ぷらすです。
今回ご紹介するのは、Twitterで紹介してもらった映画『モナリザ』ですよー!
古い作品ですが、主演のボブ・ホスキンスが数々の映画賞を受賞したノワール映画の隠れた名作ですよ。
今回は古い作品ということでネタバレありで感想を書いていくので、もしもこれからこの映画を観ようという方は、映画を観たあとにこの感想を読んでくださいねー!
いいですね? 注意しましたよ?
画像出典元URL:http://eiga.com
あらすじと概要
高級コールガールの運転手になった刑務所帰りの男ジョージ。彼はシモーヌというコールガールから、行方の分からなくなった妹分の捜索を依頼される。調査をするうち、ジョージは次第にシモーヌに惹かれていくが……。夜のロンドンを舞台にしたミステリアスなアクション。タイトルは、ナット・キング・コールの同名ヒット曲から採られた。(allcinema ONLINEより引用)
感想
本作は1986年のイギリス映画(日本公開は1987年)で、『ロジャーラビット』など多くの作品に出演してきた主演のボブ・ホスキンスは、この映画でカンヌ国際映画祭男優賞、英国アカデミー賞主演男優賞、ゴールデングローブ賞主演男優賞、ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞など様々な賞を受賞しました。
監督は『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』などのニール・ジョーダンです。
表情がコロコロ変わる映画
物語は、ナット・キング・コールの名曲『モナリザ』に乗せたオープニングからスタート。
OPが終わると、ハゲでチビで小太りな冴えない中年男が緊張した面持ちで花束を持ち、家のドアをノック。すると一人の少女が出てきます。
男は一瞬怯んだような顔をしますが、その少女に持ってきた花束を渡そうとします。
すると、出てきた母親がいきなり鬼のような形相で「何しに来たのよ!」と。
男は「俺の娘だろ!」と言い返し娘は「ママ! やめて!」母親にしがみつきという、いきなりの大修羅場に発展。
この修羅場で男=ジョージ(ボブ・ホスキンス)は娘の父親で、別れた奥さんの家にやってきたことが分かるんですね。
結局怒鳴り合いのあとドアを閉められ、手近なゴミ箱を蹴り倒し「挨拶に来ただけだろ!」と荒れ、近くの野次馬と揉めるジョージを止めて自分の車に乗せるのが、親友のトーマス (ロビー・コルトレーン)。
日本の食品サンプルを輸入したり光るマリア像を売ったりしている変わった男で、彼との車中での会話で、ジョージはボス、モートウェル ( マイケル・ケイン)の身代わりで7年刑務所に服役していたこと、トーマスは服役中のジョージに推理小説を差し入れしていたこと、出所して娘に会いに行った(そして奥さんにたたき出された)こと、モートウェルが出所後の仕事の世話を約束している事がわかります。
で、モートウェルには会えなかったものの、高級娼婦シモーヌ(キャシー・タイソン)の運転手になったジョージですが、育ちの悪さからホテルで悪目立ちしてはシモーヌに迷惑をかけ(今風に言えばシモーヌはホテトル嬢なのでホテル側に目をつけられている)、マシな服を買うようにと金を渡されれば、派手な開襟シャツに革ジャン、ジーパンとチンピラ全開の服を買う始末。
一方、シモーヌも美人だけど高飛車で二人は最初いがみ合うわけですが、シモーヌがジョージにスーツをプレゼントするあたりから、徐々に打ち解けて仕事もうまく回るようになっていきます。
ここまでは、逆「マイ・フェア・レディ」的なラブロマンスなのかな? と思って観ていると、シモーヌがジョージに「キャシーという娘を探して欲しい」と頼むあたりから、徐々に物語はサスペンスミステリーに変わっていきます。
ジョージは街の歓楽街でキャシーを探し始すうち、シモーヌの元ヒモの黒人、アンダーソン (クラーク・ピータース)とボスのモートウェルが組んで、女性たちにSM専門の売春をさせていること、シモーヌとキャシーもそうであったことが次第に分かってくるんですね。そしてある日、シモーヌのアパートをアンダーソンが急襲。
シモーヌを庇ったジョージは腕に傷を負ってしまい、シモーヌの家も知られていることが分かり、二人はトーマスの工場に身を隠します。
そして、ジョージはついにキャシーを発見。
彼女を連れ出して、シモーヌとともに海辺のホテルに逃げ込むんですが、そこでシモーヌがレズビアンでキャシーを愛している事を知ってしまうんですね。
そこに、アンダーソンが現れ、ホテルに逃げ帰ると部屋にはモートウェルが。
シモーヌは、ジョージに“念のため”持たされていた拳銃で二人を撃ち殺し、止めようとしたジョージにも銃を向けます。
フラれただけでなく二人と同類に思われていた事にショックを受けたジョージは彼女の元を去っていき……と、ここで場面変わって車を修理しながら事の次第をトーマスに話して聞かせるシーンに移り、そこに娘がやってきて二人が工場の外で話すシーンで物語は終了します。
つまり、本作の骨格自体はハードボイルド映画的ですが、恋愛映画の要素や、ミステリーやサスペンスの要素も入っているという、一つの作品の中に色んな表情を持つ作品なんですね。
シモーヌは本当にレズビアンなのか問題
シモーヌがレズビアンであることは、キャシーとシモーヌの様子やセリフ、トーマスのセリフ、すべてを察したジョージのセリフなどで分かる構成になっているんですが、本当にシモーヌがレズビアンだったかはちょっと疑問です。
というのは、彼女もキャシーも娼婦として客の男たちに辛い目に合わされていて、さらにはドラッグ漬けにされてたり、SMを強要されたり、有力者の弱みを握る道具にされていたり、ヒモのアンダーソンに殴られて言うことをきかされたりするわけで、シモーヌはレズビアンというより男性恐怖症で、彼女とキャシーは恋愛というより共依存関係なのではないかと。
で、大金持ちのアラブ人という新しい後ろ盾を得て、アンダーソンやモートウェルの支配から抜け出せるシモーヌは最初、腕っ節の強いジョージを利用して妹分のキャシーを組織から救い出そうとしていたのではないかと思うんですよね。
ただ、お人好しで優しいジョージに彼女も少なからず好意を持っていたのだけれど、それは“ラブ”ではなく“ライク”だったのではないかと思いました。
シモーヌのアパートでのシーン
ついに、キャシーの居場所を突き止めたジョージとシモーヌが、アパートのエレベーターから出るとアンダーソンが襲いかかってくるシーンはとても印象的です。
このエレベーターは旧式で、ドアがジャバラ式になっいるので外が丸見えなんですね。
なんとか、アンダーソンの急襲を逃れエレベーターで降りて行くも、階下に降りる度に、階段を駆け下りたアンダーソンがドアの外から襲いかかってくるという構成はサスペンス的で、ドキドキしてしまいました。
桟橋のシーン
そんなシモーヌの気持ちに気づきながらも彼女を諦めきれないジョージは、キャシーが眠ったのを見計らって、シモーヌを散歩に誘うんですね。
で、桟橋でのシーンになるんですが、桟橋のお店で買った星とハート型のサングラスを掛けて、ジョージはダメだと分かりながらも縋るようにシモーヌに告白。
しかし、その想いはシモーヌには届きませんでした。
もうね、アホみたいなサングラスを掛けたまま涙ながらに告白するジョージの心中を思うと、切なすぎて思わず涙が出てしまいますよ。
この桟橋のシーンは本作でも屈指の名場面だと思いますねー!
実はジョージの空想!?
で、この作品では工場でトーマスが推理小説の内容を話し、ジョージが先読みして先の展開を予想するというシーンが、一つ一つのシークエンスの合間合間にブリッジとして挿入されています。
その話の中で、ジョージは仕事やシモーヌの話しを、物語仕立てにしてトーマスに話して聞かせるんですが、その流れでラストシーンを観ると、(普通に見ればジョージの後日談ですが)考えようによっては今までの内容は全部ジョージが考えた空想かも。という取り方も出来なくもないんですよねー。
つまり、実はジョージは、悪でもなんでもない自動車整備工のおっさんで、同僚で推理小説マニア仲間のトーマスに自分の考えた小説の構想を話して聞かせていて、その内容を映像つきで観せられていたのがこの映画だった――みたいな?
本当のことは分かりませんが、もしかしたらニール・ジョーダン監督は、どちらにも取れるようにわざとブリッジのシーンを伏線にしてラストに繋げたのかも…なんて思いましたねー。
事ほど左様に、本作は一本の映画なのに色んな表情があり、また観終わったあとにあーだこーだ考えられる作品でもあるんですが、ザックリ一言で言えば「オッサンが美人にフラれる物語」で、もしかしたらそれすらもオッサンの妄想かもしれないメタ構造を持った映画でもあります。
86年の映画なので、今観ると会話やセリフがまどろっこしいし、映像的にも古さを感じる作品ではあるんですが、同時に今見ても色褪せないシーンや新鮮な表現もあるし、ドラッグや暴力で売春を仕切る男たちと(年端もいかない少女も含めた)女性たちがその犠牲になっているのは、物語全体を通しての一つの大きなテーマとして、男性社会で虐げられている女性差別や格差社会の象徴でもあるのかなと思ったりしました。(実際に当時のイギリスでそういう問題があったのかもしれませんが)
あと、粗野で乱暴者なジョージを最初は「なんだこいつ」って思うんですが、ボブ・ホスキンスの演技力なのか物語が進むうちにだんだん感情移入して可愛く見えてくるし、シモーヌ役のキャシー・タイソンは今見てもすごく美人で、ファム・ファタール(運命の女)にうってつけだなーって思いましたねー。
そんな感じで、古い映画だしちょっと観づらいかもですが面白い映画でしたよー!
興味のある方は是非!!
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