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MCUドラマ「シー・ハルク:ザ・アトーニー」レビュー&解説

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ぷらすです。今回は、Disney+にて2022年8月18日から10月13日まで配信された、MCUドラマ「シー・ハルク:ザ・アトーニー」のレビューと解説をしていこうと思います。ハルクといえば、1962年の初登場から現在もマーベルコミックスで描かれ続けている人気ヒーローの一人。MCUマーベル・シネマティック・ユニバース)でも重要キャラとして登場していますが、本作の主人公はそんなハルク/ブルース・バナーの従姉妹ジェニファー・ウォルターズなんですね。

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シー・ハルクとは

シー・ハルクは1980年2月発刊のマーベル・コミック『Savage She-Hulk #1』で初登場。その名の通り、女性版ハルクです。

そのオリジンは原作コミックとMCUドラマでは多少異なっています。ハルクことブルース・バナーの従姉妹ジェニファー・ウォルターズの職業が弁護士なのは一緒ですが、原作では起訴に追い込んだ犯罪者の部下から狙撃を受けて重傷を負い、従兄弟のブルースからの輸血によってハルクの能力を得るという設定。

対してMCUドラマ版では、ドライブ中事故に遭ってしまった2人。この時傷口からブルースの血液が体内に入ってしまい、ジェニファーはハルクの能力を得るんですね。

ちなみにブルース・バナーは元々は物理学者で、そんな彼がハルクになったのは、米軍のスーパーソルジャー計画再現実験の失敗により、大量のガンマ線を浴びてしまったことでDNAが変化し、緑色の大男(ハルク)に変身してしまう体質を得たから。

お気づきの人もいるでしょうが、ハルクはロバート・ルイス・スティーヴンソンの「ジキル博士とハイド氏」をベースにしたキャラクターなのです。

ブルースは強い怒りや負の感情によって心拍数が上がることでハルクに変身。変身後は理性を失い、敵味方関係なく破壊の限りを尽くすモンスターになってしまうんですが、MCUでは色々あって、ハルクに変身してもブルースの理性を持つ【スマートハルク】へと進化しています。

第1話の流れ

さて、ドラマ第1話冒頭でジェニファーは次の裁判に向け練習をしています。彼女はどうやらスーパーパワーを持つ超人の被害に遭った原告側?の弁護をするらしい。そして、ジェニファーの回想シーンとして、ドライブからの事故、ジェニファーの傷口にブルースの血液が入るシーンへ。

その後、ハルクの能力を得てしまったジェニファーをスーパーヒーローにさせるため、ブルースはメキシコの隠れ家で彼女を訓練。しかしジェニファーはヒーローには一切興味がなく、また、ブルースとは違って、変身後も自我を失うことなくハルクパワーをコントロールしてるんですね。

その理由について彼女は「女はいつだって怒りをコントロールしているから」と説明。結局ブルースはジェニファーのトレーニングを諦め、彼女は弁護士の仕事のためにロスに戻るのです。そこで回想が終わり裁判のシーンに。

裁判はジェニファー有利で進むものの、突如怪力を持つインフルエンサータイタニアが乱入。ハルクに変身したジェニファーは彼女を撃退します。

これによりジェニファーは「シー・ハルク」として一躍有名人になりますが、陪審員の心証を操作したとして勤務していた事務所をクビになってしまいます。

しかし、先の裁判で対立していた大手法律事務所GLK&Hが彼女を採用。ただし、ジェニファー・ウォルターズではなく超人部門専門弁護士、シー・ハルクとしてなんですね。ここからジェニファーとシー・ハルクの二重生活が始まるのです。

ほぼ一話完結のコメディードラマ

実はこのドラマ、ほぼ1話完結のコメディーシリーズです。煽り文句では「法廷コメディー」と謳われていますが、法廷シーンはそれほどなくて、物語の主軸は人気者のシー・ハルクと冴えない自分の間で揺れ動くジェニファーの恋と仕事の等身大な日常をメインに描いているんですね。

なので、ジェニファーがシー・ハルクに変身してヴィランと闘うような描写も殆どなくて、マッチング・アプリに登録するも相手に恵まれないジェニファーが、シー・ハルクで登録した途端デートの申し込みが殺到するとか、仕事面では、ハルクの敵として「インクレディブル・ハルク」登場し現在は刑務所に収監中のエミル・ブロンスキー / アボミネーションの弁護をするハメになったり、その参考人としてドクター・ストレンジの友人で至高の魔術師ウォンが登場したり。あ、ジェニファーが弁護士ということで、“あのヒーロー”も登場しますよ。

まぁ、この他作品のキャラクターが大量にゲスト出演する展開こそMCUらしさである一方、そのやり方にうんざりする人がいるのも事実。

しかも、今回はハルク、アボミネ―ション、ウォン、あのヒーローだけでなく、他作品の原作にしか登場していないキャラが何人も登場するので、「あれ、このキャラクター他の(MCU)作品で見たっけ?」と混乱したりするんですよね。

ただ、それが出来るのも自由度の高いコメディーという本作の特性ゆえでもあり、それが衝撃の最終回への伏線にもなっているわけです。

シーハルクの能力

シー・ハルクにはどんな能力があるのかというと、基本、ハルクが出来ることは全部出来るし、なんならパワーもハルクより上だったりします。

さらに、シー・ハルクだけの固有能力として、「第四の壁を超える」というのがあるんですね。

「第四の壁」とは、ざっくり言えば観る者(視聴者)と観られる者(キャラクター)の境界を分けるカメラのこと。

基本、ドラマや映画で役者の人ってカメラ目線にならないし、カメラに向かって話しかけないですよね。それは、フィクション=物語はカメラの向こうの世界という不文律があるからなんですが、シー・ハルクはそのカメラ越しに、視聴者にガンガン話しかけてきます。

マーベルヒーローの中で同様の能力を持っているのが、デップーことデッドプールで、彼は自分が”物語のキャラクター“であることを理解しているんですね。

で、第1話からジェニファー/シー・ハルクも第四の壁を越えて我々視聴者に話しかけてくるし、この能力が最終回への布石にもなっているわけです。

というわけで、ここから先はネタバレになるのでご注意を。

賛否分かれる最終回とシー・ハルクの敵

この「第四の壁を超える」という彼女の能力が発揮されるのが最終回。

それまで、7話に渡りシー・ハルクをつけ狙ってきた謎の敵組織「インテリジェンシア」が、第8話で、その年の最優秀女性弁護士?の授賞式の席で隠し撮りしたジェニファー/シー・ハルクのプライベート動画を流し、これにキレたジェニファーが大暴れ。即座にダメージ・コントロール局 最高警備レベル刑務所に収監されてしまった所から物語はスタートします。

彼女は、変身できないよう制御装置をつける事を条件に釈放されますが、今まで彼女、というかシー・ハルクをちやほやしていた世間は手のひらを返してシー・ハルクを叩きはじめるんですね。

その後、色々あって「インテリジェンシア」のリーダー、ハルク・キングの正体はシー・ハルクのファンを拗らせた金持ちのボンクラ、トッド・フェルプスであり、メンバーは概ねミソジニーを拗らせたボンクラどもであることが判明。

トッドはスパイを利用して手に入れたジェニファーの血液から作った血清でハルク化。変身できないジェニファーに襲い掛かるもアボミネ―ションが彼女を守り、そこに宿敵タイタニアやハルクまで乱入して――と、まさにしっちゃかめっちゃかの状況に。

そんな状況の中、ジェニファーが画面に向かって「これ、面白い?」と聞くと、画面がディズニープラスのホーム画面にもどります。(我々視聴者が呆れてドラマを見るのをやめたという表現)

そこでジェニファーは制御装置を外しシー・ハルクに変身。メニューの窓(シー・ハルクのアイコン)を壊しホーム画面から、MCU作品のメイキングを流す「マーベル・スタジオ アッセンブル」の動画に潜入。「シー・ハルク:ザ・アトーニー」の制作会議に突入し抗議するも、「ケヴィン・ファイギが臨んだ展開だから」と埒が明かないため、シー・ハルクはMCU統括のケヴィン・ファイギに直談判に。

ところが、実はケヴィン・ファイギは人間ではなく「知識拡張型映像相互接続隊 (Knowledge Enhanced Visual Interconnectivity Nexus)」、略してKEVINである事が判明。

ジェニファーの抗議にKEVINは「作品の評価はネットの議論に委ねる」と言いますが、ここでジェニファーは「最終弁論」をスタート。

”法廷コメディー”のラスボスが、MCUのトップというトンデモ展開ですが、このメタ構造は「第四の壁」を破れるシー・ハルク(とデップー)にしか出来ないんですよね。

ジェニファーはMCU作品が全て同じ結末に陥っている事を指摘し、本作が自分とシー・ハルクの両立に悩み、受け入れていく物語であることを訴えるとKEVINは考えを変え、ジェニファーの要望を聞きながら最終話のストーリーを改変。

トッドがハルクパワーを得る展開をやめ、ハルク登場の展開もなしに。

さらにジェニファーは第8話で良い中になったマット・マードック/デア・デビルの再登場も要求し、ついでにMCUヒーローにはファザコンが多すぎ問題を指摘したり、X-MENはいつ登場するのかと質問するなど、ケヴィンのAI化も含め、我々視聴者がMCUに思っている事を代弁してくれるんですね。

まぁ、この展開は原作コミックなどでシー・ハルクのキャラクターを知っている人と、MCUしか見ていない人で賛否が分かれるというか、ぶっちゃけMCUの映画&ドラマしか観ていない人が、この展開に批判的なのも仕方ないかもとは思うんですよね。

だって、ドラマのキャラクターが製作スタッフにストーリーを変えさせるのがアリなら、いよいよ何でもアリになっちゃうし、ただでさえフェイズ4に入り、マルチバース設定が盛り込まれてからは脱落者続出ですからね。そこにこんなちゃぶ台返しされたら、おいおい…ってなっちゃう人の気持ちも理解できます。

ただ、僕はこの展開大いに楽しんだんですよね。

2016年公開の「ゴーストバスターズ」では、メインキャラクターを女性に変更したところ旧作のファンが激怒。SNS上で出演者を叩く騒ぎになったり、Amazonプライムの「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」で黒人?のエルフが登場したことで炎上したり、MCU作品でも女性が主人公の作品などを叩く連中もいると聞きます。

本作に登場する「インテリジェンシア」の連中が言う「(自分たちは)シー・ハルクが男でも批判してる」「スーパーパワーを持てるのは実力ある者だけ」などのセリフは、まさに、現実世界のネット上で、上記の作品に調子っぱずれな批判や度の過ぎる非難を繰り返すボンクラミソジニーやアンチポリコレ勢の言説そのもの。

もっと言えば、ジェニファー=シー・ハルクの敵は、彼女の都合も考えずをスーパーヒーローにしようとするブルースであり、弁護士としてではなく、シー・ハルクの話題性にしか興味のないGLK&Hの社長であり、ジェニファーには目もくれないのにシー・ハルクとはデートしたがるマッチングアプリの男どもであり。

そして、男性ヒーローに比べ、女性ヒーローに対して不遇な扱いをしてきたMCUであり。

陳腐な言い方をすれば、そうした男性・マジョリティー優位な今の社会構造そのものなのです。

そうした相手(敵)に対し、ドラマを通して正面から批判するのではなく、卑近で間抜けな存在として笑い飛ばし、さらにはシー・ハルクの「第四の壁を超える」能力を使うことで、最終話ではメタ的にMCUをも批評してみせる。

その一方で、偶然手に入れたハルクの能力に最初は振り回されながらも、徐々に折り合いをつけて受け入れていくという「ハルク」の文脈はしっかり継承し、同時にそれは多くの人が普遍的に抱える、社会的の中の自分と自分の中の自分自身のズレや違和感という悩みとリンクしているんですね。

そんなのシリアスなドラマでやられたら「うわぁ……」と落ち込んじゃうけど、それをコメディという枠の中で軽やかに描いてみせた本作の作劇は個人的には凄いって思ったし、ジェニファー/シーハルクのこれからの活躍も期待せずにはいられませんでしたねー。

というわけで、MCUドラマ「シー・ハルク:ザ・アトーニー」のレビュー&解説でした。

9話構成のドラマですが、1話30分とサクサク観られるので、

興味のある方は是非!