

ここからネタバレになります。

 

劇中、宇宙人の使う文字はまるで書道の筆文字で輪を書いたような感じの文字です。
しかも、その輪が文字ではなく、一つ(一行?)の文章になってるわけです。

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この墨文字のデザインは多分、原作者のテッド・チャンが中国系アメリカ人だから思いついたんじゃないかなーと思うんですが、この文章が輪になっている事が本作にとっては重要な鍵になっています。

宇宙人の使う文章が輪のような形になっているのは、彼ら? にはそもそも「時間」の概念がなくて、始まりから終わりまでを一つの輪として捉えているからです。
だから、彼らにとっては過去も現在も未来も全ては一つのエピソードとして同時に見えてる(認識してる)わけですね。

で、彼らの言語を解析・理解していくうちに、ルイーズの身にも変化が起こり始めます。どういう事かというと、彼女は「未来を思い出す」ようになっていくわけです。

もっと分かりやすい言葉で言うなら、未来視ができるようになっていくんですねー。

なぜ、そんな事が起こったのかというと、そこには「サピア=ウォーフの仮説」という考え方が関係していて、ざっくり説明すると「使用する言語体系によって思考や世界認識は変わる」っていう考え方らしいです。

例えば、日本語の場合は「〇〇はXXだから、◎◎だ。」みたいに過程が先で結論を後にもってくるけど、英語の場合「◎◎だ。何故なら〇〇はXXだから」みたいに結論を先に持ってきますよね。
そうした言葉や文字の成り立ちの違いが、人間の考え方や世界の捉え方に影響を及ぼすっていう事らしいんですね。(合ってるかな?w)

宇宙人の言語を解読、理解していくことでルイーズの思考プロセスに変化が起こって彼女は『未来を思い出す』ようになり、その能力によって世界のピンチを救う事になるわけです。
いわば、彼女は宇宙人とのコミュニケーションによって、進化するわけですね。

ということを踏まえて本作を振り返ると、冒頭で描かれるルイーズと愛娘の物語は物語のラストに繋がっているし、彼女(個)の物語は世界(全)の物語に繋がっていて、彼女の娘の名前はハンナ(Hannah / どちらから読んでもハンナになる)です。

実はこの映画の構造自体が円環構造で作られているう事が分かるんですねー。

二つのタイムパラドックス

言語を解読して「未来を思い出せるようになった」ルイーズのお陰で、人類の危機は回避されるわけですが、二箇所「あれ?」ってなる部分があります。

一つは、宇宙人に宣戦布告の先陣を切った中国のシャン上将をルイーズが思いとどまらせるシークエンス。
ここでルイーズはシャン上将に電話をして、彼の奥さんの最後の言葉を伝える事で彼を思いとどまらせ世界の危機を救ったことを、未来で出会ったシャン上将に教えられて「思い出し」ます。

でも、未来でシャン上将に出会うまで、ルイーズはシャン上将の電話番号も奥さんの最後の言葉も知らなかったわけで、ということは現時点でシャン上将に電話する事は出来ず、当然シャン上将を止めることは出来ないので、未来で彼に会うこともなく……っていう。
これって完全なタイムパラドックスですよね。

あと、ルイーズが宇宙人の言語を完全に理解するキッカケは、彼女が未来で宇宙人の言語について本にまとめた事を「思い出した」からなんですけど、これもシャン上将の件と同じタイムパラドックスになってると思うんですが、あれはどういう理屈なんだろう?? 

 僕は、ルイーズの未来視は自分の関わった事しか視えないと思ってたんですが、他人の、もっと言えば全ての過去現在未来を見通せるようになったって事なんですかねー?

愛娘との思い出

こうした大きな流れの合間に、本作ではルイーズと愛娘ハンナとの「回想」が描かれています。勘のいい方はすでにお気づきかもですが、この回想はルイーズの過去ではなく、未来に起こる出来事なんですね。

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映画冒頭で、ハンナが生まれてから、若くして病気で亡くなるまでをランダムに見せられるので、僕ら観客はこの回想をルイーズの過去だと思い込んでしまうというのが、本作で一番のトリックになっているんですね。

そしてこの仕掛けは、同時に観客への問いかけでもあります。

将来生まれてくるハンナは、自分よりも早く死んでしまうことをルイーズは知っている。それでも映画のラストで彼女は結婚して将来ハンナを生む決心をするんですね。

何故なら、子供を失う悲しい思いをしないためにハンナと出会わないようにしてしまったら(つまり結婚・妊娠・出産をしなければ)、自分の最愛の娘がこの世に存在しなくなってしまう。

それはつまり、最愛の娘の人生を奪ってしまう事だからです。

映画冒頭の「これはあなたの人生の物語です」というセリフは、この彼女の決断を見た観客への「あなたならどうしますか?」という、問いかけでもあるんだと思います。

それは「もし娘が~」という事じゃなく、もしも、傷つくと分かっていたら、あなたはコミュニケーションを諦めますか? っていう問いかけなんじゃないかと僕は思うんですね。

まとめ

というわけで、今回はゴリゴリネタバレ感想でした。

ちなみに、この作品の映像と音響はどちらも素晴らしかったと思いますよ。
全体的に色味を落とした白黒に近い映像は、多分宇宙人の使う文字に色調を合わせているんだと思うし、重低音で不安感を煽るような音響は映画館じゃないと味わえない体験でした。

あと、これは細かい情報ですが、イアンが二人の宇宙人につける固有名詞アボットとコステロは、映画評論家の町山さんによれば、アメリカの漫才師(二人組のスタンダップコメディアン?)の名前だそうです。

宇宙人とコンタクトを取るSFは映画・小説では沢山あると思いますが、本作がスゴイのは、「言語」によるコミュニケーションを哲学的に描いたと作品だということじゃないかと思います。そして、その極めて小説的な原作を映像作品に落とし込んだドゥニ・ヴィルヌーヴ監督他製作陣のセンスじゃないかなーと。

僕は、この映画を観たあと、すぐに本屋に寄って原作本を購入してしまったし、多分、この映画を観た人は、誰かとこの映画の話がしたくて仕方なくなるんじゃないかと思いますよ!

興味のある方は是非!!!

 

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