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正義の在り方を問う社会派ドラマ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」(2021)

ぷらすです。

前回「ワンダヴィジョン」を一気見して13000文字に渡る感想を書いてしまったんですが、先日MCUドラマ第2弾『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』を、1話だけと思って観始めたら、結局最後まで一気見してしまいました

「ワンダヴィジョン」は思った以上に重い話だったけど、本作は2代目キャップのサムと、ウィンター・ソルジャーことバッキーの二人が織りなす楽しいバディアクションかと思ったら、「ワンダヴィジョン」以上にガッツリストレートな社会派のストーリーでしたねー。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

アベンジャーズ/エンドゲーム』から半年後、初代 キャップのスティーブから盾を受け継いだサムはその重みに耐えきれず博物館に寄贈してしまう。
一方、アベンジャーズの活躍で人口の増加で、冷遇された難民救済を掲げるテロ組織「フラッグ・スマッシャーズ」が次第に勢力を増していた。

感想

「/エンドゲーム」以降の世界をリアルに描く

前作「ワンダヴィジョン」は1話約30分の9話構成で、内容もかなり入り組んだ物語でしたが本作は1話40~60分の6話構成と「ワンダ~」よりは若干短め。かつ、「ワンダ~」とは違って比較的一直線のストーリー構成だったんですが、その分、「ワンダ~」以上に現在の社会問題をストレートに反映した硬派な社会派ドラマになってました。

それはアメリカが起こした過去・現代の過ちの告発と警鐘であり、その中で悩みもがきながらサムが“答え”を見つけるまでの物語になってるのです。

舞台は「ワンダ~」と同じサノスの指パッチンで人類の半数が消されてから5年後、アベンジャーズによって消された人々が戻ってきた後の世界。

人類が半分に減ったことで国境は意味を無くし、世界に様々な需要が生まれたことで、それまで居場所がなかった人々も仕事や住居を得られたんですが、消えた人々が戻ってきたことで彼ら・彼女らは一度は手に入れた居場所を失い再び難民となってしまう。

そんな不平等な世界から難民たちを救うため、物資を盗んで配るなど義賊的な行動をしている組織「フラッグ・スマッシャーズ」は多くの人々の支持を集め、徐々に勢力を拡大しようとしているわけです。

一方、初代キャップのスティーブから盾を受け継いだファルコンことサム アンソニー・マッキー)でしたが、伝説のヒーローを継承する重圧に耐えきれなかった彼は、キャップの盾をスミソニア博物館に寄贈してしまいます。

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そして、ワカンダの技術力で洗脳を解かれたウィンター・ソルジャーことバッキーセバスチャン・スタン)は、「エンドゲーム」での活躍によって罪を免除された代わりに定期的にセラピーを受けることを義務づけられ、また、洗脳中に自分が殺めた人々の遺族へ謝罪して回る日々だったのです。

そんなある日、「フラッグ・スマッシャーズ」の動向を調べていたサムの協力者ホアキン・トレス(ダニー・ラミレス)によって、彼らがスーパーソルジャーであることを知ったサムとバッキーはお互い反発しながらも「フラッグ・スマッシャーズ」と超人血清の行方を追うのだが――というストーリーなんですね。

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その中で「フラッグ・スマッシャーズ」のスーパーソルジャー能力をヒドラの仕業と考えた2人が、ヒドラに詳しいヘルムート・ジモダニエル・ブリュール)を脱獄させて協力させたり、“アベンジャーズの内乱”の際にスティーブたちを助けた事により、アメリカ政府から追われ犯罪都市“マドリプール”に潜伏していたシャロン・カーターエミリー・ヴァンキャンプ)の協力を得て事件の真実を追ううち、サムは祖国アメリカと複雑な世界の現実に直面するのです。

正直、最初はもっと気楽なバディアクションとして楽しめるエンタメ作品になると思ってたんですが、いざ始まってみれば人口増加やナショナリズムによる世界的な分断やテロ組織、「ブラック・ライブズ・マター」を踏まえた黒人差別描写、それに付随する形で1932年からアメリカが黒人兵士に行った「タスキギー梅毒実験」という人体実験など、過去や現代でアメリカと世界に横たわる問題の数々を想起させるエピソードをがっつり盛り込んだ、これまでのMCU作品の中でもトップクラスに攻めた内容の社会派ドラマでしたよ。

と、こんな風に書くと、また説教臭くて重いヤツかと警戒されるかもですが、いやいや、それだけの重いテーマを盛り込みながらもサムとバッキー(&ジモ)が喧々諤々丁々発止でケンカしたり反発したりしながら、一歩づつ進んでいくバディアクションで、エンターテイメントとしても超面白いところがMCUの凄いところなんですよね。

ファルコンvsウインター・ソルジャー“ズ”

本作のタイトルは「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で、ウィンター・ソルジャーとはもちろんセバスチャン・スタン演じるバッキーのヒーローネームですが、本作ではサノスの指パッチンで衰退した世界を生き抜いた、サムの姉サラ(アデペロ・オデュイエ)やカーリ・モーゲンソウ(エリン・ケリーマン)率いる「フラッグ・スマッシャーズ」のメンバーアメリカ軍の人体実験で超人血清を打たれ、スーパーソルジャーとして戦友たちを救うも、事実隠蔽と人体実験のためその後30年もの間刑務所に監禁されていた老人イザイア・ブラッドレー(カール・ランブリー)、スティーブに協力し祖国に反旗を翻したため、CIAのエージェントから裏社会の住人になってしまったシャロンなど、「冬の時代を戦った兵士(ウィンター・ソルジャー)」とファルコンが向かい合ういうダブルミーニングになっているのです。

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ちなみに「冬の兵士」の語源はベトナム戦争中の1971年に、帰還した兵士たちが米軍による残虐行為を証言した集会の名称で映画にもなっているし、2008年にはイラクの帰還兵たちが「冬の兵士」として米軍の民間人への無差別殺戮を告白しているのだとか。

それでいえばバッキーも初代キャップ・スティーブが凍り漬けになっている間ずっと、ヒドラの殺しの道具として望まぬ殺生を続け、ずっと罪の意識に苛まれてきてたわけですしね。

逆にサムは指パッチンで消えていたので“冬の5年間”を体験しておらず、なので観客的にはちょっと呑気に見えちゃうというか。冒頭、姉のサラが金銭的な苦しさから親から引き継いだ漁船を手放そうとするのを、自分が銀行に融資を頼みに行くからとサムは引き止めるんですよ。

彼はアベンジャーズの一員として世間から英雄扱いされてるので、自分が行けば銀行は融資を断らないって思ってたんですね。
ところが5年間無収入の彼は銀行員に融資を断られるわけです。まぁ5年間消えてたわけですからね。
で、自分が消える前と復活後の世界の変化をサムは実感として分かってないんですよね。

なので物語前半でサムがいくら正論めいたことを話しても、5年間を知ってる人から見ればそれはただの綺麗ごとや理想論でしかないんです。

そんな彼が、次々に「冬の兵士たち」と対面、様々な世界の問題や矛盾に直面しながら、自身が人々のために何をすべきかを探す=ヒーローとして独り立ちするまでの物語なのです。

相棒のバッキーは、時にそんなサムのメンター的存在でもあり、またサムによって自身の罪から解放される=救われる存在でもあるんですね。

カーリ・モーゲンソウとジモ

本作はそんな2人のバディストーリーであると同時に、「正義」とは何かを問う物語でもあります。

本作のヴィランとなる女性カーリ・モーゲンソウは、アベンジャーズが救った世界や人々のせいで居場所を失い苦しむ難民のため、世界を変えようと自身の体をスーパーソルジャー化して体制に挑む”革命家”なんですが、最初は滞っている物資を強奪し難民たちに配るなどの義賊的行動だったのが、次第に体制の暴力・破壊へと思想・行動がエスカレートしていくキャラクターです。
そんな彼女らにサムは同情的であり、「方法は間違っているが主張は正しい」と単なるテロリストとは割り切らず、何とか対話によって彼女を止めようとするんですね。

一方、「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」のソコヴィアの戦い(アベンジャーズとウルトロンとの最終決戦)に巻き込まれ家族を亡くしたジモは、全ての超人を世界から消すことを人生の目的としているので、新たな超人血清によって生まれたor今後生まれるかもしれない超人の存在を見過ごすことが出来ない。

なので血清の生みの親であるウィルフレッド・ネイゲル博士を躊躇なく殺すし、「フラッグスマッシャーズ」のメンバーに対しても一切の躊躇なく銃の引き金を引くんですね。彼にとっては難民問題も他の問題も関係なく、というか、全ての問題は人知を超えた力が引き起こすという考えで、だから新たな超人の誕生を止める事が彼にとっての唯一の正義なのです。

面白いのは、ジモは自身の行動に一切の迷いがなく、逆にカーリーは自身が体制側の人々の命を奪う決断をするとき、一瞬、恐れるような、躊躇する表情を見せるんです。

演じるエリン・ケリーマンが童顔なこともあり、この自身の決断(暴力)を恐れ、それを振り切るため合言葉で自信を鼓舞する。その時の表情がとても印象に残るんですね。

2代目キャプテン・アメリカ/ジョン・ウォーカー

サムがスティーブから譲られた盾を博物館に寄贈したあと、アメリカ政府は“秩序”を取り戻すため、イラク戦争で数々の功績を挙げた兵士、ジョン・ウォーカー(ワイアット・ラッセル)を2代目キャプテン・アメリカに任命します。

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彼はサイドキックのレマー・ホスキンス (クレ・ベネット)と共に、アメリカ政府が主導権を握るGRC(世界再定住評議会)の広告塔として活動しつつ、「フラッグスマッシャーズ」の行方を追っているんですね。

予告で最初に見た時は、この2代目キャップを完全なる悪役だと思い込んでいたんですがそうではなく、彼もまた偉大なるキャプテン・アメリカを継ぐプレッシャーに押しつぶされそうになり、そして終盤、取り返しのつかない間違いを起こしてしまうのです。そこには超人血清が絡んでいて、カーリとジョン・ウォーカーは正義を成すために力を手に入れたにもかかわらず、過ぎた力に振り回されてしまうのです。

サムの武器

そういう意味では、本作に登場する主要な敵味方キャラクターたちの中で、主人公のサムだけが普通の人間なんですよね。
そんな彼が超人たちや権力者をと渡り合うための武器は、相手の話を聞く力なのです。

いや、スーパーイヤーとかそういう特殊能力ではなく、普通に相手の話を聞いて対話するという意味ですよ。彼は元々PTSDに苦しむ退役軍人のカウンセラーという経歴を持ってますしね。

なので、ジョン・ウォーカーやジモ、バッキー、GROがテロリストと断じた「フラッグスマッシャーズ」リーダーのカーリに対しても、サムだけは彼女の話を聞き対話しようとするわけです。

「人の話を聞く」っていうのはあまりに当たり前のことだし、本作の結末に所詮は綺麗ごとだとか、根本的な部分は何も解決していないじゃないかとモヤモヤした人たちもいると思うけど、その「当たり前」がどれだけ大変かを、僕らは世界の大きな動きだけでなく、SNSなど個人単位のアレコレでも身をもって体験しているハズなのです。

そういう意味で、サムの持つ「話を聞く力」は、分断の進む現代にこそ必要とされる能力だし、まさにこれからのヒーロー像に必要とされる力と言えるかもしれません。

興味のある方は是非!!

 

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