今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

DCEUを救った女神再降臨!「ワンダーウーマン1984」(2020)

ぷらすです。

公開初日に劇場で『ワンダーウーマン1984』を観てきました!

コロナ禍の影響で、今年公開されるはずだったマーベル&DC映画が次々に延期されたことで、今年公開された唯一のアメコミヒーロー映画となってしまった本作が、この年の瀬についに公開されるということで、矢も楯もたまらず公開初日に行ってきましたよ!

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概要

ワンダーウーマン』のガル・ガドットパティ・ジェンキンス監督が再び組んだアクション。恋人を亡くして沈んでいたヒロインの前に、死んだはずの恋人が現れる。前作に続いてクリス・パインが恋人を演じ、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』などのクリステン・ウィグをはじめ、ロビン・ライトペドロ・パスカルらが共演。(シネマトゥデイより引用)

感想

ワンダーウーマンとは

ワンダーウーマンは、スーパーマンバットマンに次ぐアメコミ出版会社DCコミックスの古参ヒーローの一人です。
ギリシア神話に登場する女性だけの部族「アマゾネス」の王女で女神という出自を持つ彼女は、 1941年11月出版の「All Star Comics #8」で初登場。
嘘発見器を発明した心理学者で作家のウィリアム・モールトン・マーストン(PNはチャールズ・モールトン)によって生み出された彼女は、その出自からコミックの枠に収まらずフェミニズム運動や女性の地位向上のシンボル的存在として描かれてきたわけですが、マーストン自身の性的趣向を反映するようなボンテージコスチュームやキャラ設定から、本来味方であるはずのフェミニストの女性たちからも度々批判に晒されてしまうキャラクターでもあるんですね。

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そんな彼女が実写版としてスクリーンに初めて登場したのが、2016年公開のDCEM(DCエクステンデッド・ユニバース)作品第二弾「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」で、長身の美人女優ガル・ガドット演じるワンダーウーマンは、まさにコミックから抜け出てきたような完璧なビジュアルだったので、何かと酷評されていた同作の中で彼女の登場シーンだけはファンが口を揃えて褒めたんですよね。

続く「スーサイド・スクワッド」で三度盛大にやらかしたDCEUは存続の危機に立たされるわけですが、その翌年公開された前作「ワンダーウーマン」はアメコミヒーロー映画初の女性監督パティ・ジェンキンスがメガホンを取った事や、ストーリー的にもポリティカル・コレクトネスやミートゥー運動など、時流の流れを踏まえたメッセージ性の高い物語がウケて大ヒット。特に女性から高評価を得て、結果世間のDCEUに対する風向きすらも変えたという、まさにDCEUにとっての救いの女神となったわけです。

本作は、そんな前作から引き続きパティ・ジェンキンス監督とガル・ガドットがタッグを組むということで、公開前から期待が高まっていたんですよねー。

ざっくりストーリー紹介

1984アメリカ。第1次世界大戦の裏で暗躍する敵を倒して世界を救ったワンダーウーマンことダイアナガル・ガドット)は、身分を隠しスミソニア博物館のキュレーターとして働きながら、密かにヒーロー活動を行っているんですね。

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そんなある日、ダイアナはショッピングモールに店を構える宝石店に入った強盗を捕まえるんですが、実はその宝石店は裏で盗品などを扱う違法な店だったのです。

で、店の倉庫に隠されていた盗品の鑑定を頼まれたのが博物館に着任したばかりの宝石学者バーバラ・ミネルバクリステン・ウィグ)。

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その盗品の中に、何でも一つ望みが叶うという石が紛れ込んでいて、バーバラは冴えない自分を変えダイアナのようになりたいと願い、ダイアナは前作で死別した恋人ティークリス・パイン)との再会を望んでしまう――というストーリー。

ところが、実はその石は持ち主の望みを叶える代償にいくつもの文明を滅亡させてきた呪いの魔石だったからさぁ大変。
劇中でも言われていますが、簡単に言えばこの石は「猿の手」的なアイテムだったわけです。

ワンダーウーマンの方向性を示した作品

ワンダーウーマンが他のヒーローと違うのは、彼女が「平和主義者」であるという部分ではないかと思います。
これは悪と戦うアクションコミックのヒーローとは、ある意味で矛盾する特徴でもあるわけで、実際前作ではストーリーの流れとクライマックスのチグハグさが目立ったというか、「ホントにいたんかーい!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ」っとツッコミを入れた人も多いのではないでしょうかw

あの展開は多分、DCEUの中の一本ということで脚本に何らかの横やりが入った結果だと思うし、パティ・ジェンキンス監督の本意ではなかったように思ったんですね。

しかし、DCEU自体は現在も継続しているものの、前作「ワンダーウーマン」の成功を踏まえたDCが、MCUのように作品と作品を繋げることを重視するスタイルから、作品単体としてのクオリティを重視する方針に舵を切ったことで、本作では要所要所にド派手でカッコいいアクションシーンは入るものの、作品のメインをバーバラとダイアナ、そして本作の事実上のヴィランであるマックスウェル・“マックス”・ロードペドロ・パスカル)それぞれのドラマと、ダイアナとスティーブのロマンスという二大要素に振り切ってみせたんですね。

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また、設定のロジックや細かい辻褄合わせよりも、物語やキャラクターのエモーションを優先させるストーリーテリングは、同じく女性作家が描く「鬼滅の刃」のストーリーテリングに通じるものがあるなーなんて思いました。
劇中に本当の意味での悪役(加害者)がいないというのも同じですしね。

何よりパティ・ジェンキンスは、平和主義者で愛の戦士であるワンダーウーマンというヒーローが進むべき物語の方向性を本作でしっかりと示したと思うし、あのオチのつけ方はDC・マーベルのどの作品とも違うワンダーウーマンならではの決着だったと思いました。

とはいえ

まぁ、だからと言って本作が文句なしの100点満点の映画というわけではなく、(個人的にはそんなに気にならなかったけど)やっぱ151分は流石に冗長だと思うし、
1984年を舞台にした意図は分かるけど、作劇的な意味はあまり感じられなかったというか。別に現代が舞台でも成立する物語なんだよなーと思ってしまいました。
まぁ、そこは大人の事情が絡んでるんでしょうけどもw

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 あと、キャラや物語の構造上仕方ないけど、ワンダーウーマン(ダイアナ)って若干オカンっぽいというか、正しさ・善良さゆえの説教臭さが出てしまうんですが、そこは監督も分かっていて、鏡像関係にあるバーバラに「説教なんか聞きたくない!」的なツッコミを入れさせてるのは良かったと思いました。

 正直、今年公開のアメコミ映画が本作だけなので他の作品との比較がないことや、もっと単純に新作映画を劇場で観れて嬉しい気持ちが乗っかって、多少評価が甘くなってるのは否めないけど、個人的に大満足な一作でした!

興味のある方は是非!!!

 

*12/26追記
文中、「アメコミヒーロー映画」と書いてますが、DC映画としては3月に「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY」が公開されてました。(〃ω〃)>

 

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凄すぎて逆に凄さが伝わらない「2分の1の魔法」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは日本では今年8月に公開されたピクサー作品『2分の1の魔法』ですよー!

公開時は「何か他の作品と比べてパッとしないなー」と食指が動かなかったんですが、今回Amazonvideoでレンタルして観て、劇場に行かなかったあの時の自分をぶん殴ってやりたくなりましたよー!

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概要

ディズニー&ピクサー異世界を舞台に描くアニメーション。科学や技術の発展によって魔法が影を潜めてしまった世界に生きる兄弟の冒険が描かれる。監督は『モンスターズ・ユニバーシティ』などのダン・スキャンロン。声の出演は、『スパイダーマン』シリーズなどのトム・ホランド、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズなどのクリス・プラットのほか、ジュリア・ルイス=ドレイファス、オクタヴィア・スペンサーら。(シネマトゥディより引用)

感想

ピクサーとは

本作は1995年公開の「トイ・ストーリー」から数えて22作目となるピクサーのアニメーション作品です。
ピクサーは最初ルーカスフィルムの一部門でしたが、その後スティーブ・ジョブズに買収され、ハードウェアとCG用のソフトを開発、販売する会社としてリスタート。

しかしコンピュータおよびソフトウェアの業績が悪かったことから、ジョン・ラセターらアニメーション開発部門は商品宣伝のためCGアニメーションを制作、その後ディズニーと共同制作で「トイ・ストーリー」を制作、この1本で世界中にピクサーの名を轟かせ、2006年にディズニーに買収されてディズニー・ピクサーとなって現在に至るわけです。

そんなピクサーの特徴は、全作品がスタッフの実体験からくる私小説的な作品であるということ。
例えば「トイ・ストーリー」シリーズは子供たちの成長を見守るオモチャたちを描いたシリーズですが、これはピクサースタッフと子供たちの関係のメタファーであり、またオモチャというモチーフは=ピクサー(アニメーションスタジオ・アニメーター)のメタファーになっています。

それ以外の作品やシリーズでも、親子、家族というモチーフはピクサー作品の多くで描かれており、それは監督・スタッフの実体験が出発点になっていることが多いためと言われています。

つまり、ピクサー作品は個人的なエピソード=私小説的ストーリーを基に、極上のエンターテイメント作品を作り上げているところが他スタジオのアニメーションとは一味違うところでもあるのです。

で、そんなピクサー22作目となる本作は、それまで長年にわたってピクサースタジオを率いていたジョン・ラセターの手を離れた最初の作品で、監督は「モンスターズ・ユニバーシティ」も手掛けたダン・スキャンロン

本作の主人公イアンと同じく自身が1歳の頃に父親を亡くした経験や兄との実体験を基に本作の脚本を練り上げていったそうですよ。

ざっくりストーリー紹介

まずはそんな本作のストーリーをざっくりご紹介。
誰もが簡単に使える便利な科学に取って代わられ、すっかり魔法が廃れてしまったファンタジー世界が舞台。
内気なエルフのイアントム・ホランド)は、引きこもり?で“歴史”オタクの兄バーリークリス・プラット)、シングルマザーの母ローレル(ジュリア・ルイス=ドレイファス)と3人暮らし。

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16歳の誕生日、イアンは母から亡き父親が残したプレゼントを渡されます。
それは魔法の杖と魔石、そして「復活の呪文」のセット。
兄バーリーによれば、この杖と石を使って呪文を唱えれば24時間だけ死者を復活させることが出来るというんですね。
早速バーリーが呪文を試しますが魔法は発動せず、一人になったイアンが何気なく呪文を口にすると魔法が発動します。

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すわ「お父さんに会えるのか!?」と思ったら、魔石のパワーが足りず復活したのは父親の下半身だけ

1/2の父親を完全復活させるため、イアンとバーリーはもう一つの魔石を求めて冒険に出るのだが――というストーリーなんですね。

この、「魔法が科学に取って代わられた世界」という設定も、主人公の兄弟が少年でもなく大人でもなく、高校生と大学生の青い顔をしたエルフの兄弟というビジュアルも、これまでのピクサー作品と比べて正直パッとしないというか、新鮮味がなく興味をそそられないって思った人は多いのではないでしょうか。

例えば
モンスターズ・インク」でサリーとマイクが務める大企業モンスターズインク(通称MI)やモンスターの世界。
「ウォーリー」でウォーリーが取り残されたゴミの山と化した地球の姿。
リメンバー・ミー」でミゲルが迷い込む『死後の世界』などなど。

ピクサー作品といえば観客がそれ一発でワクワクするような世界観を描いたビジュアルが売りだと思うけど、本作ではビニールプールでスマホをいじる人魚や、野良化して町中のゴミ箱を漁るペガサスはいるけど、舞台はいかにも現代のアメリカの田舎町だし、現代人と変わらない生活を送るファンタジー世界の住人というキャラ設定は既視感があるし、何なら色合いもちょっと地味目で全然ワクワクしない。

と・こ・ろ・が!

いざ観始めると、とにかくそのストーリーテリングの完璧さにビックリしてしまうんですよねー。

凄すぎて凄さが伝わらない

まず本作の世界観は、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)の古典「ダンジョンズ&ドラゴンズ」がモチーフになっているんだそうです。
兄バーリーは大学にもいかずTRPGマジック・ザ・ギャザリングがモチーフのカードゲームなどにハマっているゲームオタクなんですが、本人曰く、これらのゲームは史実を基に作られているのだそう。
そんな“歴史“を愛するバーリーは、遺跡を取り壊して開発しようとする工事の邪魔をしたりしてみんなに街の厄介者扱いされているんですが、父親を復活させる旅の過程で、彼の主張が正しかったことが次々と証明されていく。つまり、この冒険は厄介者で役立たずだと思われていたバーリーを再評価=多様性の受容する旅でもあるし、本作が典型的な行きて帰りし物語」のテンプレをなぞっているのにも、ちゃんと理由があったのです。

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また、主人公のイアンがいつも自分に自信が持てないのは、病で亡くなった父親との記憶がない事に起因していて、逆にバーリーがファンタジー世界に傾倒しているのも父親との死別が(多分)原因なんですね。

で、イアン16歳の誕生日に父親から贈られた魔法セットは、成長した息子たちと一目会いたいという父親の願いでもあり、その思いは息子たちと共有され、その思いの達成が本作の原動力になっているわけです。

そんな彼らが魔石の地図を求め最初に向かうのが、ライオンの体にコウモリの羽、サソリの尻尾を持つマンティコアの酒場。

いかにも恐ろし気な館のドアをバーリーが恐る恐る開けると、中はすっかり郊外のファミレスのようになっていて、経営者のマンティコアもすっかり野性を失っているんですよね。

ここはもちろん一流の面白ポイントではあるものの、実は世界中の「物語」を略奪しては漂白して子供向けにしてしまう親会社ディズニーへの痛烈な批判でもあり、そう考えると野性を取り戻したマンティコアが炎でマスコットキャラの着ぐるみを燃やしてしまう件は、中々痛快だったりします。

で、そんな冒頭から中盤にかけての、キャラの何てことないセリフや行動・ギャグが実は全部クライマックスからラストに向けての伏線になっていて、それもいわゆる「伏線の為の伏線」ではなくて、ちゃんとエピソードを有機的にリンクさせてクライマックスに向けて物語にドライブをかけていく歯車として機能しているんですよ!

ネットでは「兄のバーリーがウザすぎるうえに最後まで役立たずでむかつく」みたいな感想も目にしましたが、いやいや、ちょっと待ってくれと。

イアンが冒険で成功するときは必ずバーリーのサポートがあるときだし、逆に失敗するときはバーリーの言うことを信じない時です。

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まぁ、バーリーがウザいのは事実だから仕方ないけど、その実、彼はずっと弟をサポートし続けていて、それがあったからクライマックスのイアンの決断、そしてあの感動のラストへと繋がっていくわけですよ。

あと、残念ながら魔法の杖は使えないバーリーですが、彼に関わったキャラクターたちは劇中で(結果的に)失っていたものを取り戻す=世界が少しだけ変わるわけです。
それはつまり、人と人が影響し合うことでほんの少しだけ世界が変わる事がまさに魔法なんだよ。的なメッセージも込められているわけですね。

そういう意味で、本作の脚本はストーリーテリングの教科書のような見事で一分のスキのない脚本なんですが、あまりに凄すぎて逆に凄さが伝わらないというか、あまりに完璧すぎてテンプレに乗っただけの無個性で工業的な作品にすら見えちゃうっていうか。

逆に、物語的にもう少し若干の齟齬や歪さがあった方が、作家性のある作品だと観客は思ったかもしれません。
トイ・ストーリーなんかはシリーズを重ねるうちに、そうなってましたよね。

ともあれ、ピクサーの過去作品と比べてもビジュアル面は群を抜いて地味な本作ですが、ことストーリーで言えばピクサー作品の中でも1・2を争うくらい見事だと思ったし、個人的に大好きな作品でしたよ!

興味のある方は是非!!!

 

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アートの本質を問うドキュメンタリー「バンクシーを盗んだ男」(2018)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、世界を股に掛けるストリートアーティストのバンクシーが、2007年にパレスチナベツレヘムで描いた「ロバと兵士」という壁画の行方を追いながら、アートの本質に迫るドキュメンタリー映画バンクシーを盗んだ男』ですよー!

この作品もあるネット番組で知りアマプラに入っていたので、早速観ましたよ!

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概要

アーティストのバンクシーが描いた1枚の絵が、世界に与えるインパクトに迫るドキュメンタリー。パレスチナイスラエルを分断する巨大な壁に描かれたバンクシーの絵がオークションにかけられ、波紋が広がる。ミュージシャンのイギー・ポップがナレーションを担当した。(シネマトゥデイより引用)

感想

「ロバと兵士」の足跡を追う旅

バンクシーと言えば、メッセージ性の強いステンシル画を世界各国の壁に描く、正体不明、神出鬼没のストリートアーティストで、社会的、政治的な自身のメッセージをユーモアと皮肉込めて描くスタイルで知られています。

2018年のオークションでは、1億5千万で競り落とされた途端、額に仕込まれたシュレッダーで絵を裁断したことで話題になりましたよね。

その一方で、ディズニーランドを正面から皮肉ったテーマパーク「ディズマランド」を設営したり、パレスチナベツレヘム地区にある分離壁の目の前に“ 世界一眺めの悪いホテル”「T h e Walled Off Hotel」を開業したり。
かと思えばマドンナやBlurのアルバムジャケットを手掛けるなど、その活動は多岐にわたります。

本作は、2007年にバンクシーが1 4 人のアーティストと共にパレスチナイスラエルを分断する高さ8m、全長450kmにも及ぶ超巨大な壁にグラフィティアートを描くプロジェクトで手掛けた6作品の1つ「ロバと兵士」を、パレスチナの商人が描かれた壁ごと切り取ってネットオークション「eBay」で売ったという話からスタートするんですね。

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「ロバと兵士」は(イスラエル)兵士がロバのIDをチェックしているという風刺的なグラフィックですが、これを見たパレスチナの人たちに「自分たちをロバ呼ばわりするのか!」(中東ではロバは侮辱の意味がある)と怒りを買い、本作冒頭で登場する135㎏の巨漢タクシー運転手ワリド”ザ・ビースト”の提案で彼のボスが壁画が描かれた建物を買い取り、絵の描かれた壁を切り取って「eBay」に出展、海外に売り払ってしまったというのです。

この行為にバンクシー本人は怒ったらしいですが、ここから本作はストリートアート(無断で描かれる壁画)の所有権・著作権は誰にあるのか、壁に描かれた絵を第三者が勝手に移動(保存)する事の是非について――という話にシフトしていくんですね。

要約すると、

1・バンクシーらストリートアーティストは、そもそも人の家や公共の建物に無断で描いた落書きと同じなのだから、建物の所有者がその絵を消そうが売ろうが文句は言えない説。
2・それが名のあるアーティストの”作品“である以上、著作権は作者にあるのだから勝手に売買するのは違法だろ説。

3・バンクシーを始め、多くのストリートアーティストの作品は、描いた場所にメッセージや意図があるわけで、作品を切り取って場所を移してしまえば文脈は失われ作者が作品に込めたメッセージも失われてしまう説。

4・雨風に晒され風化し数年で消えてしまえば、その作品に込められた作者の意図やメッセージも“無かったこと“になってしまう。だから、芸術史観的な意味でも作品の保護、保存が必要である説。

ベツレヘムから海を渡りデンマーク→ロンドン→ロスアンゼルス→ロンドンという「ロバと兵士」の足跡を追うのと同時進行で、美術品の収集家やディーラー、芸術修復家、キュレーター、著作権専門の弁護士、ストリートアーティスト、そしてパキスタンの人々などへのインタビューを重ねることで本作は構成されていますが、それぞれの立場、スタンスで多少の相違があれど、概ね上記の4つの意見に分かれるんですね。

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さらには、
ピカソの絵が競売に掛けられた時、語られるのは彼の芸術ではなく競り落とされた金額だけ」(意訳)

「(文脈というなら)ゴッホの絵だってアルルの明るい日差しの下でこそ観られる価値がある――という事になってしまう」(意訳)

と、話はストリートアートに留まらず、アートとビジネスの関係、アートの所有権と役割という、より本質的な方向へと掘り下げられていくのです。

そして6年後、再びベツレヘムに戻ったスタッフは、ワリドや「ロバと兵士」を売り払った彼のボスで地元の名士M・カナワティベツレヘムの市長や壁の前でバンクシーの絵のプリントグッズを売って生計を立てているおじいさんなどのインタビューを行うんですね。

ボスのM・カナワティは「ロバと兵士」を売り払ったお金を全て教会に寄付したと言い、ボスから一銭の分け前も貰えなかったワリドはバンクシー嫌いに拍車がかかり、分離壁が作られる前は地元住民相手の雑貨店を営んでいたおじいさんは壁の出現で経営困難になるも、2007年のプロジェクト作品を見にやってくるようになった観光客相手に、バンクシーの絵をプリントしたグッズを売って暮らしているんですね。(バンクシー公認らしい)

入れ子構造

とまぁ、そんな感じで本作は「ロバと兵士」をメインに据えながら、アートの在り方を言及するドキュメンタリー映画になっていて、もちろんそれだけでも十分に見ごたえがあるんですが、観終わった後に振り返ってみるとこの作品が実は「入れ子構造」になっていることに気づきます。

“大国“の都合と思惑によって分断の壁で分けられたイスラエルパレスチナ

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「ロバと兵士」はそんな状況への批判や平和への願いを込めて描かれた作品なのでしょうが、作者であるバンクシーの意思とは無関係に壁から切り取られ、売り払われ、バイヤーや収集家に振り回されるように北欧、イギリス、アメリカを転々とします。

それって大国(第三者)の意思によって勝手に祖国を分断され、居場所を追われたたパレスチナ人と重なりませんか?

つまり、本作はバンクシーとストリートアートを描くドキュメンタリーでありながら、その実、監督のマルコ・プロゼルピオパレスチナの国や人と「ロバと兵士」を意図的に重ねて本作を「入れ子構造」にすることで、国と人と世界というより普遍的なテーマを観客に突きつけているのだと僕は思いました。

興味のある方は是非!!!

 

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バンクシーを盗んだ男

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居場所を巡る物語「羅小黒戦記〜ぼくが選ぶ未来〜」(2020)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、現在絶賛公開中の中国アニメ映画『羅小黒戦記〜ぼくが選ぶ未来〜』ですよー!

正直最初は「レンタルで観ればいいかー」なんて思ってたんですが、ネット上に上がる本作に対する感想たちが激熱だったので劇場に観に行ったら、もう、超面白くて激ヤバかったっす!(←語彙力)

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概要

中国で動画サイトのフラッシュアニメから人気に火がついたファンタジーアニメの劇場版。自然破壊により妖精たちの居場所が失われた世界で、黒猫の妖精が新たな住みかを探し求める。漫画家でアニメ監督のMTJJが原作と監督、脚本を兼ね、制作をMTJJが代表を務めるアニメ制作会社の北京寒木春華動画技術有限公司が手掛ける。ボイスキャストは、花澤香菜宮野真守櫻井孝宏などが担当する。(シネマトゥディより引用)

感想

「羅小黒戦記」とは

本作はFlashで制作され、WEB公開されている2Dアニメシリーズ(本編)の前日単となる劇場アニメで、2019年9月から一部の映画館で日本語字幕版が公開され、今年(2020)の11/7より、日本の声優による日本語吹き替え版が公開されたんですね。

内容をざっくり説明すると、人間の自然破壊によって居場所を無くした黒猫の妖精シャオヘイ/小黒(花澤香菜)が、人間たちに襲われているところを同族の妖精フーシー/風息(櫻井孝宏)に助けられます。

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フーシーに連れられ故郷の森に似た隠れ処の島を訪れたシャオヘイは、風息の仲間であるロジュ/洛竹(松岡禎丞シューファイ/虚淮(斉藤壮馬テンフー /天虎(杉田智和)らと出会い、安息の居場所が見つかったと喜んだのもつかの間、最強の執行人ムゲン/無限(宮野真守)の急襲を受けて捕まり、妖精が集う「館」へと連行される――というストーリー。

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そんなシャオヘイを取り戻すため、フーシーらは館のある町でシャオヘイとムゲンを待ち伏せ、クライマックスではムゲンとフーシー、そしてシャオヘイの超異能バトルが繰り広げられるわけですねー!

そんな本作の監督を務めたのは、「羅小黒戦記」の原作者であり、Web版の監督も務めるMTJJ
色々調べてはみたんですが、この人の経歴も年齢もよく分かりませんでした。
それでも断片的な情報を見ると、元々は漫画家?で、2011年から自身の飼い猫をモデルにしたシャオヘイを主人公にしたWeb版の本編シリーズを「ビリビリ動画」に投稿しはじめ9年間で28話をアップ、徐々に人気は高まり累計2.3億回再生を記録したんだそうです。

日本で言えば、作風は全然違うけど(出自も含めて)新海誠に近い映画作家と言えるかもしれません。

そして、たった一人で制作したという第1話の時点で、この映画版のストーリーは頭にあったんだそうですよ。

ミクスチャー的表現だけどオリジナリティーを持つ

そんな本作は、2Dアニメということもあって日本アニメと比べられたり、日本アニメの影響について語られたりしています。

確かに、冒頭のシャオヘイが住む森の描写は、ジブリの「もののけ姫」感があったり、ラストの方で登場する「館」のデザインなどは「千と千尋の神隠し」を連想する人も多いかもしれません。

また、クライマックスでのムゲンとフーシー、シャオヘイの戦いなんかは、大友克洋の「童夢」や「アキラ」感があるし、スピード感あふれる空中戦などは「ドラゴンボール」を思い出すかも。

そんな感じで、確かに本作には随所に日本のアニメやゲームの影響が見えるし、MTJJ監督自身もインタビューなどで日本アニメの影響を公言はしていますが、例えばクライマックスの戦いは「マトリックス」的だったり、それ以外にもディズニーやピクサーアニメ、ハリウッドアクション映画などで観たような表現も入っていて、作品作りにプラスになると思った表現方法は、洋の東西を問わず素直に取り入れるミクスチャー的というか、非常に現代的な感性の監督だと思いましたねー。

っていうかまぁ、そもそも論でいえば「千と千尋~」の建物や街並みのデザインだって元々は中国(台湾)がオリジナルだし、「マトリックス」の発想の基になっている「胡蝶の夢」だって元はと言えば荘子が考えたヤツですからね。

つまりは元は中国から輸出され輸出先の国で独自の発展した表現や発想を逆輸入したっていうか、日本で言えば、マネ、モネやドガセザンヌゴッホロートレックなどの影響を受けた作品を描いていたら、その源流は浮世絵でした。みたいな?(あれ、違う?w)

監督本人はそんな事を考えていないだろうけど、影響を受けた世界観や表現にはそもそも監督自身と同じDNAが入っていて、それが本作のオリジナリティーを担保しているっていうか。

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個人的に面白いなーと思ったのは、生き物すべてが持つ生命と能力の源であるという「霊域」の表現で、フーシーはシャオヘイの持つ特殊能力を説明するため、イメージ化した自身の霊域に彼を招き入れるわけですが、この背景は多分3DCGが使わているんですね。

でも、その背景は小さな家とその周辺の自然という必要最低限しか描かれてなくて、その周囲は真っ白なまま。ジオラマというよりヴィネットみたいな感じで、それが個人的に凄く新鮮だったんですよね。

作画監督のフー・シソーが中心になった作画クオリティーも安定しているし、激しいアクションの間にちょっとした動きの遊びを入れて観客に一息吐かせる演出も上手い。
特にクライマックスの戦いのシーンは色んな場所で色んな事が同時進行で起こっていて情報量は多いんだけど、観客が混乱しないようしっかり設計・整理されているのも素晴らしかったです。

あと、特に音の演出もとても良かったですねー!
どの映画もそうですが、音の演出だけは専用の音響システムがある映画館で観なければ分からないので、この一点だけでも本作を映画館で観る価値があると思いましたよ。

もちろん100点満点の完璧な作品というわけではなく、作劇場の細かい粗はいくつかあったし、登場人物が多くて「お前は誰やねん!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ」状態もあったりはしたけど、もしかしたら彼らはWeb版の本編に登場するキャラなのかな?

 ちなみに、何の前振りもなくクライマックスで登場した超強いっぽい執行人のナタ / 哪吒(水瀬いのり)は藤崎竜の「封神演義」にも登場する哪吒(なたく)と同一キャラで、中国の人なら名前を聞いただけで分かる、孫悟空的な古典キャラらしいです。

「居場所」を巡る物語

本作は主人公のシャオヘイ、フーシー、ムゲンの三人の「居場所」を巡る物語です。
人間によって自分の「居場所」を奪われたシャオヘイとフーシー、人間でありながら長寿で、妖精を圧倒するほどの強さを持つゆえに、人間側にも妖精側にも居場所がない孤独な男ムゲン。

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画像出展元URL:http://eiga.com

人間から自分の「居場所」を取り戻したいフーシーと、人間社会との共生を目指す「館」の執行人ムゲンとの間で、シャオヘイが見つけた答えとは――っていうのが本作のメインテーマなんですね。

でも、本作が面白いのは人間が悪役になっていないということで、妖精側のキャラクターは概ね長寿で人間の上位種なので、人間社会との共生を目指す「館」側の妖精たちも殊更人間が愛着があるとか友好的というわけでもなく、環境破壊を繰り返し自分たちの居場所を奪う人間に対し「そういう生き物」として、ある種の諦観を持って見ているんですよね。

一方で、人間が生み出したスマホなどの道具を普通に使うし、なんならネットやSNSとかも普通に楽しんでるっぽい。

その辺の設定が僕にとってはとても新鮮で、確かに何百年、何千年と人間を見ていれば、館の妖精たちの反応はむしろリアルなんだろうなと思ったりしました。

あるシーンでの「切られて木材にされるだけだろ」「いや、公園になるかもしれんぞ。有料の」と話すナタとキュウ爺 / 鳩老(チョー)という妖精の短い会話に、人間社会への皮肉がちょこちょこ入ってる一方で、人間社会に順応して楽しんでいる花の妖精・紫羅蘭(宇垣美里)や、人間好きなシュイ/若水豊崎愛生)みたいな妖精もいたり、そんな多様なキャラクターたちとシャオヘイとの出会いがそのまま本作の普遍的なテーマと直結していて、これはもう作劇として「お見事!」という他ないなーと思いましたねー。

アニメ作品としても映画としても、超面白いエンターテイメント作品でありながら深くて普遍的なメッセージ性もあり、でも子供にも伝わる様に工夫もされているっていう僕が観た中でも相当レベルの高い作品でした!!

興味のある方は是非!!!

 

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新宿の名物おじさんを追ったドキュメンタリー「新宿タイガー」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、ド派手なカツラに奇抜な衣装、タイガーマスクのお面がトレードマークな新宿の名物おじさんを追ったドキュメント映画『新宿タイガー』ですよー!

先日観たネット番組の中で紹介されていて、面白そうだったのでアマプラビデオでレンタルしてみました。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

新宿タイガーと呼ばれるド派手な格好で虎のお面を着けて新宿に出没する人物を追ったドキュメンタリー。長年タイガーを知る人々の証言から、お面の裏に隠された彼の意図や、彼を受け入れる新宿という街に迫る。撮影時69歳だったタイガーのほか、俳優の渋川清彦や八嶋智人宮下今日子夫妻、井口昇監督らが登場。『ハー・マザー 娘を殺した死刑囚との対話』などの佐藤慶紀が監督を務め、女優の寺島しのぶがナレーションを務めた。(シネマトゥデイより引用)

感想

新宿タイガーとは

パーティーグッズのアフロカツラに安手の原色バリバリな服を重ね着し造花やぬいぐるみで装飾。そしてタイガーマスクのお面を被って新宿の街を闊歩する謎の男、通称「新宿タイガー

そんな彼の正体は50年以上新宿を担当する現役最古参の新聞配達員(当時)で、もちろん仕事中もマスク姿を貫き通すっていうか、寝る時以外はサイケデリックな衣装に身を包み決してマスクは外さない――らしいんですが、映画の中ではわりと早い時間にあっさりマスクを外して素顔を見せたりするので、別に仮面で正体を隠したいわけではないみたい。

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それだけなら、何処の街にもいる目立ちたがりのちょっと変なおじさんって感じですが、タイガーさんが凄いのは有名無名を問わずとにかく人脈が広いことなんですよね。

シネマと美女と夢とロマン」だけを追い求めているというタイガーさんは有名なシネフィルで、1日数本観ることはザラだし洋邦・メジャーマイナー・ジャンルを問わず何でも観るそうで、本作ではやはりシネフィルで知られる映画監督の井口昇氏によれば「映画館に行くと必ず前の席にいた」とのこと。

また、一回り以上も年下の女優や女性アーティストとデートをしたり、知り合いの女優が舞台に出演すれば花束を持って同じ劇を何度も観劇し、映画監督や男性俳優にも友人多数。
反骨の映画監督として知られる若松孝二にも可愛がられたなんて逸話も。

更には各種メディアへの露出も多く、タワーレコード新宿店のオープンとリニューアルの際ポスターに起用されたり、朝日新聞で1年に渡って特集されたり、海を越えて韓国の女性ファッション誌にも登場するなど、名実ともに新宿を代表する名物おじさんとして知られているようです。
僕も昔、テレビか雑誌で見て、新宿タイガーさんのことは知ってましたしね。

で、タイガーさんは大学進学のため故郷の長野県から上京。
読売新聞の新聞奨学生として新聞販売店に住み込みで働き、大学は2年で中退するも、新聞配達はそのまま継続。以降、今年(2020年)2月に引退するまで現役最古参の新聞配達員として働きながら、50年以上も新宿という街の移り変わりを見てきた生き証人でもあるんですね。

お面何か被ってるから寡黙な人かと思えば、中身はビックリするくらい饒舌で人懐っこいおじいちゃんで、そんな彼を五月蠅いと嫌う人もいるけど、彼が通う飲み屋のマスターやママには概ね愛されている。
ゴールデン街にあるバーのマスターは五月蠅いからタイガーさんを店を出禁にしろというお客に「タイガーを出禁にするなんて、そんなのはゴールデン街じゃないだろ!」と言い放ったなんて良い話もあったり。

ヘンテコな恰好(しかも場所を取る)で歩き回るし、お喋りだけど何を言ってるのかよく分からないし、男女問わずやたらとハグしたがるけど、その人懐っこさには裏がなくて自身が壁を作らないオープンな人だから、周りの人もついつい彼に心を開いてしまうんでしょう。

ただ、そんなタイガーさんですが、新宿タイガー誕生のキッカケについては何故か話したがらないんですよね。

そんな彼がタイガーマスクのお面をつけ、今のような活動?を始めたのは1972年からだそうで、「少しでも新宿が明るくなればと思って、たまたまお祭りで見つけたトラのお面を被り始めた」というのが本人談の公式プロフィールなんですが、なぜ虎のお面なのか、何があって新宿を明るくしたいと思ったのかに言及されると、いつもはぐらかすんですよね。
本作ではあの手この手で新宿タイガー誕生キッカケの真意を聞き出そうと試みているわけですが、結局最後まで明かされることはありませんでしたw

ただ、タイガーさんはいわゆる団塊の世代で、上京したのはまさに学生運動が盛り上がっていた頃だし、彼がタイガーのお面を被り始めた1972年は「あさま山荘事件」で実質的に学生運動が終焉を迎えた年でもあります。
同年代の若者たちが次々と大人たちに負け、理想の平和国家を目指して集まったはずの仲間たちが、理想とはかけ離れた形で自滅していったり。
タイガーさん自身はノンポリだったみたいですが、そうした動乱の新宿をその目で見て何かを感じ、人間を止めてトラになったのかも――なんて勘ぐってしまうんですよね。

新宿の妖精

タイガーさんが“新宿タイガー”になった真意を探るというのは、本作のテーマの一つだと思うんですが、もう一つ、「新宿タイガー」を撮ることで新宿という街、ひいては日本という国の変容を記録することが本作のメインテーマなのだと思いました。

多分、タイガーさんが「新宿タイガー」として今日まで約50年生息できているのは、文化やカルチャーの発信基地として、メジャーからサブカル、アングラまで雑多な文化を包み込むだけの懐の深さが新宿にあったからで、他の街ではそうはいかなかったと思うんですよね。

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そして、そんな新宿を根城に長年にわたって活動するうち、いつしか彼自身が新宿の一部としてなくてはならない存在になったんだと思うのです。

昔は、そんな名物おじさん(おばさん)がどの街にも一人くらいはいたものですが、時代と人の移り変わりで今や殆ど絶滅してしまいました。
タイガーさんはそんな数少ない絶滅危惧種の生き残りでもあり、今や彼が”視える“人に小さな幸福をもたらす妖精のような存在になっているんだと思います。

果たして、今の新宿(日本)にどのくらい彼が「視える」人が残っているのか、そして新宿タイガーが消えるそう遠くない未来、新宿は、日本は、どんな風に変わっているのか。

作中でお気に入りの美女とご機嫌にお喋りするタイガーさんを見ながら、そんな事を考えてしまいました。

興味のある方は是非!!

 

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きっとプロレスファン以外にも響く普遍的な物語「ジェイク・ザ・スネークの復活」(2015/日本未公開)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、80年代を代表するプロレスラー・ジェイク・ザ・スネーク・ロバーツのその後を追った2015年のドキュメント映画『ジェイク・ザ・スネークの復活』ですよー!

今回、アマプラのおすすめ映画に入っていたのを見つけて、早速観てみました!

 

www.youtube.com

概要

ジェイク・ザ・スネーク・ロバーツは80年代アメリカを代表するプロレスラーの一人であったが、人気の低迷、身体へのダメージと老い、アルコール・薬物中毒・鬱など深刻な問題をいくつも抱え自暴自棄な生活を送っていた。
そんな彼に救いの手を差し伸べたのは、かつて彼の後輩プロレスラーだったDDP(ダイヤモンド・ダラス・ペイジ)。
本作はDDPの助けを得てリハビリに挑むジェイク・ロバーツを追うドキュメンタリーである。監督はスティーブ・ユー。

感想

プロレスドキュメンタリーの傑作「ビヨンド・ザ・マット」の後日譚

1999年(日本では2001年)に公開されたドキュメンタリー映画ビヨンド・ザ・マット」は世界中のプロレスファンのみならず、プロレスファン以外からも高い評価を受けたドキュメンタリー映画の金字塔的な作品で、この作品にインスパイアされたダーレン・アロノフスキー監督が映画「レスラー」を制作したのは有名な話。

「ビヨンド~」では、かつてアメリカを席捲したスーパースターレスラー3人を追う構成になっていて、

・過激すぎるファイトスタイルから体を壊したのをキッカケに、家族との平穏な暮らしを選び引退したミック・フォーリー

・プロレスラーとして脚光を浴びる興奮が忘れられず、引退と復帰を繰り返すテリー・ファンク

そして、かつては何万人もの前で試合をし、1980年代に一世を風靡した大スターだったが、麻薬と酒に溺れ今やドサ回りのロートルレスラーとして極小団体で日銭を稼ぐジェイク・ロバーツ。

映画「レスラー」でミッキー・ロークが演じたランディ・ザ・ラム・ロビンソンはほぼジェイクがモデルだと言われていて、疎遠になった娘との関係を修復しようとするエピソードも(ビヨンド~の)ジェイクと重なるんですよね。

「ビヨンド~」では、娘と再会したその夜、麻薬を摂取したところで彼のエピソードは終わっていますが、それから16年後。

落ちぶれたジェイクは、あるインディーズ団体に泥酔状態で出場するものの試合にならなかったことで、どこからも声がかからなくなり実質引退状態。

重度のアルコール中毒、長年のプロレス生活でのダメージと運動不足で体はボロボロ。更にはうつ状態となり独りぼっちで死を願う毎日を送っています。

そんなジェイクに救いの手を伸ばしたのが、かつて無名時代にジェイクにフックアップしてもらった事に恩義を感じている後輩で、共に行動しながらプロレスラーの心構えを教わったというDDPことダイヤモンド・ダラス・ペイジ。

彼は引退後、エクササイズだかヨガだかで成功しているらしく、共同生活をしながら禁酒と健康を取り戻すことをジェイクに提案。

自堕落な生活を変え、更生したいと願っていたジェイクはDDPの提案を受け入れ、リハビリを始めるのだが――という内容なんですね。

プロレスファン以外にも届く普遍的な物語

僕は子供の頃からプロレスが好きで一時期はアメリカンプロレスも観ていたんですが、本作の主役ジェイク・ロバーツに関しては名前くらいは知っているけれど――程度で、あまり思い入れはないんですよね。

かつてプロレスラーとして大きな名声を得たにも関わらず、今や落ちぶれてどん底の生活を送っていて子供や孫とも絶縁状態。
運動不と酒と老いでブヨブヨに太った体は大スターだった頃の影はなく、DDPの元でリハビリを続けて少し良くなってきたかと思ったら酒を飲んで振り出しに戻り、精神が不安定でちょっとしたことで怒ったりメソメソ泣き始めたり。

まぁ、見る人によってはゴラー!!―(o゚Д゚)=◯)`3゜)∵ってなること請け合いのダメ人間っぷりなんですが、その根底には頑張っても父親に認められなかったという過去が呪いとなってジェイクを支配し続けているのです。

なので、「酒を飲んだのか!」とDDPに詰められて「(本当は沢山飲んでるのに)2杯しか飲んでない!」と嘘をついたり、その後で「(ダメだと)分かってるのに止められないんだ」とメソメソ泣いたりしながらも、見捨てないでいてくれるDDPの恩に報いるため、リハビリに励んで体調と精神を徐々に回復させていくことで絶縁状態だった子供たちや孫との関係を回復させていく様子や、何度も裏切られながらも「憎むべきは(ジェイクじゃなく)中毒なんだ」と涙ながらに話すスタッフ、そして、その先にある感動のラストシーンはもうね、嗚咽ですよ!

これは、プロレスファン以外にも響く普遍的な人間ドラマだと思うし、最初はジェイクのダメっぷりにイライラしても最後まで観ればジェイクやDDP、仲間たちが大好きになるんじゃないかと思います。

それに人や物事を計る物差しが「正しさ」だけになって、何でもかんでも「自己責任」で切り捨てられちゃう世知辛い今の時代だからこそ、この作品にはジェイク・ロバーツ個人のドラマ以上に大きな価値があるのではないかとも思いました。

興味のある方は是非!!

 

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サブロウタ萌え!な映画「昭和極道怪異聞ジンガイラ 仁我狗螺」(2014)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、アマプラでたまたま見つけた2014年の邦画『昭和極道怪異聞ジンガイラ 仁我狗螺』ですよー!
押井守らが審査員を務めたアクション映画専門の映画祭「ハードボイルド・ヨコハマ シネマジャンクション2013」で監督賞を受賞したという作品で、ざっくり言えば極道版「呪術廻戦」って感じでしたねー!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

不思議な秘術を操る極道たちの姿を描いた、オカルトとヤクザのジャンルを融合させたアクションホラー。とある森の中へと足を踏み入れた呪術の使い手でもあるヤクザたちが、思わぬ事態に直面する姿を活写する。メガホンを取るのは、『Holy+Dog』などの近藤啓二。『サムライゾンビ・フラジャイル』などの正木蒼二、『日野日出志のザ・ホラー 怪奇劇場 ~第二夜~』の高東楓らが出演。独特な世界観に加え、フィルム傷などを盛り込んだクラシックな雰囲気漂うビジュアルも作品の雰因気を盛り上げる。(シネマトゥディより引用)

感想

極道xオカルト

荒ぶる極道社会において漢たちは本来、「博徒」と「香具師」に分かれている。
博徒とは賭博を生業とし主に都市部に定住する漢たちである。
香具師とは、薬草の神・神農皇帝を崇め、日本各地を旅しながら様々な呪術を身につけていった漢たちである。
彼ら、香具師の中でも特に術に長けていた物を「技師」と呼んだ。

というナレーションから始まる本作。

香具師(やし)は、祭りの縁日などで露店で出店や、街頭で見世物などの芸を披露する、または興行を取り仕切るヤクザの事で、古くは流しで歯医者的な事もしたり薬売りもしていたらしいので、その辺が本作の発想の基になってるのかもしれません。

冒頭、江州梅本一家の香具師サジキ・ジントウと弟分で”技師“のクゼ・サブロウタは、組長同士が兄弟分である梓黒組が待つ深い森の入り口に現れます。

この森は梓黒組の力の源となる聖域ですが、また梅本一家の組長と兄弟分である梓黒組の組長はこの森に張られた結界の中に入ったまま行方不明になってしまっているらしく、サジキは組長の命を受けて結界内を調べにきたらしいんですね。
で、梓黒組の人たちとすったもんだの後、サブロウタの術で結界の中に入ったサジキは、紛れ込んだ異物を結界から排除する「傀儡」と遭遇し――というストーリー。

この溢れ出るオカルト系厨二設定………大好物でした!!(*゚∀゚)=3

( ゚∀゚)o彡°サブロウタ!( ゚∀゚)o彡°サブロウタ!( ゚∀゚)o彡°サブロウタ!

また、サジキとサブロウタのビジュアルも、いかにも厨二っぽくてグッときちゃうんですよねー!

https://eiga.k-img.com/images/movie/80541/gallery/10_large.jpg?1402994928

画像出展元URL:http://eiga.com :主人公サジキ(右)と技師のサブロウタ(左)

最初こそ、サブロウタのいかにも過ぎるビジュアルに辟易するんですが、クライマックスにくる頃には「うっは、サブロウタ超かっけーーー!!(*゚∀゚)=3」ってなるんですよねー!

一応、結界に入って調査する兄貴分のサジキが主人公で、サブロウタは外からサポートする相棒的役周りなんですが、傀儡に狙われて右往左往するばかりのサジキより、呪術の知識と技を駆使して必死に兄貴分を救おうとするサブロウタの方が、実質主人公っぽいっていうw

さらに性格は明るく、顔を隠してるくせに感情表現が一番豊かっていうところもオタクはみんな大好き!って感じなナイスキャラなのです。

また、本作で使われる結界は、同じ場所にいくつもの次元の層が折り重なっていて、侵入者を皆殺しにする「箱入り娘」っていう呪術が仕掛けられている。
で、結界から戻ってくるには小さな祠に入っている「箱入り娘」のパズルを解く必要があるんだけど、このパズルのピース一つ一つが異次元の扉になっていて、パズルを動かすたびに自分たちも別次元に飛ばされる――というアイデアも面白かったですねー!

https://eiga.k-img.com/images/movie/80541/gallery/30_large.jpg?1402994928

画像出展元URL:http://eiga.com :パズルのピースを動かすと次元も動くというナイス設定

低予算のインディー映画らしく、出演しているキャストは知らない人ばかりだし、舞台はずっと山林だし、デジタル撮影を自主制作のフィルム映像っぽく加工した映像はいかにも安っぽいんですが、そうしたマイナス部分を香具師=呪術師、山林=結界という設定をつけることでプラスに転換させているのはクレイバーなやり方だなーと思いましたよ。
あと、アイデアもですが構図も全体的に実写映画というよりアニメっぽくて、本作の近藤啓二監督はもしやオタク畑の人なのでは?って思ったりしましたねー。

残念ポイント

ただ残念なことにこの作品、圧倒的にテンポが悪いっていう弱点があって、せっかくのパズルと呪術を連動させるという設定も同じ展開の繰り返しで飽きちゃうし、物語の運びも上手くないので、中盤のあるどんでん返し展開を見せられても「でしょうね!」としか思わないんですよね。

あと、一番の問題は迫りくる傀儡の怖さやスリルが感じられないんですよね。
まぁ、ホラーじゃなくてアクション映画だからなのかもですが、傀儡の攻撃は基本物理だし、体は固いし力もあるし武器も持ってるけど、そこまで絶望的な戦力差ではなくて、効きはしないけど殴ったり蹴ったり拳銃で撃つなどの反撃は出来る。

あと、走って追いかけたりもしないし、突然現れて不意打ちしたりもしないので、常時主人公たちと傀儡の間には一定の距離があるんですよ。

サブロウタの説明で傀儡やべえって事は分かるんだけど、それを映像で見せてくれないし、テンポも悪く見せ方も上手くないので実感として傀儡の怖さもヤバさも伝わらないっていう。

https://eiga.k-img.com/images/movie/80541/gallery/39_large.jpg?1402994996

画像出展元URL:http://eiga.com :ヤクザの腸を引きずり出してご満悦の傀儡タン

傀儡のビジュアルデザインは良かっただけに、そこはかなり勿体ないなーと思いましたねー。

極道版「呪術廻戦」

事程左様に、いかにも安物B級映画っぽいし、タイトルやビジュアルもホラーっぽいので、ついつい敬遠しちゃうかもですが、ぶっちゃけ怖さはゼロだし、どちらかと言えば設定も物語も少年漫画っぽいんですよねw

例えるなら(コッチの方が先に作られてるけど)極道版「呪術廻戦」って言えば作品の雰囲気は伝わりますかね?

テンポが悪くて観づらい部分は多々あるけど、クライマックスのサブロウタの活躍シーンは最高にアガるし、ぶっちゃけ無口な香具師の皆さんの中、解説役として物語を回してるのもサブロウタだし、ラストカットで〆を飾るのもサブロウタっていう、「もうサブロウタが主役でいいじゃない!」っていうサブロウタ映画になってましたねーw

今ならアマプラ見放題で無料で観れるし時間も81分と見やすいので、サブロウタ興味のある方は是非!!

 

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