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最強の男は“本来あるべき自分”になりたかった「ハイヒールの男」(2015) *ネタバレ

ぷらすです。

今回ご紹介するのは韓国で2014年に公開されたバイオレンスアクション映画『ハイヒールの男』ですよー!
ネットで仲良くさせてもらってる方から教えていただいたので、早速観てみました。

ちなみに今回、完全ネタバレで感想を書いていくので、本作を観る予定の人やネタバレは嫌!って人は、先に映画を観てからこの感想を読んでくださいね。

いいですね? 注意しましたよ?

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画像出典元URL:http://eiga.com

概要

「グッドモーニング・プレジデント」「ガン&トークス」のチャン・ジン監督と「シークレット」「約束」の演技派俳優チャ・スンウォンがタッグを組み、女性になりたい願望を抱える敏腕刑事がたどる過酷な運命を描いたノワールアクション。並はずれた強さと暴力性で、警察内部ばかりか犯罪組織からも一目置かれる存在の刑事ジウク。容姿にも恵まれ、誰もが羨むほど完璧な男のジウクだったが、実は心の内に女になりたいという欲望を秘めていた。長年にわたってそのことを悩み続けてきたジウクは、ある出来事をきっかけに本当の自分と向きあうことを決意する。しかし、そんな矢先、ある事件に巻き込まれてしまい……。2015年1~2月にヒューマントラストシネマ渋谷で開催の「未体験ゾーンの映画たち 2015」上映作品。(映画.comより引用)

感想

邦題問題

本作は、(タイトルで何となくお気づきの人もいると思いますが)ステゴロ最強の刑事が実は性同一障害だった――という内容で、原題は「ハイヒール」です。

まぁ、映画説明でも主人公ジウク(チャ・スンウォン)が性同一障害であることは書かれているので隠す気はないってことだろうし、そこが売りの映画でもあるので読めば内容を察することが出来る邦題にしたんだと思いますけど。

正直、原題通り「ハイヒール」のままで良かったんじゃないかなって思ったりしました。まぁ、間抜けな副題をつけられるよりはずっとマシですけども。

ざっくりストーリー紹介

海兵隊でマル暴の刑事ジウク(チャ・スンウォン)は、長身細マッチョで警察内部ばかりか犯罪組織からも一目置かれるステゴロ最強の男。

しかし彼には誰にも言えない秘密が。

ジウクは性同一障害であり、性転換手術で本当の自分(女)になりたいと願っていたのです。
予てから捜査していたギャングのボスと子分を叩きのめして逮捕したあと、彼は警察を辞職して晴れて女性の道を歩もうと決心しますが、その矢先、ある事件に巻き込まれてしまい――というストーリー。

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主演のチャ・スンウォンは180cmを超える長身で、長い手足を活かしナイフを使った格闘アクションは見事だし、韓国映画お家芸とも言える湿度の高いバイオレンスも見ごたえがありましたねー。(途中のあるシーンでは「アウトレイジかよ!」と思わずツッコんでしまいましたがw)

まぁ、いくら軍隊上がりとはいえ、ぶっちゃけ刑事としてはいくらなんでもオーバースキル過ぎるし(刑事というよりほぼ殺し屋)、警察に身を置きながら単独でボスのアジトに令状も持たずに乗り込んで子分やボスを病院送りにするのは、どう考えてもありえない展開だとは思いますが、そこはエンタメ映画だし、文句を言うのは野暮なのでしょうね。

ただ、本作が偉いのは、ジウクの強さや単独でギャングを叩きのめす行動が、しっかり物語の主題に活かされている作劇の上手さ。

彼の体は至るところが傷だらけで、手足には金属製のボルトが入っているわけですが、それは、彼の過去が大きく関わっていて、物語が進むうちにその事が徐々に分かってくる構成になっているのです。

本作は現在の彼と、過去の回想シーンを交互に見せる2段構えの構図になっていて、少年だった彼(中学生くらい?)はゲイの美少年と心を通わせているんですが、同級生の偏見、また「常識」に縛られ自分を受け入れられなかった事で彼を傷つけてしまいます。

そして唯一心を許せる初恋の相手だった彼は自ら命を絶ってしまい、それがジウクにとって大きな心の傷になっているんですね。
そのトラウマが原因でジウクは自分の中の女性性を憎むようになり、心(女性)を殺し過剰なほど肉体(男性)に準じる道を選んでしまうのです。

直接劇中では語られませんが、彼の体に刻まれた無数の傷が、彼が自殺願望とも取れる無茶をし続けた事を物語っていて、それはつまり亡き恋人への贖罪でもあり、また自分の心(女性)を殺す、ある種の自殺であり自傷行為でもあったわけですね。

しかし、彼の中で本来の性である“身も心も女性になりたい”という気持ちは消えず、彼の肉体と心は引き裂かれて不眠症に陥ってしまいます。

そこでカウンセリングに通ううちに、彼は自身の心を受け入れて女性として生きる事を決意。警察もやめてホルモン注射を打ち、性転換手術への準備を整えるんですね。

そんなジウクに、ホルモン治療を行っていた医者が、同じく元海兵隊でニューハーフ界のパイセン(ニューハーフのパブを経営?)を紹介し、ジウクはパイセンに教えを請いながら、少しづつ本当の自分の性を取り戻していくのです。

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最初は女装もおっかなびっくりで滑稽に見えるし、女装して外出しようとするとエレベーターに同じマンションの住人が乗り込んできたりっていうコメディーシーンを挟みつつつ、一歩一歩目的に近づいていくジウク。

しかし、彼が検挙したボスの弟ホゴン(オ・ジョンセ)の出現によって、事態は急変するのです。

扱いが難しいテーマをエンターテイメントに

僕はLGBTや性同一障害について詳しい訳ではないので、本作でのジウクの心の動きの描写がリアルなのかどうかは、正直分かりません。

が、監督・脚本を務めるチャン・ジンが、性同一障害やLGBTについて取材をして誠実にリアルを描こうとしているようには見えました。

独学で女装をしていたジウクは、到底女性には見えず、厳つい男が化粧と女性物の洋服を着ているだけに見えるんですが、ニューハーフパブの“お姉さん”に化粧してもらった自分を見て自信をつけた彼は、やがて見違えるほど美しくなっていきますし、パイセンの「手術だけでは女になれない。心も女にならなければ」というセリフには説得力がありました。

しかし、ジウクのたった一つの望みはホゴンによって無残に踏みにじられてしまう。
つまりホゴンはいわゆる旧態然とした男性社会の象徴であり、ジウクはその被害者の象徴なのです。
ホゴンはジウクの強さに惹かれていた分、彼の正体に落胆し何とかジウクを男の世界に引き戻そうとする。

そのために、自死した恋人の妹チャンミ(イ・ソム)を殺そうとするんですね。

ホゴンはチャンミがジウクの彼女だと勘違いしているんですが、ジウクにとって彼女は、自分が殺した(とジウクが思い込んでいる)初恋の相手に「必ず守る」と約束した彼の妹。

つまり本作は、過去の贖罪と、常識や偏見に苦しみながら本当の自分を取り戻そうとしたジウン(マイノリティー)が2層構造になっているわけですね。

そして、問題のラストシーンへと繋がってくわけですが、個人的に、このラストがどうにもモヤモヤしてしまうんですよねー。

ラストシーンの解釈

色々あって、ラストシーンではチャンミとジウクが教会にいます。
チャンミと牧師の会話から、すわ二人が結婚!? と思うんですが、どうやらチャンミの結婚式にジウクが保護者(チャンミは「兄さん」と呼んでいる)として出席するということらしいんですね。
ジウクはヒゲを伸ばし、劇中で毛嫌いしていたタバコも吸っている模様。
車中で咥えたタバコをチャンミに取られ、ジュースを渡されたジウクが、そのジュースを飲む小指が密かに立っているというエンディングです。

ここは恐らく、色々な解釈が出来るように意図的にぼかしていると思うんですが、多分、ジウクは自分の望みより初恋の相手との約束を選択したって事だと思うんですね。

そして、自分は男として生きていく事を選んだっていう。

その前のシーンで、パイセンから「女でいるためにはお金がかかる」的な事も言われていて、ジクウはホゴンと取引して多額の金銭を受け取り、その金で手術のための金や渡航費を工面したっぽいんですね。
なので、クライマックスのあとにホゴンから受け取った金を警察に渡し、渡航代&手術費が無くなってしまったって事なのかなーって思ったり。

つまりクライマックスでチャンミを助けに行く事を決めた時点で、ジウクは自分の望みを捨てたって事……なのかな?

もしくは、チャンミの結婚を見届けたあと、彼は性転換手術を受けに行くとも取れなくもないんですが、一連の流れを見る限り、そっちの線は薄いと思うんですよねー。

ただ、もし前者だった場合、う、うーん? それでいいのかなー?? っていう気もしなくはないというか。
そこまで丁寧に積み上げてきた物語は一体何だったんだってなるし、テーマ的にもブレてしまうのでは? と思っちゃうんですよねー。(´ε`;)ウーン…

確かに、初恋の彼とのエピソードが全ての始まりではあるけれど、チャンミを守る(彼との約束)とジウクが望みを叶えることは全く別の話で、この二つを天秤にかけるのは違うと思うんですよね。
それに、ラストでは全てが解決したんだからジウクが過去に縛られる意味がないし。

とまぁ、そんな感じで観終わったあともずっとウダウダ考えてしまってるわけで、自分の中でも明確な答えは出ないんですが、韓国の人がこのラストをどう見たのかが気になりますねー。

韓国映画はわりとキリスト教をモチーフにした作品が多いし、劇中でも一箇所、ジウクとパイセンが教会で話すシーンもあり、(全然関係ないかもですが)もしかしたら日本人の僕と韓国の人だと物語やラストシーンの感じ方が変わるのかな? なんて思いました。

ともあれ、韓国バイオレンスアクションとしても燃える映画だし、主演のチャ・スンウォンの繊細な演技も素晴らしかったので、韓国映画好きな人なら一見の価値有りだと思います。

興味のある方は是非!!!

 

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