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やはりバーホーベンは一筋縄ではいかなかった「ベネデッタ」(2023)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ロボコップ」「トータル・リコール」などで知られるポール・バーホーベン監督最新作『ベネデッタ』ですよ!

みんな大好きバーホーベンの新作ということで劇場で観たかったんですが、僕の地元では公開されず、しかもアマプラやレンタルもなかったので、先日YouTube有料レンタルで視聴しました。

観た感想を一言で言うなら、「やはりバーホーベンは一筋縄ではいかなかった」ですね。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

ルネサンス修道女物語 聖と性のミクロストリア」を原案に、17世紀に実在した修道女ベネデッタ・カルリーニを描くサスペンス。幼くしてカトリック教会の修道女となった女性が、聖痕や奇跡によって人々にあがめられる一方、同性愛の罪で裁判にかけられる。監督などを務めるのは『エル ELLE』などのポール・ヴァーホーヴェン。『ドン・ジュアン』などのヴィルジニー・エフィラ、『メルテム - 夏の嵐』などのダフネ・パタキアのほか、シャーロット・ランプリングランベール・ウィルソンらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

ポール・バーホーベンとは

ポール・バーホーベン監督といえば、一番に挙げられる作品はやっぱ「ロボコップ」だと思うますが、他にも「トータル・リコール」「氷の微笑」「スターシップ・トゥルーパーズ」「インビジブル」など、80年代後半から2000年にかけハリウッドで数々の作品を手掛けてきたスター監督の一人です。

1938年生まれ。第二次世界大戦下のオランダのハーグで幼少期を過ごし、オランダ人の味方であるはずの連合軍がナチスの軍事基地があるハーグを空爆、無残な死体が道端に転がっている日常を過ごしたことが後の作品に影響を与えているというのは有名な話。

大学卒業後はオランダ海軍に従軍しドキュメンタリーを制作するように。1960年代に中世オランダが舞台のテレビシリーズ「Floris」の監督を務め、1971年の「Wat Zien Ik?」で映画に進出、母国オランダで数々の映画賞に輝いた後ハリウッドに。

上記の作品を次々に手掛け世界的大ヒットを飛ばす一方、過激な暴力描写や性的描写に批判を受けることも多く、正直、米国で正当な評価をされているとは言い難い状況だったんですね。

2000年の「インビジブル」を最後にハリウッドに見切りをつけたバーホーベン監督はオランダに戻り、2006年「ブラックブック」2012年「ポール・ヴァーホーヴェン/トリック」2016年「エル ELLE」と精力的に作品を発表し、2021年に17世紀に実在した修道女の伝記を原案にした本作「ベネデッタ」を公開したのです。

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「ベネデッタ」とは

17世紀イタリアに実在した修道女で、同性愛の罪で告発され、70歳で亡くなるまでの間、修道院に隔離されたベネデッタ・カルリーニの半生を、原案となるジュディス・C・ブラウンのノンフィクション『ルネサンス修道女物語:聖と性のミクロストリア』に肉付けする形で映画化された作品です。

幼い頃から聖母マリアやキリストのビジョンを見続け、手足に聖痕が浮かび上がりイエスの花嫁になったと報告したことで、民衆から聖女と崇められて修道院長の地位に上り詰めるも、同性愛を告発され窮地に陥る彼女の半生を描いた本作は、他人の決めたルールに振り回されることなく、自分のルールに従い強かに生きぬく女性を描いた、1992年の「氷の微笑」、1995年の「ショーガール」、2006年の「ブラックブック」、2016年の「エル ELLE」に連なる作品です。

虚実入り混じる一筋縄ではいかない作品

そんな本作、まだ少女のベネデッタが修道女になるためテアティン修道院に向かう途中、傭兵に金品を奪われそうになるところから物語がスタートします。

奪った母のネックレスを返さないとマリア様の罰が当たると言うベネデッタに「マリア様などくそくらえだ」と返す傭兵。するとその傭兵の顔に鳥が糞を落とすんですね。

もちろんそれは単なる偶然ですが、傭兵はベネデッタの物怖じしない態度に感心してネックレスを返し立ち去るわけです。

その後、ベネデッタは修道院に入る訳ですが、その時、修道院長と父親が持参金と寄付の交渉をするシーンがあるんですが、それは先の傭兵のシーンと対になっていて、神を信じない傭兵は金品を奪わなかったのに、修道院は出家する者から金をとるっていう皮肉にもなっているわけですね。

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その夜、眠れないベネデッタは寝床を抜け出してマリア像に祈るんですが、偶然土台が崩れてマリア像が倒れ、ベネデッタはその下敷きになるも無傷で済むんですね。

これに驚いた修道女たちが奇跡だと騒ぐ中、修道院長は自分の娘に「奇跡はそう簡単には起こらない」と言い放つのです。

この冒頭部分で、その後の重要人物である修道院長の立ち位置や人となりが分かるようになっているんですね。

それから18年後、父親から虐待を受けて修道院に助けを求めるも持参金を祓えないことから追い返されそうになるいる少女バルトロメアを、父親に頼んで助けたベネデッタはバルトロメアの指導係に。その夜、バルトメロアにキスをされたベネデッタは、以降イエスを頻繁に幻視するようになるわけですが……この幻視のシーンが非常に安っぽくてですね。

例えば冒頭の傭兵に襲われレイプされそうになるベネデッタのピンチに馬に乗って駆けつけたキリストが傭兵たちの首を刀で刎ねて助けるとか。少女漫画やハーレクインロマンス的というか、思春期少女の夢小説みたいな安っぽい妄想なんですよね。
で、ある日磔にされたキリストが夢に現れ、ベネデッタに「腰巻を取りなさい」っていうんですね。で、言われるがままキリストの下ばきを取ると股間に何もないっていうシーンがあるんですが、日本版ではキッチリぼかしが入っているので分からないっていう。

そして、この夢を見たベネデッタの手の甲と足から血が流れ「聖痕が現れた」と言いだすところから物語も動き出すわけですが、そんなベネデッタの身に起こった”奇跡”を修道院長も主席司祭もまったく信じてはいないんです。けど、修道院長は巡礼者が増えることによる寄付の増加で修道院が潤うため、主席司祭は教会内での地位向上のためにベネデッタの奇跡を利用しようとするわけですね。

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それはつまり主席司祭も修道院長も、神やキリスト教を本当の意味では信じていないわけで、彼や彼女、もっと言えばその後に登場する俗物の教皇大使も自分の権力や、日々の糧を稼ぐために宗教や信仰を利用しているってことなんですよね。

じゃぁベネデッタの方はどうかって言うと、これが絶妙で、バーホーベン監督は彼女の幻視や奇跡については限りなく黒に近いグレーに描いているのです。

ベネデッタは自分が助けキスをされたバルトメロアとの関係を深めていくわけですが、修道院の中にはプライベートルームはないし、そもそも同性愛は罪、というか(女性の同性愛は)「ない物」とされていた時代。そんな時にベネデッタの手足に聖痕が現れ、聖女として修道院長に上り詰めたことでプライベートルームを手に入れ、バルトメロアとの性愛に溺れていくわけですね。

その後も、彼女に都合が悪くなったり、矛盾点をツッコまれたりすると奇跡が起きたり、キリストが彼女に乗り移って修道女や修道院長、司祭や教皇大使を責めるんですよ。

それだけ見ると「ベネデッタやってんなー」って思うんですが、でも彼女と、バルトメロアや修道院長、俗物の司祭や教皇大使では決定的に何かが違うように描かれているし、そんな彼女の姿がどこかイエス・キリストに重なって見えるように演出されているわけです。

そうした「信仰について」という、ある意味で高尚なテーマと、いかにもナンスプロイテーション(尼僧や女子修道院を主題にしたエッチなジャンル映画)的な俗っぽさが並列に描かれているところも含め、やっぱバーホーベン作品は一筋縄ではいかないなーって思うし、この作品を撮ってる時ってバーホーベン80歳ですからね。

こんなにパワフルで生命力に溢れた瑞々しい作品を撮る80歳のお爺ちゃんマジヤバいって思いましたよ。

現在はレンタルではあるようですが、幾つかの配信サービスで配信れているようなので、興味のある方は是非!!