今日観た映画の感想

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B級要素全部乗せ「スカイ・シャーク」(2021)※R-18

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「未体験ゾーンの映画たち2021」で上映されたドイツ映画『スカイ・シャーク』ですよー!

サメ・ナチス・ゾンビというB級映画の三大要素全部盛り(+裸)という、「美味しいもの+美味しいもの=超美味しいもの」っていうバカのご馳走理論で作られた作品です。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

現代によみがえったナチスのゾンビ軍団が空飛ぶサメを操って世界を襲う姿を描いたドイツ製パニックアクション。フランクフルト行きの飛行機が、飛行中に外部からの襲撃を受ける大惨事が発生。同じ頃、北極でナチス第三帝国の巨大な戦艦が発見される。戦艦の中には、かつてナチスが開発した極秘兵器が眠っていた。それは、遺伝子改変された超人ゾンビたちが操るサメの戦闘機で、世界各国の都市を襲い始める。70年前にこの兵器の開発に携わったリヒター博士と2人の娘たちは、世界を救うべく立ち上がるが……。「ゾンビ」「13日の金曜日」などの特殊メイクアーティスト、トム・サビーニが特殊効果のスーパーバイザーとして参加。ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2021」上映作品。(映画.comより引用)

感想

バカのご馳走理論で作られた出オチ映画

本作は、サメ・ナチス・ゾンビ+ちょっとエロっていう、まさにB級要素全部盛りのザ・B級映画です。

豚カツ、ピラフ、スパゲティを一つの皿に盛った『トルコライス』を筆頭に、オムライス+カツの『ボルガライス』、オムライス+フィッシュフライ+タルタルソースの『ハントンライス』、ケチャップライスまたはバターライスにポークカツを乗せてドミグラスソースを掛けた『エスカロップ』などなど、「美味しいもの+美味しいもの=超美味しいもの」という、いわゆるバカのご馳走理論で作られたB級グルメは枚挙にいとまがないですが、それらの料理と違って、残念ながら本作の場合サメ・ナチス・ゾンビというB級映画三大要素を全部盛ってみたけどそれぞれの美味しさがまったく活かされてないっていう、非常に残念な作品になってるんですね。

フランクフルト行きの航空機には空の旅に飽きた娘とその父親や、アジア系酔っ払い親父、飛行機恐怖症のシスターと元ギャングの神父などなど、あの航空機パニック映画「エアポート」シリーズをオマージュしたと思われるグランドホテル方式の冒頭シーンは、これから起こる惨劇を予感させるし、その飛行機をサメに乗ったゾンビのナチ兵が襲うシーンのゴア描写もド派手で、「お、これは面白くなるんじゃないの!?」と期待させるんだけど、残念ながらこの冒頭シーンが本作最大の山場。

その後は、北極の氷の中に閉じ込められたナチスの戦艦をたまたま発見した主人公?が調査に入るシーンや、中盤に航空機の乗客大虐殺パート2など、多少の見どころはあるものの、予算の都合か、それとも単純に作劇が下手なのか、なぜナチスのゾンビ兵士が復活したのか(地球温暖化で北極の氷が融けたから)とか、そもそもナチスゾンビや空飛ぶサメは誰が作ったのかなど、この作品の設定を延々説明するだけのシーンが続くっていう、この手のB級映画にありがちなグダグダで退屈な展開になっていくんですね。(やたら説明したがるのはドイツ人気質なのかしらん?)

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あと、カットとカットの繋ぎも上手くなくて、冒頭でも「え、そのカットいる?」っていう映像が多く、そのせいで全体のテンポが悪くなってたり。

ナチス+ゾンビ+(空飛ぶ)サメなんて、素材だけ見れば絶対美味しくなるハズなんだけど、残念ながら料理人の腕とセンスが圧倒的に足りてなかったっていう感じでしたねー。

とはいえ、本作には特殊効果のスーパーバイザーとして、『13日の金曜日』シリーズ(1980年ほか)で知られる、あのトム・サヴィーニ御大が参加していて、なのでナチスゾンビによる大虐殺シーンは基本的に迫力満点だったりするし、サメやナチスゾンビのビジュアルデザインはところどころ無駄にカッコいいので、そこだけでも観る価値はあるかもしれません。

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最新作のハズが最終作に……「ニュー・ミュータント」(2020)*日本ではビデオスルー

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、20世紀フォックスの「X-MEN」シリーズ最新作のハズが、ディズニーの買収やらコロナの大流行によって公開延期に次ぐ延期の末、日本では結局ビデオスルーになってしまった不運の1本、『ニュー・ミュータント』ですよー!

ぶっちゃけX-MENシリーズとしては低予算の小作品だけど、個人的には結構面白かったですねー。

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概要

マーベルコミック原作の人気シリーズ「X-MEN」のスピンオフとなるSFアクション。自らの特殊能力をまだうまく扱うことができないミュータントの若者たちが、過酷な運命に立ち向かっていく姿を描く。未熟さゆえに特殊能力を制御できず、つらい過去を背負った5人の若者。極秘施設で訓練を受ける彼らの前に突如謎のモンスターが出現。恐怖で錯乱する中、さらなる危機が訪れる。自身の未知数の能力に戸惑いながらも仲間とともに運命を切り開いていこうとする主人公ダニを新星ブルー・ハントが演じるほか、勝ち気な性格で5人のリーダー的存在のイリアナ役にNetflixドラマ「クイーンズ・ギャンビット」で注目されるアニヤ・テイラー=ジョイ、ダニの良き理解者でもあるレイン役に「ゲーム・オブ・スローンズ」のメイジー・ウィリアムズなど、注目の若手俳優がそろう。監督は「きっと、星のせいじゃない。」のジョシュ・ブーン。(映画.comより引用)

感想

シリーズ最新作のはずが最終作に

この作品の原作は、マーベルコミック「X-MEN」シリーズの人気スピンオフ?作品「The New Mutants」で、自らの能力をコントロール出来ない5人の若者がミュータントとして過酷な運命に立ち向かう青春物語。

そんな原作コミックを「X-MEN」シリーズや「デッドプール」シリーズを大ヒットさせたサイモン・キンバーグとローレン・シュラー・ドナーが手掛け、実話ベースの感動作「きっと、星のせいじゃない。」のジョシュ・ブーンが監督。

ネイティブアメリカンの主人公ダニ役には本作が映画デビューとなるブルー・ハント

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最初はダニと敵対するセクシーな少女イリアナ役に「スプリット」と続編「ミスター・ガラス」のケイシー役で注目を集めたアニャ・テイラー=ジョイ

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ダニの親友となるレイン役に、「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのメイジー・ウィリアムズ

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画像出展元URL:http://eiga.com 写真左

炭鉱での事故によって心に深い傷を負い、自分を変えたいと願うサム役にドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シリーズのチャーリー・ヒートン

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しっかり者に見えて実は気弱なロベルト役にドラマ「13の理由」(シーズン1)のヘンリー・ザガ。と、新進気鋭の監督&人気若手俳優が揃った豪華な布陣で制作が始まったんですね。

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ストーリーはミュータントの能力をコントロールできるまで街から遠く離れた”病院で治療中”の若者5人が、過酷な現実を乗り越えるまでの成長を描く本作は、「X-MEN」シリーズ13作目として全世界で公開されるハズでしたが、前述したように、本作を制作中に20世紀フォックスがディズニーに買収されたためシリーズ最終作に。

しかも新型コロナウイルスの影響による映画館の閉鎖が重なり2018年4月13日公開の予定が、2019年2月22日、同8月2日、2020年4月3日と変更され、最終的に2020年8月28日まで延期。
日本では結局劇場公開はされず、X-MENシリーズとしては初のビデオスルーになってしまうという、まさに不運としか言いようのない作品になってしまったのです。

同じ世界観の別作品として観れば

シリーズ作品としてはこれまでの作品と比べて明らかに低予算だし、登場人物は上記の5人+彼らを“管理・治療”する医師、セシリア(アリシー・ブラガ)のみ。

舞台は人里離れた“病院“の中だけという小作品なのでファンには物足りないかもだけど、X-MENと同ユニバースの別作品(X-MENの設定を活かした青春映画)だと思って観れば、ストーリーやテーマ性もまとまっていて、個人的には結構面白かったです。

ただまぁ、本作の売り文句として「(X-MEN)シリーズ初のホラー」ってのがあるんですが………まぁ、全く怖くはないよねw

フォックスとしては本作を「青春ホラー」として売り出したかったらしいんですが、ジョシュ監督は「青春ダークファンタジー」にしちゃったもんでちょっと揉めたらしいですね。(まぁ、ダークファンタジーとしてもかなりヌルいけど)

多分、監督はホラーとかヒーローとか全く興味がなくて、なのでファンタジーがギリ妥協できるラインだったのかもしれません。

とはいえ、ミュータントの能力を成長期の不安定でコントロール不能な心のメタファーとして描き、その背景にある大人(男)の理不尽な暴力によって負った心の傷を脚本と映像で匂わせるなど、(別に目新しくはないけど)良い部分も結構あったりするし、何より94分と近年の映画としては非常にコンパクトに物語がまとまっていて見やすいのも個人的には良かったと思いますねー。

あと、主人公役のブルー・ハントは森泉さんに超似てると思いました。

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知らない世界を知る喜びに満ちた良作「ようこそ映画音響の世界へ 」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、映画“音響“にスポットを当てたドキュメンタリー映画ようこそ映画音響の世界へ 』ですよー!

僕は映画製作やメイキング系のドキュメンタリーは色々観ている方だと思うんですが、音響にスポットを当てた作品は本作が初めてなんじゃないかと思いますねー。

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概要

ハリウッドの映画音響の世界に迫るドキュメンタリー。劇中の登場人物のセリフをはじめ、映画音楽や環境音など、映画にまつわるさまざまな音に光を当てる。ジョージ・ルーカススティーヴン・スピルバーグソフィア・コッポラクリストファー・ノーランアルフォンソ・キュアロンら映画監督のほか、『E.T.』『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』でアカデミー賞音響効果編集賞を受賞したベン・バートや、『イングリッシュ・ペイシェント』で第69回アカデミー賞音響賞を受賞したウォルター・マーチらも出演している。(シネマトゥデイより引用)

感想

”音響“にスポットを当てて映画の歴史を語る良作ドキュメンタリー

実は僕は、映画のDVDやブルーレイの映像特典でメイキングが入ってると絶対観てしまう「メイキングフェチ」でして。

子供の頃に公開された「スター・ウォーズエピソード4」も、本編よりむしろメイキング映像で構成されたテレビ番組(ビデオ?)?の方が大好きで、以来、SFやホラー映画のメイキングを見まくるようになってしまったんですよね。
まぁ、近年は特殊撮影もSFXからVFXに移ってしまって、面白いメイキング映像は減ってしまいましたけども。

でも、それらのメイキング映像でも「音楽」までは紹介されてるけど「音響」となると紹介されることは殆どなくて、テレビの特集で小豆を入れたデカいザルを揺らして海の波の音を作るみたいな効果音の紹介がたまーーーーーーーにされるくらい。

つまり映画製作の中でも、一番謎のベールに包まれているのが「音響」の仕事なんですよね。

本作ではそんな映画音響の世界を物語を盛り上げる役者の“セリフ”、映画にリアリティーと迫力を持たせる“効果音”、観客の感情を高めていく“音楽”に分解して、それぞれの技術発展を新旧の名作と、そこに関わってきた著名な映画人たちへの取材を通して描き出していくんですね。

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映画はエジソンが蓄音機(録音媒体)を発明するところからスタート。
オーケストラが映像に合わせて生演奏していた無声映画時代、フィルムに記録された音を同時に再生する“サウンドトラック“の誕生、モノラルからステレオ、さらに立体的なサラウンドへと表現域を拡げていく技術の進歩と並行して、撮影現場でのセリフの同時録音からノイズを取り除き、聞こえにくいセリフをスタジオで録音するアフレコ。

SF映画では電子音で音をつけるのが普通だった時代に動物の鳴き声や自然の音を録音・加工して効果音に使った「スター・ウォーズ」、ジェット戦闘機の音に猛獣の鳴き声を合成して本物以上の迫力を出した「トップ・ガン」など、誰もが知るメジャーな映画の「音」を解説。

また、映画に詳しいマニアでも誤解しがちなドルビーステレオの起点が「スター・ウォーズ」ではなく「スター誕生」であることを主演/製作総指揮のバーブラ・ストライサンドに証言を基に紹介しているんですね。

技術の進化と並行して映像技術が進歩するように音響技術もまた時代と共に進歩、観客に驚きと感動を与えていることが分かります。

例えば本作では取り上げられてないけど、スラッシャーホラーの先駆けとなったトビー・フーパ―監督の「悪魔のいけにえ」は、実は思ってるより残酷描写は少なくて、恐怖のメインは鉄扉の閉まる音やレザー・フェイスが振り回すチェーンソーなどの音の演出なんですよね。

またコッポラの「地獄の黙示録」以降、5.1chサラウンドの音響によって立体化された音が映画の迫力を増しているのは、映画館で映画を観る人なら良くご存じなのではないでしょうか。

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つまり、観客が感動する映画、ヒットする映画の多くは、映像や役者(演技)だけでなく音楽や音響も素晴らしいし、一流の映画監督は映画における音の大切さをよく分かっているんですよね。

とはいえ、かなりマニアックな内容なので映画製作に興味のない人は楽しめないと思うかもですが、「知らない世界を知る喜び」が本作には満ちていて、映画の舞台裏に興味のある人もそうでない人も楽しめる、ドキュメンタリーの良作だと個人的には思いましたよ。

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映像特典のメイキングになるハズが……「ロスト・イン・ラ・マンチャ」(2001)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、鬼才、テリー・ギリアム監督が制作を熱望した作品「ドン・キホーテを殺した男」の準備から挫折までを追ったドキュメンタリー『ロスト・イン・ラマンチャ』ですよー!

ギリアムは19年間の間に9回「ドン・キホーテ~」の映画化に挑戦しては失敗してて、公式サイトでは映画史に刻まれる呪われた企画と銘打たれてるらしいんですが、本作はその第1回目の挫折の様子を追ったドキュメンタリー作品です。

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画像出展元URL:https://www.amazon.co.jp/

概要

テリー・ギリアム監督が次回作「ドン・キホーテを殺した男」の準備に取り掛かったとき、キース・フルトンルイス・ペペはギリアム監督からメイキングの製作を依頼される。やがて2000年秋、ヨーロッパ資本としてはかつてない規模の本作はついに主演のジョニー・デップをはじめヴァネッサ・パラディジャン・ロシュフォールら出演者が顔を揃え撮影を開始した。ところが、撮影は上空を飛び交うNATOの戦闘機の騒音に邪魔されてしまう。さらに、ロシュフォールの病気降板、豪雨によるセットの崩壊という事態が追い討ちを掛けるのだった…。(allcinema ONLINE より引用)

感想

テリー・ギリアムとは

テリー・ギリアムは大学卒業後、広告代理店を経て雑誌「ヘルプ!」の編集者に。
その傍らコミック・ストリップ(新聞の1コマ漫画)家やアニメーターとしても活動を始め、1960年代半ばにはイギリスに渡ってイラストレーターとして活躍。
やがてイギリスの伝説的コントグループモンティ・パイソン」唯一のアメリカ人メンバーとして出演の他、主にアニメーションを担当しています。

1975年には、映画「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」で(テリー・ジョーンズと共同監督)商業映画デビュー。
1977年、初の単独監督作「ジャバーウォッキー」を手掛け、以降「未来世紀ブラジル」「12モンキーズ 」「ゼロの未来 」など、監督としては比較的寡作ながら、独特な世界観の前衛的なビジュアルやストーリーで、映画マニアの間ではカリスマ的人気を誇る監督なんですね。

しかし、そんなファンとハリウッドの評価は比例せず、ギリアムの独創的な発想は他者に理解されづらく、ゆえに思うように映画を撮れない事も多いらしいんですね。
特に、口先だけの無能なプロデューサー・トーマス・シューリーと組んでしまったことで当初の予算2,000万ドルが最終的には4,600万ドル強に膨れ上がり、史上最大の失敗作と言われた「バロン」(1989)の後、手に負えない監督の烙印を押されたギリアムは新たな企画の立ち上げは不可能に近くなってしまったんですね。

映像特典のメイキングになるハズが……

そんな中企画された「ドン・キホーテ~」はハリウッドでは企画が通らず、欧州で撮影することになったんだとか。
しかし予算は3120万ドルとハリウッド資本とは比べ物にならないほど低く、撮影前の準備段階から作品には暗雲が立ち込めます。

それでも主演のトビー役にジョニー・デップ、ヒロイン役にヴァネッサ・パラディ、そしてドン・キホーテ役には名優ジャン・ロシュフォールを迎え、何とかスペインマドリードでの撮影開始に漕ぎつけたものの、撮影場所がNATOの軍事演習場のすぐ近くだったことから上空をF-16 が飛び回り、翌日には予期せぬ大雨によって現場が洪水に。セットや機材が流されるだけでなく、洪水によって景観や色合いも変わってしまったんですね。
さらに、ジャン・ロシュフォールの腰痛が悪化。椎間板ヘルニアの診断が下され撮影は不可能、映画は完全に頓挫してしまったのです。

本作では最初はノリノリだったギリアムが、度重なるアクシデントで徐々に追い詰められ、そしてとうとう心が折れるまでの様子を追っているわけですが、そもそもこのフィルムは、「ドン・キホーテを殺した男(The Man Who Killed Don Quixote)」のDVDやブルーレイに入る映像特典のメイキングフィルム用に撮影していたフィルムなので、正直事情を知らない人が観ても「何のこっちゃ?」な内容でしてね。

結果、テリー・ギリアムの執念によって2019年「The Man Who Killed Don Quixote(邦題:テリー・ギリアムドン・キホーテ)」が完成、公開されたことでこの企画を巡る一連の騒動と、その様子を記録した本作が再注目を浴びる事になるわけですが、本作単体ではドキュメンタリーとしてはいかにも物足りなく、事情を知るコアなファンしかみないマニアックな珍品止まりだったと思うんですよね。

もっと当時の関係者へのインタビューや後の様子を追加撮影するなどして、一連の騒動を立体的に描き出し、事情を知らない人でも本作を観れば事の一部始終を理解できるようなドキュメンタリーにしていれば、映画史的傑作ドキュメンタリーになっていたかも

しれなかっただけに、単純に残念だと思いましたねー。

まぁ、「テリー・ギリアムドン・キホーテ」の方も評価はかなり分かれていると聞くので、本作と合わせて観て丁度いい感じなのかもしれません。

興味のある方は是非!!

 

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引き継ぐべきはソコじゃないw「ディープ・ブルー3」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、1999年に第1作が公開されるや、その斬新な設定や豪華キャストでサメ映画ファンを歓喜させた「ディープ・ブルー」のシリーズ第3弾となる『ディープ・ブルー』ですよー!
実は僕は、第1作だけ観て2作目は未見の状態で本作を観たんですが、全く問題なく楽しむことが出来ましたねー(´∀`)

ちなみにこの映画、ネタバレしても面白さにまったく影響しないと思うので、今回はネタバレを気にせず感想を書きたいと思います。
なので、ネタバレはイヤン!っていう人は、先に映画を観てからこの感想を読んでくださいね。
いいですね? 注意しましたよ?

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概要

1999年に製作・公開されたレニー・ハーリン監督による「ディープ・ブルー」、2018年に19年ぶりの続編として製作された第2作「ディープ・ブルー2」に続く、巨大人喰いサメの恐怖を描いたパニックアクションのシリーズ第3作。沖合に浮かぶ人工の島「小さな楽園(リトル・ハッピー)」では、エマ・コリンズ博士率いる研究チームが繁殖にやってくるホホジロザメの生態を観察していた。自然の恵み豊かな島で研究チームは平穏な日々を過ごしていたが、そこへエマの元恋人がやってきたことで思わぬ変化が訪れる。彼は3匹の人喰いオオメジロザメを追っており、しかもそのサメたちは遺伝子操作によって高い知能を得た危険なサメを母に持ち、子どもたちもまた殺しの遺伝子を受け継いでいた。主演はテレビシリーズ「LOST」などに出演したタニア・レイモンド。日本の人気双子タレントで女優としても活躍する蒼れいながメインキャストとして参加し、ハリウッドデビューを飾った。(映画.comより引用)

感想

ディープ・ブルーとは

まず、まったく知らない人の為に「ディープ・ブルー」がどういう物語かを説明すると、ある製薬企業がアルツハイマーの特効薬研究のためアオザメで実験したら、サメの頭が超よくなって研究者たちを次々に襲い始めてさぁ大変――という物語。

まぁ、神の領域に手を出してしまった人間がとんでもない化け物を生み出してしまうって物語はそれこそ星の数ほどあるわけですが、それをサメでやるってのが(当時としては)新しかったし、(当時としては)最先端のCGとアニマトロニクスを組み合わせた(サメ映画としては)かなりのビックバジェット映画であったことも話題になった記憶がありますねー。

ちなみに、第1作から19年後に制作された第2作では、1作目の“事故“によって一度は中止になった研究を製薬会社の大富豪が再開させたら再び大惨事になるという内容で、今回の第3作では前作で逃げた実験体から生まれた子供たち、サメの研究をしている学者チーム、逃げたサメを追うハンターチームの三者による戦いが繰り広げられるという内容になってるんですねー。

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想像以上に

近年サメ映画と言えば、アサイラム社のように超低予算、ショボいCGと名も知らぬ役者、サメ大喜利のような企画やタイトルだで客の興味を引く劇場公開しない「テレビ映画」が目立ちますが、一方で「海底47m」「MEG ザ・モンスター」「ロスト・バケーション」といったビックバジェット……と言う程ではないけど、しっかり予算をかけた正統派?の劇場用サメ映画も定期的に公開されていて、本作もビックバジェットと言う程の規模ではない…というかかなりの低予算映画ではあるけれど、舞台となる孤島のセットをしっかり組んでいたり、サメのCGもそこそこクオリティーが高かったりして、少なくとも映像の方はそれなりに見ごたえのある状態でしたねー。
いや、僕がアサイラムに慣れ過ぎてるからそう感じるのかもですがw

まぁその分、キャストの方は僕の知らない役者さんばかりだし、登場人数もかなり少なめでしたけどね。

日本人キャスト

そんな本作が日本で話題になった理由の一つが、日本人女優の蒼れいながキャスティングされていたこと。

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恥ずかしながら僕は蒼れいなさんを知らなかったんですが、姉の蒼あんなさんと活躍されている双子の女優・タレントの妹さんで、台湾の女性アイドルグループのメンバーとしても活躍されているのだとか。

英語も堪能なようで、英語の全く分からない僕が聞くかぎりでは他のキャストとの英語のやりとりも特に遜色なく、芝居の方も頑張っていましたねー。

今は、アジア系の俳優たちもどんどんハリウッドに進出しているし、彼女もこの作品を足掛かりに活躍して欲しいです。

ディープ・ブルー」の遺伝子

ディープ・ブルー」シリーズには独自のある”お約束”があって、それは良い事を言ったり、良い行動をした人は次の瞬間サメに食われるというもの。

第1作では、みんな大好きサミュエル・L・ジャクソン演じる製薬会社の社長が、内輪もめをしているメンバーに団結するよう大演説をぶった次の瞬間、頭からサメにパックン食べられるという大爆笑シーンがあるんですが、本作ではサメ学者で主人公のエマ(タニア・レイモンド)の元カレでサメハンターのリチャードナサニエル・ブゾリック)が、仲間の非人道的な手口に嫌気がさして船から海に飛び込んだその空中で、ジャンピングしたサメに頭からパクっと食べられるというシーンがあり、僕は観てないけど多分2作目でも良いことを言った瞬間にサメに食われたヤツがいるんでしょう。

っていうか、引き継ぐのソコ!?って言うねw

トータルそこそこ

まぁそんな感じで、映像の方は前述した通りちゃんとセットを組んでCGもまぁまぁのクオリティーだったし、クライマックスではセットを爆破したり燃やしたりとド派手な演出やアクションも見ごたえがあり、ストーリーの方も要所要所しっかり伏線と回収がされてたりして想像以上に見ごたえはあったんですが、難を言えば本作の悪役ルーカスの行動が突飛に見えたことですかね。

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まぁ、そこに至るフリは前半部分で行われているんだけど、それにしてもいきなりエマグループを皆殺しにしようとしたり、元々沈みかけとはいえ爆弾を仕掛けて島を沈めようとするとか、いくら何でも唐突だし後先考えずにやり過ぎじゃね?っていう印象。

あと、ルーカスたちの悪行が目立ちすぎてサメが脇に追いやられた感じなのも若干残念ポイントでしたねー。

でもまぁ、観てる間は楽しいし、映像、ストーリーをトータルで考えればそこそこ面白かったと思いましたよ。

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完璧な完結「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」(2021)

ぷらすです。

観てきましたよ!
公開初日に『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』をね!!(*゚∀゚)=3

僕の行ったシネコンでは初回が朝7時から3スクリーンを使っての上映で、なんなら地元のバスの本数よりも1日の上映回数の方が多かったですが、月曜日にもかかわらずビックリするくらいのお客さんが入ってましたねー。

というわけで、まだ劇場公開したばかりの作品でもあるので、ストーリー的なネタバレは出来る限りしないよう注意して感想を書きますが、それでもまったく内容に触れないわけにはいかないので、まだ本作を未見でこれから観に行く予定の方は、先に映画を観てからこの感想を読んでくださいね。

いいですね? 注意しましたよ?

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概要

1990年代に社会現象を巻き起こしたアニメシリーズで、2007年からは『新劇場版』シリーズとして再始動した4部作の最終作となるアニメーション。汎用型ヒト型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオンに搭乗した碇シンジ綾波レイ式波・アスカ・ラングレー真希波・マリ・イラストリアスたちが謎の敵「使徒」と戦う姿が描かれる。総監督は、本シリーズのほか『シン・ゴジラ』なども手掛けてきた庵野秀明。(シネマトゥディより引用)

感想

完璧な完結

1995年放映のテレビ版がスタートし、1997年公開の旧劇場版2作を経て、2007年公開の新劇場版:序が公開されてから14年。

新作が公開されるたびに社会現象を巻き起こしてきた「エヴァ」が、コロナ禍の2021年に一度は公開を延期しての3月8日、突然公開された本作「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」をもって、ついに26年の歴史に幕を閉じました。

僕はエヴァをリアルタイムで追っていたわけではなく、旧劇場版2作が公開されたあとDVDでテレビ版から後追いで観始めたんですが、最初はTV版のトウジが乗ったエヴァ3号機をシンジが乗った初号機がアレする回で一度挫折して、それから新劇場版公開のタイミングでもう一度観始め、旧劇場版まで一気見したんですよね。

僕が最初エヴァにハマらなかった理由は、劇中で庵野監督の明らかな悪意みたいなものを感じたから。
最初にオタクが大好きな餌を巻いて、寄ってきたオタクをまとめてタコ殴りにするっていう、あの悪意たっぷりな演出がね。うん。
まぁ、僕がエヴァを観たのは大人になってからですからね。
これが中学生くらいで食らってたらどっぷりハマっていたかもしれません。

で、その後「新劇場版:序」が公開されたので観に行ったら「あれれ?」と。
基本的にはテレビ版と同じストーリーだけど、シンジ君が幾分前向きだったし作品のテンポも非常にいい感じ。
続く「~:破」もストーリーがテンポ良く進み、そしてラストのアレがアレで。

で、問題の「:Q」ですよ。
Qを見て僕は「あ、また庵野さんの病気が始まった」って思ったし、なので本作も「またぞろ旧劇場版みたいに有耶無耶になるかも」と、それなりに覚悟していたんですよね。

ところが!実際に観たら、これ以上ないくらい完璧に完結していたし、これまでのテレビ版や旧劇場版の流れも全部盛り込みながら、全てを収まるべき場所に収めて見せたという。まさに映画作家庵野秀明の集大成と言える見事な作品でしたねー。

むしろ、あまりにも綺麗に収まり過ぎたゆえに一部のファンからは「こんなのエヴァじゃない!」という批判が出るかもと思ったくらいですよ。
でも僕から見ると本作は、庵野さんが26年の地獄めぐりの末にやっと“このエンディングを描ける(受け入れる)まで”に成長した証って思ったんですよね。

庵野秀明私小説

庵野秀明は自分が触れてきたあらゆるコンテンツを自作品に引用するという90年代を代表するミクスチャーでありながら、どんな作品を作っても結局は私小説にしてしまう強い作家性を持つ監督で、そんな彼の代表作が「エヴァンゲリオン」です。

1995年当初は主人公碇シンジに自分を重ねながら物語を紡いできた庵野さんでしたが、年齢と経験を重ねるうち徐々にシンジには乗れなくなっていき、なので新劇場版では父親である碇ゲンドウや冬月の中に庵野さんの影が見え隠れするようになってます。

それは自身の境遇や父親との関係を主人公ルークに落とし込んで描き、社会現象を引き起こした「スター・ウォーズ」の生みの親ジョージ・ルーカスが、プリクエル・トリロジー(1~3の新三部作)ではルークの父親で後のダースベーダーに堕ちるアナキン・スカイウォーカーに自身を重ねて描いたのに近いかもしれません。

14歳の少年シンジという器は、様々な経験を重ね大人になった庵野さんには狭すぎて、だから本作でシンジが成長するのは必然だし、成長したシンジ(=現在の庵野秀明)が、ゲンドウ(=過去のシンジ=過去の庵野秀明)と向き合って受け入れる物語になったと思んですよね。

結局のところ「エヴァンゲリオン」という物語はどこまで行っても作家・庵野秀明私小説なのです。

そして、そう考えれば新劇場版から何の説明もなく突然現れ、本作でも重要な役割を果たした真希波・マリ・イラストリアスの正体にも察しが付くし、あのラストシーンにも納得なんじゃないでしょうか。

3.11以降

3.11東日本大震災は日本に住む多くのクリエイターに大きな衝撃と影響を与えました。
庵野さんも2016年の「シン・ゴジラ」では、福島原発(事故)のメタファーとしてゴジラを描いています。

そして、本作でも3.11の大震災や津波を連想させる描写があるのは決して偶然ではないと思うし、中盤でシンジ・アスカ・レイが身を寄せる集落がどこか避難所や仮設住宅を連想させるのも意図的なんじゃないかと。

絶望的状況の中でもコミュニティーを作って力強く生きる人々の「生活」の描写は一見ジブリ的――というか宮崎駿的に見えますが、宮崎さんが描く“郷愁“としての「生活」とは真逆で、庵野さんはこの集落の人々の生活やコミュニティーの在り方を、これからの日本人のあるべき姿として描いているように僕は感じたんですよね。

これまでエヴァの中で「個」と「セカイ」を直結させてきた庵野さんが、最後のエヴァで社会と世界を描いてみせたこのシーンは、まさに本作の白眉だったと個人的には思いましたねー。

まぁ、過去最長155分の上映時間で膀胱は限界ギリギリで腰も痛かったし、久しぶりに見た映画館の大画面で冒頭から視点がグルングルン回るカメラワークは画面酔い必至だったし、物語的にも「いくら何でも全部セリフで説明し過ぎじゃね?」とは思いましたが、そんな事は庵野さんも承知の上で、けれど本作で完全にエヴァと決別するためには、野暮を承知でここまでやる必要があったんだろうなーと思いましたよ。

そして、庵野さんがそこまでやってくれたからこそ、僕も後顧の憂いなく「シン・ウルトラマン」やこれからの庵野秀明の新作を楽しみに出来ます!

まだまだ言いたい事も言い足りない事も沢山ありますが、取り合えず今はエヴァンゲリオンを完璧な形で完結させてくれた庵野秀明監督に「お疲れ様」と「ありがとう」を。

興味のある方は是非!!!

 

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ベタを恐れず照れず真正面から描く「新喜劇王」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、みんな大好き「アジアナンバー1面白おじさん」ことチャウ・シンチー監督最新作『喜劇王』ですよー!

自身が1999年に主演、監督、脚本を手がけた「喜劇王」の主人公を女性に変えて復活させた本作、僕はオリジナルの方は未見なんですが、それでも十二分に楽しめる人情コメディーでしたねー。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

少林サッカー』『カンフーハッスル』などのチャウ・シンチーが、監督・主演した『喜劇王』を自らアレンジしたコメディー。無名の女優と落ちぶれたスター俳優の出会いがもたらす奇跡を、笑いと涙で描く。共同監督として『イップ・マン』シリーズなどのハーマン・ヤウが参加。『アイスマン』シリーズなどのワン・バオチャンをはじめ、エ・ジンウェン、チャン・チュエンダンらが出演している。(シネマトゥディより引用)

感想

チャウ・シンチーとは

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画像出展元URL:http://eiga.com

このブログでは監督作を何本かご紹介しているチャウ・シンチーですが、彼が何者か知らない人もいると思うので、まずはざっくり経歴をご紹介。

チャウ・シンチーは1962年生まれの58歳。
ホンコンの民放テレビ局、「無綫電視」の俳優養成所第11期の卒業生となった彼は、人気子供番組『430穿梭機』の司会者としてデビューします。

この番組では2人の司会者が「いいお兄さん」「悪いお兄さん」に扮し、いいお兄さんが悪いお兄さんの素行を叱って話が展開していく内容で、チャウ・シンチーは悪いお兄さん役を担当、これが大好評だったため5年間勤め上げたのだそうです。

その後、テレビ番組の司会者を1年務めて俳優に転身。
最初のうちは仕事も少なかったそうですが、この下積み期間に本などで勉強をしたことが、後の俳優&監督業の支えになっているのだとか。

そうしてテレビや映画で俳優として頭角を現した彼は、スタッフも兼任するようになり、1994年公開の『0061北京より愛を込めて!?』で、監督として初めてクレジット、2001年の『少林サッカー』や2004年公開の『カンフーハッスル』は香港映画歴代興行収入の記録を塗り替え日本でも大ヒット。チャウ・シンチーは世界的にも注目を集めます。

その後、2008年に「ミラクル7号」、2013年「西遊記〜はじまりのはじまり〜」、2016年「人魚姫」とチャウ・シンチー印のコメディー作品を重ねて香港、中国でヒットメーカーとなるも、残念ながら日本での扱いはイマイチなんですよねー。

そんな彼の作風は、様々な作品のオマージュや引用を多用する、初期のタランティーノ的ミクスチャーセンスと、非常にクラシカルな香港映画ならではのコメディーセンスを合わせ持つ、唯一無二の監督なのです。

個人的には、多くのハリウッド映画がキリスト教的価値観に則って作られるように、彼の作品の根底には常に仏教的な価値観や倫理観があると思うんですよね。

”リメイク”か“新作”か

そんなチャウ・シンチー監督の最新作となる本作は、自身が主演・監督を務めた1999年の作品「喜劇王」の主役を女性に変えてアレンジした物語。
僕はオリジナルを観てないのでハッキリとは言えませんが、多分、物語の大筋はオリジナル版に沿った作りではあるけれど、単なるリメイク作品には留まらず、女性を主人公に変えたことで「今」の時代に相応しい新作になっているように感じました。

とはいえ、そこは“アジアナンバー1面白おじさん”ことチャウ・シンチー印の作品ですからね。

凡百の「とりポリ作品(取り合えずポリコレやっときゃいいだろ作品)」とは一味も二味も違う独自の作品に仕上がっているんですよね。

ベタを恐れず照れず

そんな本作の内容をざっくり説明すると、映画女優を夢見るも30歳を過ぎてもエキストラの仕事しかもらえないモン(エ・ジンウェン)が主人公。

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画像出展元URL:http://eiga.com

女優業に大反対の父、エキストラの彼女を相手にせず雑に扱う映画関係者、明らかにモンをカモにしている結婚詐欺師の彼氏、あっさりモンを裏切る友人などなど。

自身を取り巻く厳しい環境の中、それでも持ち前にポジティブ思考を失わずに頑張るモンの奮闘を描いた、ある意味で、昭和のスポコン的というか、「細腕繁盛記」や「おしん」的物語というか。

観客にストレスがかかるシーンは控えめが当たり前のイマドキの映画やドラマとは違って、主人公モンはこれでもかと次々に不幸な目に遭うわけですが、あまりにもめげないので観ていて「ちょっとアレな人なのか?」と思ってしまうくらい。

でも、実はそんな事はなかったって事が中盤の山場で描かれることで、観ているコッチも「もう、楽になってええんやで……」って気持ちになるんですが、クライマックスのあるシーンで、それまでのアレコレが実はこの一点に集約される壮大な前振りだったという事が分かり大感動してしまうのです。

また、主人公モンがそれだけひどい目に遭っても嫌な気持ちにならずに観ていられるのは、彼女を虐げる連中の中に必ず彼女の理解者というか、努力する彼女を見て、応援してくれている存在が配置されているからなんですね。

まぁ、その一人がお父さんで、「お前みたいな娘はいらん!」とか怒鳴りながら、こっそり様子を見に撮影所にやってきたり、モンを雑に扱うスタッフに抗議をしたりして、陰ながらモンを応援してくれるのです。

でもそこをお涙頂戴に描かず、お笑いにしてしまうセンスは流石チャウ・シンチーだなーと思いましたよ。

そんなモンと鏡合わせ的なもう一人の主人公とも言うべき存在が、落ちぶれた元大スターのマー・ホー

嵩山少林寺で修業を積んだ武術家でもあり、コメディーからアクションまで幅広い役柄を演じるワン・バオチャンが演じているんですが、その扱いがあまりにもひど過ぎて思わず笑っちゃうんですよねーw

https://eiga.k-img.com/images/movie/92434/photo/7ed1120f5cb17dd0/640.jpg?1578623199

画像出展元URL:http://eiga.com

マー・ホーは中国のお正月である春節に公開される予定の映画で何故か白雪姫役に抜擢されるんですが、落ちぶれているのにプライドだけは高い彼は最初凄く嫌なヤツでモンにも辛く当たったりするんですね。
けれど中盤のあるシーンを境にモンのよき理解者となって応援するという役柄で、序盤のコメディーシーンとは真逆のワン・バオチャンの深みのある演技がホント素晴らしいのです。

そして、そんな作劇の根底にあるのはチャウ・シンチーの仏教的思想であり、人間賛歌の精神。
本作で語られる「夢を追い続け努力しつづすれば、必ず見ていてくれる人はいるし最後は報われる」というメッセージはあまりにもベタだし、昨今は逆に「きれいごと」と小ばかにされたり否定されたり、それを描くこと自体がベタすぎて恥ずかしいとされるくらいですが、チャウ・シンチーはそれを一切の照れも恐れもなく、真正面から堂々と肯定してみせたんですよね。

それはいわば、アメリカン・ニューシネマというムーブメントを終わらせたルーカスの「スター・ウォーズ」とやってることは同じと言っても過言ではないのです。

キャスティング

チャウ・シンチー映画のもう一つの大きな特徴といえば、キャスティングの妙ではないかと思います。

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画像出展元URL:http://eiga.com

これまでの作品でも、「一体どこで見つけたんだ!?」というような絶妙なキャストが登場しましたが、本作でもこれがデビューながら主人公モンを見事に演じたエ・ジンウェンから、冒頭の公園ダンスシーン?に登場するおばちゃんたちに至るまで、とにかく絶妙に”いい顔”のキャストが集まってるんですよねーw

映画の出来は8割キャスティングで決まる理論」に則っとって考えるなら、本作を含む近年のチャウ・シンチー作品はキャスティングの段階で勝利が約束されてるのかもしれないし、チャウ・シンチーの才能は自身のイメージにピッタリのキャストを見つける能力なのかもしれません。

興味のある方は是非!!

 

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