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映画に対して誠実である「激怒」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、アートディレクターで映画ライター・デザイナーとして知られる高橋ヨシキ長編デビュー作『激怒』ですよ。

絶対ないと思っていた地元でのまさかの公開にテンション上がりまくって、初日に観に行ってきました!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

アートディレクター、映画ライター、デザイナーとして活動する高橋ヨシキが監督を務めたバイオレンス。激怒すると暴力を振るってしまう刑事が、冷酷な手段で町を支配する自警団に立ち向かう。『天然☆生活』などの川瀬陽太、『横須賀綺譚』などの小林竜樹、『あざみさんのこと 誰でもない恋人たちの風景vol.2』などの奥野瑛太のほか、彩木あや、森羅万象らが出演する。(シネマトゥデイより引用)

感想

まぁ、大抵どこも同じとは思いますが、地方のシネコンでは基本、洋画にしろ邦画にしろビックバジェットの大作しか公開されず、いわゆる“映画好き”の間で話題になるような中小規模の良作や、強い社会メッセージを含んだような単館係作品は、賞を取るかよほど話題にならない限り上映される事って殆どないんですよね。

なので、本作も僕の地元では公開されないだろうと諦め、配信を待つしかないと思っていたんですが、高橋ヨシキさんの出ているネット番組を見ていたら、なんと、僕の地元で上映されるっていうじゃないですか!(嬉)

というわけで、早速初日の劇場に足を運んできました。

高橋ヨシキとは

そんな本作の監督・高橋ヨシキさんは、東京都出身のアート・ディレクター、映画ライター、デザイナーであり、また悪魔主義者(Church of Satan)として映画ファンの間ではよく知られている人す。

CMプランナー、広告会社勤務を経て1995年にフリーランスのライター/デザイナーとして活動。

映画秘宝を通して彼を知った人も多いだろうし、NHKラジオ第1放送の番組「すっぴん!」の【高橋ヨシキのシネマストリップ】や、TBSラジオ「ウィークエンドシャッフル」「アフター6ジャンクション」などのゲスト出演を通して、もしくはテレビ番組「バラいろダンディ」、今はYouTubeで知った人も多いのかな。

僕も、ラジオを通して高橋ヨシキさんを知った一人で、今は主にYouTube番組での彼のトークを楽しみにするファンです。

本作「激怒」はそんな高橋ヨシキ長編映画監督デビュー作。

近年の日本映画で最も多数の映画に出演していると言われる名バイプレイヤー・川瀬陽太を主役にしたバイオレンス映画で、2017年5月、ヨシキさんが川瀬さんに映画を作りたいと相談。「刑事ものとかどう?」という川瀬さんの一言から本作はスタートします。

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その後、脚本執筆や準備期間を経て2020年2月に撮影を開始、約2週間でメインの撮影を終えたところにコロナパンデミックが。
なので、NYの風景などはNY在住のカメラマンで本作の撮影監督でもある高岡ヒロオ氏が撮影を行ったそうです。

その後、猛威を振るうコロナパンデミックの影響で上映が延期されたものの、2022年8月26日から順次全国公開される運びになったんですね。

ざっくりあらすじ紹介

そんな本作のあらすじをざっくりご紹介すると、

自身の怒りを制御出来ず暴力を振るってしまう悪癖を持つ刑事・深間川瀬陽太)は、度重なる不祥事を起こし、アメリカの医療機関で怒りを抑える治療受ける。

3年後、治療半ばで呼び戻された富士見町は、彼の知る町ではなく、安心安全を旗頭に、自警団が我が物顔で支配するデストピアに変わり果ててしまっていた――。

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というストーリー。
怒りと暴力を制御出来ない刑事・深間が病院で治療を受けさせられ――というストーリーの骨格は「時計仕掛けのオレンジ」を連想したりしましたねー。

他にもラストシーンはアレはアレかな?とか、きっと色んな映画のオマージュが入ってるんでしょうけど、それはいわゆる”イースターエッグ”をこれ見よがしに入れ込んでいるのではなく、シネフィル高橋ヨシキの血肉となっている映画の断片が、物語の中に滲み出てしまっているという感じなので、元ネタをしらないから楽しめないとかは一切ないです。

戯画化されたデストピア世界とリアリティー

本作はいわゆるデストピアものなんですが、敵となるのは政治家でも嫌なIT社長でもなく、舞台となる富士見町の町内会長の桃山(森羅 万象)というオッサンなんですよね。
映画序盤ではただのレイシストでクレイマーだったこの男が、深間がアメリカに行っている3年間の間に一介の刑事から署長に出世した吉原(小林 竜樹)と組んで、これまた序盤に登場した自警団を率い「安心安全富士見町」をスローガンに町を支配している。という、こうして文章で読むとそんなアホなという設定。

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ただ、本作にとっては、この町内会っていう規模の小ささが絶妙で、決して潤沢とはいえない予算のなか、描く対象を地方都市の町内会に絞りながら、その向こうに見える社会全体の様子を観客に想像させているわけです。

で、この町内会長の桃山や吉原のキャラクターや、後半の酒席シーンのセットなどは表現的にもかなり戯画化されているわけですが、序盤で彼らがそうなる片鱗をしっかり描くことで、このデフォルメされた描写もさほど気にならないよう工夫されているんですよね。

他にも、例えば、たかが地方公務員がわざわざアメリカに送られて治療を受けるのは非現実的と思われるかもですが、アメリカで深間が飲む薬には確か「SAMPLE」って書かれていて、(多分)深間が臨床実験?を受けることと引き換えに実刑を免れたのではないかと、想像できたりするんですよね。

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他にも、セリフに頼らずちょっとした映像で、状況やキャラクターの心情を分からせるシーンが多くて、その辺は非常に映画的だと思うし、細かく練り込まれた脚本も素晴らしいと思いました。

そして何よりアートディレクターでデザイナーでもあり、長編はこれが初めてとはいえ学生時代から何本も短編映画を作っているヨシキさんの画作りのセンスと腕は確かで、戯画化された突飛な世界観の中にも、ちゃんとリアリティーを感じる作りになっているのです。

また、普段映画評などで自身が話していることと本作の間にブレがなく、そういう意味で本作はまさに高橋ヨシキ映画だし、彼が映画に対して非常に誠実である事が伝わってくるんですよね。

社会への普遍的な怒り

とはいえ、全部が完璧というわけではなく、確かに脚本にも多少舌っ足らずなところや、映像も低予算ゆえのショボさが見え隠れはします。

しかし本作主人公・深間の「怒り」は、まさに高橋ヨシキ監督本人が感じている怒りであり、体制の威を借り、正義面で自分の気に入らない物や人を安全圏から叩く事を娯楽にする、そんな今の社会に違和感を感じる人々誰もが共感する、普遍的な怒りでもあるんですよね。

それをヨシキさんは、ジャンル映画の中で描いているのです。

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そんな「今」が描けているだけでも本作は映画として成功していると思うしポスターのコピーにもなっている、クライマックスで深間が言う「俺は、お前たちを、殺す!」というセリフは最高に上がる、今、口に出してマネしたい日本語No1ですよ!

興味のある方は是非!!

 

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