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信じるのか信じないのか「女神の継承」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年夏に公開されたタイ・韓国合同制作のホラー映画『女神の継承』ですよ。

あの2016年公開「哭声/コクソン」の続編的作品ということでずっと観たかったんですが、先日Amazonレンタルに入っていたのでやっと観る事ができました。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

『哭声/コクソン』などのナ・ホンジン監督が、原案とプロデュースを担当したホラー。タイの村を舞台に、祈祷師一族の家に生まれた女性が不可解な現象に襲われる。メガホンを取ったのは『愛しのゴースト』などのバンジョン・ピサヤタナクーン。サワニー・ウトーンマ、ナリルヤ・グルモンコルペチ、シラニ・ヤンキッティカンらが出演する。(シネマトゥデイより引用)

感想

哭声/コクソン」のナ・ホンジンがプロデュース

本作は、「チェイサー」「哀しき獣」そして2016年公開「哭声/コクソン」を手掛けたナ・ホンジンが原案・プロデュースを務め、ハリウッドリメイクもされたホラー映画「心霊写真」「愛しのゴースト」などのバンジョン・ピサンタナクーンが監督を務める、タイ・韓国合同作品です。

哭声/コクソン」の続編的立ち位置の作品であり、ナ・ホンジンが同作に登場した祈祷師の物語を思いついたことから企画がスタート。その構想はタイの祈祷師をモチーフに、本作へと受け継がれたわけですね。

今もピー(精霊)信仰が残るタイ東北部イサーン地方で、地元の神、バ・ヤンの依り代として代々祈祷を行う女性二ムを追ったドキュメンタリーの取材を行うチームは、彼女の姉の夫の葬儀で姪・ミンの奇行を見て、彼女がバ・ヤンの次の巫女に選ばれたのではと考え、彼女に密着する。

しかし、ミンに憑いているのがバ・ヤンではないと見抜き、彼女にとり憑いているモノの正体を探っていくのだが――というストーリー。

モキュメンタリー映画

本作はドキュメンタリーの体で物語が進む、いわゆるモキュメンタリー形式の作品で、映画冒頭で二ムがインタビュアーの「祈祷で病気を治しますか」という質問に「もしガンの人が来たら医者に行くよう勧める」「自分が治すのは霊的要因の病い」と答えることで、彼女がカルト的思考の持ち主ではなく、冷静な現代的感覚を持つ人であることが示されます。

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元々バ・ヤンに選ばれたのは彼女ではなく、彼女の姉でミンの母親でもあるノイでしたが、ノイが巫女を拒否しキリスト教に改宗したため、バ・ヤンの魂は妹であるニムに移り、彼女が巫女を継ぐことになったんですね。

一方、ノイが嫁いだ夫・ウィロイの家系の男性には常に不幸が降りかかっていることを、ニムはウィロイの葬儀に向かう車中で語ります。ウィロイの祖父は労働者の投げた石が頭に当たって死に、ウィロイの父は工場が倒産。保険目当てに工場に放火した後、軸毒自殺。ウィロイ本人はガンで死に、ウィロイの息子マックはバイク事故で死んでいるんですね。

そんなウィロイのお葬式では、ノイと二ムはあまり良い関係ではないこと、ミンはシャーマニズムをまったく信じていない事が分かります。

しかし、通夜の夜、突如親戚の男性に向かって激高し、壁に向かって独り言を言うなど、ミンの奇行を見たドキュメントクルーは、彼女がバ・ヤンの巫女に選ばれたのではないかと思い(バ・ヤンの巫女に選ばれると心身に異常が出る)、彼女にも密着取材を行い、そして自体はどんどん恐ろしい方向に向かっていくのです。

信じるか信じないか

そんな本作のテーマは1973年公開の「エクソシスト」を始めとした、数々の悪魔祓い映画、そしてナ・ホンジン監督の「哭声/コクソン」と通底しています。

それは、物凄く乱暴に言えば「神を信じるか信じないか」

エクソシスト」で悪霊と対峙するカラス神父は神を信じられずにいるし、悪魔パズズとの戦いで命を落としたメリン神父も2004年公開の「エクソシスト・ザ・ビギニング」では神の存在を信じられずにいました。そして、キリスト教における悪魔の多くは、元を辿れば土着信仰の神・精霊だったりもしますよね。
「哭声/コクソン」の主人公ジョングは、後半で一体何を信じ、何を信じないのかの決断を迫られます。

本作もまた、上記の作品群とテーマを同じくしているんですが、「エクソシスト」でのキリスト教が、本作では土着の女神バ・ヤンに置き換わっているんですね。

というわけで、ここからはネタバレありの感想になるので、まだ本作を未見の方、ネタバレ許さないと言う人はお気を付けください。

 

そんな感じで、二ムが調査を進める間にも、ミンの奇行はどんどん常軌を逸していきます。

突如周囲の人々に毒づいたり、自分の仕事先(タイのハローワーク)に夜な夜な男を連れ込みSEXしていたり、生肉を食べたり、テーブルの上で放尿したり、飼い犬を煮て食べたり、自分の甥っ子を誘拐したり、行方をくらませたり。

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当初はミンの奇行は女神バ・ヤンの依り代に選ばれたからだと思われていましたが、ニムは調査の末に、息子マックはバイク事故ではなくミンとの近親相姦を家族に咎められての自殺だという事を突き止め、ミンの奇行はマックが彼女をあの世に連れ去ろうと祟っているのだと推測。マックを鎮める儀式を行うのですが、ひと月にも及ぶ儀式の最中「騙された!」と言って、ミンの祖父が放火した工場に向かうんですね。

ミンにとり憑いていたのは、バ・ヤンでもマックでもなく、ミンの父方の祖先の怨念をその身に受けていたからで、それは、呪われた一族の父親・ウィロイと女神バ・ヤンを拒絶した母親ノイが結婚した時点で、決められた運命だということなんですね。

まさに、親の因果が子に報いってやつです。

そこから先の展開はまさにアクセル全開。

自分の力では手に負えないと、仲間の祈祷師サンティに協力を依頼したニムが次の吉日にお祓いを行うと決めるも、その前日ニムは原因不明の突然死。

お前、主人公ちゃうんかーい!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ

それでもニムの志を継ぎ儀式を決行するサンティ。

儀式は、ミンの祖父の廃工場の周りに結界を張り、工場内でノイに悪霊を憑依させた後、その悪霊を壺に閉じ込め、工場敷地内に掘った穴の中に埋めて封印するというもの。

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一方のミンは、お札が張られた自分の部屋に閉じ込められていて、ドキュメントスタッフと、叔母が見張っているんですね。

そして、ノイに憑依した悪霊を壺に閉じ込め、封印まであと少しというところで、カメラはミンの自宅に変わり、部屋の中からミンが「何で私閉じ込められているの?」「出して」と言い始める。そんなミンの様子に「儀式が成功したのかしら」というミンの叔母ですが、「まだ連絡が来ていないので開けてはいけません」とドキュメントスタッフ。

すると、部屋の中から叔母の息子の泣き声が。いつの間にかミンの部屋に連れ去られた!? と半狂乱の母親は、スタッフをぶん殴って部屋のドアを開けてしまいます。

すると、そこにいは後ろ向きのミンが赤ん坊の泣きまねをしていて――。

ここからは大殺戮ショーの開幕。

まず手始めに叔母とスタッフをぶち殺したミンは、事のついでに自分の甥っ子を美味しく召し上がり、ミンが解放されたことで儀式が失敗した工場跡では結界を守っていたサンティの弟子が獣化してスタッフを襲い、工場内ではサンティの弟子が見ずから壁に頭を打ちつけて自殺するわ、サンティは壺を抱えたまま飛び降りて体がマジ卍みたいになって死んじゃうわ、大パニックの中、突然ノイが「バ・ヤンを感じるわーー!ホホホホー」と笑い出し、そこに現れたミンを制圧――したかに思われたが、ミンの「お母さん」という呼びかけで我に返ってしまい敗北。最後はガソリンをかけられ燃やされてしまいましたとさ。

そして、スタッフが落としたカメラがとらえた最後の映像は、ミンの姓である「ヤサンティア」とラベル付けされた、針が突き出たブードゥー人形だったわけです。

これで終わりかと思ったら、死の前日の二ムが映し出され、彼女は「実は以前から自分がバ・ヤンの霊媒になっていた感覚を持っていなかった」と告白して物語は幕を閉じるんですね。

正直クライマックスの大殺戮ショーは、まさにホラー映画全部盛りと言う感じで、いくら何でもやり過ぎではと感じましたが、まぁ、これもお国柄ってやつなのかな?

あと、本作は生理的に嫌なシーン(ミンがワンコ食べたり、放尿したり)は多いですが、いわゆるジャンプスケア(ワッと脅かされるやつ)はほぼないので、ジャンプスケアが苦手な僕も安心して観られました。

祈祷師ニム役のサワニー・ウトーンマさんの、いかにも普通の叔母さんっぽい佇まいなんかは、あまりケレン味がない分、霊媒師・シャーマンとしてのリアルさがあって良かったですねー。

あと、中盤のミンの奇行は、「怖い」っていうよりミン役のナリルヤ・グルモンコルペチさんが頑張ってるなーと思っちゃいました。

実際、本作の恐怖シーンの殆どは、彼女の頑張りによって成り立っているんですよね。

そんな本作の何が怖いのかというと、何一つ確かなものがないというところ。

例えばミンの奇行の数々も、単純に彼女が精神的に病んでいたり、普通に性格が悪かったり、ビッチだったりするかもだし、ミンとマックが近親相姦をしているというニムの言葉も、結局それを証明するシーン、例えば家族の証言などは一つもなく、あるのはニムが発見した兄妹仲睦まじい写真のみなんですね。つまり、それはただニムの思い込みだったかもしれない、親の因果でミンが呪いを受けているというサンティの言葉も、言葉だけで確かなものはなにもなく、本作で起こっている現象も理屈で説明しようと思えば出来なくはない。

その一方で、全てが本当に悪霊や女神バ・ヤンが起こした超常的な出来事かもしれないわけで、何を信じて何を信じないかは、観ているこっちに丸投げされているのです。

その辺もまた「哭声/コクソン」と共通しているので、コクソン好きの人は本作も楽しめるんじゃないかと思いましたねー。

あと、お国柄と言えば本作で僕が一番衝撃を受けたのは、ミンの父・ウィロイの葬儀の様子で、原色のネオンライトみたいのがチカチカしてたり、火葬の時も棺をガソリンの入った袋の上に置いて、そこにロケット花火で着火するんですよ!

マジか!!って思ってググってみたら、本当に火葬の時はそうするみたいで、2度驚きましたよw

最後は映画と関係ない話になってしまいましたが、個人的にはかなり楽しめた映画でした。

興味のある方は是非!!