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コーエン兄弟が描く映画愛に満ちたコメディー「ヘイル、シーザー」(2016)

ぷらすです。
今回ご紹介するのはオスカー常連のコーエン兄弟監督作品『ヘイル、シーザー』ですよー!1950年、黄金期から斜陽期に差し掛かるハリウッドの内幕を描いたコメディー映画です。

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あらすじと概要

オスカー常連のジョエル&イーサン・コーエン兄弟によるサスペンスコメディー。ハリウッド黄金期を舞台に、超大作映画の撮影中に誘拐された大スターを奪還すべく、スタジオに雇われた何でも屋による捜査を描く。ジョシュ・ブローリンジョージ・クルーニーチャニング・テイタムスカーレット・ヨハンソンフランシス・マクドーマンドら豪華キャストが出演。さらに、コーエン兄弟が新たに挑戦したスターたちによる華やかなミュージカルシーンも見どころ。

トーリー:1950年代のハリウッド。スタジオの命運を左右する超大作『ヘイル、シーザー!』の撮影中、世界的大スターの主演俳優ウィットロック(ジョージ・クルーニー)が何者かに誘拐されてしまう。事件解決を任されたスタジオの何でも屋(ジョシュ・ブローリン)は、魅力あふれる若手女優(スカーレット・ヨハンソン)や著名なミュージカルスター(チャニング・テイタム)ら個性豊かな俳優たちを巻き込み、ウィットロック奪還に向け奮闘する。(シネマトゥデイ より引用)

 

 

感想

ざっくりストーリー解説

テレビの普及によって、黄金期から斜陽期に差し掛かろうとしているハリウッドが舞台。巨大なスタジオを構える大手映画会社キャピタル・ピクチャーズの敏腕プロデューサー エディ・マニックスジョシュ・ブローリン)は、会社を守るため映画監督や俳優のスキャンダルをもみ消したり、映画の制作がスムーズに進むように早朝から深夜まで働く「何でも屋」

そんなある日、会社が社運をかけて制作していた超大作「ヘイル、シーザー!」の主役スター ベアード・ウィットロック(ジョージ・クルーニー)が何者かに誘拐されてしまう。というストーリー。

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こう書くとミステリー映画っぽいですが、本作はあくまでコメディー映画で、謎解き自体はぶっちゃけどうでもいいんですよね。

むしろ、ミュージカルや水中ショー(巨大プールで撮影されるミュージカル?)、西部劇、文芸作品に関わるキャストやスタッフが次々登場する群像劇と言ったほうがいいと思います。

さらに、本作ではそうしたハリウッド黄金期の作品をオマージュしつつ、撮影の様子やワンシーンを再現してみせたりしているんですね。

物語の時代背景

ただ、本作は観る前にある程度の時代背景や当時の映画業界が置かれた状況を知っていないと、楽しめないんじゃないかと思うんですね。

というわけで、ここで本作を観る前に抑えておいたほうが良いことを書こうと思います。

1・スタジオシステムの崩壊

当時のハリウッドは、大手映画会社がスタッフやキャストと専属契約を結んで映画を作っていたわけですが、1948年米国最高裁判所で10年越しのある判決が下ります。
それは劇場チェーンを映画会社本体から切り離すようにという判決で、つまりメジャー会社が製作・配給・上映を全部やっちゃうと、新規の会社が入れないからダメっていう、独占禁止法ですね。
この判決で、映画スタッフやキャストはひとつのスタジオに縛られることなく、色んな制作会社からオファーを受けることが出来るようになったんですね。

2・赤狩り
そしてこの頃、全米で冷戦による「赤狩り」が行われるわけです。
赤狩り」については先日書いた「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」でも書きましたが、ざっくり言えば米国内の共産党員や共産党シンパをあぶり出す動きですね。

本作でウィットロックを誘拐するのは、この「赤狩り」で仕事を失った10人の脚本家(ハリウッド10)です。
「トランボ~」では英雄的に描かれている彼らですが、この作品では旧ソ連と通じる間抜けな男たちとして描かれているんですねー。

3・テレビの台頭
そんなこんなが重なって、さらにテレビの普及も相まって映画産業は黄金期から急速に斜陽期へと向かっていこうとしている。
本作はそんな時代の、でも、まだまだ元気だったハリウッドメジャースタジオの内幕を描いているわけです。

ちなみに本作に登場するキャラクターには、それぞれモデルになった人物がいるらしいですよ。

豪華キャストによる名シーンの再現

そんな本作には主人公マニックスを演じるジョシュ・ブローリンを始めとして豪華キャストたちが出演し、ハリウッド黄金期の映画製作風景やワンシーンを再現しています。

映画撮影中に誘拐されるウィットロックを演じるのは、テレビや映画で活躍するジョージ・クルーニー
劇中、そんな彼が主演で撮影されている「ヘイル、シーザー」の元ネタになっている映画は「ベン・ハー」です。

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中盤、チャニング・テイタム扮する水夫役男優のミュージカルは、ジーン・ケリー
フランク・シナトラが出演する「錨を上げて」「踊る大紐育」のオマージュらしいです。
ここで、チャニング・テイタムは丸ごと一曲分のシーンでキレッキレのタップダンスを披露しています。当時のミュージカル映画の撮影法が分かるのも嬉しいですね。

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スカーレット・ヨハンソンが人魚の扮装で水中ショーを演じるシーンの元ネタは、当時の人気女優エスターウィリアムズ主演作「水着の女王」と「百萬弗の人魚」からのオマージュだそうです。

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そのシーンで水面を真上から撮影する手法は、バズビー・バークリーという人が開発した技術で、バークレー・ショットと呼ばれているらしいですよ。

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アルデン・エーレンライクが訛りのキツいカーボーイ役で歌う演じるシーンは、ロイ・ロジャースという役者のオマージュで、あの時の歌は「ザ・アリゾナ・キッド」という映画の劇中歌らしいです。

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あと、あのシーンで登場する3人は「トイ・ストーリー2」のウッディ、ジェシー、プロスペクターそっくりなので、「トイ・ストーリー2」の元ネタにもなってるのかもですねー。

思想や宗教をまとめて茶化して笑い飛ばすコーエン兄弟節(*ネタバレ)

本作のタイトルにもなっている「ヘイル、シーザー」は、ローマ兵がキリストに出会って改心するといういわば宗教的な映画。
なので、後々トラブルにならないようにユダヤ教カトリックプロテスタント神学者に脚本を読ませて意見を聞くというシーンがあって、そこで神学者たちがすったもんだ揉めたり、映画序盤で主演のウィットロックがハリウッド10にさらわれたり、後半ではチャニングテイタム演じるミュージカルスターがソ連の潜水艦に乗って亡命したり、「トランボ~」にも登場する、映画興行に強い影響を持つ双子のコラムニストがスターのスキャンダルを嗅ぎまわったり。

「何でも屋」のマニックスはそんな面倒くさい連中を相手に一つ一つ問題を解決していくキレ者なんですね。
で、キレ者ゆえにロッキード社からヘッドハンティングの誘いに悩みながらも結局は映画会社に残ることを決めます。

その裏には思想や宗教に固執して映画作りを邪魔する輩に対して「俺たち映画人にとっての神は映画だ」というコーエン兄弟のメッセージも隠れてるのかなーなんて思ったりしました。

そんな彼らの思いがマニックスというキャラクターに乗っかっていて、彼は一見映画を量産して利益を追求するだけの仕事人間のようですが、実は映画や映画業界を深く愛している男であることがラストで分かるんですね。

ハリウッドの現状を見れば、ネットドラマやテレビの有料チャンネルに押され、確実に“当たる”縛りの多い大作映画しか作れない状況。

そんな背景もあって、コーエン兄弟も含めた有名監督たちも次々にテレビやネットのドラマに活動の場を移していたりするわけですが、本作の映画を取り巻く時代背景は、まさにそんな現代と重なってるように見えるし、「ヘイル、シーザー」はそれでもやっぱり映画が好きなんだという、コーエン兄弟からハリウッドへのラブレターのようにも見えるんですよねー。

まぁ、そんなことはぶっちゃけどうでも良くて(え!?)、要するにハリウッドのスタジオを巡るドタバタの中で、主人公が「やっぱ俺、映画好きだし、面倒くさいけど業界のヤツらが好きだわ」って気づく映画です。

昔の映画のシーンを再現した映像は綺麗で楽しいし、バタバタしてるけど活気があふれている「古き良き」ハリウッドの現場の空気感を体感する「アトラクション的な映画」として楽しんでもいいんじゃないかなーなんて思いましたねー。

興味のある方は是非!!!

 

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