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分かるけどしんどい「メイドインアビス-深き魂の黎明-」(2020)

ぷらすです。

漫画家つくしあきひとの同名コミックのアニメ化劇場作品『メイドインアビス-深き魂の黎明-』を観てきましたよー!

いやー、もうね。覚悟はしてたんだけど……案の定しんどかったですねーww

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概要

つくしあきひとのコミックを原作にしたアニメの劇場版。大穴“アビス”の謎を探る探窟家になることを夢見る少女の冒険が描かれる。ボイスキャストには富田美憂をはじめ、伊瀬茉莉也井澤詩織森川智之水瀬いのりらがそろう。アニメーション制作をキネマシトラス、監督を本シリーズを担当してきたアニメ「ブラック・ブレット BLACK BULLET [黒い銃弾]」などの小島正幸が務める。(シネマトゥデイ

感想

メイドインアビスとは

とはいえ、「メイドインアビス」を知らない人もいると思うので、ざっくり説明すると、漫画家つくしあきひと氏が「WEBコミックガンマ」で不定期連載の人気コミックで、現在、単行本が8巻まで発刊中。

約1900年前に南ベオルスカの孤島で発見された直径約1000メートル、深さ不明の縦穴「アビス」が舞台の物語。

「アビス」は特異な生態系を持ち、また人知を遙かに超える技術で造られた「遺物」が数多く出土することから、大穴の縁に作られた街には、アビスの探検を行う「探窟家」たちが多く暮らしているわけです。

主人公リコはその街に暮らす探窟家の卵でしたが、ある日、アビスで不思議なロボット少年のレグと出会い、また、消息不明の「白笛」(最上位の探窟家)でリコの母ライザの笛と伝言が10年ぶりに発見されたのをキッカケに、レグと共に「アビスの底」を目指すという物語。

この「アビス」というのが、あまりに深すぎる上にヤバい生き物も多くいるので降りるだけでも大変なんですが、地上に向かって上がろうとすると「上昇負荷」が掛かって身体や精神に色々な影響が出たり最悪死亡する「アビスの呪い」ってのがあるんですね。

分からない人は、深海への素潜りや高山への登頂などをイメージしてもらうと分かりやすいかもです。

で、この漫画がアニメ化され、2017年7月から9月まで13話が放送
その後、TV版を再編集した「総集編」が前後編に分けて劇場アニメとして上映され、現在TV未放送の”続編”である本作が劇場公開中なのです。

僕は原作は未だ未読なんですが、TVアニメ版と総集編を観てまして、その続編が公開されるとなれば、これはもう観に行くしかないじゃないですか!

覚悟はしていたけれど…

で、観てきたわけですが……。

いえね、TV版で内容は知っているし、R-15指定ですからね。
それなりに覚悟は決めていたわけですが……しんどかったですねー!

もうね、原作者のつくし先生を始め、監督・スタッフ全員に正座させて小一時間説教したいですよ。

お前らの血は何色だ。と。

メイドインアビス」のもう一つの特徴として、とにかく子供がとんでもなく酷い目に合う(抑え目な表現)っていうのがありましてね。

TV放送分でも10話以降は、観てるこっちが引くくらいリコ、レグ、ナナチ、ミーティたちが悲惨な目に遭うわけです。

それでも、そこまでの経緯やキャラ同士の関係性、リコたちの目的などが12話かけてじっくり描かれているので、コッチもすっかり感情移入しているし、ストーリーの組み立ても素晴らしく、またアビスという地上とはまったくルールの違う壮絶な環境でサバイブするという設定もあって、辛さや嫌悪感よりも物語的説得力や感動の方が上回っていたから乗れたわけです。

で、約1時間(2話分)かけて放送された13話では、白笛の探窟家ボンドルドというキャラが登場するんですが、こいつがマ・ジ・でスーパー腐れど外道でして。

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貧民街などから身寄りのない子供を連れてきてはアビス深くにある自分の基地に連れてきて、とんでもなく非人道的な人体実験を繰り返しているわけです。

物語後半で登場するミーティとナナチはその犠牲者なんですが、ここでボンドルドの腐れ外道っぷりがナナチの回想として余すところなくたっっっぷり描かれる。
そしてTV版はリコ、レグ、ナナチがボンドルドの待つ第5層へと旅立つところで終わっているんですね。

つまり、13話はいわば「子供たちvsボンドルド編:前編」なわけです。

そして、総集編2作を挟み、本作はいよいよ「~後編」となるわけで、これはもう、リコたちがただでは済まない事は、TV版(もしくは劇場版前2作)を観た人なら誰もが容易に想像できるわけですよ。

分かるんだけど……

で、まぁ……結論としては想像以上にしんどかったですよと。

ネタバレになっちゃうので詳しいことは書けませんけども、「あー、そこも見せちゃうんだ」「あー、そこも描いちゃうんだ……」って感じ。

いや、必要な情報をTV版13話に絡めながら、過不足なく入れ込んだ見事な脚本だったし、映像も動きも音楽も素晴らしいクオリティーなんです。

で、本作の設定上、リコ、レグ、ナナチの3人がアビス第6層へ降りるためには、第5層でボンドルドが管理している前線基地(イドフロント)を避けて通ることは出来ないわけですね。

で、前線基地に到着した3人を出迎えるのが、ボンドルドの“娘“であるプルシュカという少女。

この基地で生まれ育ちリコと同じく白笛の親を持つ彼女は、同年代の3人に対して友好的だし、3人もまた彼女に心を許す(特にリコは)わけですが、当然、それはこれから起こる展開の前振りでしかなく。

で、この後、案の定物語は凄惨なことになっていくわけですが、ここで問題なのがプルシュカと3人の関係性がTV版ほど時間をかけて描かれてないことで。(正確には、脚本では限られた時間の中で頑張って描いているんだけど、観ているこっちにそれを消化する時間の余裕がない)
多くの時間はボンドルド安定のど外道っぷりや、3人対ボンドルドの対決の方に割かれているので、子供が酷い目に合う嫌さの方が先に立ってしまうんですよね。

それでも、もし本作がTVアニメ終了から間を開けずに公開されていれば、コッチも13話分の熱を持ったまま観られただろうから印象も違ったかもですが、やはりTV版から時間が経ち、一度熱が冷めた状態で本作を観てしまうと、感動よりも嫌悪感の方が先に立ってしまうというか。ただただ、嫌でしんどい展開が続くので観終わった後グッタリしてしまうんですよね。

かといって、ここで生ぬるい描写でお茶を濁してしまうと、これまでつくし先生の原作とTVアニメ版でスタッフが築き上げてきたメイドインアビス」ではなくなってしまうので、あえてキツい描写も避けずに描いたスタッフの決断も分かるだけに、何とも複雑な気持ちになりました。
そういう意味で、「メイドインアビス」は幸せな作品と言えるかもしれません。

そして、どうやらTV版2期も決定したらしい今、ファンとしてこの作品を避けては通れないところが、本作の内容と現実がリンクしているっていうw

そこまで計算して本作が作られているんだとしたら、それはそれで凄いですけどねw

映倫GJ!

ちなみにこの作品、当初はPG12指定だったのが、映倫の最終審査の結果R15+指定に引き上げられたという経緯があるのだそうです。
僕は基本的に、作品に映倫が介入することに対して否定的なんですけど、今回のこの判断に関しては初めて「映倫グッジョブ!」って思いましたねーw

っていうか、PG12指定って小学生以下の子供でも保護者同伴なら鑑賞OKってことですからね。

こんなもん、うっかり何も知らない親子連れが「可愛い絵のアニメだわー」なんて観たら大騒ぎになるわ!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ

まぁ、製作者側はこうなる事は最初から分かっていて、(話題作りも含め)確信犯だと思いますけどねw

 

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ジャンルの枠に収まらないポン・ジュノ印!「グエムル -漢江の怪物-」(2006)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは「パラサイト」のポン・ジュノ監督2006年の作品『グエムル -漢江の怪物-』ですよー!

「パラサイト」が面白かったので、他のポン・ジュノ作品も観たい!って思って先日TSUTAYAでレンタルしてきました!

「怪獣映画」だと思って観ると肩透かしを食らうかもですが、ポン・ジュノ作品だと思って観れば、色々楽しめる作品でしたよ!

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概要

韓国の人々のオアシス、漢江(ハンガン)に突如出現した怪物を巡る事件に肉迫するパニック映画。怪物に娘を奪われた一家の奮闘を描く。情けない父親から一変、闘うお父さんを体当たりで演じるのは『南極日誌』のソン・ガンホ。その妹役を『リンダ リンダ リンダ』のペ・ドゥナ、弟役を『殺人の追憶』のパク・ヘイルが演じている。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどを手がけたニュージーランドのWETAワークショップが、魚に似たリアルな怪物を作り上げた。(シネマトゥディより引用)

感想

“ジャンル”の枠からはみ出すポン・ジュノの作家性

本作をざっくり説明するなら、いわゆる怪獣……というか「モンスターパニック」映画のテンプレで作られているものの、出来上がってみたら「結局ポン・ジュノ作品になっちゃった」系映画。つまり、いつものポン・ジュノ映画でしたよ。(褒め言葉

映画冒頭、2000年、駐韓米軍基地の白人博士が、韓国人助手に命令し大量のホルマリンを漢江に破棄させます。
その2年後、釣人が奇形生物を目撃。さらに漢江で投身自殺した男が無惨な遺体で発見されるんですね。

同年、漢江の河川敷で父親ヒボン(ピョン・ヒボン)と小さな売店を営むパク家の長男カンドゥソン・ガンホ)はトレーナーに金髪姿で居眠りばかりのダメ親父ですが、元妻との娘、中学生のヒョンソ(コ・アソン)を心から愛しているんですね。

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のどかな休日。パク家長女ナムジュペ・ドゥナ)のアーチェリー大会をテレビで観ているヒョンソとヒボン。
カンドゥは河川敷の客にスルメを届けに行くんですが、そこに突然巨大で奇妙な生物が出現。河川敷でレジャーを楽しんでいた人々を次々に襲い始めるんですね。

カンドゥは、休暇で遊びに来ていた米軍兵士と共に怪物と闘うもののまったく刃が立たず、ヒョンソを連れて必死で逃げますが、転んで手を離した拍子にヒョンソは怪物に連れ去られてしまいます。

怪物が去ったあと、体育館のような場所で行われた合同葬儀に、ナムジュとパク家次男で大学出のフリーター・ナミル(パク・ヘイル)も駆けつけ、パク家は死んだヒョンソを偲んで泣き崩れるんですが、そこに突如政府の役人が乗り込んできて、怪物が未知のウィルスのホストであると接触した者を強制隔離。

パク一家も強制連行&入院させられるんですが、その深夜、死んだはずのヒョンソからカンドゥのケータイに連絡が――というストーリー。

しかし、警察も政府も医者も、誰ひとりカンドゥの話を信じようとしないので、パク家の家族は病院を抜け出すと、あの手この手で警察の追っ手を躱しつつヒョンソの行方を探すんですね。

つまり本作は「モンスターパニック映画」のテンプレを使ってはいるものの、本質的には権力やシステムという巨大な理不尽に翻弄される家族の物語なのです。

そういう意味で本作は最新作「パラサイト」と同じテーマを扱った作品とも言えるし、それこそがポン・ジュノ監督の一貫した作家性と言えるのかもしれません。

コメディー演出

病院から抜け出したあとヒョンソが電話で言った「大きな下水溝」をヒントに、パク家族は彼女を捜すんですが、この家族全員が種類の違うバカなので無策のまま市内の下水溝という下水溝を片っ端から捜し回るんですね。

この辺の計画性のなさや行き当たりばったりっぷりも、ある意味「パラサイト」のキム家族に通じるものがあるかもしれません。

とはいえ、警察でも政府関係者でもない一般市民が、行方不明の子供を捜す(しかも政府や警察に追われながら)んだから、ある意味この行動はリアルと言えるかもですが。

ストーリー自体は割と悲惨で重い内容ながら、どこかコメディー的な家族描写も、ポン・ジュノ印と言えるかもしれませんね。

母親の不在

そんなパク一家には母親の影は見えません。
カンドゥの元妻でヒョンソの母親は、どうやら家族を捨てて出て行ったらしい事がセリフの中で分かるんですが、そのカンドゥの母親もいないんですね。
これも劇中で、父親のヒボンが過去に家族を顧みない酷い父親だった事を告白しているので、もしかしたらヒョンソの母親同様、家族を捨てて出て行ったのかもしれないし、何かの原因で死に別れているのかもしれません。

監督のインタビューによれば、「母親は賢く現実的で、家庭の中でとても強靱な存在」と考えていて、「母親がいると、駄目なはずの家族が、情けない家族に見えなくなると思った」そうなんですね。

つまり、監督にとって「母親」は家族を一つに繋ぐ“かすがい”の役割をしているわけで、本作でその役割を担っているのが娘のヒョンヒだったのです。

そのヒョンヒを失ったことで、家族のダメさ加減が顕になり、バラバラになってしまう。一方、下水溝のヒョンヒは、怪物に攫われた孤児の少年セジュを、母親のように必死に守ろうとするんですよね。

なので、本作冒頭のパク家の最初の姿と対になった本作のラストシーンは、ある意味でブックエンド形式になっているわけですね。

ちなみに、ヒョンヒやセジュが生きていたのは、怪物が飲み込んだ食べ物を巣に運んで一旦吐き出し、貯蔵するという習性があったからみたいです。
実際にそういう習性の水生動物がいるかは分かりませんが、この設定によって怪物が「怪獣」ではなく、巨大化した「生物」であるという事に説得力を持たせていると思いましたよ。

反米意識

本作は、ポン・ジュノ監督の反米意識が割とストレートに現れた作品でもあります。
冒頭で科学者が漢江にホルマリンを流させるという設定は、2000年に在韓米軍が大量のホルムアルデヒドを漢江に流出させた事件にヒントを得ているそうですし、中盤~後半で明らかになる、米軍がウィルスが存在しなかった事を隠し怪物を殺すため猛毒の化学兵器「エージェント・イエロー」を漢江に散布するのは、どこか9.11以降のアメリカを連想します。ちなみに「エージェント・イエロー」という化学兵器アメリカ軍がベトナムで使用した枯葉剤エージェント・オレンジ」に掛けてあるそうですね。

ただ、監督自身の感覚としては、「アメリカ憎し」というよりは、多くの人間が幸せになれない今の社会システムに対しての反感という感じで、そのへんも「パラサイト」に通じている感じがしました。

2006年公開の作品ということで、今見るとCGの粗さが目立つとか、脚本や演出にも、まだ若干の粗さも見えたりしますが、漢江で怪物が暴れるシーンには手に汗を握ったし、ストーリーも(モヤモヤ感も含め)面白い作品でしたよ!

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オリジナル長編なのに総集編っぽい「プロメア」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは「天元突破グレンラガン」シリーズやアニメ「キルラキル」の今石洋之監督と脚本の中島かずきが再びタッグを組んだ劇場版アニメ『プロメア』ですよー!

この作品、劇場オリジナルアニメなんですが、なんだか「TVアニメの総集編みたい」でしたねー。

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概要

天元突破グレンラガン』シリーズやアニメ「キルラキル」の今石洋之監督と脚本の中島かずきが再び組んだ劇場版アニメ。炎を自在に操る集団によって危機に陥った世界を舞台に、主人公と宿敵の戦いが描かれる。ボイスキャストは『聖の青春』などの松山ケンイチ、『BLEACH』などの早乙女太一、ドラマ「半沢直樹」などの堺雅人のほか、声優の佐倉綾音吉野裕行小山力也小清水亜美ら。(シネマトゥデイより引用)

感想

今石洋之中島かずき

本作で監督を務めたのは「天元突破グレンラガン」「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」などで知られる今石洋之
ガイナックスから退社後、大塚雅彦舛本和也と共にアニメスタジオ「TRIGGER」を設立。「キルラキル」などの人気アニメーションを世に送り出しています。

そんな今石と組んで「天元突破グレンラガン」で脚本を担当したのが、劇団☆新感線の座付き作家としても知られる中島かずき

その後、「TRIGGER」を設立した今石と再びタッグを組んだTVアニメ「キルラキル」や、「コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜THE LAST SONG」「ニンジャバットマン」など、数々のアニメ作品で脚本を担当してるんですね。

で、そんな二人が「~グレンラガン」「キルラキル」に続き三度タッグを組んだのが本作「プロメア」なのです。

ざっくりストーリー紹介

炎を操る新人類バーニッシュの出現に端を発する惑星規模の発火現象、「世界大炎上」で人口の半分が焼失してから30年が過ぎた世界。

炎上テロを繰り返す過激派バーニッシュの集団“マッドバーニッシュ”に対抗すべく、対バーニッシュ用装備を扱う“高機動救命消防隊バーニングレスキュー”が消火活動を行っていた。

そんなある日、新米隊員ガロ・ティモス松山ケンイチ)は、火災現場でマッドバーニッシュの首魁である少年リオ・フォーティア早乙女太一)と出会い――というストーリー。

最初は敵同士の二人でしたが、後半でガロがある真実を知ったことで二人は力を合わせ、真の敵に立ち向かうという、まぁ王道の展開なんですが、観た感想を一言で言うなら、(オリジナル長編のハズなのに)「TVアニメの総集編みたい」だと思いました。

物語のスケール感がおかしい

なぜそう思うかというと、物語のスケールがそもそも2時間弱に収まる分量ではないからです。

映画冒頭のアバンで、セリフやナレーションを一切入れずにアニメーションだけで“事の始まり”を見せていく編集には「お!?」と期待したんですが、始まってみればいつものTRIGGER作品で、炎上テロを繰り返す過激派バーニッシュの集団“マッドバーニッシュ”のボス・リオと対バーニッシュ用装備を扱う“高機動救命消防隊バーニングレスキューの新米隊員ガロの戦い。

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ここまでは両者入り乱れてのチーム戦で、まぁいい感じではあるんですが、マッドバーニッシュがガロに逮捕され、バーニングレスキューの手柄を横取りするように対バーニング特殊部隊「フリーズフォース」が現れて横暴な振る舞いをする。

この時点で、観ている人の殆どは“真の敵”の存在を確信するはず。

で、実際その通りの展開になるし、ラスボスも登場した瞬間に大抵の人は「コイツがラスボスだろ」って気づくと思うんですが、やっぱりその通りの展開になっていくんですよね。

つまり、本作はTVアニメ1~2クール分(6~12時間分くらい?)のスケールの物語を無理やり2時間弱にギュッと詰め込んじゃってるんですね。

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だからストーリーの起承転結を追いかけるだけで精一杯。
時間的にキャラクターの魅力や個性や関係性を描く余裕はなくなってしまう。

ところが、TRIGGER……というか今石・中島作品の魅力ってキャラクターの魅力や関係性で物語を引っ張る構成ですからね。
本作では、その一番の魅力を切り捨ててるわけですよ。

さらに、炎を使うバーニッシュたちの扱いはまんま「X-MEN」のミュータント。
X-MENのミュータントって、要は人種的マイノリティーのメタファーですからね。
そういうキャラを出すってことは、当然人種差別というテーマが物語の中心になるハズで、実際、本作でも“バーニッシュ”に対して差別的な描写や“フリーズフォース”のバーニッシュに対するホロコーストっぽい描写もあるにはあるんですが、そこに平行宇宙がどーのこーのとか、地球の危機がどーのこうーのみたいなつじつま合わせの設定をぶち込むだから話の軸がブレてしまう

あのラストには正直、「はぁ?」って思いましたよ。

X-MEN」かと思って観てたら「ウォッチメン」でしたみたいな。

そんな感じで、最終的には「グレンラガン」や「キルラキル」と一緒で、ロジックも何もなく根性と魂ですべてが解決するに至って、もう全てがどうでも良くなってしまうんですよね。

それでも「グレンラガン」や「キルラキル」はTVアニメとして2クール分の積み重ねた分、観客はキャラクターに思い入れがあるけど、本作はそれもないですしね。

アクションシーン

とはいえ、本作はアクションシーンが見せ場のアニメ。
アクションシーンさえカッコよければそれで万事OKなハズ。

で、どうだったかと言えば、無駄にカラフルでポップ、溶岩や炎のカリカチュアされた絵面も相まって、何かもう画面がうるさい

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しかも、キャラやカメラポジションが動きまくる3D描写や「金田フォロワー」今石監督の演出も相まって、どこに何がいてどう動いてるかがさっぱり分からないし、一つ一つの動きに溜めがなく、すごいスピードで絶えず動いてるので、全体的に何してるのかよく分からないんですよね。

お前はマイケル・ベイか!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッっていうw

足し算の作劇、引き算の作劇

今石・中島コンビの魅力と言えば、足し算に次ぐ足し算で過剰に盛った作風だと思うんですが、それはあくまで尺の長いTVアニメだから活きるわけで。

やっぱ劇場アニメ、しかもオリジナル作品の場合は何を活かして何を捨てるかっていう引き算でストーリーを作っていく事は必須だと思うし、それが出来てなかったのが本作の失敗だったのではないかと思いましたねー。

いや、ネットを見ると絶賛評も結構見かけたので、もしかしたら僕がオッサンだから新しいアニメの形についていけてないだけかもだし、もしくは単純に好みの問題かもですね。

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楽しみ方が分からない…「アド・アストラ」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのはブラピことブラッド・ピット主演のSF映画アド・アストラ』ですよー!
……なんですけど、(´ε`;)ウーン…どうしよう。
正直に言うとドコをどう面白がれば良いいのか分からなかったです。
なんでしょうね?僕のSFリテラシーが低すぎるからなのか、はたまた教養が低すぎるのか。はたまた……(´ε`;)ウーン…

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概要

ブラッド・ピットトミー・リー・ジョーンズが共演したスペースアドベンチャー。地球外知的生命体を探求する父親に憧れて宇宙飛行士になった息子が、父の謎を探る。『エヴァの告白』などのジェームズ・グレイが監督を務め、『ラビング 愛という名前のふたり』などのルース・ネッガをはじめ、リヴ・タイラードナルド・サザーランドらが出演。(シネマトゥディより引用)

感想

ざっくりストーリー紹介

まず、本作のストーリーをざっくりと紹介すると、近未来、地球外知的生命体探索に人生をかけた英雄クリフォードトミー・リー・ジョーンズ)を父に持つロイ・マクブライドブラッド・ピット)は、自らも宇宙飛行士の道を歩んでいるんですね。

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何事にも動じないメンタルを持つ彼は、遥か大気圏外まで伸びる超巨大な国際宇宙アンテナでの作業中にサージ(電磁嵐)が直撃し、地上に落下する時も冷静に対処し最善を尽くして生き延びます。

その後、アメリカ宇宙軍の基地に呼び出された彼は、そこで驚くべき極秘情報を告げられます。
太陽系外知的生命体探求を目指す、“リマ計画”の責任者として約30年前に宇宙へ探索に出発して16年後に消息を絶ったことで死んだと思われた、父がどうやら生きていて、サージは海王星付近にある彼の乗るリマ号から発生したらしい事。
サージは太陽系の全生命を滅ぼしかねない事。
宇宙軍が交信を試みるも、クリフォードは反応しない事。

そこで息子のロイに、サージの影響を受けない火星地下の基地から父に通信を試みよという極秘命令を与えられるのだが――というのが本作のストーリー。

物語の骨格は古代ギリシア叙事詩オデュッセイア」、映画のルックやストーリーには「2001年宇宙の旅」と「地獄の黙示録」の影響が色濃く出ていると感じました。

ロイは英雄である父を尊敬する一方で、家庭を顧みず仕事に熱中し、挙句16年も音信不通だった父が原因で心に大きな傷を負ったキャラクター。
彼の何事にも動じないメンタルは、実は他人に対して完全に心を閉ざしている事の裏返しなのです。

それはまさに、父クリフォードの教えでもあり、彼は父の生き様をなぞる様にここまで生きてきたんですね。そんな彼に耐えられず奥さんは家を出て行ってしまったんですよね。

本作は、そんなロイが月から火星、そして冥王星へと父の足跡を追うという物語なのです。

物語と関係なく無駄死にする人々

映画冒頭、国際宇宙アンテナを襲ったサージによって、共に高所作業をしていた同僚や、サージの影響で命を落とした何千人もの人々を皮切りに、本作では物語の本筋と関係なく登場キャラクターが次々に無駄死にしていきます。

月面基地では、ロイを火星行きの資源輸送ロケットまで護衛していた宇宙軍の人々が、資源を巡って敵対する盗賊の襲撃で殺され、盗賊たちはロイに返り討ちにされます。

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その輸送ロケットは火星に向かう道すがら救難信号をキャッチ。
動物実験を行う宇宙船?に救助に向かうんですが、輸送ロケットの船長が逃げ出した実験動物の狒々に襲われ死亡。

火星で父親との交信に成功したロイですが、宇宙軍は親子であることを理由にロイを計画から外し、輸送ロケットに核爆弾を乗せて冥王星に向かわせようとするんですね。
火星基地司令官の協力で、軍の命令を無視して輸送ロケットに乗り込もうとするロイですが、軍から殺害命令が下されため、ロイは乗組員と格闘に。結果的に乗組員(3人)全員が死亡します。

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ただ、この人たちの死と、物語の本筋(ロイが父を探す旅)はまったくリンクしてないし、その死自体に意味はないので、本当にただの無駄死になんですよ。

そもそも「サージ」って何よ

で、ロイが43億キロも旅をするキッカケとなったサージ(電磁嵐)ですが、本作ではそれが起こった理屈もどんな影響があるのかもセリフで語られるだけで、具体的なことはよく分かりません。
サージはどうやら、冥王星付近に停泊中の父親が乗っているリマ号から発射?されているらしい事。そしてこのサージは太陽系の星々に暮らす人類や動植物を全滅させる可能性があることは分かるんですが、そもそもこのサージが何なのか、一艘の宇宙船から発射?されているサージになぜそんな威力があるのか、サージがもし武器なのだとしたらなぜそんな武器が必要だったのかについては、最後まで分からないままなのです。

もっと言えば、そのサージによって太陽系の生物が全滅しかねない差し迫った状況にも関わらず、宇宙軍はわざわざ地球にいる息子を何週間もかけて連れてきているわけで、そんな暇があるなら、すぐに作戦部隊を結成し、核爆弾を積んだロケットで火星から冥王星に向かうべきなのでは?と思うんですよね。サージがあるから近づけないってことなのかな?

結局、登場キャラの無駄死にと、このサージの謎(というか飲み込めない部分)がノイズになり、観ていても内容が頭に入ってこないんですよね。

父殺しの物語

物語の定形の一つに「父殺し」というのがあります。
これは本当に父親を殺すということではなく、主人公が父親を乗り越えることで一人前になる=成長するという意味ですが、本作の核となるのはまさにソレなんですね。

主人公ロイが、父親の足跡をなぞった長い旅路の末に父親とは別の答えを見つける=父親のかけた呪いからの開放と成長が、本作のテーマなのだと思うんです。

要はアイデンティティの確立のための自分探しの物語で、そんな極めてパーソナルな話を、宇宙(太陽系)を舞台に描くという、スケールが大きいんだか小さいんだかよく分からない物語なんですよねー。

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結果、ロイの行動によって一応太陽系の滅亡は防がれたわけですが、それはあくまでサブストーリーに過ぎず、メインはロイの成長っていう非常に内面的で小さな物語でしかない。
大予算を掛けているので映像は綺麗だし宇宙やロケット、無重力などの描写は確かに凄いんだけど、舞台のスケールに物語のスケールが見合っていないので何だか迫っ苦しい物語になっているし、緩急や山谷もないので非常に退屈な物語になってると思うんですよね。ブラピの演技が良いから何とか観てられたけど、僕にはまったく合わなかったです。

父クリフォードが(多分2000年以降の)アメリカのメタファーになってるのでは?というレビューも読んだし、それは当たっていると思うんだけど、そんなのニューシネマで40年以上も前にやった事を今更やられてもっていう。

ただ、ネットをチェックすると絶賛しているレビューも結構あるので、見る人がみれば面白いのかもしれませんねー。

興味のある方は是非。

 

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新時代インド映画「ガリーボーイ」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、インド・ムンバイ出身のラッパーNaezyとDevineをモデルに創作された青春サクセスストーリー『ガリーボーイ』ですよー!

色んな意味で「インド映画」のイメージを打ち破った、まさに新世代インド映画だと思いましたねー!

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概要

インドのヒップホップアーティスト、Naezyの軌跡をベースにしたヒューマンドラマ。スラムに生まれ育った青年がヒップホップと出会って希望を見いだす。メガホンを取るのは『慕情のアンソロジー』などのゾーヤー・アクタル。『パドマーワト 女神の誕生』などのランヴィール・シン、『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』などのアーリヤー・バットらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

実在のラッパーがモデルのサクセスストーリーであり青春映画

本作の主人公、“ガリーボーイ”ことムラドと、その相棒のMC Sherのモデルは、インド・ムンバイ出身のラッパーNaezyとDevine。

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ラッパーのサクセスストーリーを描く作品といえばエミネム主演の「8マイル」や、N.W.Aの「ストレイト・アウタ・コンプトン」などがありますが、本作はどちらかといえば本作は「8マイル」に近い雰囲気なのかなと思いましたねー。

そんな本作でメガホンを取るのは女性監督のゾーヤー・アクタルで、脚本も同じく女性のリーマー・カーグティ

だからというわけではないでしょうが、本作では主人公ムラド(ランヴィール・シン)や周囲を取り巻くインド特有の階級社会や格差問題だけではなく、ムラドの恋人や母親を取り巻く性差別問題も結構なボリュームで時間を割いています。

つまり、この作品はインドを支配する前時代的な価値観の中に暮らす若者たちの閉塞感や不安と、ヒップホップを武器に、そんな閉塞した状況を打ち破ろうとする主人公たちの姿を描いた青春映画なんですね。

ざっくりストーリー紹介

大学卒業を1年後に控えた、ムンバイのスラムで暮らすラップを愛する青年ムラド(ランヴィール・シン)の家では、家族に対して高圧的な父アフターブ(ヴィジャイ・ラーズ)が妻(ムラドの母)に無断で若い女性を新しい妻として家に迎えたことで(イスラム教なので重婚OK?)関係が悪化しています。

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そんなムラドには医大生の彼女サフィナ(アーリヤー・バット)がいて、二人は子供のころから付き合っているんですね。

そんなある日、怪我をした父アフターブの代わりに金持ちの運転手として働く事になったムラドは、その際に感じた貧富の差と社会の理不尽さをラップの歌詞に書き込むように。

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そんなある日、大学祭でラッパーのシュリカント/MCシェール(シッダーント・チャトゥルヴェーディー)と出会い、交流するようになったムラドは、彼らの力を借りて「ガリーボーイ」の名前でYouTubeに動画を投稿。
それをキッカケに、彼の運命の扉が開く――というストーリー。

まぁ、スラム育ちとは言っても、ムラドのお父さんはちゃんと仕事をしてて、ムラドも大学に通っているので、スラム=最下層的なイメージを持っていた僕はちょっとビックリしたんですが、監督曰く、スラムドッグ$ミリオネアでのダラヴィというスラム描写は、ダークな面とか汚い面を強調しすぎで、(もちろん汚い面とか超貧しい部分もあるけど)人々の暮らしそのものは、結構小ぎれいに暮らしてたりするらしいですね。

とはいえ、お父さんはお金持ちの使用人だし、お母さんはムラドがそうならないように無理をして大学に通わせているらしいんですけども。

インドの階級社会で

これは格差というか、インド独特の階級社会という部分が大きいみたいで、お父さんはそれに甘んじているというか、そういう運命として諦めちゃってて、息子のムラドにも身分相応な人生を強要してくる。

でも若いムラドは「身分相応の人生」を受け入れるのには抵抗がある。でも根は真面目なので、ストリートギャングやラッパー仲間ほどは自由に生きらるほどの自信もないという、中途半端な状態なわけです。

そんな彼の救いになっているのがヒップホップで、彼は自分のスマホでいつもアメリカのヒップホップを聞いているんですね。

で、お父さんの代わりに運転手として雇い主の家族を送っているとき、そこの娘と父親がアメリカの大学に行くか行かないかで口論になる。
そしてこの父親に「大学に行っているのか」と聞かれ「もうすぐ卒業です」と答えると、父親は英語で娘に「お前、このレベルでいいのか」なんて言・い・や・が・る・んですよ

ムラドは英語出来ますからね。このオヤジの言ってることは全部分かっているわけです。

で、ベンツで家族を待つ間、悔しさを搾り出すように「オレの時代が来るんだ!」っていう最初のライムを書くんですね。

その後、MCシェールことシュリカントに出会った彼は、彼主催の集まりで初めて自分のリリックを披露して認められ、その後仲間にラップの仕方を教わりながら、徐々にラッパーらしくなっていったムラドは、YouTubeにアップした初めての作品がバズり、徐々に人気を集めていくんですね。

女性差別問題

一方、ムラドの彼女サフィナは、美人で頭はいいけど超ヤキモチ焼き。
ムラドに色目を使う泥棒猫には鉄槌を食らわせたりビール瓶で殴ったりする(別の意味で)キレ者だったりします。

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彼女の家は裕福なお医者さんで、彼女は将来外科医として開業したいと思っているんですね。

しかし、お父さんとお母さんは女の幸せは結婚と固く信じていて、隙あらば彼女を結婚させようとするのです。

さらに前述したように、ムラドのお母さんは強権的かつ暴力的な夫がなんの断りもなく若い奥さんを家に連れてきて、あまつさえ自分をお手伝いさんのように扱う事に最初は耐えているも、中盤で怒りが爆発。

ムラドと弟と一緒に家を出て行ってしまう。

ただまぁ、このお母さんも父親ほどではないけど、やはり前時代的な考えもあるので、ムラドにはちゃんとした会社(兄が経営してる)に就職して欲しいとは思っているんですけどね。

貧富の格差

もちろん本作では貧富の格差も描かれていて、一見自由に見えるシュリカントの父親は飲んだくれだし仕事もしてないので、幼い弟たちの面倒は彼がみているし、友人の一人は半グレというか、ギャングの下働きで麻薬売買に手を染めている。
で、孤児たち?にその手伝いをさせてるんですが、でもそれは彼らに家と食事を与える為でもあり――。

そんなインド社会の歪みの中での若者たちのリアルな鬱屈や生活を、本作は余すところなく丁寧に描いているんですね。

そしてこれらの問題はインドだけでなく、世界中に横たわっている問題でもあり、そういう意味で、本作は非常に普遍的なストーリーとも言えるわけです。

新世代インド映画

多くの日本人がインド映画を初めて認識したのは、多分1995年の「ムトゥ・踊るマハラジャ」ではないかと思います。

劇中いきなり歌ったり踊ったりするインド映画は、そのインパクトで一時期ブームを巻き起こしましたが、それはあくまで“色物的”な評価だったと思うんですね。

しかし、アーミル・カーンなどの登場で徐々にインド映画は進化していき、今や世界基準のエンターテイメント作品も続々と公開されています

本作でも、インド特有の社会問題や若者たちのリアルを入れ込みながら、それをインド国内に限らず普遍的な世界基準の物語として落とし込むことで、世界に照準を合わせた作品になっているし、劇中に歌やダンスも登場しません。

いや、正確にはあるんですけど、それはムラドが仲間と初めてのMTVを撮影するという体で、ラップミュージックに乗せて自然に描かれているんですよね。

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そういう意味でも、本作は新時代のインド映画と言えるし、インド映画が既にハリウッドなど世界基準の映画と十分に戦える事を証明してるのではないかと思いますねー。

まぁ、あえて言えば内容に対して154分は若干長いかなっていう気はしましたけども。

興味のある方は是非!!!

 

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リスペークツ!!「パラサイト/半地下の家族」(2020)

ぷらすです。

遅ればせながら劇場で観てきましたよー『パラサイト/半地下の家族』をね!

いやー素晴らしかったし面白かった!

リスペークツ!

ただ、これ絶対ネタバレしたらダメなやつなんで、さてどうしたものか…。

というわけで、今回は前半はネタバレ無しで、後半からネタバレありの感想にしようと思います。

一つだけ言うと、これからこの映画を観に行く予定の人は、事前情報入れずに観た方が絶対に楽しめると思うので、観に行く日まで本作に関する情報はできる限りシャットアウトする事をオススメします。

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概要

母なる証明』などのポン・ジュノが監督を務め、第72回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した人間ドラマ。裕福な家族と貧しい家族の出会いから始まる物語を描く。ポン・ジュノ監督作『グエムル -漢江の怪物-』などのソン・ガンホをはじめ、『新感染 ファイナル・エクスプレス』などのチェ・ウシク、『最後まで行く』などのイ・ソンギュンらが出演。(シネマトゥディより引用)

感想

外国語映画初のアカデミー作品賞受賞!

本作は「母なる証明」や「スノーピアサー」など、国内外から高い評価を受けるポン・ジュノ監督最新作です。

カンヌ国際映画祭で最高賞である「パルムドール」を受賞したほか、世界中の名だたる国際映画賞を総ナメ。
そして、先日行われた米アカデミー賞では、外国語映画として初の作品賞を受賞するなど、現状、ポン・ジュノ監督の最高傑作と言って差し支えないのではないでしょうか。

で、日本でも公開されるや映画好きの間で賞賛の嵐だったので僕も観に行こうと思っていたんですが、監督自らネタバレしないようにとお願いが発表された事もあって、ちょっと迷っちゃったんですよね。

観たら絶対に語りたくなる作品だろうから、ネタバレ無しで感想を書くのは結構辛いだろうし、レンタルDVDが出るまで待って思い切り語った方がいいかも? と。

そこにアカデミー賞受賞のニュースが入ってきて「もう、こりゃたまらん」と、劇場に観に行ったのです。

いやー、超面白かったし、超ヤバイ映画でしたよ。

ざっくりストーリー紹介

父親のギテクソン・ガンホ)が台湾カステラの事業に失敗し半地下の家に住むキム一家。
長男ギウ(チェ・ウシク)は大学浪人中、妹ギジョン(パク・ソダム)は美大を目指すが貧乏で受験できず、元ハンマー投げのメダリストでギデクの妻チュンスク(チャン・ヘジン)も仕事がなく、配達ピザの箱の組み立てで何とか食いつないでいるんですね。

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そう書くと何だか最初から悲惨な感じですが、この一家は近隣のパスワードの掛かっていないWi-Fiを盗み無料でネットしたり、ピザ屋の人手が足りないと聞けば、すかさず自分たちを売り込んだりとかなり強かで、ゆえにあまり悲惨な感じはないんですよね。

そんなある日、ギウの友人で名門大学に通う青年ミニョク(パク・ソジュン )は、留学が決まった自分の代わりに家庭教師のアルバイトをギウに頼みます。

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相手は、IT企業の社長を務める大富豪のパク・ドンイク (イ・ソンギュン)一家  

ギウは自分は大学生ではなからと躊躇うんですが、高賃金のバイトを逃す手はないと、手先の器用なギジョンが大学の入学証書を偽造し、有名大学生の家庭教師としてパク家に入り込むのです。

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言葉巧みに娘のダヘ (チョン・ジソ)の心を掴んだギウは、奥さんのヨンギョ(チョ・ヨジョン )から息子ダソン(チョン・ヒョンジュン)の絵画の教師を探しているという話を聞き――というストーリー。

そんな感じで、キム家の面々は口八丁と策略を駆使して、全員が使用人としてパク家に入り込む事に成功。ウッハウハな寄生ライフを満喫するわけですね。

ここまではキム家の強かなキャラクターも相まって、コンゲーム(策略を練って敵をワナに嵌める)的な痛快さもあるし、コメディー演出による笑いどころも満載で、こっちも楽しく観ているわけですが、中盤の“あるシーン”を境いに物語のテイストは一変。

そして、怒涛のクライマックスからのラストシーンには、ただ圧倒されるばかりでした!

というわけで、ここからネタバレしていきますよー!!(読みたい人は反転してね)

そのあるシーンというのは、息子ダソンの誕生日でパク家の面々がキャンプ旅行に。
なので、キム一家は主のいない豪邸で宴会をしているんですね。

すると突如呼び鈴が鳴り、インターフォンにはキム一家が策略を用いて辞めさせた(その後釜に母チュンスクが)元家政婦ムングァン(イ・ジョンウン)の姿が。

パク家の家政婦だった頃とは変わり果てたみすぼらしい姿はちょっとしたホラーなんですが、本当のホラー展開はここからなのです。

「地下室の忘れ物を取りに来た」というムングァン。
チェンスクが一緒に降りていくと、彼女は大きな棚を動かします。
すると、棚の裏には地下室から更に下へ続く階段があるんですよ。
ムングァンによれば、それは北朝鮮核兵器に備えたシェルターだそうで、その奥にいたのが、なんと、ムングァンの旦那グンセ(パク・ミョンフン)なんですねー。

ギテクと同じく台湾カステラで失敗したグンセは、ムングァンの手引きで密かにこの地下シェルターに住んでいたという怒涛の展開。

しかも、この二人にギテクたちが実は家族だった(他人を装っていた)ことがバレてしまい、さらにキャンプに行っていたパク一家から急遽帰ってくるとの連絡が。

そして物語は思いもよらぬ方向にハンドルを切るのです。

凶兆を知らせる豪雨

で、このムングァンが訪れるシーンでは大雨が降っています。
そしてポン・ジュノ監督の作品で雨は凶兆の訪れを表す記号にもなっているんですね。
パク一家帰宅の知らせを受けたキム一家は、ムングァンとグンセを地下室に閉じ込め、大慌ててで宴会の痕跡を消すんですが、その所為で逃げ遅れてしまってパク家のアチコチに隠れるハメに。

ここもスラップスティック的な演出がされているんですが、地下室から出てキム一家の正体をバラそうとしたムングァンをチュンスクが蹴り落としたことで、彼女は頭を打って死亡。

リビングのテーブルの下に隠れたギテクは、パク・ドンイクとヨンギョ夫妻が自分の匂いについて陰口を叩いてるのを聞いてしまう。

そして、家政婦のチュンスク以外の3人が何とか逃げ出して家に帰ると、豪雨によって半地下の自宅は水没し、3人は体育館に非難するハメになるんですね。

この、大雨の一夜が、その後の怒涛のクライマックスを決定づけてしまうのです。

格差問題を縦軸で

本作で扱われているテーマは、言うまでもなく格差問題。
ポン・ジュノ監督作で言うと「スノーピアサー」でも同じテーマが扱われていたんですが、スノーピアサーが列車の車両という(後ろの車両ほど貧しくなっていうく)という「横軸」で貧富の差を表しているのに対し、本作は地上(富裕層~中流)・半地下(貧困層)・地下(最下層)という「縦軸」なのが面白いって思いました。

半地下に住むキム一家は、上手くいけば地上に出られる可能性はあるけど、失敗すればグンセのように地下に転がり落ちてしまう。そして一度地下に落ちた者は二度と浮上できないという、格差の構造をパク家の階段をモチーフにして寓話的に語ってみせているのです。

なぜドンイクは殺されたのか

もう一つは「匂い」で、富豪のドンイク社長はギテクの匂いを「古くなった切干大根のような、地下鉄のような匂い」と言っています。
これ、日本に住む僕らにはピンとこないんですが、半地下住宅が結構あるらしい韓国の人にとってはあるあるなのかな?
ともあれ、ここで言う地下の匂いは貧乏の象徴で、おそらく生まれつき裕福だったドン行くにとっては不快な匂いなんですよね。

でも、奥さんのヨンギョは「分からなかった」と言ってるので、恐らく彼女は生まれつき裕福というわけではなく、ドンイクとの結婚によって富豪の仲間入りをしたという事なのだと思うんですよね。

つまり、本作は「匂い」というワードで格差社会を重層的に描いているのです。

で、妻の復讐のためダソンの誕生パーティーに現れ娘を刺殺し妻に刺殺されたグンセに、人目を憚らず鼻をつまむドンイク。

これに、ギテクは完全にぶちキレてドンイクを刺し殺してしまう。
なぜなら、ドンイクはそれぞれの「領域」を犯すことを嫌い、だからギテクの匂いに不快感を示したわけで、そんな彼がクライマックスでグンセの“地下の匂い”に人目も憚らず鼻を摘むという行為で、自らがギテクやグンセの「領域」を犯した。

それまでギテクの匂いについて陰口は言っても、本人に「臭い」とは言わなかったドンイクのメッキが剥がれ、目の前で彼らの尊厳を傷つけてしまった。それがギテクには許せなかったのでしょう。

それともう一つ、パーティー前日の大雨で半地下の自宅が水没してしまった事も、要因の一つとしてあるんでしょうね。
直前まで高台になる豪邸で宴会をしていたキム一家にとって、家の水没や避難所の様子は、パク家との格差を改めて思い知らされるキッカケになっていて、そこに急遽パーティーの仕事の電話が。これに、それまで心の奥に仕舞いこんでいた感情が沸々と溢れ出していたんだと思います。

ソン・ガンホの顔

そんな本作の見所は、やはりギテクを演じたソン・ガンホを始めとしたキャスト陣の演技だと思います。
特に冒頭、パク家の家政婦として完璧な所作で上流階級感すら出していたムングァン役のイ・ジョンウンの、中盤以降の落ちぶれ媚びへつらうあの表情は素晴らしかったし、クライマックスでドンイクを刺す瞬間、ソン・ガンホが一瞬見せる鬼の形相には、思わず震え上がってしまいましたよ。

冒頭とパク家の家政婦に化けてからは別人のようなチュンスク役のチャン・ヘジンの変わり身演技も素晴らしかったですしね。

練りに練られた脚本とそれを言葉に頼らず映像で見せる映画的手腕、そしてキャスト陣の見事な演技が見事に噛み合った結果として本作は傑作になったのだと思うし、韓国の格差問題を描くことで、世界中に広がっている格差構造を浮き彫りにしてみせたポン・ジュノ監督の手腕には、ただただ脱帽せざるを得ません。

まさにリスペークツ!!ですねw

興味のある方は是非!!!

 

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フルスイングでぶん殴られる映画「岬の兄妹」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督の下で助監督を務めてきた片山慎三監督の初長編作品『岬の兄妹』ですよー!
公開時に大変話題になっていたので気になってた作品ですが、行きつけのTSUTAYAに1本しか入ってないDVDがずっと貸し出し中だったので、中々借りられない日々が続いてたんですが、先日やっとレンタルしてきましたよ。

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概要

ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督作品などに携わってきた片山慎三がメガホンを取ったドラマ。港町で暮らす兄妹を主人公に、地方都市の暗部や家族の本質をあぶり出す。兄妹を演じるのは『夏の娘たち ~ひめごと~』などの松浦祐也と『乃梨子の場合』などの和田光沙。北山雅康、中村祐太郎、岩谷健司らが共演するほか、日活ロマンポルノなどで活躍した風祭ゆきが特別出演した。(シネマトゥディより引用)

感想

重い、苦しい、辛い、でも笑っちゃう

この作品の内容を一言で言うなら「ダメ兄貴が自閉症の妹を売春させる極貧兄妹の物語」です。

僕はある程度内容を知った状態で観たんですが、それでも中々のダメージを食らったので、全く内容を知らずに観たらフルスイングでぶん殴られるくらいのダメージを食らうんじゃないでしょうか。

とはいえ、じゃぁ、重苦しいだけの欝映画なのかというと、(言い方が合ってるかは分かりませんが)ポップさと笑いどころもちゃんと用意されていて、観るのが辛いだけの「嫌がらせ映画」ではないんですね。

まぁ、思わず笑っちゃった後に「笑っちゃっていいんだろうか」と不安になるという、倫理観を試される作品ですけども。

ざっくりストーリー紹介

舞台は海沿いの地方都市。
造船所で働く足に障害のある兄・良夫(松浦祐也)が、片足を引きずりながら自閉症の妹・真理子(和田光沙)を探し回るシーンから物語はスタート。

この冒頭のシークエンスで、この兄は妹の足を紐で縛って、外から鍵をかけた状態で仕事に出てるっぽい事が分かります。
もちろん、それは兄にしてみれば妹を守ろうとしての行為ですが、普通に考えたら正しくはないですよね。

で、夜になって良夫のケータイに着信が入り、真理子が見知らぬ男と一緒にいたことが分かり迎えに行く。
引き取った真理子が風呂に入っている間に洗濯しようとズボンを手に取るとポケットには1万円札が入っていて、パンツにはHのシミが。

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どうやら真理子は誘われるままその男とSEX(真理子は「冒険」と表現)をして、男に金をもらったらしい事が分かります。

で、今度は鎖で真理子の足を縛り、外から鍵をかけて仕事に行った良夫でしたが、なんとリストラされてしまうんですね。

このせいで、ただでさえ裕福とは言えない二人は、極貧状態に。
家賃も払えず、電気も止められ、何も食べてないのでウンチも出ないし、ついにはティッシュを食べるまでに追い詰められた二人。そんな極貧生活で良夫は、真理子が男とセックスをして金を貰った事を思い出し――というストーリー。

で、この兄の良夫ってのがホントに心底ダメ男だしやってる事も最低なんですが、でも真理子を見捨てて逃げるみたいな事はせずに、甲斐甲斐しく世話は焼くんですよね。
あるいは、妹を見捨てて逃げるというところまで頭が回らないのかもですが。

対する真理子は、割と重度の自閉症なのでほぼ会話が成り立たない。
だから、世話をするのも大変な状態だし、それまで真理子の世話をしていた母は亡くなっていて、二人には頼る人もいないわけです。

で、最初は休憩中のトラック運転手や道行く人に妹を斡旋するも失敗を繰り返し、ヤクザに捕まって酷い目にあったりするんですが、手書きのチラシをポスティングすることで“仕事”が回り始めるんですよね。

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とはいえ、そんな暮らしが遠からず破綻するのは目に見えているし、実際そうなるわけですけども。

片山慎三監督の確かな手腕

この映画、内容が内容だけにスポンサーがつかず、制作費はほぼ片山監督が自費でまかなっているという、超低予算の自主制作映画です。
ただ、映像もストーリーテリングも非常にスマートで上手く、本来悲惨すぎる物語の中にユーモアやポップさを入れ込むセンスはポン・ジュノ作品を彷彿とさせる感じがしました。

例えば物語後半で、重要なアイテムを冒頭~前半でそれとなく登場させたり、海で泳ぐ真理子と水の入っていないプールのシーンを対比させたり、あと、真理子のセックスシーンの最中に男だけがどんどん変わっていく様子をカットと編集で見せることで、彼女が売春を重ねていく様子を省略しつつ上手く見せていったり。

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あと、初めて仕事で手にしたお金で買ったマックを、二人が貪り食うというシーンがあるんですが、その最中に良夫が窓に貼ってあったダンボールを剥がして、暗かった部屋に陽の光が差し込むという描写があるんです。
これはつまり、ダンボールを貼ることで人から隠れるように暮らしていた=社会から見えてない二人が、自力で稼いだお金でマックを食べている=社会と繋がったという事を表す描写で、やってることは大間違いだけど何処か清々しさを感じるシーンになってましたねー。

キャストの熱演

そんな本作を支えているのが、良夫役の松浦祐也と、真理子役の和田光沙の熱演。
恥ずかしながら、僕はこの二人の事は(何かの映画で観たかもだけど)知らなかったんですが、良夫の最低でダメダメだけどどこか憎めない、愛敬みたいな部分を松浦さんは見事に出していたし、和田さんは自閉症の妹を超リアルに演じていました。

実際、自閉症の人と接したことがある人なら、和田さんの演技のリアルさに驚くのではないかと思いますよ。

また、最初は訳も分からずセックスでお金を貰った真理子が、売春を重ねるうちにある種のプロ意識というか、使命感や自信みたいなものを感じていく変化、また後半のクライマックスで泣き叫ぶシーンやラストカットで見せる表情など、和田さんは真理子の非常に繊細で難しい変化を見事に演じていたし、松浦さん共々、この兄妹のキャラクターにしっかり血肉を通わせたと思いましたねー。

ノイズ

とはいえ、正直本作には、物語上ノイズになってしまう大きなネックが1つあって、それが「福祉制度」なんですよね。

おそらく、真理子の障害や二人の困窮の度合いを観た人は「なぜ、生活保護障害年金などの福祉に頼らないのか」が、どうしても引っかかってしまうのではないかと思うんです。

この点について、片山監督は「福祉関係を入れる展開も考えたが、それを入れると物語の軸がブレてしまうのであえて入れなかった」と語っているようですし、まぁ、良夫にそれだけの知識…というか知恵がないと言われれば納得で。
また、現実に生活に困っていても福祉に頼ることに強い抵抗があるという人もいるので、彼らの母親がそういう人だったと言われれば、そうかもねって感じではあるんです。

ただ、劇中で良夫の幼馴染?の肇くん北山雅康)というキャラが登場するんですが、この人は警察官なんですよね。
で、彼は良夫に対して迷惑がりながらも、お金を貸したり何かと気にかけているという善人キャラなので、だとしたら福祉に頼る事を勧めるくらいの事はするんじゃないかな?って思ってしまうのです。

例えば、肇くんは福祉に頼る事を勧めるが、良夫が頑として受け入れないみたいな描写がちょっと入るだけでも、このモヤモヤは消えるんじゃないかなーなんて思ったりしました。

「心」の物語

事ほど作用に、今の時代の邦画としてはかなり攻めた内容でもあり、また映像的にも露悪的なくらい裸やセックスシーン、暴力などなど、ショッキングで人によっては不快なシーンもある映画だし、社会の最底辺に暮らす障害を持つ兄妹という設定に社会的なメッセージの強い作品と思う人も多いと思います。

実際、格差や貧困、差別など社会的問題に対しての問いかけや批判はもちろん、本作の一面としてあるわけですが、僕はこの作品の本質はそこではないって思うんですね。

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片山監督が本作で描きたかったのは、人間の「心」の在り方であり、ある種の人間賛歌ではないのかと。

そういう意味では、是枝監督の「万引き家族」にも通じるのではないかな?と思ったりもしました。

まぁ、正直もう一回観たいとは思わないし、人(特に女性)によっては多分正視出来ないくらい不快でショッキングなシーンも多いので積極的にはオススメできませんが、個人的には観て良かったと思う作品でした。

興味のある方は是非!!

 

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