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「ラブ&ピース」(2015) 感想

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、日本映画界が誇る鬼才 園子温監督の『ラブ&ピース』ですよー!

恋愛とファンタジーと怪獣と寓話を一つの鍋にぶっこんで煮込んだ、園監督のトンデモワールド炸裂の、良くも悪くもメーターの針が完全に振り切れた作品でしたー!

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画像出典元URL:http://eiga.com/

概要

国際的に評価されている園子温監督が怪獣映画に初挑戦した異色作。
主演は『地獄でなぜ悪い』に続き園監督とタッグを組む長谷川博己、彼が恋心を抱く職場の同僚役には麻生久美子、物語の鍵を握る謎のホームレス老人役を大ベテランの西田敏行がそれぞれ演じる。

 

あらすじ

あまりにもファンがつかないため、ロックミュージシャンの夢を諦めたサラリーマン鈴木良一(長谷川博己)は、同僚からは馬鹿にされ、同僚・寺島裕子(麻生久美子)が気になっているものの話し掛けることができずに鬱屈した日々を送っていた。

そんなある日、一匹の亀との運命的な出会った彼は言葉の響きの良さを気に入りピカドンと名づけて可愛がっていたが、同僚たちに笑われてトイレに流してしまう。

すぐに後悔する鈴木だったが後の祭り。
そのまま死んでしまったと思われたピカドンだったが、下水道を流され、地下に住む謎の老ホームレス(西田敏行)と出会う。

 

感想

園子温とは。

園子温監督といえば、
約4時間の大作愛のむきだし
実際に起こった埼玉愛犬家連続殺人事件をベースに作り上げた冷たい熱帯魚
3・11原発事故後の福島をベースに描いたフィクション映画希望の国
芽の出ない自主映画青年たちがひょんなことからヤクザと映画を作る、自身の体験をもとにした映画地獄でなぜ悪い
などなど、数々の問題作、話題作を世に送り出してきた監督です。

とにかく作家性が強くて尖った、もしくは振り切った作品が多いというのが僕の印象。それゆえ、好き嫌いのハッキリと別れるタイプの監督です。
作品自体も、リアリティーのある物語にはあまり興味がないようで、どちらかといえば極めて演劇的なデフォルメの効いた世界や物語を描くのが得意な監督でもあると思います。そこには若い頃に出会った故・寺山修司の影響もあるのかもですね。

また、極めて多作な監督としても知られ、数本の映画を同時進行で撮影することもあり、本作の前後に『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』『映画 みんな!エスパーだよ!』などが連続で公開されています。

園作品としても異色な本作

過激な表現からエログロの印象が強い園監督ですが、本作では(肉体的)暴力表現、死人や人体破壊、おっぱいなどのエログロ表現はまったく出てきません。
むしろ、それまでの園監督のイメージで観ると拍子抜けしてしまうほど、どストレートにファンタジックな物語です。
にもかかわらずハッキリと園子温印が映画のそこかしこに刻まれているのは流石ですけどもw

また、本作では自身初の怪獣特撮にも挑戦しています。
これには賛否あるようですが、僕は「ちゃんと怪獣映画してる」と思いました。
もちろん、それまでの日本の怪獣特撮やハリウッド超大作のクオリティーとは比べるべくもないですが、アングルとかその他諸々、怪獣映画の様式を守ってるなーという印象でした。

二つの物語

本作の物語は、ざっくり分けると2層構造になってます。
主人公、鈴木良一と寺島裕子の恋物語と、下水を住みかにする謎の老ホームレスと彼によって自由に動き話せるようになった、飼い主(持ち主)に捨てられた動物やガラクタのおもちゃたちの物語。

売れないバンドマンだった鈴木は、バンドを辞めて就職していますが、会社内では役立たず扱いで同僚たちから馬鹿にされています。

前半は、そんな彼の視点で描かれているので、会社だけでなく通勤電車やテレビ番組のキャスターなど自分以外の全ては、彼を蔑むなんですね。

そんな中、唯一鈴木に優しく接してくれる寺島裕子に心惹かれる彼ですが、告白はおろか、まともに話しかけることすらできません。

避難場所であるトイレの個室すら、彼を蔑む落書きで満たされてます。

もちろんそれは、鈴木の頭の中の光景をビジュアル化しているわけですけど、観ているだけで苦しくなるようなイヤンな描写です。

そんな鈴木はある日、一匹の亀ピカドンに出会うことで心の平静を取り戻しかけるものの、会社に亀を連れてきているのを同僚に見つかってパニックになり、トイレに流してしまうのです。

下水を流されていったピカドンは、自分と同じように主人に捨てられた動物やガラクタのオモチャたちが住む場所に流れ着き、そこの主である老ホームレスによって不思議なパワーを貰い……。

という内容。

その後、物語は鈴木とピカドンの住む下水の仲間たちの物語を交互に見せていくような作りになってます。

バンドで失敗してすっかり自信を無くし、世界に捨てられたように感じていた鈴木サイドの物語と、下水の住人たちサイドの物語はいわば鏡像になっていて、そんな二つの物語を繋ぐのが、ピカドンなわけです。

B級方向に売り切った何でもアリの世界

とはいうものの、物語的にも映像的にも決して素晴らしい出来とは言い難い作品でもあるんですよね。
ただ、そんなことは監督自身百も承知のうえで、あえて、キッチュな作りにしてるんだと思います。
つまり、中途半端な映像を作るくらいなら、思いっきりB級な方向に振り切ってしまおうという狙いですね。

ただ、それが成功しているかと言われると微妙なところで、それでも見るに堪えない作品にならずにいるのは、園子温印であることと園作品特有の熱量があるから。
あと、園監督が過去作品から一貫して描こうとしている『愛』の普遍性があるからなんじゃないかと思います。
表面上の愛ではなく、その奥にある『愛』の本質に迫ろうとしてるというか。

物語序盤で鈴木がテレビで氷山を観て、ピカドンに「僕は氷山だ。表面に見えてる部分は一部でその下には~」的な事を言うのですが、このセリフは言葉通りの意味の他に、本作の『愛』という本質のメタファーとも取れないことも……ないかなぁ~? と。(いや、ないかw)

多分、好き嫌いがハッキリ別れる作品であることは間違いないですが、今の邦画でここまで振り切った作風の映画は少ないので、映画好きな人なら一見の価値はあるんじゃないかなーと思いますよ。

興味のある方は是非!