今日観た映画の感想

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スコセッシが『インファナル・アフェア』をリメイク「ディパーテッド」(2007) *ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、巨匠マーティン・スコセッシ香港映画「インファナル・アフェア」をリメイクしたアクションサスペンス『ディパーテッド』ですよー!

主演にマット・デイモンレオナルド・ディカプリオ、ギャングのボス役には名優ジャック・ニコルソンという豪華な布陣で挑んだ意欲作です。

で、この映画結構入り組んだ構造になっているので、今回は若干ネタバレありで感想を書いていきたいと思います。なので、これから本作を観る予定の方は、映画のあとに感想を読んでくださいね。

いいですね? 注意しましたよ?

 

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あらすじと概要

巨匠マーティン・スコセッシが、香港映画『インファナル・アフェア』をリメイクしたアクションサスペンス。マフィアに潜入した警察官と、警察に潜入したマフィアの死闘がスリリングに描かれる。レオナルド・ディカプリオマット・デイモンが主人公の警察官とマフィアをそれぞれ熱演。名優ジャック・ニコルソンがマフィアのボス役で脇を固める。ボストンを舞台に描かれた本作は、スコセッシ監督らしいバイオレンスシーンと、敵対組織に潜入した男ふたりの心理描写に注目。

トーリー:犯罪者の一族に生まれたビリー(レオナルド・ディカプリオ)は、自らの生い立ちと決別するため警察官を志し、優秀な成績で警察学校を卒業。しかし、警察に入るなり、彼はマフィアへの潜入捜査を命じられる。一方、マフィアのボス、コステロジャック・ニコルソン)にかわいがられて育ったコリン(マット・デイモン)は、内通者となるためコステロの指示で警察官になる。(シネマトゥディより引用)

 

感想

元ネタを知らない方が楽しめる!?

まず最初に書いておきたいのは、ネットレビューなどを何本か読んでみると、リメイク作品としての出来は良くないという評判だったんですが、僕は本作の元となったインファナル・アフェア』は観ていないんですね。

ただ、本作はインファナル・アフェア』をベースにはしているものの、マサチューセッツ州ボストン南部、通称「サウシー」というアイルランド系アメリカ人のコミュニティーや、実在のアイリッシュギャングをモデルにしたキャラクターなどの要素を入れ込んでいるので、結末なども含め『インファナル・アフェア』とは別物と考えたほうがいいのかもしれません。

登場キャラクターたち

本作の大筋はインファナル・アフェア』と同じで、二人の若者がギャングと警察にそれぞれ送り込まれ、密告者として任務を遂行する物語です。

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レオナルド・ディカプリオ演じるサリバンは、警察学校を卒業し私服刑事になりますが、父型の親族が全員ギャングのボス、コステロの息のかかった犯罪者という家系。
父親は犯罪には手を染めずに空港職員として働き、サリバンは母親の下で育ったんですね。
で、刑事になった途端に潜入捜査官としてコステロの一味になるよう命令されます。

一方のマット・デイモン演じるコリンは、子供の頃からコステロに可愛がられて育ち、コステロに言われて警察学校へ。
同じく私服警官として州警察の組織犯罪担当の部署に配属されます。
そこで彼はコステロの手駒として、警察の動向をスパイしているわけです。

で、冷酷無比なアイリッシュギャングのボス、フランク・コステロを演じるのが名優ジャック・ニコルソン
ちなみにこのフランク・コステロは架空のキャラクターですが、実際に「サウシー」を牛耳っていたアイリッシュギャングのジェームズ・ジョセフ・バルジャーがモデルになっているそうです。

ブルーレイの特典映像では、このバルジャーの経歴が解説されてるんですが、バルジャーの写真を見ると、ジャック・ニコルソンが容姿をかなりバルジャーに寄せている事が分かりますね。

本作の脚本を担当した ウィリアム・モナハンは、このボストン南部の出身だそうで、バルジャーについても詳しく、劇中のコステロの性格や言動はバルジャーそのものだそうです。こんな人絶対近づきたくないw

また、コステロFBIに情報を流す代わりに逮捕されないという設定も、実際のバルジャーと重なるんだそうですね。

サウシーと差別

ご存知の様に米国は移民の国でして、なので肌の色だけでなく白人同士でも差別があるそうです。
物凄くざっくり書くと、アメリカ人の圧倒的多数はイングランド系で、アイルランドイングランドに支配されていたこと。
また、カトリックプロテスタントというキリスト教派閥の違いなどから、アイルランド系アメリカ人は差別を受けていたようなんですね。(その他にも入植の順番とかもあるっぽいですが)

なので、アイルランド系の「サウシー」の人々は繋がりが強く、政府や警察に頼らずコミュニティーの中で問題を解決するという背景があり、そんな背景の中からバルジャーのようなギャングも多数生まれてくるわけです。
スコセッシが好んで描くイタリア系ギャングも同じような背景があり、本作の当時も差別によって選べる職業が少ないため犯罪組織を選ぶ若者が多いようで、劇中の「警察かギャングのどちらかしか選べない」というコステロのセリフはここから来ているわけですね。

冒頭、先輩刑事ディグナム(マーク・ウォルバーグ)がディカプリオ演じるサリバンに罵倒罵声侮辱的な言葉を吐くんですが、それはサリバンの潜入捜査への適正を確かめるだけでなく、多分アイリッシュ系の(しかも父型の親族がもれなくコステロ配下の人間だった)サリバンに対しての差別心があるんでしょうね。

また、順調に出世していくコリンへの同僚や上司の態度が何となく冷たいのも、同じくアイリッシュ系という彼の出自が関係しているんだと思います。

まったく正反対の二人

ここから、サリバンはギャングの構成員として、コリンはエリート警察官として、それぞれの組織(サリバン→警察・コリン→ギャング)に情報を流していくわけですが、二人の置かれた状況は正反対。

コリンはエリート警察官として順調に出世し(コステロに手柄を回してもらってるから)、素敵なマンションに住んで精神科医の彼女も出来ます。
対して、サリバンの方はギャングに信用されるために経歴を消して刑務所に入り、ギャングの取立て、望力、殺人などを一年以上見せられ、しかもバレたら即殺害されるという緊張の日々。彼は次第に心を病んでいきます。

そんな正反対な二人を繋ぐのがヴェラ・ファーミガ演じるマドリンで、コリンと恋人になった彼女の「患者」として訪れるのがサリバン。
やがて、マドリンはサリバンにも惹かれていき……。っていうね。

情報が筒抜けなので、双方にスパイがいる事を悟った二人は、互いの正体を探るために罠を張り、お互いの情報源を使って、通報者の正体を突き止めようとします。

そこはインファナル・アフェア』と同じで、いつサリバンとコリンの正体がバレるのか、双方の駆け引きが、本作を引っ張る物語の牽引力となるのです。

封筒の中身

で、色々あってついにお互いの正体を知った二人の対決となるんですが、その前にサリバンはマドリンに一通の封筒を託します。
この封筒の中身についてはネットレビューでも諸説あるようですが、僕はこの封筒にはコリンが内通者であることの証拠(か告発文)が入っていて、自分が死んだ場合ディグナムに渡して貰う手はずになっていたんだと思います。
唯一信用出来る上司が亡くなり、他にもギャングの内通者がいるかもしれないと思ったサリバンは最後に、自分を嫌い、上司を殺され、アイリッシュ系を憎んでいたディグナムだからこそ信用し、全てを託したんじゃないかなーと思うんですよね。

面白いけど……。

と、実に盛りだくさんの2時間30分で、個人的には凄く面白かったんですが、ただ、色々盛り込みすぎて全体的に散らかっている感じがある気がしました。
それでも、映画としては十分に面白いんですが、スパイサスペンスというコンセプトが、スコセッシの持つカラーを薄めてしまった感が否めないように思いましたねー。

舞台もニューヨークではなく、ギャングもイタリア系じゃなくてアイリッシュ系だったからか、スコセッシのギャング描写がいつもより距離があったように見えたというか。
なので、スコセッシのギャング映画を期待した人には少々物足りなさが残るだろうし、インファナル・アフェア』のリメイクとして観た人にはコレジャナイ感があったんじゃないかと思います。

ただ、映画職人としてのスコセッシの手腕はさすがで、僕は2時間30分が早く感じたし、物語的にもとても面白かったですよ。

興味のある方は是非!!!

 

他人事と割り切れない恐怖「葛城事件」(2016)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年公開された『葛城事件』ですよー!
まず最初に一言で感想を言うなら地獄のような映画でした!(褒め言葉)

昨年は本当に邦画の当たり年って言われていて、特に振り切ったバイオレンス系映画が何本も公開されたわけですが、本作はそんな作品群の中でも、一番観ててしんどい作品なんじゃないかと思いますねー。

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あらすじと概要

劇団THE SHAMPOO HATの旗揚げメンバーで劇作家にして、『その夜の侍』で監督も務めた赤堀雅秋がメガホンを取ったヒューマンドラマ。次男が無差別殺人を起こして死刑囚となってしまったことで運命が狂い出した、ある家族の行く末を見つめる。『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』などの三浦友和、『さよなら歌舞伎町』などの南果歩をはじめ、新井浩文若葉竜也らが出演。家族、死刑、贖罪(しょくざい)などさまざまなテーマをはらんだ物語に圧倒される。

トーリー父親から受け継いだ小さな金物屋を懸命に切り盛りし、マイホームを手に入れ、妻の伸子(南果歩)と共に長男・保(新井浩文)と次男・稔(若葉竜也)を育て上げた葛城清(三浦友和)。理想の家族と生活を築いたと考えていた彼だったが、21歳になった稔が8人を殺傷する無差別殺人事件を起こして死刑囚になってしまう。自分の育て方に間違いがあったのかと清が自問自答する中、伸子は精神的に病んでしまい、保は勤めていた広告代理店を解雇される。やがて、稔と獄中結婚したという女・星野が現れ……。(シネマトゥディより引用)

感想

実際の連続殺人事件をモチーフにした舞台劇の映画化

赤堀雅秋監督は劇作家でもあり、本作は元々ご自身の戯曲を映画化しているらしいんですね。
僕は舞台演劇は門外漢ですが、確かにそう言われてみれば、劇中の登場人物の台詞回しとか少し舞台劇っぽい感じはしました。

で、どんな内容かといえば「連続殺人加害者の家族の物語」でして、葛城家の次男が連続殺人で死刑になるまでと、そこに至る家族の過去を交互に見せていくんですね。
「加害者の親族映画」って、これまでに何本も作られてると思うんですが、最後の方でいい話っぽくまとめられてる作品が多くて、ここまで身も蓋もない作品は初めてじゃないかなと。

最初の戯曲では「附属池田小事件」をベースに、サイコパスの身内を持った家族の悲劇だったそうですが、映画化にあたって「土浦連続殺傷事件」や「秋葉原通り魔事件」、「池袋通り魔殺人事件」を参考にしつつ、「黒子のバスケ」脅迫事件の最終意見陳述の要素も入れ込んで本作が生まれたそうです。

ちなみに、本作の主人公は連続殺人犯の葛城稔ではなく、三浦友和演じる父親清なんですね。

どこにでも居そうな普通の家族

親から継いだ金物店を切り盛りしている清は、いわゆる団塊の世代の強権的な父親
これがもうホントどうにもならないオッサンで、南果歩さん演じる妻の伸子に暴力は振るうし、長男の嫁の家族を招いての食事会では店員にクレームつけるし(しかも超しつこい)、事件が起きた後も行きつけのバーに通って「地獄のリサイタル」を開き、稔と獄中結婚をしたという女、田中麗奈演じるという星野にチューしようと迫るというね。

この清は親から継いだ金物店しか知らないことがコンプレックスで、その裏返しで「自分の理想の家庭」に執着したり、他人にナメられないように攻撃的な言動をしたり、薄っぺらな言葉で社会を語ったり、家族を型に嵌めようと強権的になったりしてるんです。

妻の伸子は長年、そんな清に対して事勿れ主義の見て見ぬふりで、新井浩文演じる長男の保は父親に逆らう事が出来ず、若葉竜也演じる次男の稔はそんな父親を嫌悪しつつ、でも家族の中で一番清に似ています。

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そんな葛城家の(多分最初は)小さな歪みが、長年の蓄積でいつしか手のつけようのない歪みになって、劇中の「ある出来事」を境に家族は一気に崩壊してしまうんですね。

でも、葛城家の家族は決して特別じゃなくて、清も伸子も保も稔も、(少なくとも事件前は)全員がどこにでも居そうな普通の家族なんですね。

だからこそ、本作を観た人は自分の中に清や伸子や保や稔を感じ、「他人事」と割り切れない地続きの怖さを感じてしまうんだと思うんですよね。

語り部としての星野

そんな葛城家の崩壊を外から見る「語り部」の役を担うのが、事件を起こして死刑判決を受けた保と獄中結婚をする女、星野です。
彼女は死刑廃止論者で、保が事件を起こして死刑判決を受けた保を“改心させる”という信念から結婚したんですね。

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本作では、この星野との会話から事件前の回想シーンに入っていく構造で、観客は彼女を通して葛城稔が連続殺人事件を起こすまでの過程を知る構造になっていきます。

本作ではこの星野の設定が上手くて、彼女ってぶっちゃけ、感情移入出来ない観客の多くが嫌悪感を持つようなキャラクターなんですね。
監督は感情移入出来ない星野を語り部に配置することで、葛城家の家族が単純な加害者にも被害者にもならないように、観客が物語に入り込めないように突き放したバランスを取っているんじゃないかなと思いました。

リアルな連続殺人シーン

こうして、劇中で現在と過去を行ったり来たりしつつ、ストーリーはついにクライマックス、稔の連続殺人のシーンへと突入します。

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このシーンがすごいのは、ちっともドラマチックじゃないんですよね。
普通なら夥しい流血で、視覚的なショックをと考えそうだし(もし僕が監督ならそうすると思いますw)、画的にも稔に近い位置でカメラを回して、迫力と狂気をよりドラマチックに盛り上げそうなものですが赤堀監督は真逆で、あえて引きの画で血も殆ど見せず、まるで監視カメラ映像のような無機質な感じにしてるんですね。

それまで葛城家を寄りの画で極めて主観的に撮影していたのに、映画的に一番盛り上がりそうなこのシーンだけは、引きの画で客観的に見せているわけです。

それが逆に、リアルな事件現場のような凄惨さがあって超怖かったですねー。((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタ

そんな感じで本作は、120分間ずっと居心地が悪くて不快っていう地獄みたいな映画だし、僕は正直もう二度と観ないと思いますが、逆に言えばそんな気持ちになってしまうくらい映画の中に引き込まれたわけで、そういう意味では本当に凄い映画だと思うし、ただ嫌な気持ちになるだけじゃなく、本作を観た人は全員、葛城家の家族と自分を重ね合わせて「何か」を感じるのではないかと思います。

興味のある方は是非!!

 

有名俳優たちの本気の悪ふざけ「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」(2008)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ナイトミュージアム」を始め、数々の映画に出演、監督としても活躍しているベン・スティラーのコメディー作品『トロピック・サンダー」ですよー!

ベトナムで架空の戦争映画を作るという入れ子構造のコメディーで、日本でも知られるハリウッドスターが思いっきりバカをやってる作品です。

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概要とあらすじ

監督としても活躍する人気スター、ベン・スティラーが『太陽の帝国』に出演した約20年前にひらめき、長年企画を温め続けてきたサバイバル・コメディー。自己中心的な役者たちがアクション映画の撮影で東南アジアへ赴き、本物の戦争に巻き込まれてしまう。監督のベン共々主演を務めるのは、『スクール・オブ・ロック』のジャック・ブラックと『アイアンマン』のロバート・ダウニー・Jr。爆笑に次ぐ爆笑の展開と、多数の豪華ハリウッドスターによるカメオ出演が話題となっている。

ストーリー:落ち目のアクション俳優スピードマン(ベン・スティラー)は、戦争大作『トロピック・サンダー』での返り咲きを目指すことに。コメディー役者のジェフ(ジャック・ブラック)や演技派のラザラス(ロバート・ダウニー・Jr)とともに撮影に臨むが、クランクイン5日目で予算オーバーに陥ってしまう。あきらめ切れない監督は東南アジアのジャングルで撮影を強行しようとするが……。(シネマトゥディより引用)

 

感想

パロディーと悪ふざけと皮肉満載の120分

本作の構造を一言で言うと、「芝居だと思ったらマジのやつだった」映画です。
サボテン・ブラザース」なんかと同じ構造ですね。

ベトナム戦争を描いた映画「トロピック・サンダー」の撮影中、監督は曲者揃いの役者がまとめきれず、あるアクシデントから400万ドルの爆破シーンを大失敗。
撮影中止の危機に、同行していた原作者の入れ知恵で、監督はメインの役者5人をジャングルに置き去りにして隠しカメラで撮影しようとします。

ところが、そのジャングルには巨大麻薬組織「火炎龍(フレイミング・ドラゴン)」の麻薬製造工場が。
そして、主役のスピードマン(ベン・スティラー)が組織に捕まって……という物語なんですね。

で、この映画、とにかく全編に渡ってパロディーと悪ふざけと皮肉が散りばめられています。

まず、映画が始まった途端、架空の映画の嘘予告からスタート。
この段階で、色んな映画のパロディーが見て取れます。
そして劇中では、僕が分かる範囲だけでも「地獄の黙示録」「プラトーン」「ランボー怒りの脱出」の有名なシーンがありましたねー。

地獄の黙示録」に至っては映画の内容だけじゃなくて、撮影の裏側までパロディーしてたし、冒頭の無駄に残酷な戦闘シーンは「プライベートライアン」オマージュなのかな?

そんな感じで、映画好きの人にとってはパロディー元を探す楽しみもあると思います。

有名ハリウッドスターがそんな役で!?

本作では、主演兼監督のベン・スティラーを始め、「え、そんな人も!?」っていうハリウッドスターがビックリするような役で出演しています。

ベン・スティラー演じるタグ・スピードマンは、落ち目のアクション俳優。

 ジャック・ブラック演じるジェフ・ポートノイは、エディ・マーフィーばりに一人何役もこなすんですが、全員がひたすらオナラをするコメディーシリーズの主役。

ロバート・ダウニー・Jr演じるカーク・ラザラスは、オスカーを5度も受賞している演技派のスーパー役者バカで、「トロピック~」では、黒人軍曹を演じるために皮膚整形で本物の黒人になってしまいます。(多分、デ・ニーロアプローチのパロディ?)

ブランドン・T・ジャクソン演じるアルパ・チーノは強精飲料とサプリメント菓子のCMで一世を風靡した人気黒人ラッパー。

ジェイ・バルチェル演じるケヴィン・サンダスキーは冴えない無名俳優ですが、「トロピック~」のためにメンバーで唯一、新兵訓練キャンプに二週間参加しています。
ちなみにこの人、「ヒックとドラゴン」でヒックの声を演じた人なんですね。

その他にも、  マシュー・マコノヒートム・クルーズも出演してますよ。
っていうか、何してんだトム

劇中では、この出演者いじりもされてて、例えば劇中登場するパンダは、ジャック・ブラックが声優を務めた「カンフー・パンダ」だろうなーとか、芝居に入り込み過ぎて自分を見失う件は、誰ってことはないのかもですが米俳優の演技メソッドでそうなっちゃう人も多いっていいますしね。
あと、ヘロイン中毒ネタは、ロバーt…ゲフンゲフン

莫大な予算を掛けた内輪ネタ?

そんな感じで、ハリウッドあるある満載の本作は、いわば豪華メンバーで多額の予算を掛けた内輪ウケ映画と言えなくもないんですよね。
現行の映画製作システムへの皮肉も、“あの人”が演じるスポンサーの仮託する形で、毒っ気たっぷりに盛り込まれてたりするし。

そういう意味では観る人を選ぶ映画とも言えるかもですが、そんな事は別に知らなくても、こいつらのバカバカしい掛け合いや、無駄にド派手な映像だけでも十分に楽しめますよ。

ぶっちゃけ内容なんか無いに等しいので、お菓子とコーラをお供に、友達とワイワイ楽しむのには、丁度いい映画って言えるかもしれません。

興味のある方は是非!

 

 

イケてなさ過ぎる少年の青春!「バス男(ナポレオン・ダイナマイト)」(2004)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、本国アメリカで2004年に公開(日本ではDVDスルー)され、カルト的人気を博したコメディー『バス男』(ナポレオン・ダイナマイト)ですよー!

アメリカの片田舎を舞台にした青春コメディーなんですが、何ていうか見てる間中ずっと膝カックンされ続けてるような映画でしたww

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画像出典元URL:https://www.amazon.co.jp

あらすじと概要

製作費わずか400万円ほどの超インディーズ作品ながら、全米で大ヒットを記録した脱力系学園コメディ。アメリカの片田舎に暮らす冴えない高校生のイケてない日常が独特のダルなリズムで綴られてゆく。アイダホの高校生ナポレオン・ダイナマイト。ルックスもダサければ頭も良くない彼は、当然のように学校でも友達もなくイジメにあってばかりの毎日。そんな彼にも、メキシコ人の転校生ペドロという友だちが出来た。女の子にモテたいペドロは無謀にも生徒会長に立候補、ナポレオンも彼の応援に精を出すが…。(allcinema ONLINEより引用)

 

感想

邦題問題

まず、最初に触れておかないといけないのは、何と言ってもこのバス男という邦題ですねw
この邦題は、当時流行っていた「電車男」にあやかって付けられたんですが、主人公がバス通学っていうだけで(しかも最初の一回くらいしか出てこないしストーリーにも絡まない)「電車男」とはまったく共通点がなかったため「日本一最悪な日本語題」と大ブーイング。
2013年10月には、電車男ブームに便乗したタイトルを付けたことに対する謝罪文を付けて、原題の『ナポレオン・ダイナマイト』へ改題して再発売されたそうです。
ちなみに、「ナポレオン・ダイナマイト」は主人公の名前です。

正直、観る前は僕も「非道いタイトルだなー」と思ってたんですが、実際映画を観てみると、邦題考えたの人の気持ちも少しは分からなくはないなーと思ったりww
庇うわけじゃないですが、どうにも掴みどころのない作品だし、役者陣も有名な人は一切出てないし、「これ、どうやって売ればいいんだ」って頭を抱えた末に、思い余ってこの邦題にたどり着いてしまったんだろうなぁって思いましたね。
まぁ、それにしたって非道いセンスですけども。

イケてなさすぎる主人公の痛い青春描写がリアル

本作はアメリカの片田舎に住む、ぼっちのいじめられっ子が主人公の青春映画です。
いわゆるスクールカーストも出てくるし、イケてるグループ(ジョックス)にイケてないグループ(ギーク)が虐げられる様子は、昨今の青春映画でよく観ますよね。

ただ、本作が他の作品と一線を画すのが、そのキャラ描写のリアルさ。

ジョン・ヘダー演じる主人公のナポレオンは、ぼっちでいじめられっ子の高校生。ノッポでくせっ毛でいつも口が半開きで、一発で嘘とバレる見栄を張り、すぐ仮病で帰ろうとするし、そのくせ内弁慶で、体育の時間はポールにロープで繋がれたボールを叩いてグルグル回す謎のスポーツ? をしていいるっていう、学年に一人はいるコミュニケーション超ど下手な少年です。

僕も地元のコミケでこういう人よく見ましたよ。

二枚目役者が“演じる“「映画のイケてないグループのいじめられっ子」じゃなくて、もうこれ素なんじゃないの!? っていうくらいのリアルさw

で、ジョックスのいじめっ子や、イケてる女子ももちろん登場するんですが、総じて全員ダサいんですよね。
アメリカの田舎の高校って、多分本当にこんな感じなんだろうなーって思っちゃう。(もちろんそんな事はないんでしょうけどw)
ほら、他の映画だと同じ設定でも役者自体に華があるし、そこはかとなくオシャレさや都会感が出ちゃうじゃないですか。
本作にはそういう嘘っぽさが皆無なんですよね。

その他の主要キャラクターは、
引きこもりで出会いチャットばっかしてる兄のキップ(アーロン・ルーエル)
元ジョックス? でラグビー部だった過去の栄光にすがる叔父リコ(ジョン・グリース
メキシコ人の転校生でナポレオンの友達ペドロ(エフレン・ラミレッツ)
本作のヒロインで進学資金を稼ぐために「デビーのグラマラスショット」という写真屋をしてるイケてない女子のデビー(ティナ・マジョリーノ)

本作は、そんな彼ら(彼女ら)のイケてなさ過ぎる日常を描いた作品なのです。

ねぇ、いつになったら物語が動くの??

とはいえ映画ですからね、コッチは何かをキッカケにナポレオンに変化が訪れて成長し、学校でフューチャーされる的な展開になるんだろうと思って観てるわけですよ。
ところが、いつまで経っても何も起こらないっていうww

ぼっちだったナポレオンに、ペドロっていう友達ができたり、デビーっていう気になる女の子が出てきたり、兄貴と謎武術のジムに見学に行ったり、養鶏場にアルバイトに行ったり、利き牛乳コンテストに出場したり、ダンスパーティーで女の子誘ったり、タイムマシーンを使ったり、兄貴がチャット相手の女性と会ったりする。
そんなエピソードの度に「お、ここから物語が動くのか!?」と期待するんですが、ナポレオンには何の変化も起こりませんw

というのも本作は、クライマックスの「あるシーン」一点に物語のカタルシスを集約してるからなんですね。

で、思い返してみれば上記のエピソードで、実はダメダメ少年のナポレオンが、
すこーーーーーーーーーーーしずつ成長してるっていう、本当に小さな小さな青春ストーリーなのです。

イケてなさすぎるキャラクターたちに寄り添う作品

そして見ているコッチも、最初こそナポレオンに対して全く感情移入できず、むしろちょっとイライラしてしまうんですが、ストーリーが進むうち、いつの間にかナポレオンに感情移入してしまっているんですよね。

それは、本作の監督 ジャレッド・ヘスが、ナポレオンやその周囲のダメダメだけど、どこか憎めないキャラを、単なる笑いものとして描くのではなく、彼ら彼女らに寄り添うような視点で物語を紡いでいるからなんだと思います。

だからこそ、ラストシーンではコッチも爽やかな気持ちになれるし、本作がカルト的人気を博すのも分かる気がしました。

ただ、公開後に追加撮影されたという、エンディングロールのあとのおまけシーンは蛇足だったような気がしますがww

好みは分かれそうな作品ですが、個人的には観て良かったですよー!

興味のある方は是非!!

 

 

ボンクラとマヌケが織りなすノワールコメディー「ビッグ・リボウスキ」(1998)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、今やハリウッドのヒットメーカーとなったコーエン兄弟
1998年製作のコメディ作品、『ビッグ・リボウスキ』ですよー!

ヒッピー崩れのお気楽男、“デュード“ことジャフ・リボウスキが、同姓同名の富豪と間違われて騒動に巻き込まれていく顛末を描いたドタバタノワールほんのりハードボイルドコメディー(なんだそりゃw)です。

 

 

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あらすじと概要

鬼才コーエン兄弟が放つ、奇妙で可笑しい人間ドラマ。同姓同名の人物と間違われた男が巻き込まれる事件の顛末を、多彩なキャラクターを交えながらユーモラスに描く。『ファーゴ』で見せた人間の滑稽さをクローズ・アップコーエン兄弟お得意の不条理な可笑しさに満ちた傑作。ジェフ・ブリッジズ、ジョン・グッドマンスティーヴ・ブシェーミ共演。無職で気ままに暮らす“デュード”こと、ジャフ・リボウスキ。彼の家に突然、2人のチンピラがやって来る。女房の借金を返せと怒鳴るチンピラに、全く身に覚えがなく呆然とするリボウスキ。その後彼は、同姓同名の大金持ちと間違えられたと気づくが・・・。(allcinema ONLINEより引用)

 

感想

コーエン兄弟とは

ジョエル・コーエンイーサン・コーエンは、監督、脚本家、プロデューサーなど二人三脚で映画製作を行っている兄弟。
1984年に初監督作「ブラッド・シンプル」を発表以降、「赤ちゃん泥棒」「ファーゴ」「ノーカントリー」など数々のヒット作を手がけ、2014年からはテレビドラマ版「FARGO/ファーゴ」をスタートするなど、ハリウッドの大ヒットメーカーです。

作風は世相を皮肉ったブラックコメディーが得意で、ボンクラ男が犯罪や事件に巻き込まれたり、本の出来心でやった事が周囲を巻き込む大事件に発展していく物語が多い印象ですかねー。

本作では、ヒッピー崩れのお気楽ボンクラおじさん“デュード“ことジャフ・リボウスキが、同姓同名の大富豪に間違われて非道い目にあったのを皮切りに、その富豪との嫁の誘拐事件に巻き込まれ、誘拐犯、ポルノ王、中学生、保安官、ボーリング仲間の意識高い系ベトナム退役軍人に振り回されていきます。

オフビートな笑いと巻き込まれ型ボンクラ主人公

本作の舞台はジョージ・H・W・ブッシュ政権下、湾岸戦争のころのロサンゼルス。
そんな事とは無関係に、友達でベトナム退役軍人のウォルター(ジョン・グッドマン)、ドニー(スティーヴ・ブシェミ)とボーリング大会目指して練習している“デュード“ことジャフ・リボウスキ(ジェフ・ブリッジス)はある日、同姓同名の大富豪、通称“ビッグ・リボウスキ“と間違われて、借金取りに暴行された上に部屋の敷物におしっこをかけられます。
このビッグ・リボウスキの若い嫁がアチコチに借金を作っていたというんですね。

デュードは敷物の弁償をしてもらおうとビッグ・リボウスキの邸宅に行きますが、罵られ馬鹿にされ、けんもほろろに追い返されてしまいます。
そしてデュードは、この一件をキッカケに、次から次へと厄介に巻き込まれていくというストーリーなのです。

デュードは完全巻き込まれ型主人公で、どういうわけか家にやってきた暴漢に殴られ、蹴られ、トイレの便器に顔を突っ込まれ、敷物におしっこをかけられ、運び屋をやれば戦争ノイローゼの友人に邪魔をされ、車は盗まれ燃やされてと、もう散々w

しかも、この映画でデュードに関わるやつらは、誰一人として人の話を聞かない奴ばっか。
主人公がこれだけ非道い目に遭えば、少しは陰惨な内容になりそうなものですが、基本登場するのは(デュードも含めて)全員バカか間抜けなので、観ていて思わず笑っちゃうんですよね。
あと、嫌な感じにならないのは、デュード自身のノンキなキャラクターもあるんでしょうけど。

ポッコリお腹のいいオッサンなのに、短パン半袖、上からナイトガウンみたいなロングニットのカーディガンにサンダルで歩き回り、元ヒッピーらしく長髪にヒゲモジャ。
無職でボンクラ仲間とボーリングチームを組んでいて、楽しみは“葉っぱ“とボーリングとサビサビのポンコツ車でドライブっていう典型的なダメ人間ですが、「友達だったら、頼りにはならないけどきっといいヤツ感」が出てて、非道い目に合わされても何か飄々としてるんですよね。

ちなみにデュード(伊達男とか大将というニュアンスらしい)という名前は「カッコイイ」からと勝手に名乗ってるだけで、本名とは何の関係もありません。(中二病かw)

コーエン兄弟版「ロング・グッドバイ

1973年公開の「ロング・グッドバイ」という映画があります。
「ロング~」はレイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説『長いお別れ』の映画化ですが、原作を大きくアレンジしていて、主人公探偵フィリップ・マーロウは完全巻き込まれ型のダメ探偵なんですよね。
いつもヨレヨレのスーツにボサボサ頭で飄々としたマーロウは、本作の主人公デュードそのもの。

つまり本作はコーエン兄弟版「ロング・グッドバイ」なんです。
なので、こんなにゆるい作品なのに、全体の構造はハードボイルド作品だったりします。本格ミステリー的な安楽椅子探偵じゃなくて、足で調査して真実のピースを見つけ、事件を解決していく物語ですね。

そういえば、2015年公開の『インヒアレント・ヴァイス』も本作と同じで「ロング・グッドバイ」系譜の作品ですが、むしろ雰囲気は本作に近いかもしれません。

そして、この3本に共通するのは、主人公は何らかの事件に巻き込まれて右往左往した挙句に、何かを「得る」んじゃなくて「失う」けれど、それでも日常は続いていくという物語なんですねー。

個性豊かなキャラクターを楽しむ映画

本作に登場するキャラクターは、主役のデュードを筆頭に、みんな個性豊かです。
大富豪ビッグリボウスキ、苦労話と自慢話が大好きで、いつも虚勢をはっているし、その娘はよく分からない現代美術? をやってるフェミニスト? 
友達のウォルターはいわゆる「意識高い系」アメリカ人で、別れた奥さんに未練があり、他にもポルノ王やら、間抜けな誘拐犯やら、車泥棒の中学生やら、全員どうかしてる奴ばっかなんですが、でもみんな何処か憎めないんですよねw

本作は、そういう憎めないバカたちを愛でて楽しむ映画なんじゃないかと思います。
そういう意味では、ちょっと落語っぽい雰囲気もあるかな。

あと、デュードのもうひとりの友人で、多分一番まともっぽいドニーを演じてるのは、みんな大好きスティーヴ・ブシェミですよー!
個人的に、スティーヴ・ブジェミが出てる映画にハズレなしって思ってるんですが、本作もやっぱり面白い映画でした。

興味のある方は是非!!!

 

▼関連作品感想▼

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不器用で欠点だらけな男がどん底から立ち上がる「サウスポー」(2016) *ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、ボクシングの元世界チャンピオンがどん底からの再起を図る物語
『サウスポー』ですよー!

出演は「ナイトクローラー」の怪演でファンの注目を浴びるジェイク・ギレンホールなど名優揃い。
「負け犬の復活劇」という何百回、何千回と描かれてきたテーマですが、それゆえ普遍的で力強い作品でしたー!

で、今回ある程度のネタバレは本作の魅力には差し支えないと思うので、そこそこネタバレありの感想になります。
なので「何も知らずに観たい!」っていう方は、先にDVDで本作を観てから、この感想を読んでくださいね。

いいですね? 注意しましたよ?

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画像出典元URL:http://eiga.com

あらすじと概要

愛する妻がこの世を去り、娘とも引き離され全てをなくしたボクシングの元世界チャンピオンが、再び頂点を目指し娘との絆を取り戻すため奮闘するドラマ。どん底からの再起を図る主人公を、『ナイトクローラー』などのジェイク・ギレンホールが体当たりで演じる。共演にはオスカー俳優フォレスト・ウィテカー、『007』シリーズなどのナオミ・ハリス、『スポットライト 世紀のスクープ』などのレイチェル・マクアダムスら実力派が集結。監督を、『トレーニング デイ』などのアントワーン・フークアが務める。

ストーリー:怒りを力に変える過激な戦闘スタイルのボクサー、ビリー・ホープ(ジェイク・ギレンホール)は、試合にまつわるいざこざが原因で妻を亡くす。生きる気力をなくした彼は世界チャンピオンの座から転落し、まな娘とも離れ離れになってしまう。全てをなくしたビリーはアマチュアボクサーのトレーナーを務めるティック(フォレスト・ウィテカー)の協力を得て、栄光と娘の信頼を取り返すため再起を図る。(シネマトゥデイより引用)

 

感想

ベタでシンプルで力強いストーリー!

本作をざっくり一言で言うと「負け犬ボクサーが再起をかけて立ち上がる」というロッキー的なストーリーなんですが、主人公のビリー・ホープは最強の世界チャンピオンからスタートするので、実質「ロッキー3」的な物語って言ったほうがしっくりくるかも。

世界チャンピオンのホープは怒りをパワーに変えて戦う、ゴリゴリのインファイターとしてチャンピオンの座を守ってきたわけですが、敵ボクサーとのトラブルから最愛の奥さんが死亡。
悲しみに暮れるホープに追い打ちをかけるように支払いは滞り、失意のうちに防衛戦に臨むもボロ負け、挙句レフリーへの暴行で1年間のライセンス剥奪。
自殺を図り、財産を失い、愛する一人娘からも引き離され、ホープはまさにどん底まで落ちていくんですね。

本作はそんな彼が名トレーナーとの出会いで生まれ変わり、仲間の協力を得て再び王座に返り咲くまでを描いた、手を返し名を変えて何百回と作られてきたベタベタなストーリーなのです。

しかし、何百回と描かれてきたということは、逆に言えばそれだけ魅力的な題材なわけで、本作もストーリー自体に目新しさは微塵もないものの、“男の子“が観ればしっかり感動してしまう、ある意味王道のストーリーなんですねー。

魅力的なキャラ設定

本作の主人公、ジェイク・ギレンホールが演じるビリー・ホープと奥さんのモーリーンは施設育ちで、これまで二人三脚でボクシングビジネスで成功を収めてきたわけですが、ホープは防御はせずに打たれたら倍打ち返すという完全攻撃型のボクサーで、しかも自分の怒りをコントロール出来ない超短気な男。

奥さんはそんな彼を心配し、ファイトスタイルを変えて我慢を覚えるよう再三注意しますが、当のホープはバカなので聞く耳を持ちません

ボクシングで成功、愛する奥さんと一人娘のレイラもいて、幸せの絶頂にある彼ですが、彼自身の正確が幸せを破壊する時限爆弾である事が、冒頭の試合や会話から分かるようになっています。

超短気でバカなホープ、賢くて優しい奥さん、奥さん似でちょっと生意気な愛娘、ホープから奥さんの仇(かたき)のボクサーミゲルと手を組むプロモーター、貧しい子供たちにボクシングを教えホープを鍛える名トレーナーと、本作に登場するキャラクターは限りなくボクシング物語のテンプレ通りだけど、とても魅力的なキャラクターばかりで、しかも、そんな魅力的なキャラクターを演じるのは、フォレスト・ウィテカーレイチェル・マクアダムスなど実力派ぞろい。
もう、絶対面白くなる要素満載なわけですよ。

確かに面白かったし感動したんだけど……。

というわけで、観ている間はとても面白かったし、感動したし、興奮しました。
全てを失ったホープを救う丹下段平的トレーナーのティックの指導で、今まで攻撃一辺倒だったホープがディフェンスを学び、人間的にも成長していくシーンはアガるし、世界チャンプになったミゲル相手に、最初は劣勢だったホープがティックに教わったディフェンス技術で持ち直し、必殺パンチで勝利するシーンは大興奮でした。
一度は嫌われた娘レイラとのラストのシーンも、グッときちゃいましたしねー。

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ただね、観終わってみると何かこう物足りなさが残るんですよねー。
何ていうか、喉ごしが良すぎる感じなのです。

一つ一つのエピソードがサラッと流れすぎて心に残らない感じで、脚本に描かれたシーンを義務的に映像に起こしているような、っていうか脚本自体、一つ一つのエピソードがストーリーを進めるためのピースにしかなっていないというか。

ホープの絶望を描いた前半までは、わりといい感じでコチラもググッと引き込まれるんですが、そこから復活していくエピソードの一個一個があっさり描かれすぎな印象なんですよね。

特に気になったのが、トレーナーのティックのジムに通う黒人少年 ホッピーの件(くだり)。
本作の中でもかなり重要なシーンだと思うんですけど、ティックのキャラクターを引き立てるためのエピソードみたいに見えちゃうんですよね。

あと、最後の試合のクライマックスで、劣勢のホープがディフェンスを使って徐々にミゲルを追い詰めていくシークエンスも、必殺のパンチを繰り出してミゲルを倒すシーンも、全部トレーナーのティックの指示がキッカケなんですよ。
いや、そこはホープが自分で変わるキッカケがあって、そこから反撃→必殺パンチっていう流れにしてこそ盛り上がるんじゃん! っていうね。

リアルなファイトシーンにこだわったのかもしれませんが、フィクションなんだしテーマ的にも、ホープが自ら気づいて変わるっていう流れにして欲しかったんですよねー。

それと、個人的に凄く引っかかったのは、奥さんのモーリーンが亡くなるキッカケの発砲シーン。
多分、ミゲルの関係者のせいでモーリーンが亡くなったんだと思うんですよね。
ただ、このシーンがゴチャゴチャしててちょっと分かりづらいし、犯人が判明したのか、その後どうなったのかの決着が描かれてないんですよ。(ですよね?) 

ホープの仲間が相手の銃に気づき、自らも銃を取り出したために警官に押さえ込まれるシーンもあったんですが、まさか、そのまま誤認逮捕ってことはないよね?
で、その件はそのまま放りっぱなしなので、そこが引っかかってモヤモヤしちゃうんですよね。
ミゲルの身内が犯人で捕まったなら、ボクシングの観客はミゲルのことをもっとバッシングするんじゃないかと思うのですが……。うーん。

結局、ここのモヤモヤが晴れないので、個人的にその後の展開に入り込めませんでした。
どこか見逃したのかなー??

ホッピーのシーンもそうですが、僕はわりと各エピソードに決着をつけない投げっぱなし感が多いような気がして、キャスト陣の演技は良かっただけに残念な感じがしました。

とはいえ、ボクシングシーンは迫力満点だし、奥さんは美人で娘も可愛いし、「ナイトクローラー」のジェイク・ギレンホールしか観たことのない人は、本作を観たらビックリするんじゃないかと思いますよ。

興味のある方は是非!

 

 ▼ジェイク・ギレンホール主演作!

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韓国版レオン!? 「アジョシ」(2011)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、2010年韓国ナンバー1の大ヒットヒットとなった映画
『アジョシ』ですよー!
母なる証明』のウォンビンと『冬の小鳥』で絶賛された子役キム・セロンが共演する、一言で言うなら「韓国版レオン」的な映画でしたー!

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あらすじと概要

2010年に韓国で公開され、その年のナンバーワンヒット作となり、韓国のアカデミー賞ともいうべき大鐘賞主演男優賞を受賞したほか、計8部門にノミネートされたアクションムービー。心に闇を抱えながら生きる男と、彼と心を通わせる少女のドラマが展開する。主演は『母なる証明』のウォンビン。『冬の小鳥』で絶賛された子役キム・セロンが少女を演じる。ウォンビンが鍛え上げられた肉体で披露する本格アクションも見どころだ。

ストーリー:過去の出来事が原因で心に闇を抱え、街の片隅で質屋を営んで生きる男テシク(ウォンビン)。隣に住む孤独な少女ソミ(キム・セロン)は、テシクをただ一人の友達として慕っていたが、ある日、ソミが麻薬中毒の母親共々犯罪に巻き込まれ、組織に誘拐されてしまう。ソミを救い出すため、立ち上がったテシクは……。(シネマトゥデイより引用)

 

 

感想

僕はそんなに頻繁に韓国映画って観ないんですが、観るときは大抵日本の映画ファンの間でも評判のいい作品を観るので、今まで韓国映画で「これは外れ」という作品には当たったことがないんですよね。
本作もネットの評判通り、面白かったですよー!

コリアノワール特有の痛みと、孤独な魂が触れ合う美しさ

本作は、簡単に言うと「質屋のおじさんが隣人の少女を助けるために巨悪に挑む」物語です。
そんな、質屋のおじさん(アジョシ)テシク役に韓流四天王? の一人、ウォンビン
隣人の不憫な少女役ソミは、『冬の小鳥』という韓国映画で絶賛された天才子役、キム・セロンが演じています。

いや、ウォンビンにおじさん感はないだろう! と思われる方もいるかもですが、これはあくまでソミ視点ですからね。10歳位の子から見ればウォンビンもおじさん枠なんでしょうね。
そしてこのテシク、ただの質屋のおじさんではなくて、いわゆる「ナメてた相手は殺人マシーン」系譜の謎多き男。

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“ある過去“が原因で、世間との関わりを絶ち質屋として生きる孤独な男(実は殺人マシーン)と、ヤク中の母親と二人暮らしで周囲から忌み嫌われる孤独な少女。
地獄のような劣悪な環境で、似た者同士の孤独な二人にとって互いの存在だけが互いの支えになっているんですね。

で、このソミ役のキム・セロンちゃんの演技が実に良くて、もうね、おじさん号泣ですよ!

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小汚い路地の隅に膝を抱えてちょこんと座ってる所在なさげな佇まいとか、母親がドラッグでラリって変な声を出してる時にフードの上から耳をふさいで地面を眺めてるトコとか……もう、誰か助けてあげてー!・゜・(ノД`)・゜・と。

そんな彼女が唯一懐いているのが、隣の質屋テシク。
野良猫のようにチョッカイをかけてくるソミに、優しい言葉とか一切かけない(関わらないようにしてる)んですが、それでもご飯を食べさせてあげたりソミママがラリってる時は家に泊めてあげたりするんですね。
ここで、テシクもまたソミを憎からず思っている事が分かるのです。

と、ここまで読んでくれた方は、なんとなく既視感があるんじゃないかと思います。
そう、この物語はいわば「韓国版 レオン」みたいな物語なんですね。

で、この二人の交流と同時進行で、もう一つの流れが進行していきます。
韓国のギャングと臓器売買に手を染めるマンソク兄弟が、麻薬の取引をしているんですが、なんとソミママがこの麻薬を盗んでしまうんですね。

って、何してんだこのバカっ母がー! (´・ω・)つ)3゚)∵ゴッ!

そして案の定、ソミ母子はマンソク兄弟にさらわれ、テシクも犯罪に巻き込まれていくというストーリー。

ここから、コリアンノワール特有の「痛い描写」が随所に入っていきます。
ソミママが、ドライヤーを肌にギューっと押し付けられる、地味だけどイヤンな描写あり、斧で頭をカチ割られるオッサンがいたり、生きたまま臓器を抜かれた死体が登場したり、電動釘打ち機で太ももを貫かれたりと、実にバリエーション豊か。
ただ、以前見た韓国作品に比べればグロ度は幾分少なめかなーと思いましたねー。
R-18じゃなくR-15指定ですしね。

ストーリー的に、観客がドン引きするような極端に痛い描写は控えたのかもしれません。

ウォンビンの肉体美とコリアンアクション

で、今回観て思ったのは、やっぱ韓国の俳優さんは演技の幅が広いなーと。
いや、正直に言えばウォンビンという人をまともに観たのは本作が初めてなんですけど、体脂肪何%だよ! という細マッチョな肉体美で、アクションもキレッキレでした。

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そのアクションも、米映画のヘビー級なアクションではなく、かといって香港や日本とも違う、韓国独特の軽量級のスピードと痛みが伝わる殺陣なんですよね。
特にクライマックスのナイフを使ったアクションは、スピードと痛さが伝わってきて、ドキドキですよ。

でも、本作の白眉はキレッキレなアクションではなくて、ウォンビンの表情なんですよね。
ある瞬間を境に彼が見せる幽鬼のような表情は、なまじ整った顔立ちなだけにゾッとするような絶望を感じさせるわけです。

あと、今回の悪役キム・ソンオとキム・ヒウォンは、少々オーバーアクトな感じなんですが、これは多分映画の色に合わせて、わざとデフォルメしてるんだろうなーって思いました。
で、この二人がラスボスな割に小物感がすごいのも、逆にリアルな感じがしましたね。
俗っぽくて身も蓋もない感じっていうか、こいつらに殺されたら浮かばれないなー感っていうか。

100点満点ではない

と、ここまで褒めてきたわけですが、個人的に決して100点満点の傑作というわけではありません。
やりたいことはよく分かるものの、やっぱり若干マンガ的な感じがあり、それがテーマ的に若干マイナス方向に働いてるし、作品としての底が浅さに繋がってる感じがしました。

ラストシーンも、気持ちはよく分かるけど、個人的には蛇足かなーと。
もちろん、テーマ的にも映画のオチとして必要なシーンなのは分かるし、着地点としても良い感じんですけど、ちょっとエモーショナルすぎというか。

とはいえ、アクションシーンは超カッコイイし、キム・セロンちゃんもいいし、約2時間の作品ですが、観ている間退屈はなかったです。

興味のある方は是非!

 

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