ぷらすです。
今回ご紹介するのは、本国では2014年公開で韓国映画界の鬼才キム・ギドク監督作品『殺されたミンジュ』ですよー!
キム・ギドク作品だと僕は確か以前に「嘆きのピエタ」を観たような気がするんですが、内容の方はほとんど覚えていないので本作がほぼ初ギドクって感じですねー。
画像出典元URL:http://eiga.com
概要
『ブレス』『嘆きのピエタ』などの問題作を世に送り出してきた韓国の鬼才、キム・ギドク監督がメガホンを取って放つ衝撃作。女子高生を殺害した容疑者7人が謎の7人組集団によって拉致され、拷問される不可解な事件に迫る。『群盗』などのマ・ドンソクが謎の集団のリーダーを演じ、『ビバ!ラブ』などのキム・ヨンミンらが共演。型破りな設定の間に見え隠れする韓国社会への辛辣(しんらつ)なメッセージに絶句する。(シネマトゥディより引用)
感想
ミンジュ=民主
本作は、女子高生ミンジュが謎の男たちに殺害されるというショッキングなシーンからスタート。
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本作の原題は「일대일(1対1)」ですが、邦題は「殺されたミンジュ」で、ミンジュとは日本語で「民主」つまり民主主義を指す意味があるようです。
ざっくりストーリー紹介
で、その一年後。
(多分)政府の仕事をしているオ・ヒョン(キム・ヨンミン)は、軍隊らしき謎の集団に拉致されリーダー(マ・ドンソク)に「昨年の5月9日にやったことを覚えているか」と写真を見せられます。
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その写真に写っていたのは冒頭で殺されたミンジュの遺体写真。
リーダーは、「5月9日にやったことを全て書け」と迫り、オが抵抗すると水責めからの釘角材殴打のコンボでオの心を折ると、自分の犯行を紙に書かせて流れる血を塗りつけた手を紙に押し付け(拇印?)連れてきた時と同じように目隠しをして誘拐した場所で開放します。
容疑者2のチョン・イセは妊娠した奥さんのいる男。
集団はヤクザの扮装で同じように誘拐、同じように自白を迫られ、抵抗すると手足を固定されてからの陰部殴打の刑からの自白書を書かされて開放。その後彼は、良心の呵責から自殺してしまいます。
その後も容疑者3のオ・ジハは金槌で左手殴打の刑。容疑者4のオ・ジョンテクは暗闇の中でボコられ――と、ミンジュ殺害の容疑者は次々に誘拐されては拷問され、自分のやったことを紙に書かさて開放されていきます。
色んなコスプレで容疑者を拉致っては拷問する集団「シャドウズ」は、実は軍人でも警察でもヤクザでもなく、リーダーのネットの呼びかけで集まった一般市民。
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メンバーも
DV彼氏に暴力を振るわれる女
ワインバーのウェイター
アメリカ留学をしたのに就職できないニート
詐欺で金を騙し取られ認知症の母とテント暮らしをする浮浪者の男
妻の治療費にために闇金から借金している男
会社にある車の部品を勝手に売っちゃう高級車専門の自動車整備工
と、いわゆる「負け組」の寄せ集めで、エリートをボコることで社会に抱える憂さを晴らすために参加しているわけです。
一方、最初に拉致られたオ・ヒョンは屈辱が忘れられず「自分と同じ容疑者仲間がシャドウズに拉致られるハズ」と仲間の動向を見張っていると案の定、容疑者3が拉致られたので彼を乗せた車を備考し、シャドウズのアジトや、メンバーの素性を写真に収めて容疑者3・4に復讐を持ちかけます。
しかし3は良心の呵責から誘いに乗らず、4は恐怖心に苛まれて逃げ出してしまうんですね。
それでも諦めきれないオ・ヒョンは、その後も1人でシャドウズの犯行の様子を見張っているんですが、どんどんエスカレートするリーダーとドン引きのメンバーの間に亀裂が走り――というストーリー。
ちなみに、容疑者1のオ・ヒョン役キム・ヨンミンは、DV男、ニートの弟に文句を言いまくる兄、自動車修理会社の嫌なオーナーなど1人8役を演じています。
何か似てるなーとは思ったけど、まさか本当に全部同じ役者だったとは。
ただ、この1人8役にも恐らく意味があって、ミンジュを殺した容疑者を始め彼が演じたのは(一人を除いて)全て加害者であり、シャドウズのメンバーを踏みにじる“小さな独裁者”たちなのです。
つまり冒頭で殺されるミンジュが民主主義の象徴なら、キム・ヨンミンが演じる7人は(メタ的に)民主主義を殺す独裁者の象徴で、両者は鏡像関係にあるんですね。
ただ、オ・ヒョンを始めとしたミンジュ殺しの実行犯は上層部の命令で動いているだけだし、その罪を暴いていくシャドウズのリーダーも、軍隊時代には後輩(キム・ヨンミン)を殴っていた“小さな独裁者”であり、シャドウズのメンバーたちも容疑者を拉致拷問している時は――と、登場する人間全員が被害者でもあり加害者でもあるわけです。
どストレートな作品
こんなふうに書いていると何か小難しそうと思われるかもですが、そんな事はありません。
なぜならクライマックスでマ・ドンソク演じるリーダーが、作品のテーマを「ドジョウとライギョ」に例えて全部説明してくれるからです。
「ドジョウだけを水槽に入れるとすぐに弱っていくが、ライギョを一匹入れることで逃げ回るドジョウ達が元気になる」と。
つまり、社会という水槽の中にはドジョウ(弱者)とライギョ(強者)がいることで回っていて、人間は誰もが(他者との関係や立場で)ドジョウにもライギョにもなる。
それがこの世界のシステムなのだと。
もう絶望しかないよギドク。
雑で安っぽい映像
そんな本作「やけに雑で安っぽいなー?」と思ったら、監督・脚本だけでなく撮影と編集までキム・ギドク自身が行っていて、撮影期間は何と10日という超低予算作品なんだそうです。
そうなるとキム・ヨンミンの1人8役も単純に予算削減のため?なんて勘ぐってしまいますよねw
まぁ編集はともかく、せめて撮影はカメラマンに任せた方が良かったのでは?と思わなくもないですが、痛さが伝わる暴力シーンでお馴染みの韓国ノワールのわりに、シャドウズの拷問シーンが回数を重ねる度にショボく見えてしまうのは、むしろ本作のテーマにはハマっていると言えるかもしれません。
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素人集団による“コスプレSMごっこ”の茶番劇は、本人たちは大真面目でも引いて見れと滑稽なコントの様だし、それは政府による冒頭のミンジュ(民主)殺しや、シャドウズメンバーを踏みにじる“小さな独裁者”も同じだというキム・ギドクの皮肉が込められているようにも見え、それを敢えて安っぽい映像にすることで映像的に表現しているのかもと思えなくもないんですよね。
とはいえ全編に渡って映像が雑なので、仮にそういう意図があったとしても観客には伝わりづらい。つまり本当に雑で安っぽいだけの映画に見えてしまうかもですが。
かなりメッセージ性が強く歪だし後味も激悪な作品ですが、キム・ギドクという監督の作家性がどストレートに分かりやすく表現されているので、ギドク作品に興味のある人の入門編としては良いかもしれません。
興味のある方は是非!!
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