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白石晃士が撮る純愛と解放の物語「愛してる!」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、日活ロマンポルノ50周年を記念したプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」で製作された作品の一つで、Jホラー界のトップランナーの一人・白石晃士監督の『愛してる!』ですよ。

ずっと気になっていた作品ですが、今回、やっと観る事ができました。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

日活ロマンポルノの50周年記念プロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の第2弾となる作品で、SMの世界に足を踏み入れる地下アイドルの姿を描いたドラマ。ドキュメンタリーの密着取材を受けている地下アイドルが、SMの女王様と出会う。監督は『貞子vs伽椰子』や『不能犯』などの白石晃士。俳優の高嶋政宏が企画監修と出演を兼ねるほか、川瀬知佐子や鳥之海凪紗、乙葉あいなどが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

日活ロマンポルノ50周年を記念したプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の一本として製作された本作は、SMクラブのオーナーにスカウトされた元女子プロレスラーで、売れない地下アイドルの主人公・ミサとお店の先輩で女王さまのカノンの純愛を描く物語です。

日活ロマンポルノ作品だしSMを題材にしているのでR-18作品ですが、公開時、映画ファンから高い評価を受けていたこともあって、僕もかなり気になっていた作品なんですよね。

で、実際に観てみたら思った以上に面白くて、僕が観た白石監督作品の中でも1・2を争う名作だと思いましたよ。

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日活ロマンポルノとは

ちなみに、もしかしたら「日活ロマンポルノ」が何か知らない世代の人もいるかもなので、ざっくり説明すると、元々東映東宝・松竹・大映と並ぶ五大映画製作会社の一角だった日活は、小林旭宍戸錠といったスターを抱え、多くのヒット作を生み出して映画黄金時代を支えましたが、1971年、ワンマン社長であった堀久作による放漫経営などの結果業績が悪化。

同年、社長の電撃退陣や幹部の追放後も業績の悪化は止まらず、対立を続けていた会社と労働組合が手を携え「映像委員会」を設置。その時、営業担当の役員から提案されたのがポルノ映画の製作・配給だったんですね。

まだ、AVもない時代、成人映画レーベルへの転換によって業績は回復。また、ノルマ(裸とか性行為のシーンとか)さえクリアできれば比較的自由に映画を作れるという条件は後の有名映画監督を生み出し、女優・俳優の登竜門的な役割も担っていたのです。

やがて、AVなどの台頭もあって1988年4月14日、にっかつはロマンポルノの制作を中止するわけですが、日本映画史においてロマンポルノは戦後日本カルチャーの一角を担っていたのです。

そんな日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクトとして、「アフロ田中」などの松居大悟、「平成ガメラシリーズ」の金子修介、そして本作を監督した白石晃士がそれぞれ作品を手掛けることになり、白石監督が題材として選んだのはずばりSMでした。

女子プロレスラー崩れで売れない地下アイドルのミサは、SMクラブ「変態紳士」のオーナーに素質を見込まれ、女王さま見習いとして働くことに。

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ただし、女王さまになるには奴隷の気持ちが分からないといけないというオーナーの意向で、研修として先輩女王さまのカノンの奴隷になるわけですが、カノンに実も心も調教されたミサはやがて――という物語です。

リアルとファンタジーが交差する”純愛”物語

本作の主役ミサを演じるのは、撮影時には実際に地下アイドルをしていたという川瀬知佐子。彼女の独特な体育会系?的な雰囲気と女王様・カレン役の鳥之海凪紗のお人形のような冷めた雰囲気は対照的で、それぞれの演じるキャラクターともリンクしているんですね。

カノンの調教でイキ倒していたミサが、その後の密着取材に「めっちゃ気持ちよかったっす!」と話すシーンや、SM体験に興奮したことを恥じらいなく無邪気に明かす姿は逆にリアルというか、ミサのキャラクターならきっとこんな感じだろうと思わせるリアリティーがあったと思いました。

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対するカレンは、決して感情的にならず何を考えているのか分からない。ある意味でサブカル的というか、もっと言うとメンヘラっぽさもあって、そこが演じる鳥之海凪紗のビジュアルとも相まって、こちらは逆にどこか現実離れしている感じなんですよね。そんな対照的な二人が惹かれ合って、愛し合い、やがてお互いの解放に繋がっていく展開は、ある意味ベタではあるけど、キャスティングの妙もあって嘘くささは感じませんでした。

ただ、2人とも演技経験はほぼないようで演技自体も決して上手いとは言えず、正直、この2人では映画のクオリティーとしてはやや心もとない。しかし、そこにベテラン俳優の高嶋政宏が加わることで、映画としてのグレードが上がっているわけです。

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著作「変態紳士」を参考にした映画を作りたいという話を受け、ステレオタイプのSMが描かれることを懸念した高嶋さんは、ショーとしてSMを見せることと、愛好家が集まる店は違うことなどを実際の店舗を案内しながらプレゼンしたのだそう。

役者としてもベテランであり”変態紳士”でもある高嶋政宏が本人役として本作に出演したことで、本物にしか出せない空気感が、寓話的に描かれる本作の物語にリアリズムを与え、逆にSMラウンジのオーナー役・ryuchellの存在はファンタジーとしての本作を象徴する存在感を発揮していて鏡合わせの配役になっていると感じたし、リアルとファンタジーが交じり合いその境が曖昧になることで、主役2人の拙さすら作品の持ち味にしていると感じましたねー。

そんなミサとカノンがついに相対するクライマックスの怒涛の展開は、デイミアン・チャゼルの「セッション」的な熱量すら感じましたよ。

ただ、あえて気になるところを1つ挙げるとすれば、本作も白石監督の代名詞であるフェイクドキュメンタリー形式で撮られているのですが、個人的には、本作は普通に劇映画として撮影した方が良かったのでは?と感じました。

R-18ということ、SMという題材や描写に対して、もしかしたら拒否感を感じる人もいるかもですが、いわゆる「ポルノ」では割り切れない魅力が爆発している作品だと思いました。

興味のある方は是非!!