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岩井俊二の名作ドラマをアニメ化「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」(2017)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年夏に公開された劇場版アニメ『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』ですよー!

前年に公開された「君の名は。」を空前の大ヒットに導いた川村元気が企画・プロデュースということで話題の本作でしたが、評判はイマイチっていうかむしろ酷評が多かった印象。

なので僕も観るのを躊躇してたんですが、今回思い切って観てみることにしましたよー。

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概要

リップヴァンウィンクルの花嫁』などの岩井俊二監督の同名ドラマを基に、『物語』シリーズなどの新房昭之が総監督を務めたアニメ。現代の要素を入れながら長編として再構築し、夏休みを過ごす中学生の男女を主人公に、何度も繰り返されるある1日を描く。脚本を、『モテキ』シリーズや『バクマン。』などの大根仁が担当。『ちはやふる』シリーズなどの広瀬すず、『共喰い』などの菅田将暉、人気声優の宮野真守らがボイスキャストとして出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

「二匹目のドジョウ」を狙い磐石の布陣で挑むも…。

前年、新海誠監督の劇場アニメ「君の名は。」が興行収入250億円もの大ヒットとなり、一躍時の人となった川村元気プロデューサー。

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そして翌年の2017年、『リップヴァンウィンクルの花嫁』などの岩井俊二監督の同名テレビドラマ(後に劇場公開もされた)を原作に、「モテ期」の大根仁脚本、「魔法少女まどかマギカ」や「化物語」などの新房昭之率いるシャフトがアニメーション製作(監督は武内宣之)、主演の二人には菅田将暉広瀬すずを迎え、主題歌は DAOKO×米津玄師という磐石の布陣で「よっしゃ、もう一発当てたるでー!(*゚∀゚)=3」と鼻息荒く挑んだものの、興行的には15億円台と振るわず、結果だけ見れば大惨敗といっていい成績に終わってしまいました。

その理由として「邦画の当たり年だった昨年の反動」とか「内容が難しい」などが挙げられてましたが、個人的には本作の座組に問題があったのではないかって思うんですよね。

脚本(脚色?)の大根仁に関しては、岩井俊二自身が映画化の条件として出していたそうだし、ぶっちゃけストーリーだけ追えば「君の名は。」よりもよく出来ていたんじゃないかと思います。(要所要所に大根仁感が溢れてましたけど)

ただ、正直シャフトはどうかなー? と。

君の名は。」は、新海誠監督自身が元々持っている乙女チックというか繊細さみたいな部分にピントを合わせつつ、分かりやすさやハッピーエンドなど多くの人にウケる要素を盛り込んだ川村元気チューニング”が上手くハマったのが異例の大ヒットを生んだ一因だと思うんですけど、本作はそもそもシャフトのオリジナル企画ではなく、岩井俊二のオリジナルを大根仁が脚色した、シャフトにとっては請負仕事なんですね。

っていうか、そもそもシャフトって基本的に本作で求められる「一般受けする分かりやすさ」とはぶっちゃけ対極にある、アニメリテラシーの高い人(つまりはオタク)に好まれる作風の会社です。

そんな会社に「君の名は。」と同じことを要求するのは、手足を縛って海の中へ放り込むようなものわけで、もちろんプロとして本作ではしっかり要求に応えているわけですが、それはファンがシャフトに求めるものではないし、逆に「君の名は。」を望んで観に来た観客にとっては「普通のアニメじゃん!」って感じになったんじゃないかと。

むしろこの映画こそ、岩井俊二と作家性が近い新海誠監督で作ったほうが良かったのでは? と思ったし、元も子もない事を言えばそもそもアニメにする必要があったのかな? と。

だってオリジナル版は、少女と女性の間で揺れ動く当時14歳の奥菜恵の一瞬の輝きを切り取った(演技の拙さも含んだ)セミドキュメンタリー的な「アイドル映画」(ドラマ)だったわけで、だから奥菜恵と同世代だった少年少女の共感を得て、カルト的な人気の作品になったわけですしね。

それをアニメにした時点で、オリジナル版とはまったく別物になってしまうわけです。
何故なら、アニメは実写と違って映像やストーリー全てが作為的に作られるわけで「偶然性」はないですから。

 一本の劇場版アニメとしては面白い

ただし、岩井俊二のオリジナル云々を抜きにすれば、一本の劇場アニメ作品としてはちゃんと面白いんですよ。
ストーリーはオリジナル版を活かしつつ、後半でアニメならではの表現を盛り込みダイナミズムやエモーションを盛り上げているし、映像もとても綺麗。
ストーリーもしっかりしてるし、登場人物の感情の動きをセリフに頼らず動きや表情、背景描写によって映像的に表現しようとしているのも好感が持てます。

オリジナル版は「ifもしも」というオムニバスドラマの一篇として製作され、母親の都合で引越しをすることになったヒロインなずなと、彼女に密かに想いを寄せている主人公の典道、親友の祐介の淡い初恋の物語です。

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プールでなずなへの告白を掛けて競争をする少年二人。
結局、勝った祐介になずなは二人で花火大会に行こうと持ちかけるも、祐介は典道になずなを押し付ける形で逃げてしまう。

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その結果、“かけおち”をしようと家を出ていたなずなは母親に見つかり無理やり連れ帰られてしまうんですね。

その場に居合わせた典道は、やり場のない怒りから祐介を殴りつけ「もしあの時自分が勝っていれば」と願うと、時間が巻き戻り……。という物語で、いわゆるループものなんですが、本作ではそこに、なずなが海辺で拾った不思議なガラス玉? のパワーという一応の理由がつけられ、ループもオリジナル版は一回ですが、本作では3回に増やされて、ループを繰り返す過程で典道となずなの距離が縮めていく過程が描かれます。

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そして後半では、実写のオリジナル版では出来なかったアニメならではのファンタジックな表現が繰り広げられ、ラストもオリジナル版とは変えられていて、主題こそ多少ズレたものの、その分物語性の強いエンターテイメントになっているんですね。

そんな本作の感想をいくつか読んでみると、「物語が難しい」「キャラクターに感情移入出来ない」という意見をいくつか見かけました。

本作、難しいのか? 感情移入出来ないのか?

本作は典道が「あの時こうすれば」と願うとそのシーンまで時間が巻き戻るいわゆる「ループもの」ですが、実はこれ、単に時間が巻き戻っているのではなく典道が望む世界、いわゆる「パラレルワールド」に移動しているという設定なんですよね。多分。

でも特にその辺の説明はないので、単に「時間が巻き戻った」と思いながら観ている人は世界そのものが変わってってしまう事に混乱してしまうかもです。

さらに、ラストシーンは、解釈を観客に委ねる形になっていて、ハッキリしたハッピーエンドではないのです。

また、本作のキャラクターは中学一年という設定。(オリジナル版は小学生)
大人と子供の間で揺れ動く、思春期の少年少女特有の不安定さとゆえの煌きを描くことが主題で、一夜の冒険を通してなずなは先に大人の世界に旅立ち、典道は大人の入口に立つみたいな物語なんですよ。(中一くらいだと女の子の方が大人っぽいでしょ)

なので、なずなは劇中で恋の駆け引きの真似事をしたり、そうかと思うと子供っぽ異振る舞いをしたりして典道を翻弄すんですね。(ここはオリジナルと同じ)

なずなが典道に“ かけおち ”を持ちかけるのも、なずな自身、まだ子供の自分たちがそんなことは出来ない事を重々承知してるけど、せめて一夜だけ親の都合から逃れて自由になりたい=もし自分が大人だったらという願望からで、彼女は最初から「物語の終わり」を見据えているわけです。

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つまり、本作の主題は思春期の少年少女の心の機微を描いたジュブナイルストーリーで、なので「君の名は。」のようなラブストーリーだと思って本作を観た人は、難しいと感じてしまうし、キャラクター(特になずな)の言動に感情移入出来ないのではないかと思うんですよね。

まぁ、その辺は勘違いさせるような宣伝に問題があったと思いますけども。

個人的な結論としては、この作品自体は劇場版アニメとしてはレベルが高いし十分面白い作品だけど、「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」をアニメ化したのは失敗だったと思いましたねー。

興味のある方は是非!

 

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