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”普通”につまらん「大怪獣のあとしまつ」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、2月4日に公開されるや「パシフィックリムとシンゴジラがあえてやらなかったことの煮凝り」「令和のデビルマン」「クソ映画ではなくただのクソ」などなど、Twitterで何故か盛大に叩かれた『大怪獣のあとしまつ』ですよー!

あまりにも評判が悪いので、僕も思わず怖いもの見たさで観に行ってしまいましたよ。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』などの三木聡が監督と脚本を務めた特撮ドラマ。腐敗と膨張が進んで爆発する危険のある巨大怪獣の死体処理に、1人の男が挑む。『記憶屋 あなたを忘れない』などの山田涼介、『哀愁しんでれら』などの土屋太鳳、『喜劇 愛妻物語』などの濱田岳のほか、オダギリジョー西田敏行らが出演する。(シネマトゥデイより引用)

感想

公開→炎上→大喜利→マウント合戦。Twitterが祭り状態に

本作は、タイトル通り「死んだあとの怪獣の後始末をどうするか」というストーリーで、突如死んだ大怪獣の死体を巡り、政府や各官庁が右往左往する様子を描くコメディ映画です。

もう、そのコンセプトだけで絶対面白そうだし、ポスタービジュアルと合わせ、僕も公開前はかなり期待していたんですけどね。

ところが、公開日当日ですよ。

本作の感想をTwitterで調べて見ると大酷評……というか、もはや罵詈雑言の嵐

おやおや?と思い、その後もチラチラTwitterをチェックしていると、やがて「パシフィックリムとシンゴジラがあえてやらなかったことの煮凝り」「令和のデビルマン」「いやデビルマンは言い過ぎ。せいぜい令和の〇〇程度」と、次々にアレな邦画タイトルを晒す大喜利状態になり、さらに「お前ら実写版デビルマン(のひどさ)なめんな!」「本当にデビルマンを観てたら本作と比べるなんて出来ないハズ」など、謎のマウント合戦が始まり、挙句「叩いていい認定したらどこまでも叩く。これだからTwitter民は……」と嘆く真面目勢が現れたと思ったら、「確かにデビルマンはひどいが、今のCG技術の礎になっている」と、何故かデビルマンを擁護する勢も現れる始末で、もう何が何やら本編そっちのけで場外乱闘…というか、ある種のお祭り状態に。

で僕は、個人的に「令和のデビルマン」というパワーワードに、「え、そこまで言われる作品なら逆に観たい!」と思い、劇場まで足を運んだ次第なのです。

近年の邦画が抱える病

で、そんな本作を観てきた感想を一言で言うと、

普通につまらん。

でしたねー。

少なくとも実写版デビルマンほど突き抜けたヒドさはなくて……作品名を出すと角が立つのでぼやかして言うと、ポジティブ先生が不良に野球させる映画とか、モッズコートの刑事が偉いさん言い合いする映画とか、海難救助のプロが毎回ピンチになる映画とか、日本製作の三国志映画とか、埼玉と千葉がケンカする映画とか。

何と言うかこう、わりとビックバジェットの邦画にありがちなつまらなさって言ったら伝わりますかね?

劇中のリアリティーラインやディテールの設定、作劇が雑過ぎて物語に集中出来ない。みたいな?

「リアリティー」って言うと「いや怪獣映画にリアリティーもクソもないだろ」と思う人もいるかもだけど、ここで言うリアリティーは「物語世界」の中のリアリティーの設定のこと。

つまりは物語世界のルールとそれを表現するディテールの描写で、僕の経験上、これが出来てる映画はたとえ低予算でも内容が荒唐無稽でも面白いし、ちゃんとしてない映画はどんなにお金かけたって、つまらないんですよね。

やりたい事や狙いは分かるが

という事を踏まえ、本作の感想なんですが。

まず先に言っておくと、本作は「怪獣映画」ではないです。

本作に登場する「怪獣」はあからさまに、3.11、原発事故、コロナやその渦中に開催された東京五輪などの「メタファー」で、本作に登場する大臣や官僚自衛隊(劇中では防衛隊)や主人公・帯刀アラタ(山田涼介)らが所属する政府直轄の特殊部隊「特務隊」デモに明け暮れる群衆などは、それらに振り回され右往左往する日本政府や我々国民の姿をカリカチュアした姿で、つまり本作は怪獣=災難を通して、現代日本の姿を炙り出す社会風刺コメディなのです。

ただ、その一方で、本作は三木 聡監督から「シン・ゴジラ」へのアンサーでもあるというか。

劇中で腐りかけの怪獣を氷漬けにするという作戦に主人公が「最悪ですよ」と言い放つあからさまな揶揄が入ってるのでこれは間違いないと思うんですよね。

シンゴジは使えない政治家(老害)はゴジラ放射能ビームで全滅し、残ったエリート官僚がゴジラを冷却して封じ込め、新たな日本に向かうところで物語が終わります。

一方、本作の場合、使えないのは政治家だけでなく、官僚や自衛隊なども全員が自分たちのメンツや利権のためだけに動ていいて、誰一人国家の未来なんか考えていないんですよね。

そこには、シンゴジに対して「これが”現実“だろ?」という三木監督の強烈な皮肉が込められているのでしょう。

つまり、三木監督が本作で「ドント・ルック・アップ」をやろうとしてるのは明らかで、怪獣映画という体で日本を風刺するという狙い自体は凄く面白いと思うんですよ。

もしキチンとやり切れれば、本作は日本映画史に残る名作になったかもしれませんしね。

ところが、この題材、三木監督には少々荷が重かったようで

前述したように、リアリティーラインはガタガタでディテールの描き込みも雑、肝心のコメディシーンも小学生レベルというか時代遅れというか(しかもスベり散らかしてる)なギャグ連発、しかも別にストーリーとも絡んでいないので、これではコメディとして成立していないんですよね。

例えば本作では、大臣が「感動して泣いた涙と鼻毛を抜いた時の涙は見分けがつかない」みたいな、大臣がよく分からない例えをして周りが困惑するギャグが頻発するんですが、普通、これをやるのって一人じゃないですか。
よく分からん例えで回りを困惑させる大臣」というキャラクターを表現するためのギャグですよね。

ところが本作では、大臣全員がこの「よく分からん例え」を使うわけですよ。

え、どういうこと?っていう。

それは一人が言って周りが困惑するから成立するんで、みんなで言い出したら成立しませんよ?っていう。

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他にも、ある大臣に対して「あんたの顔トンボ顔だよね」みたいなイジりを環境大臣がして、他の大臣もそれに乗っかってみんなで囃し立てるっていうシーンも「そんなわけねーだろ!」ってなるし、本作冒頭の同窓会での「スマホの緊急速報みたいな音を鳴らす笑い袋」も、いや、そんな笑い袋売らないしそもそも作れないでしょ。っていうかイマドキ笑い袋っていうセンスもどうなん?とか。

それで言うと、この同窓会に参加している男子は、どうも大怪獣との戦いのため徴兵されていたらしい事が分かるんだけど、そうすると主人公が突如行方不明になってから戻るまでの間と怪獣が突然死亡するまでの時系列がどうなってるのかよく分からない事になるんですよね。

っていうかいらんギャグはアホみたいに盛り込むくせに、肝心の情報が開示されない(そのくせ思わせぶりにチラ見せはする)から、終始何がどうなってるのかよく分からんわけですよ。

あと、この国民に対して怪獣の死体の安全性を示すため、件の蓮佛議員がスーツ姿&命綱も装着しないで大怪獣の身体に上って演説→足をしべらせて怪獣の傷に頭から突っ込んでパンツ丸見えとか。

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そもそもいくら怪獣の死体に毒性がない設定とはいえ、主人公を始めとした登場人物が防護服も着ない、マスクすらつけないで怪獣に近づき、体内の腐敗ガスが爆発した怪獣の腐った体液を浴びるハメになるという描写が何度も繰り返されるとか、お前らの危機管理はどうなってるんだっていうね。

本作は終始そんな調子なので、だんだん真面目に観てるのが馬鹿らしくなり、割と早い段階でどーでもよくなってしまう。

あとは前述したように、劇中の時系列が分かりにくいし、キャラクターの行動原理が分からない、特にクライマックスで山田涼介、土屋太鳳、濱田岳の主要3人がそれぞれ何をしたいのかまったく分からないなど、作劇的にもあまり上手くない――っていうか、ハッキリ下手クソだと思いましたねー。

良かったところ

そんな本作ですが、キャスト陣は山田涼介や土屋太鳳、濱田岳西田敏行などなど、主役から脇役まで全員実力派揃い。

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正直、役者陣が上手い人ばかりだから観てられるってトコもあるんですよ。
その一方で、三木監督が俳優陣の演技をコントロールしきれてない疑惑も見え隠れしますけども。

あと、デザインのおざなり感は気になるけど大怪獣の死体や破壊された高層ビルなどのCG表現には安っぽさはなくて、怪獣が暴れているところを見せない選択は英断だと思いました。

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コロナ禍ブースト

そんな感じで、僕が実際観た感想としてはいいところもあるけど悪いところもあって、トータルでみると普通につまらなかったって感じで、そんなに大騒ぎするほどヒドい映画でもないと思うんですよ。

なのに何故Twitter上であの祭り状態になったかといえば、このコロナ禍で掛かっている圧が原因だと僕は思うんですよね。

例えば興行収入であの「千と千尋」を抜いて社会現象にもなった「鬼滅の刃」も、単純に映画単体としてそこまで凄いのか問題があって、もちろん面白いし時代の空気にフィットしてるとは思うけど、正直、コロナ禍じゃなかったらあそこまでのヒットにはなってないと思うんですよ。

それは鬼滅に限らず他の映画もそうで、コロナ禍という圧によって作品の評価にブーストが掛かってるってのは絶対にあると思うんですよね。

で、本作の場合、そのブーストが悪い方に掛かってしまったんじゃないかなと。そこにはもちろん、事前の期待があったからなんですけども。

ただ、それによって僕みたいに逆に観たくなった人、実際観に行った人も少なからずいるわけで、そう考えるとあの祭りも、本作にとっては決してマイナスではなかったのかな?と思ったし、もし本作に関わった人が、このコロナブーストによる炎上も計算に入れていたなら大したもんですが、まぁ、それはさすがに考え過ぎなんでしょうね。多分。

興味のある方は是非!

 

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