ぷらすです。
今回ご紹介する映画は、ベストセラー作家水上勉の料理エッセイを中江裕司監督が脚本化し沢田研二主演で制作された『土を喰らう十二ヵ月』です。
僕はこの作品を全く知らなかったんですが、先日レンタルビデオ屋に行った時に見つけてパッケージに惹かれてレンタルしました。
で、今回は2022年公開の作品でもあるので、ややネタバレしながら感想を書いていきますので、気になる方はご注意ください。
画像出展元URL:http://eiga.com
概要
水上勉のエッセイ「土を喰う日々-わが精進十二ヵ月-」などを原案に描くヒューマンドラマ。歳の離れた恋人がおり、長野の自然に囲まれた生活を送る作家の日々が映し出される。監督と脚本を担当するのは『ナビィの恋』などの中江裕司。ミュージシャンで俳優の沢田研二、『ラストレター』などの松たか子、『青葉家のテーブル』などの西田尚美のほか、尾美としのり、瀧川鯉八、檀ふみらが出演する。(シネマトゥディより引用)
感想
原作は水上勉のエッセイ
本作は「飢餓海峡」などで知られる水上勉が、少年時代に京都の禅寺で精進料理を学んだ経験を基に、軽井沢の山荘で食事を作り続けた1年間の料理について綴った味覚エッセイ「土を喰ふ日々わが精進十二ヶ月」を原案に、「ナビィの恋」の中江裕司監督が脚本・監督、ジュリーこと沢田研二主演で制作された作品です。
ざっくりストーリー紹介
沢田研二演じる主人公ツトムは9歳の頃に禅寺へ奉公に出され精進料理を学んだ経験から、自ら長野の山荘で野菜を育て、里山で山菜やキノコを採っては料理をして、そんな日々の生活を原稿に書く老作家。奥さんは13年前に亡くなっていて、ツトムは未だ納骨が出来ずにいるのです。
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そんな彼の元には担当編集者で若い恋人の真知子が時折訪れ、ツトムは真知子や同じ集落に住む人々に作った料理を振舞い、交流をしながら、自然に囲まれた環境で淡々と日々を過ごす。本作はツトムの作る料理と独白を交えながら、彼の生活を春夏秋冬を通して描いていくんですね。
田舎での生活と料理を通して、主人公を描く作品と言えば、五十嵐大介原作のマンガを実写化した映画「リトル・フォレスト」を思い出しますが、本作はまさに”老人版“リトル・フォレストといった感じでしょうか。
いや、もしかしたら五十嵐大介さんが本作の原案となった水上勉のエッセイにインスピレーションを受けて「リトル・フォレスト」を描いた可能性もありますけども。
そんな本作、序盤から中盤は畑から採った野菜や山菜でツトムの作る料理を真知子やご近所の大工さんなどと食べる日々が描かれ、その合間に独白を通してツトムの人生が少しずつ詳らかになっていくという構成。
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畑を耕し、山菜を採り、料理して食べるというのはつまり「生」を描いていて、ツトムや真知子がもりもり食べる食事シーンは生命力に溢れていますし、ツトムは真知子に一緒に暮らさないかと誘ったりもします。
前半は「生」後半は「死」
そんな映画のトーンが一変するのは、ツトムが心筋梗塞で倒れる中盤から。
奇跡的に命を繋ぎ止めたツトムでしたが、この一件で彼は、老境に差し掛かった自分のすぐ後ろに死の影が近づいている事を実感してしまうんですね。
ここから物語のトーンは一変。父親が棺桶を作る大工で寺に奉公に出されていたことから「自分は死に近い場所にいた」と回想していたツトムですが、それはやはりどこか他人事で、いざ実感として我が身に死の影を感じると冷静ではいられず。
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また、この時ツトムの身を案じた真知子は同居を申し出るんですが、ツトムはその申し出を断ってしまいます。何故なら真知子の言葉に自身を男ではなく、老人として見るニュアンスを感じ取りプライドを傷つけられたというのと、二人の関係が近い将来男と女から老人と介護者になると気づいたツトムが、愛する恋人を自分のために縛るのはいけないという両方の気持ちからなのだと思います。
そして一人になったツトムは「死神と仲良くなる方法」、つまり死を受けいれる為の心構えを作るため、様々な試行錯誤をしていくのです。
まぁ、僕も世間的には中高年と呼ばれる年齢だし、何かの折に老いを感じることも増えてきたし、昔はぼんやり他人事だった「死」が、実感を持って近くに迫っていると感じる瞬間もあったりするお年頃ですからね。
10年前の僕なら物語自体は理解できても本作の核の部分までは解らなかったと思うけど、今は全部ではないけど、何となくは解るようになった気がします。
(野菜を)育てて、収穫して、分けて貰った自然の恵みと、料理して、食べる。
そんなツトムの当たり前で淡々とした日常やその中で感じる心情が、土井善晴先生の作る素朴で滋味溢れる料理も相まって、しみじみと染みてくるんですよね。
気になったところ
とはいえ、じゃぁ100点満点で文句のつけようがない名作かというとそうでもなくて、気になってしまうところもチラホラ。
まず最初に気になったのが選曲で、うーん、なんていうか、劇中たまに入ってくるBGMがビックリするくらいダサいのです。いや、ダサいというより、古臭いって言った方がいいのかな。微妙にジャズっぽいようなフュージョンっぽいような、今や懐かしカッコイイって言うわけでもなく、ただ、中途半端に古臭いっていう。
むしろアレなら、いっそ音楽使わない方が良かったのでは?って思いました。
あと、もう一つ気になったのが、ツトムと真理子の関係というか距離感というか。
ツトムが娘にするみたいに作った料理を甲斐甲斐しく食べさせて、真知子の方も娘のように振舞っていたかと思うと、急にツトムが真知子を誘うような仕草をする。それをそれとなくいなす真知子。みたいな恋の駆け引きが繰り広げられ、そこだけトーンが変わって妙に生々しいというか。
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そもそも、ツトムは13年も納骨せず、いまだ部屋に奥さんの遺骨を置いているくらい想っているはずなのに、その遺骨のある部屋で若い恋人に色気を出すってのがどうにもしっくりこないし、それ抜きにしてもツトムと真知子の関係は「島耕作」的というか、お爺ちゃんの勘違い妄想みたいで、正直ちょっと気持ち悪いって思ってしまいました。
いや、まぁその展開があるから後半の真知子の申し出を断る展開に繋がっていく訳ですけど…うーん。
個人的にツトムと真知子の関係を掘るより、料理と田舎の生活に軸足を置いた散文的な物語の方が良かったかもって思いましたねー。
興味のある方は是非!!