ぷらすです。
昨日、公開から1日遅れで北野武最新作『首』を観てきました!
2017年公開の「アウトレイジ 最終章」から6年ぶりの新作ということ、北野武の時代劇ということでかなり期待して観に行ったんですが、期待を上回る面白さでしたねー!
画像出展元URL:http://eiga.com
概要
『アウトレイジ』シリーズなどの北野武監督が自身の小説を原作に、本能寺の変を描く時代劇。北野監督が脚本などのほか羽柴秀吉役も務め、天下取りを狙う織田信長、徳川家康、さらに明智光秀ら戦国武将たちの野望を映し出す。『ドライブ・マイ・カー』などの西島秀俊、『それでもボクはやってない』などの加瀬亮のほか、中村獅童、浅野忠信、大森南朋、遠藤憲一らがキャストに名を連ねる。(シネマトゥディより引用)
感想
北野武6年ぶりの新作は大型時代劇
北野武監督といえば、カンヌやベネチア映画祭などで世界的な評価を得ていて、監督の特徴でもある“暴力表現”は、その後の韓国映画に多大な影響を与えたと言われています。その一方で初期作品、具体的に言えば「HANA-BI」あたりまでは難解なイメージがあり、その評価がイマイチ興行的に結びつかないことが悩みでもあったんですよね。
しかし、「アウトレイジ」3部作はエンターテイメントに振り切ったことで大ヒットを記録します。
それから6年間、新作の情報が出なかったことから、「まぁたけしさんプライベートでも色々あったし、年齢も70歳を超えてるからもう映画は撮らないのかな?」なんて思っていたところに、突然新作の予告編。しかも日本人なら誰もが知っている「本能寺の変」を題材にした大型時代劇とくれば、これはもう期待も膨らむというもの。
たけしさんは年齢的に時代劇が一般教養だった世代でもあるし、修業時代も時代劇コントなどの経験もあるので、そもそも“時代劇の素養がある人”ではあるんですよね。
現に「座頭市」では勝新太郎の座頭市を脱構築していて、ほぼ同時期に作られた香取慎吾版や綾瀬はるかの座頭市と比べてみると、その違いは一目瞭然。たけしさんの座頭市はちゃんと「座頭市」であり、且つ、北野武作品になっているんですね。
そして、本作は、あの黒澤明が生前に「北野くんがこれを撮れば、『七人の侍』と並ぶ傑作が生まれるはず」と太鼓判を押した企画。
そう言われてみれば本作には、「乱」や「影武者」を彷彿とさせるカットやシーンなどもあり、黒沢監督に捧げるオマージュ的な思いもあったのかな?なんて思いましたよ。
加瀬亮の信長が新しい
本作には、織田信長、明智光秀、羽柴秀吉(豊臣秀吉)など、誰でも知っている有名人から、一般的にはあまり名を知られていないキャラクターまで、大勢が登場する群像劇になっていて、題材にもなっている「本能寺の変」は学校の授業でも習うし、これまで多くのドラマや映画で擦られまくった題材でもあるじゃないですか。
そんな戦国時代、本能寺の変、信長、秀吉、光秀、家康などのキャラクターを北野監督がどう描くのかが本作の見どころ。
結論から言えば、個人的には「おぉ、そう来るか!」と膝を打つ展開やキャラクター造形になっていて、特に、数多くのメディアに登場し、主役であれ悪役であれ、ある種カリスマヒーロー的に描かれてきた織田信長を、尾張弁丸出しでがなり散らす、ある意味で身も蓋もない俗物キャラとして描いたのは新しいと思うし、演じる加瀬亮の演技も、他の作品だったらいくら何でもオーバーアクトすぎるだろと白けちゃいそうだけど、本作においてはあのくらいオーバーで丁度いい絶妙な加減になっていて、それがハイテンション演技の合間に微かに見せる厭世観をより際立たせているんですね。
一方、今回たけしさん自身が演じた秀吉、大森南朋演じる義弟の秀長、浅野忠信演じる黒田官兵衛の3人は、劇中の輪からは少し外れた場所で、他のキャラクターたちを茶化す役どころ。この3人、特にたけしさんはいわゆる時代劇言葉じゃなくほぼたけしさんの言葉で話していて、それは、この3人が観客代表として、この戦国時代を生きる武将や死生観、ルールや常識を批評的――というかツッコミ視点で見ているからなんですね。
70歳を超えたたけしさんが、信長より年下の秀吉役をすることに違和感を持つ人もいるかもですが、時代劇の枠組みをはみ出さない絶妙のバランスでツッコミを入れられるのは、時代劇の素養を持ったコメディアンのたけしさんだけで、それは名だたる武将のなかでたった一人農民出身という秀吉のキャラクターとも重なっているわけです。
というわけで、ここからは少しネタバレです。
男色と武将
そんな本作の新しい要素として挙げられるのが武家社会の男色文化。
本作では、明智光秀と信長に謀反を起こした荒木村重、そこに信長が横恋慕する形の三角関係になっていて、それが最終的に本能寺の変に繋がる構成になっています。
当時の侍社会での男色文化は歴史的事実ではありますが、ここまでハッキリと描いたのは本作が初めてなんじゃないですかね。もちろん光秀と村重がラブだったというのは本作の創作だと思いますけども。
ただ、この男色文化というエッセンスが、本作に置いて重要な物語の推進力にもなっているんですね。
光秀の狂気
信長や村重に比べると、演じる西島秀俊のルックスや佇まいも相まって常識人に見える明智光秀ですが、中盤、罪人なのか敵軍の人間か、それとも領民かは分かりませんが、それに信長や蘭丸のコスプレをさせ、(多分)毎晩切ったり撃ったりしてぶっ殺してはストレス発散をしてるっていう描写があり、実は他の武将同様に狂っている事が分かるんですよね。しかしこれ、単に信長にいじめられている憂さ晴らしではなくて、本当は誰よりも天下を欲している光秀。しかし基本真面目で良い子ちゃんな彼は、謀反を起こして信長を討つ「理由」がないと動けないんですね。だから、彼の行為は天下取り&復讐の妄想でもあるわけです。多分。そう考えると、一番欲と闇が深いのはコイツなんですよね。
本作では、そんな彼がなぜ謀反に踏み切ったのか、その理由も見どころの一つになっているんですね。
本作は上映時間131分と、やや長めではありますが、観ている間は全く退屈しませんでした。
ただ、残酷シーンも多いので残酷描写が苦手な人は無理かもですが、映像もメッチャ豪華で迫力もあるし、メッチャ不謹慎だけど笑えるシーンも沢山あるので、劇場で観て損はない作品だと思います。多分、テレビでは放映できませんしね。
興味のある方は是非!!