ぷらすです。
今回ご紹介するのは、2000年公開の「アンブレイカブル」2016年公開の「スプリット」の続編で“シャマラン・ユニバース”3部作の完結編となる『ミスター・ガラス』ですよー!!
結果的に3作ともレンタルで観ることになってしまいましたが、逆にあまり時間を開けずに3本観られたのは良かったです。
ただ、この作品の感想を書くにはネタバレ無しは難しいので、今回は「アンブレイカブル」「スプリット」そして本作のネタバレ全開で感想を書きます。
なので、これから本作(&過去2作)を観る予定の人や、ネタバレは絶対に嫌! という人は、先に映画を観てからこの感想を読んでくださいね。
いいですね? 注意しましたよ?
画像出典元URL:http://eiga.com
概要
『シックス・センス』などのM・ナイト・シャマラン監督が、『アンブレイカブル』の後日譚(たん)を描いたサスペンスドラマ。自分をスーパーヒーローと信じて疑わない3人の男性が集められ、禁断の研究が始まる。『ダイ・ハード』シリーズなどのブルース・ウィリス、『アベンジャーズ』シリーズなどのサミュエル・L・ジャクソン、『スプリット』などのジェームズ・マカヴォイらが共演。(シネマトゥディより引用)
感想
完成まで18年、執念のシャマラン・ユニバース
本シリーズの第1作となる「アンブレイカブル」が公開されたのが2000年。
まだMCUも公開されてなくて、世間的に当たったスーパーヒーロー映画と言えば、1978年公開のリチャード・ドナー版「スーパーマン」のシリーズと1989年公開のティム・バートン版「バットマン」シリーズくらい。
もちろん、その他のヒーロー映画も公開はされていたもののヒットとはならず、シャマランによれば当時はまだ「ヒーロー映画はバカにされていた」時代だったんですね。
その後、2002年~公開サムライミ版「スパイダーマン3部作」や2005年~公開のクリストファー・ノーラン版「ダークナイト3部作」でアメコミ映画が盛り上がっていくわけですが、シャマランはそれらの大ヒット作に先立って「アンブレイカブル」を制作していたんですねー。
本作のタイトルにもなったミスター・ガラスは、この「アンブレイカブル」に登場する悪役? です。
生まれつきちょっとした衝撃で骨がポキポキ折れちゃう体質ゆえにミスター・ガラスと呼ばれるイライジャ(サミュエル・L・ジャクソン)は、自分とは対局にあるアメコミスーパー・ヒーローのような存在が居るはずという妄執に取り付かれていています。
つまり、超強いスーパーヒーローの存在を証明することで、逆説的に骨ポキポキマンである自分にも存在理由がある事が証明される。という考えなんですね。
そんな彼がついに見つけたのがデヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)。
彼は乗客全員が死亡した列車事故で唯一の生存者。
しかも、人並み外れたパワーを持ち極端に体が強く病気やケガもした事がないうえに、人に触れると悪人かどうかが分かるという能力まであるのです。
「君こそ長年探し求めたスーパーヒーローだ」と近づいてくるイライジャを、最初は邪険に追い払うダンですが、やがて「もしかしたら…」と思うようになり、ある事件を解決したことで両者の関係も良好に……って思ったら、大量の死者が出た件の列車事故もそれ以前の飛行機事故も、全部イライジャがヒーロー探しのために起こした事が発覚。
ダンは警察に通報、イライジャは逮捕される。っていう物語でした。
もちろん面白い映画なんですけど、この時はそれほど興業も振るわず当然続編の話もなく。単体の作品なのだと誰もが思っていたわけですよ。
それからしばらくの間、シャマランは監督として迷走しまくっていたものの、前年の「ヴィジット」で大復活を遂げ、2016年満を持して送り出したのが「スプリット」です。
「X-MEN」のプロフェッサーX役でも知られるジェームズ・マカヴォイが、24人格の殺人鬼ケヴィンを演じるスリラーで、劇中約6人のキャラを演技だけで瞬時に演じ分けるマカヴォイの演技力に賞賛の声が集まり、映画としてもヒットしました。
そのラストシーン。
ケヴィンのニュースをダイナーで観ている一人の男の姿が。
なんと、その男はブルース・ウィリス演じるダンだったんですねー!!
なんと「アンブレイカブル」と「スプリット」は同じ世界の物語であり続編だったというサプライズ。
そして、今年公開された本作「ミスター・ガラス」が、“シャマラン・ユニバース”18年目にして完結作であることを知ったシャマラニスト(シャマランのファン)たちは狂喜乱舞したのです。
1作目の主人公がダン、2作目の主人公がケヴィン、そして3部作のトリを飾るのが本作の主役ミスター・ガラス。
本作で、ケヴィンの中の人格たち(自称 「群れ」)は、自分たちが異常者ではなく進化した人類である事を証明するため、最強にして最凶の人格「ビースト」を召喚し、世間に知らしめようとしているんですね。
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そのための生贄としてチアガールを誘拐しているわけです。(ビーストは食人族)
一方、奥さんを亡くしたダンは残された息子を相棒にして独自にケヴィンの行方を追う自警活動に精を出しています。
その途中で出会った悪人どもを懲らしめている様子がネットなどにアップされて、彼は人々から「監視者」と呼ばれているんですね。
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そして、ついに出会った両雄はついに激突するも、駆けつけた警察に取り押さえられて精神病院に入れられます。
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そこには、自分をヒーローだと妄想している患者を専門に研究している精神科医 エリー(サラ・ポールソン)と、鎮静剤の大量投与で廃人同然になったイライジャもいて――という物語。
エリーはダンとケヴィンの能力に一つ一つ論理的に反論して、彼らが超人ではないと説明していきます。
そんなエリーの“カウンセリング”によって、二人のアイデンティティは大きく揺らぐわけですね。
「アンブレイカブル」「スプリット」の続編として、二人が対決するスーパーヒーロー映画を想像していた人たちにとっては肩透かしの展開ですが、その辺がいかにもシャマランらしい展開と言えるのかもしれません。
全てはイライジャの掌の上
そんな3人の中でエリーが最も警戒しているのが、ミスター・ガラスことイライジャ。
骨は弱いが知能は以上に高く、飛行機や列車事故を引き起こした張本人ですからね。
薬の大量投与で廃人同然の彼ですが、どうも人眼を盗んでは病院内を自由に動き回っている気配があり、エリーはそんなイライジャ対策として、病院内外に100個を超える監視カメラを取りつけて徹底的に監視。さらに謎の機械でロボトミー的な人格矯正? 治療を決定するんですね。
しかし、そんなエリーの行動や、ケヴィン、ダンの対決さえも全てはイライジャの掌の上だった事が、クライマックスで分かる仕掛けになっているのです。
だから、本作の主人公は「監視者(ダン)」でも「群れ(ケヴィン)」でもなく、「ミスター・ガラス」なんですね。
謎の組織
三人の特別な力を理詰めで否定する精神科医のエリー。
ぱっと見、患者に対して真摯に向き合う優しいお医者さんという彼女ですが、どこか胡散臭さが拭えない。
実は、彼女はある謎の組織の構成員であることが後半で明らかになります。
そして、この組織が過去にもコミックのに登場するヒーローやヴィラん(悪役)のような特別な能力を持つ人間たちを“矯正”または“排除”してきたことも同時に明らかになるんですね。
彼らは「人間の世界にはコミックのヒーローも悪役も必要ない」と考えていて、そうした存在は人間の世界に余計な混乱と混沌を引き起こすという思想の元に、ヒーローやヴィランの芽を刈り取っている組織なのです。
コミックスコード
で、観終わった後ネットで他のレビューを読んでいた中に、組織やエリーにはモデルがいるのでは? というレビューを見つけ、個人的に非常に腑に落ちたんですよね。
1930年代。
当時の全米の教育者たちが、子供や学生たちへの悪影響と学業成績の低下を理由に、悪役(ヴィラン)を賞賛したり裸に近い格好の女性が登場するコミックスを、一斉に批判し始めるようになります。
当時、いわゆるヒーローコミックの人気は落ち、犯罪者を描いたクライム・コミックやホラー・コミック内の暴力及び流血表現がエスカレートしていたんですね。
で、それらのコミック批判の発端となったのが、精神科医フレデリック・ワーサムの著書「無垢への誘惑」です。
その内容をざっくり言うなら「暴力や犯罪、性的表現を描いたコミックは青少年に悪い影響を与える」というもの。
日本でも似たようなのがありましたよね。青少年健全なんとか条例。
で、政府を巻き込んだ議論が繰り返され、いよいよ批判が高まった1954年。
アメリカ合衆国のコミック・ブックの内容を取り締まるために設立された、全米コミックスマガジン協会(CMAA)の一部門として誕生した「コミックス倫理規定委員会」によって「コミックス・コード」という自主規制が始まったのです。
関係文章を読んでみると、この規制はハリウッドの「ヘイズコード」を下敷きに、性的表現や暴力は元より、吸血鬼やゾンビなどのホラー全般などなど多岐に渡ったそうで、この規制によりアメコミは正義が悪を打ち倒すヒーローものしか描けなくなってしまったらしいんですね。
しかし、実は事の発端となったフレデリック・ワーサムは、コミックス・コードには反対の立場だったとも書かれていて、調べてみると彼はそもそも子供にコミックを読ませる事自体に反対だったようです。
自署を曲解された気の毒な人かと思ったら、より過激な「コミック撲滅派」でしたよw
彼に言わせると、スーパーマンは権力、武力、暴力のシンボルで、バットマンと相棒ロビンは同性愛者で、「ワンダーウーマン」はボンテージSMだそうですよ。(意訳)
うん、まぁ、当たらずとも遠からずですけどねw
一方で「大人のための検閲には賛成しない」と主張してきたことを彼の名誉のために一応付け加えておきます。
で、話を戻すと、エリーのモデルはこのフレデリック・ワーサムであり、彼女の属する組織のモデルはコミックス倫理規定委員会によるコミックス・コードそのものではないかと。
一方で、怪力と頑丈な体、悪人を見抜く能力を持つダンのモデルとなっているのはスーパーマン、ケヴィンは、ジェームズ・マカヴォイのキャスティングも合わせて考えれば恐らくはX-MEN。
そして、言葉巧みに相手を意のままに操り、目的のためには殺人さえも何とも思わないイライジャはバットマンの宿敵ジョーカーや、スーパーマンの宿敵であるレックス・ルーサーあたりがモデルにしていて、尚且つ18年という年月と私財までを投入して本作を作り上げたシャマラン自身が投影されたキャラクターでもある気がしますねー。
シャマラン流「ウォッチメン」
有名なコミックヒーローをモデルにオリジナルのヒーローを描いた作品といえば、 アラン・ムーア原作の傑作コミックで2009年に ザック・スナイダー監督で実写化された「ウォッチメン」を連想する人も多いのではないでしょうか。
アメコミ全体を批評的、かつ総括的に描く本作の構成は「ウォッチメン」によく似ている気がします。
この3部作で、かなりのアメコミ・フリークであることが分かったシャマラン。
恐らく彼は、 アラン・ムーアやフランク・ミラーが活躍した1980年代半ば以降のいわゆる「モダンエイジ」のコミックに強い影響を受けているのではないかと。(「ダークナイト」的な暗くてシリアスなアレ)
つまり本作は、シャマラン流のMCUであり、「ウォッチメン」でもあると僕は思うんですよね。
そして、(多分)MCU作品の10分の1程度の予算で、これだけ見ごたえのある「ヒーロー映画」を作ってしまったのだから、シャマラン恐るべしなのです。
とはいえ、大量殺人犯であるミスター・ガラスが、まるでヒーローのように描かれるラストには賛否両論あるようですが、個人的には上記の「コミックス・コード」に対するシャマランの回答と考えれば、見事なオチだったのではないかと思いましたねー。
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