今日観た映画の感想

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本国アメリカでは酷評の嵐だが――「マダム・ウェブ」(2024)

ぷらすです。

先日2月23日にソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)4作目となる『マダム・ウェブ』を観てきました。

当日は3連休初日であり、「ハイキュー」や「ガンダムSEED」などの話題作公開とも重なって、映画館はとても混んでいましたよ。

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概要

マーベルコミックに登場するキャラクター、マダム・ウェブを主役に、未来予知の能力を持つ彼女の誕生物語を描くサスペンス。監督を務めたのはドラマ「Marvel ジェシカ・ジョーンズ」などのS・J・クラークソン。主人公を『サスペリア』などのダコタ・ジョンソンが演じ、『リアリティ』などのシドニー・スウィーニー、『ザ・スイッチ』などのセレスト・オコナーのほか、イザベラ・メルセド、タハール・ラヒムらが共演する。(シネマトゥディより引用)

感想

本国アメリカでは酷評の嵐だが

本作は、ヴェノム2作・モービウスに続くSSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)の第4作として製作・公開された作品なんですが、本国アメリカでは大酷評の嵐でして。曰く「悪夢の2時間」とか「モービウスの方がマシ」とか、それはもう、かなり非道い言われ様だとの情報を事前にキャッチしていたので、僕も時間とお金を無駄にする覚悟で観に行ったんですが――――――

え、普通に面白いんだけど?

というのが正直な感想でした。

もしかしたら事前にハードルが下がった状態で観たからかとも思ったし、実際、じゃぁ大絶賛するような名作なのかと聞かれれば決してそんな事はないわけですが。とはいえ、目くじら立てて酷評するほどは悪くないってのが、正直なところ。

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まぁ正直、かなり無理のある展開やご都合主義的な部分もあるし、映像的にもコレ!っていう目新しさや驚きもなく、中盤で明かされる主人公のキャシーの出生の秘密も予想通りでベタっちゃぁベタなんですが。

とはいえ、前半・後半での伏線と回収は単純に上手くやってるなと唸る部分も結構あったし、クライマックスの展開は「どうせこうなるんでしょ?」と思った通りだったけど、思わずグッときてしまいましたよ。

ただ「マーベル初のミステリー・サスペンス」という煽り文句はで、ミステリー要素は全くなかったです。あえてジャンル分けするならサスペンス・スリラーって感じ。

未来視の能力を得た主人公が、ある事情からヴィランに狙われる3人の少女を、能力を使って助ける。というのが本作のざっくりしたあらすじ。

ヒーローアクションもほぼないので、そこを期待している人は退屈しちゃうかもですが、ただこの作品の主人公マダム・ウェブは、ヒーローというより未来視で他のキャラクターをサポートする立ち位置のキャラでそもそも戦闘向きではなく、また、本作に登場する3人の少女も、後にスパイダー・ウーマンになるけど、本作の時点では何の力もない普通の少女なので、アクションらしいアクションがないのはむしろリアルと言えるんですよね。

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マダム・ウェブことキャシーを含めた4人は、それぞれ家族に問題やトラウマを抱えていて、エゼキエルというヴィランとの対決を通じて、それらの問題を乗り越えて疑似家族になり、そして後にヒーローになる。本作はその始まりの物語なのです。

何故酷評されるのか

そんな本作、なぜ本国アメリカではそこまで酷評されているのかを考えてみたんですが、例えば世界的に大ヒットした「ゴジラ-1.0」は日本では賛否両論でしたよね。
それは俳優のオーバーアクトだったり、キャラ造形の粗さ、構成の不味さなど、同じ日本人だからこそ感じる作劇や演出の粗が外国人には分からず、良い部分だけが伝わるみたいな現象があったと思うんですが、本作でも起きているのかな?なんて思ったり。
つまり本国では日本人はスルーしてしまう粗やセンスの悪さみたいなところが批判を呼んでいる的な。

もしくは作品の出来とは関係なく、今、西洋諸国で問題になっている行き過ぎたポリコレや多様性の押し付けの流れに対する反発や分断という流れが、本作の評価にも何かしらの影響を及ぼしているとか。

じゃなければ、人々はスパイダーマンの映画を待ち望んでいるのに、周辺の知らないキャラの映画ばっかり公開されることへのガッカリ感とか。

それとも、やっぱり単純に作品の出来が悪さで評価が低くて、僕がヒーロー映画に対してチョロいだけなのか。

何にせよ、映画の良し悪しなんて人によって変わるので、少しでも気になる人は劇場に観に行って自分の目で判断するのが一番いいと思います。

というわけでここからは、内容のネタバレを含むので気になる方はご注意ください。

 

気になったところ

そんな感じで、個人的にはかなり楽しんだ本作ですが、全てが良かったというわけではなく気になるところも。

個人的に一番気になったのは、ヴィランに狙われる3人の少女をNYに残して、主人公のキャシーがペルーにいくところでしょうか。

いや、それなら3人も一緒に連れてったれよっていう。

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っていうか、敵は大富豪で、しかもめっちゃ高性能の顔認証装置で彼女らが公共機関を使ったり街の防犯カメラに映ればすぐバレるという設定だったハズで、しかも、その時点でキャシーの顔や素性も敵にはバレているハズなので、飛行機を使ったら即バレると思うけど、それはまったくないんですよね。

そして、自分のルーツを探しペルーについたキャシーは、そこでスパイダーマンの始祖みたいな人に迎えられるんですね。

彼は、キャシーの母親が探していた新種のクモの毒を摂取することでスパイダーマン的な能力を持つ部族の男らしいんですけど、見た目が普通に白人で、しかも最初の登場ではスパイダースーツアマゾンバージョンみたいなのを着てたのに、キャシーの前では普通の洋服着て普通に「やぁ」って登場するので、なんかこう、色々混乱してしまうんですよね。まぁ、彼らも未来予知の力があるらしいので、予めキャシーが来るのを知っていたんでしょうけど。

それにしたって諸々、いくらなんでも展開に無理があり過ぎるとは思いました。

「大いなる力には大いなる責任が伴う」

あと、個人的に一番引っかかったところ。

アマゾンでスパイダーマンの始祖的な人がキャシーに「あなたが責任を引き受けたとき、大きな力が生まれる」というセリフを言うんですけど、これはスパイダーマンのベンおじさんがいまわの際でピーターに言う「大いなる力には大いなる責任が伴う」の言い換えなんですね。

「大いなる力には~」はスパイダーマンファンなら誰もが知る名セリフであり、スパイダーマンというキャラクターの根幹に関わる重要な言葉。
そんなファンにとっても大切なセリフの変更。しかも言い換え自体に物語的意味はほぼなくて、別にそのまま使ったって物語的には問題ないという。

しかもこの二つのセリフ。意味合いとしては同じに聞こえるかもですが、文脈的に真逆の意味になってしまうんですよね。

もちろん制作陣は何らかの意図をもってセリフを変更したんでしょうが、僕はスパイダーマンファンの一人としてこの変更には、かなり複雑な気持ちになってしまいました。

他にもキャシーが序盤で盗んだタクシーを自分の車みたいにずっと乗り回すとか、色々気になるところはあるけど、前述したように、その分良いところもありますしね。

褒めポイント

逆に、本作の――というか「SSU」作品の褒めポイントとしては、基本的にどの作品もちゃんと完結している。ってのがあると思います。

まぁ、ベノムと続編は2本でワンセットですけど、モービウスも本作も、基本一本の作品として完結しているので、MCUみたいにアレもコレも観ないと内容が分からない。みたいなことはないんですよね。

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あと、DCやMCUに比べて物語の規模が小さいというのもポイントで、「それマイナスだろ」って思うかもですが、MCUやDCに比べて低予算な分、物語や悪役の規模がインフレしないというか、銀河だの宇宙を巻き込むような大ごとにはならない。これは親愛なる隣人であるスパイダーマンのユニバースならではだと思うんですね。

そして基本上映時間も短いので、それこそポップコーンムービーとして気軽に楽しめるっていうのはあると思うんです。80年代のジャンル映画的っていうか。

色んな映画が大作化して3時間も当たり前になっている昨今、こういう小さな規模で、サクサク観られてそこそこ面白いエンタメ映画は大切にしていきたいって思うし、個人的にソニーには、今後もこの位の規模の作品をコンスタントに作って欲しいって思うのでした。

興味のある方は是非!!

ファン待望の続編!「ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー」(2023)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、昨年公開の『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』ですよ。

女の子の殺し屋のゆるい日常とキレッキレのアクションで話題を呼んだ阪元裕吾監督の「ベイビーわるきゅーれ」続編です。

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概要

殺し屋女子二人組が社会になじもうと奮闘する『ベイビーわるきゅーれ』の続編。何をするにもお金が必要な社会を生きる彼女たちに、新たな敵が立ちはだかる。前作同様、『グリーンバレット』などの阪元裕吾がメガホンを取り、『マンハント』などの園村健介がアクション監督を担当。『とおいらいめい』などの高石あかりと『オカムロさん』などの伊澤彩織が殺し屋コンビ役で続投し、阪元監督作『黄龍の村』などの水石亜飛夢、『琉球バトルロワイアル』などの丞威、『ウルトラマンジード』シリーズなどの濱田龍臣らが共演する。(シネマトゥディより引用)

感想

「ベイビーわるきゅーれ」とは

「ハングマンズ・ノット」「ファミリー☆ウォーズ」「最強殺し屋伝説国岡」「ある用務員」など、主にアクションやバイオレンス映画を製作。独自の世界観や作りこまれた設定でカルト的人気を誇る阪元裕吾監督の代表作です。

社会に適合できない女子高生殺し屋コンビのゆるゆるな日常パートと、スタントパフォーマーでもある伊澤彩織のキレッキレのアクションの融合という、実写映画というよりはマンガ的世界観で多くの映画好きを唸らせた本作。

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高校卒業を間近に控えた殺し屋コンビ、深川まひろと杉本ちさとは、卒業後、組織の方針で二人暮らしをしながら、社会人としての”表の顔”を持つべくアルバイト探しを始めるのだが――という物語。

この作品では表立ってはいないものの、殺し屋が我々の日常に溶け込む形で存在。協会があり、殺し屋をサポートする事務方や、死体の始末屋や武器屋などが普通に存在するある意味「ジョンウィック」的な世界観なんですね。

この設定は阪本監督の「最強殺し屋伝説国岡」や「ある用務員」などとも通底していて、「ある用務員」で二人は女子高生の殺し屋コンビとして登場もしている。いわゆる阪本ユニバースが形成されているんですね。

「ベイビー~」は、コミュ障のまひろと明るく社交的だけどガサツで暴力的なちさとが表の仕事探しに苦労する日常コメディーとして描かれる一方で、戦闘シーンのアクションは女の子二人の体格に合わせたスピード重視&ジャッキー映画や「イップマン」の詠春拳を彷彿とさせるアクション設計を、女優でありスタントパフォーマーでもある伊澤彩織が見事に表現しているんですね。

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また、他の作品でも言えることだと思いますが、阪本監督の作劇はキャラクター重視のマンガ的な作劇なので、観ているこっちが主人公に感情移入しやすいという魅力もあるのだと思います。

仁義なき戦い」的続編

そんなこんなで多くの映画ファンに支持された「ベイビーわるきゅーれ」待望の続編として昨年公開された本作「ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー」

普通、続編となれば前作よりもスケールアップした物語を――と誰もが期待するところですが、阪本監督が選んだのは物語や世界観をインフレさせるのではなく、主人公二人の立ち位置はそのまま新キャラを投入。新キャラの方にドラマを持たせるという方法でした。

協会の下請けである非所属の殺し屋兄弟、神村ゆうりとまことは、彼らの仲介役・赤木とのし上がる事を夢見ていたが現実は厳しく。そんなある日、赤木が聞いたという「正規の殺し屋を殺せば、空いた枠に繰り上がりになる」という噂を信じ、まひろとちさとを倒して正規殺し屋枠を狙うのだが――というのが本作のあらすじ。

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まぁ、敵キャラとしては実質前作よりもスケールダウンしているんですが、この殺し屋兄弟の方を物語の中心にすることで、作品の世界観を広げているんですね。

この感じ、個人的には「仁義なき戦い」の続編「仁義なき戦い 広島死闘篇」を思い出しました。まぁ、「~広島死闘篇」の方は続編に原作が追い付かないので急遽舞台と主人公を変えて番外編的に制作したんですけどね。

対して、相変わらずゆるゆる殺し屋ライフを満喫していたするまひろ&ちさとコンビは、ある事情で謹慎を言い渡され、借金返済と当座の生活費を稼ぐためアルバイトをすることになるわけだけど、中盤の見せ場となる二人のアクション。特にまひろのアクションは前作以上にキレッキレで、アクションのアイデアも盛り込まれていて見ごたえがありましたねー。

そして、そんな両者が雌雄を決するクライマックスのアクションもまた前作以上に見ごたえがあり、さらに前半でのまひろのトレーニング描写がフリになっていて、それをこのクライマックスで回収する構成もアクション映画的な快感があって素晴らしかったと思います。

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そしてラストは「そりゃ当然こうなるよね」っていう予想通りのオチなんだけど、そこに至るまでの展開で「あれ、もしかして?」と一瞬思わせることで、両者に感情移入した観客を突き放すのも良かったですね。

個人的には、中盤のまひろとちさとの日常パートはやや冗長な感じはしたけれど、トータルでは十分すぎるほど面白かったし、続編が公開されたら絶対に見たいと思いましたねー。

興味のある方は是非!!

水上勉の料理エッセイを原案に描くヒューマンドラマ「土を喰らう十二ヵ月」(2022)*ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介する映画は、ベストセラー作家水上勉の料理エッセイを中江裕司監督が脚本化し沢田研二主演で制作された『土を喰らう十二ヵ月』です。

僕はこの作品を全く知らなかったんですが、先日レンタルビデオ屋に行った時に見つけてパッケージに惹かれてレンタルしました。

で、今回は2022年公開の作品でもあるので、ややネタバレしながら感想を書いていきますので、気になる方はご注意ください。

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概要

水上勉のエッセイ「土を喰う日々-わが精進十二ヵ月-」などを原案に描くヒューマンドラマ。歳の離れた恋人がおり、長野の自然に囲まれた生活を送る作家の日々が映し出される。監督と脚本を担当するのは『ナビィの恋』などの中江裕司。ミュージシャンで俳優の沢田研二、『ラストレター』などの松たか子、『青葉家のテーブル』などの西田尚美のほか、尾美としのり瀧川鯉八檀ふみらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

原作は水上勉のエッセイ

本作は「飢餓海峡」などで知られる水上勉が、少年時代に京都の禅寺で精進料理を学んだ経験を基に、軽井沢の山荘で食事を作り続けた1年間の料理について綴った味覚エッセイ「土を喰ふ日々わが精進十二ヶ月」を原案に、「ナビィの恋」の中江裕司監督が脚本・監督、ジュリーこと沢田研二主演で制作された作品です。

ざっくりストーリー紹介

沢田研二演じる主人公ツトムは9歳の頃に禅寺へ奉公に出され精進料理を学んだ経験から、自ら長野の山荘で野菜を育て、里山で山菜やキノコを採っては料理をして、そんな日々の生活を原稿に書く老作家。奥さんは13年前に亡くなっていて、ツトムは未だ納骨が出来ずにいるのです。

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そんな彼の元には担当編集者で若い恋人の真知子が時折訪れ、ツトムは真知子や同じ集落に住む人々に作った料理を振舞い、交流をしながら、自然に囲まれた環境で淡々と日々を過ごす。本作はツトムの作る料理と独白を交えながら、彼の生活を春夏秋冬を通して描いていくんですね。

田舎での生活と料理を通して、主人公を描く作品と言えば、五十嵐大介原作のマンガを実写化した映画「リトル・フォレスト」を思い出しますが、本作はまさに”老人版“リトル・フォレストといった感じでしょうか。

いや、もしかしたら五十嵐大介さんが本作の原案となった水上勉のエッセイにインスピレーションを受けて「リトル・フォレスト」を描いた可能性もありますけども。

そんな本作、序盤から中盤は畑から採った野菜や山菜でツトムの作る料理を真知子やご近所の大工さんなどと食べる日々が描かれ、その合間に独白を通してツトムの人生が少しずつ詳らかになっていくという構成。

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畑を耕し、山菜を採り、料理して食べるというのはつまり「生」を描いていて、ツトムや真知子がもりもり食べる食事シーンは生命力に溢れていますし、ツトムは真知子に一緒に暮らさないかと誘ったりもします。

前半は「生」後半は「死」

そんな映画のトーンが一変するのは、ツトムが心筋梗塞で倒れる中盤から。

奇跡的に命を繋ぎ止めたツトムでしたが、この一件で彼は、老境に差し掛かった自分のすぐ後ろに死の影が近づいている事を実感してしまうんですね。

ここから物語のトーンは一変。父親が棺桶を作る大工で寺に奉公に出されていたことから「自分は死に近い場所にいた」と回想していたツトムですが、それはやはりどこか他人事で、いざ実感として我が身に死の影を感じると冷静ではいられず。

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また、この時ツトムの身を案じた真知子は同居を申し出るんですが、ツトムはその申し出を断ってしまいます。何故なら真知子の言葉に自身を男ではなく、老人として見るニュアンスを感じ取りプライドを傷つけられたというのと、二人の関係が近い将来男と女から老人と介護者になると気づいたツトムが、愛する恋人を自分のために縛るのはいけないという両方の気持ちからなのだと思います。

そして一人になったツトムは「死神と仲良くなる方法」、つまり死を受けいれる為の心構えを作るため、様々な試行錯誤をしていくのです。

まぁ、僕も世間的には中高年と呼ばれる年齢だし、何かの折に老いを感じることも増えてきたし、昔はぼんやり他人事だった「死」が、実感を持って近くに迫っていると感じる瞬間もあったりするお年頃ですからね。

10年前の僕なら物語自体は理解できても本作の核の部分までは解らなかったと思うけど、今は全部ではないけど、何となくは解るようになった気がします。

(野菜を)育てて、収穫して、分けて貰った自然の恵みと、料理して、食べる。

そんなツトムの当たり前で淡々とした日常やその中で感じる心情が、土井善晴先生の作る素朴で滋味溢れる料理も相まって、しみじみと染みてくるんですよね。

気になったところ

とはいえ、じゃぁ100点満点で文句のつけようがない名作かというとそうでもなくて、気になってしまうところもチラホラ。

まず最初に気になったのが選曲で、うーん、なんていうか、劇中たまに入ってくるBGMがビックリするくらいダサいのです。いや、ダサいというより、古臭いって言った方がいいのかな。微妙にジャズっぽいようなフュージョンっぽいような、今や懐かしカッコイイって言うわけでもなく、ただ、中途半端に古臭いっていう。

むしろアレなら、いっそ音楽使わない方が良かったのでは?って思いました。

あと、もう一つ気になったのが、ツトムと真理子の関係というか距離感というか。

ツトムが娘にするみたいに作った料理を甲斐甲斐しく食べさせて、真知子の方も娘のように振舞っていたかと思うと、急にツトムが真知子を誘うような仕草をする。それをそれとなくいなす真知子。みたいな恋の駆け引きが繰り広げられ、そこだけトーンが変わって妙に生々しいというか。

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そもそも、ツトムは13年も納骨せず、いまだ部屋に奥さんの遺骨を置いているくらい想っているはずなのに、その遺骨のある部屋で若い恋人に色気を出すってのがどうにもしっくりこないし、それ抜きにしてもツトムと真知子の関係は「島耕作」的というか、お爺ちゃんの勘違い妄想みたいで、正直ちょっと気持ち悪いって思ってしまいました。

いや、まぁその展開があるから後半の真知子の申し出を断る展開に繋がっていく訳ですけど…うーん。

個人的にツトムと真知子の関係を掘るより、料理と田舎の生活に軸足を置いた散文的な物語の方が良かったかもって思いましたねー。

興味のある方は是非!!

白石晃士が撮る純愛と解放の物語「愛してる!」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、日活ロマンポルノ50周年を記念したプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」で製作された作品の一つで、Jホラー界のトップランナーの一人・白石晃士監督の『愛してる!』ですよ。

ずっと気になっていた作品ですが、今回、やっと観る事ができました。

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概要

日活ロマンポルノの50周年記念プロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の第2弾となる作品で、SMの世界に足を踏み入れる地下アイドルの姿を描いたドラマ。ドキュメンタリーの密着取材を受けている地下アイドルが、SMの女王様と出会う。監督は『貞子vs伽椰子』や『不能犯』などの白石晃士。俳優の高嶋政宏が企画監修と出演を兼ねるほか、川瀬知佐子や鳥之海凪紗、乙葉あいなどが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

日活ロマンポルノ50周年を記念したプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の一本として製作された本作は、SMクラブのオーナーにスカウトされた元女子プロレスラーで、売れない地下アイドルの主人公・ミサとお店の先輩で女王さまのカノンの純愛を描く物語です。

日活ロマンポルノ作品だしSMを題材にしているのでR-18作品ですが、公開時、映画ファンから高い評価を受けていたこともあって、僕もかなり気になっていた作品なんですよね。

で、実際に観てみたら思った以上に面白くて、僕が観た白石監督作品の中でも1・2を争う名作だと思いましたよ。

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日活ロマンポルノとは

ちなみに、もしかしたら「日活ロマンポルノ」が何か知らない世代の人もいるかもなので、ざっくり説明すると、元々東映東宝・松竹・大映と並ぶ五大映画製作会社の一角だった日活は、小林旭宍戸錠といったスターを抱え、多くのヒット作を生み出して映画黄金時代を支えましたが、1971年、ワンマン社長であった堀久作による放漫経営などの結果業績が悪化。

同年、社長の電撃退陣や幹部の追放後も業績の悪化は止まらず、対立を続けていた会社と労働組合が手を携え「映像委員会」を設置。その時、営業担当の役員から提案されたのがポルノ映画の製作・配給だったんですね。

まだ、AVもない時代、成人映画レーベルへの転換によって業績は回復。また、ノルマ(裸とか性行為のシーンとか)さえクリアできれば比較的自由に映画を作れるという条件は後の有名映画監督を生み出し、女優・俳優の登竜門的な役割も担っていたのです。

やがて、AVなどの台頭もあって1988年4月14日、にっかつはロマンポルノの制作を中止するわけですが、日本映画史においてロマンポルノは戦後日本カルチャーの一角を担っていたのです。

そんな日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクトとして、「アフロ田中」などの松居大悟、「平成ガメラシリーズ」の金子修介、そして本作を監督した白石晃士がそれぞれ作品を手掛けることになり、白石監督が題材として選んだのはずばりSMでした。

女子プロレスラー崩れで売れない地下アイドルのミサは、SMクラブ「変態紳士」のオーナーに素質を見込まれ、女王さま見習いとして働くことに。

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ただし、女王さまになるには奴隷の気持ちが分からないといけないというオーナーの意向で、研修として先輩女王さまのカノンの奴隷になるわけですが、カノンに実も心も調教されたミサはやがて――という物語です。

リアルとファンタジーが交差する”純愛”物語

本作の主役ミサを演じるのは、撮影時には実際に地下アイドルをしていたという川瀬知佐子。彼女の独特な体育会系?的な雰囲気と女王様・カレン役の鳥之海凪紗のお人形のような冷めた雰囲気は対照的で、それぞれの演じるキャラクターともリンクしているんですね。

カノンの調教でイキ倒していたミサが、その後の密着取材に「めっちゃ気持ちよかったっす!」と話すシーンや、SM体験に興奮したことを恥じらいなく無邪気に明かす姿は逆にリアルというか、ミサのキャラクターならきっとこんな感じだろうと思わせるリアリティーがあったと思いました。

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対するカレンは、決して感情的にならず何を考えているのか分からない。ある意味でサブカル的というか、もっと言うとメンヘラっぽさもあって、そこが演じる鳥之海凪紗のビジュアルとも相まって、こちらは逆にどこか現実離れしている感じなんですよね。そんな対照的な二人が惹かれ合って、愛し合い、やがてお互いの解放に繋がっていく展開は、ある意味ベタではあるけど、キャスティングの妙もあって嘘くささは感じませんでした。

ただ、2人とも演技経験はほぼないようで演技自体も決して上手いとは言えず、正直、この2人では映画のクオリティーとしてはやや心もとない。しかし、そこにベテラン俳優の高嶋政宏が加わることで、映画としてのグレードが上がっているわけです。

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著作「変態紳士」を参考にした映画を作りたいという話を受け、ステレオタイプのSMが描かれることを懸念した高嶋さんは、ショーとしてSMを見せることと、愛好家が集まる店は違うことなどを実際の店舗を案内しながらプレゼンしたのだそう。

役者としてもベテランであり”変態紳士”でもある高嶋政宏が本人役として本作に出演したことで、本物にしか出せない空気感が、寓話的に描かれる本作の物語にリアリズムを与え、逆にSMラウンジのオーナー役・ryuchellの存在はファンタジーとしての本作を象徴する存在感を発揮していて鏡合わせの配役になっていると感じたし、リアルとファンタジーが交じり合いその境が曖昧になることで、主役2人の拙さすら作品の持ち味にしていると感じましたねー。

そんなミサとカノンがついに相対するクライマックスの怒涛の展開は、デイミアン・チャゼルの「セッション」的な熱量すら感じましたよ。

ただ、あえて気になるところを1つ挙げるとすれば、本作も白石監督の代名詞であるフェイクドキュメンタリー形式で撮られているのですが、個人的には、本作は普通に劇映画として撮影した方が良かったのでは?と感じました。

R-18ということ、SMという題材や描写に対して、もしかしたら拒否感を感じる人もいるかもですが、いわゆる「ポルノ」では割り切れない魅力が爆発している作品だと思いました。

興味のある方は是非!!

 

 

 

 

異なるエレメントたちの愛と家族の絆を描く感動作!ディズニーピクサー最新作「マイ・エレメント」(2023)

ぷらすです。

ディズニー+の配信でピクサー最新作「マイ・エレメント」を視聴しました。

昨年の公開時、僕は色々都合が合わずに劇場で本作を観られなかったんですが、やっぱ無理してでも劇場で観るべきだったなーと後悔してしまうくらい良い作品でしたねー。

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概要

火・水・土・風といったエレメント(元素)たちが暮らす世界を描く、ディズニー&ピクサーによるアニメ。異なる特性のエレメントとは関われないというルールがある街を舞台に、火のエレメントである少女と、水のエレメントである青年の出会いを描く。『アーロと少年』などのピーター・ソーンが監督を務め、同作にも携わった『カーズ2』などのデニス・リームがプロデューサーを担う。ボイスキャストにはリーア・ルイス、マムドゥ・アチーらが名を連ね、日本版声優として川口春奈玉森裕太らが参加する。(シネマトゥディより引用)

感想

監督の半自伝的物語

本作の監督であるピーター・ソーンは韓国移民の二世。

ニューヨークで生まれ育った彼はカリフォルニア芸術大学に通いながら、夏のインターンシップブラッド・バード監督『アイアン・ジャイアント』に携わり、卒業後はウォルト・ディズニー・カンパニーやワーナー・ブラザースを経てピクサーに入社。

ファインディング・ニモ」にアニメーション・脚本部門として初参加し、その後ピクサーの数々の作品で制作に参加。
レミーのおいしいレストラン」など数本の作品では声優も担当し、2009年の短編映画「晴れ ときどき くもり」と、2015年の長編作品「アーロと少年」で監督を務めるピクサーのベテランクリエイターです。

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しかしインタビューによれば、多くのアジア系移民がそうであったように監督の両親は最初、息子が芸術の道に進む事には反対で、長男である彼に経営するお店を継いでほしいと思っていたそう。また、ピーター・ソーンはカリフォルニア芸術大学で出会ったアンナ・シャンバースと結婚していますが、異人種間結婚に対して彼のお婆さんは反対していたと話しています。

ピーター・ソーンは自分たちを育てる為に、多くの犠牲を払った両親の期待に応えられなかった事に罪悪感を感じていると言っていて、そうした彼の個人的体験は本作のヒロインである火のエレメント・エンバーとその家族の設定に行かされているんですね。

ざっくりストーリー紹介

そんな本作のストーリーをザックリ紹介すると、両親の反対を押し切って水・土・風のエレメント達が暮らすエレメント・シティにやってきたエンバーの両親バーニー・ルーメンと妻のシンダーは、他のエレメントたちからの差別を受けながらも偶然見つけた古く寂れた建物を改装、娘のエンバーにも恵まれ、雑貨屋「ファイアプレイス」を開店します。

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そうしてバーニーとシンダーの努力もあり、移民してきた多くの火のエレメントの常連客を集めるようになった「ファイアプレイス」は、ファイアタウンの中心になっていくんですね。

やがて、老年に差し掛かかり体の調子も悪いため、引退したらエンバーに店を譲ろうと考えているバーニーですが、エンバーにはすぐに癇癪を起してしまうという問題が。

店の大セールの日、店の切り盛りを任されたエンバーでしたが、客の勢いに圧倒され癇癪を起こしそうになった彼女は地下室に駆け込み、そこで怒りをぶちまけると勢いで水道管に亀裂を入り、地下室は水浸しに。そして、何故か水のエレメントであり市の検査官でもあるウェイド・リップルも地下室に現れ―――という物語。

個人的経験を基にした私小説

このあらすじで分かるように、本作の舞台エレメント・シティは監督が生まれ育ったNY、ファイアタウンはコリアンタウン、エンバーと両親は監督とご両親がそれぞれモデルになっているんですね。

最初は水のエレメントであるウェイドに反発するエンバーですが、ある目的のため行動を共にするうち二人は惹かれ合うようになっていく。

つまり、エンバーとウェイドのラブストーリーは監督と奥さんの恋愛経験がモデルになっていて、この作品はある意味で、ピーター・ソーン監督の半自伝的な物語でもあるのです。

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例えばウェイドの実家に招かれたエンバーは歓迎されますが、ウェイドの親族の一人が全く悪気なく「言葉が上手だ」と言うんですね。エンバーが自分はエレメント・シティの生まれだからと言うと、彼は自分の発言の間違いに気づいて気まずい顔をする。という短いシーンがあるのですが、これも監督自身の体験が乗っているのかもしれません。

で、こんな風に書くと「あー、またポリコレか」って思う人もいると思います。

でも、ちょっと待って欲しい。

確かに「多様性」は本作の重要なテーマの一つではあるけれど、この作品のメインテーマはあくまでウェイドとエンバー、事なる境遇に育った2人が互いを知り、様々な問題を解決しながら恋心を育てていくラブストーリーです。

そして、他のピクサー作品もそうであるように、本作はピーター・ソーン監督の体験を基にした私小説的な作品だからこそ、観ているこっちも物語に乗ることが出来るわけですね。

実際、公開当初はディズニー&ピクサー作品歴代ワースト2位と伸び悩んだ興行成績も口コミで評判が上がり、公開から2ヶ月弱の間TOP10にランクインし続けるロングランヒットになったんだそうです。

で、オープニングの興行成績が悪かった背景には、全米映画俳優組合ストライキで宣伝がしずらい状況だったことや、「フラッシュ」や「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」など大作との競争に負けた。ピクサーブランドの失墜、作品をDisney+で配信の配信で観る流れが出来ていることなど、複数の要因があると思いますが、その中の大きな要因の一つとして、親会社のディズニーによる行き過ぎたポリコレの大波にピクサーも巻き込まれ、ピクサー制作の本作も十把一絡げに思われているというのがあったと思います。

ディズニーとピクサーの違い

ただ、ディズニーとピクサーの「それ」は個人的な感覚ではかなり違うと思っていて、ディズニーが作品の物語や完成度よりもポリコレを語ることに熱心なのに対し、ピクサーはポリコレには配慮はしつつも、前述したようにあくまで私小説的な個人の経験を物語に落とし込んでいる作品が多いんですよね。

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そして、本作では差別や無理解を加害者と被害者に分けて、対決や分断で終わらせるのではなく、それぞれ育った境遇も立場も違う相手との相互理解や共存までしっかり踏み込んで描いているところが良かったと思います。

本作を観た人の多くは絶賛しているようですし、僕も個人的にとても好きな作品だったので、もし観るのを躊躇している人は配信などで観る事をおススメしますよ。

興味のある方は是非!!

 

 

 

原作の世界がそのまま実写映画に「ゴールデンカムイ」(2024)

ぷらすです。

原作マンガやアニメが世界的に大ヒットしている『ゴールデンカムイ』実写映画版を、初日に劇場で視聴してきました。

金曜とはいえ平日だしそこまで混んでないだろうと高を括って午前10時台の回に行ったんですが、劇場はかなり込んでいて「さすが金カムだなー」って思いましたねー。

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概要

週刊ヤングジャンプ」にて連載され、アニメ化もされた野田サトルの漫画を実写化。明治時代後期の北海道を舞台に、日露戦争に従軍した元軍人とアイヌの少女、脱獄囚など、さまざまな思惑を持つ人々が、アイヌから奪われた金塊を巡り争奪戦を繰り広げる。監督は『HiGH&LOW』シリーズなどの久保茂昭、脚本は『キングダム』シリーズなどの黒岩勉が担当。主人公の杉元佐一を山崎賢人、彼の相棒として旅をするアイヌの少女・アシリパを山田杏奈が演じるほか、眞栄田郷敦、矢本悠馬玉木宏舘ひろしらが共演する。(シネマトゥディより引用)

感想

違和感ゼロの実写化

世界的に大ヒット、アニメ化もされている野田サトル原作のマンガを、ついに実写映画化した本作。

公開前、俳優陣が演じるキャラクタービジュアルがネット上で公開された時は概ね好評。特に鶴見中尉とチンポ先生はマンガから抜け出たようだと評判でしたが、主人公の杉本を、数々のアニメキャラを演じている山崎賢人が演じる事に関してはかなり否定的な意見が多かったように記憶しています。

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僕自身、同じくマンガ原作映画「キングダム」での演技やアクションが高く評価されているのは知っていましたが、彼は杉本役を演じるにしては優男でマンガより幼く感じたんですよね。ところが、いざ蓋を開けてみれば203高地で激戦を繰り広げる冒頭のシーンで、山崎賢人が演じる杉本への違和感はまったくなくなりました。「おぉ、メッチャ杉本じゃん!」と。

さらに他の役者陣もそうで、例えば白石なんかは僕的にはずっと千鳥・大悟のイメージだったんですが、矢本悠馬演じる白石はちゃんと白石だったし、土方歳三・鶴見中尉・チンポ先生、緒形などなど、みんなマンガやアニメから抜け出してきたようで、かといっていわゆる「コスプレ大会」とも違う、全員がちゃんと血の通ったキャラクターとして現実の世界に顕現しているのには本当に驚きました。

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山田安奈演じるアシリパもメッチャ良かったし、アイヌ勢で言うとアシリパの大叔父役の秋辺デボさんはアイヌの人らしいですが、フチ役の大方斐紗子さんがアイヌの人ではないと知って逆にビックリしましたね。それくらいハマっていたんですよね。

また、アシリパの住むコタンも、アイヌの人たちの協力のもと、草木から育てて建物もちゃんと建ててオープンセットを作ったというし、アシリパの衣装もアイヌ工芸家が一から手作りなのだとか。

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原作の野田さんもアイヌに人達に取材を重ね、金カムを描いていたのは有名ですが、本作でもアイヌ文化の部分を(おそらく秋辺デボさんなどアイヌの人たちが監修に入り)しっかり丁寧に描いているのが好感を持てたし、それが作品のリアリティーにも繋がっていると思いました。あと、金カム名物ご飯のシーンがメッチャで美味しそうでしたねー。ヒンナヒンナ

アクションシーンについては、「HiGH&LOW」シリーズも手掛けていた久保茂昭監督と「キングダム」の制作陣がタッグを組んでいるというだけあって、迫力もスピードもアクション設計も申し分なかったです。個人的には森の中で追いかける杉本と、腹ばいで雪の斜面を滑りながら逃げる白石のシーンがお気に入りでしたよ。そのあと真冬の川に落っこちてガタガタ震えるくだりは、演技じゃなくてマジだったみたいですけどもw

ほぼほぼ原作順守

そんな本作のストーリーを超ザックリ説明すると、北海道を舞台に、アイヌの隠し財産の場所の暗号地図が彫られた「刺青人皮」を巡り、鶴見中尉率いる第7師団、土方歳三率いるグループ、そして杉本・アシリパチームが三すくみで争奪戦を繰り広げるというサバイバルアクション。こちらはマンガやアニメで物語を知っている人も多いと思うし、観てない人でも大まかなあらすじや設定くらいは知っているのではないかと思います。

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僕もアニメ版はずっと追っているので、ぶっちゃけ最初からネタバレ状態で観ているんですよね。なので基本的には、アニメ版を実写でどう再現するのかを楽しむ感じの観方になっていて、逆に、本作の情報をまったく知らない人が観たらどう思うのかなーと思ったり。

ただ僕の見る限り、ストーリー的に多少端折っていつ部分はあるかもですが、かなり原作準拠で進んでいるので、初めて「金カム」に触れる人でもしっかり分かりるし楽しめる内容になっているのではないかと思いました。

むしろこの劇場版から観て、続きが気になったらマンガやアニメを観るという楽しみ方もアリなんじゃないかと。

聞いたところによれば本作では、原作20話分までを実写化しているそうで、まずはキャラクターとその目的、背景などの紹介に徹し、本格的に物語を進めるのは次回作からという計画なんだのかもですね。

あえて言えば

そんな感じで個人的にはかなり楽しめた本作でしたが、それでもあえて文句をつけるとしたら、個人的には衣装が綺麗すぎるのがちょっと気になっちゃいましたねー。登場人物の服が下ろしたてみたいに綺麗なんですよね。

まぁ、例えば第7師団の制服は、軍隊から何着か支給もされているだろうし、洗濯もするだろうから、ある程度小ぎれいでもそこまで違和感はないんですけど、今は除隊して、(恐らく)一張羅で着たきり雀であろう杉本の軍服が綺麗すぎるのはちょっとノイズだなーと。他のキャラクターもそうですが、わざわざ汚くはしないまでも、着ている服に経年劣化の掠れや解れ、色落ちなどがないのは個人的には違和感を感じました。これがアニメだったら別に気にならないだろうけど、実写になるとリアリティーが損なわれるというか。

そういう細かい部分が気になっちゃうのも、その他の要素が素晴らしいからだと思いますが、それだけに正直もったいないなーと思ったりしましたねー。

とはいえ、この作品が何部作構想かは分かりませんが、個人的にはメッチャ面白かったし、続編が公開されたら絶対劇場で観たい!って思いましたよ。

興味のある方は是非!!

 

 

 

 

 

 

 

ジェームズ・ワン監督最新作!期待に十分応える続編でテンション上がりっぱなし!「アクアマン/失われた王国」(2024)

ぷらすです。

先日、映画館でDCEUのラストを飾る作品『アクアマン/失われた王国』を鑑賞しました。前作に続き我らがジェームズ・ワンが監督ということで期待値爆上がりで観に行ったんですが、正直、前作には及ばなかったけど、期待には十分応えてくれる”普通に面白い作品”になっていましたねー。

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概要

海底王国アトランティスの末裔(まつえい)であるアクアマンが主人公のアクション『アクアマン』の続編。海洋生物と意思の疎通ができるアクアマンが、世界存亡の危機に立ち向かう。監督を手掛けるのは『ソウ』『インシディアス』シリーズなどに携わってきたジェームズ・ワン。前作でアクアマンを演じたジェイソン・モモアが続投し、『エッジ・オブ・バイオレンス』などのパトリック・ウィルソン、『ロンドン・フィールズ』などのアンバー・ハード、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世、ニコール・キッドマンらが出演する。(シネマトゥディより引用)

感想

DCEUのラストを飾る

本作は、DCコミックスのヒーローたちが共演する「DCエクステンデッド・ユニバース」(DCEU)の第13作目にして最後の作品となります。

そのへんの詳しい経緯については当ブログでも何度も触れていますが、超ザックリ言うと世界的で爆発的ヒットを飛ばした同じくアメコミ原作シリーズMCUを真似したけど上手く行かず、すったもんだ紆余曲折の大迷走の挙句に「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のジェームズ・ガンをCEOに招いて「DCユニバース」(DCU)として仕切り直すことになったんですね。

しかし、この問題の責任は制作側や作品の出来云々ではなく、DCや親会社ワーナーブラザースの経営陣にあるというのが僕の個人的な意見。

ザック・スナイダー主導体制で2013年「マン・オブ・スティール」からスタートしたDCEUは、1980年代のアメコミ・通称「モダンエイジ」の作品をベースにしています。

「モダンエイジ」とはざっくり言うと過剰な暴力表現や大人の鑑賞にも耐えるダークで“括弧つき“のリアルな世界観のヒーローコミックのこと。

DCEUの前身でもあるクリストファー・ノーラン監督「ダークナイト」三部作の成功で、こちらの方向に舵を切ったDCEUは、興行成績は悪くないものの評判の方は正直芳しくなかったし、作品を重ねるごとに批判も増えていったんですね。

そんなある意味ジリ貧だったDCEUを救ったのが2017年の「ワンダーウーマン」であり、我らがジェームズ・ワン監督の「アクアマン」だったわけです。

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特にアクアマンは、それまでの暗くて「リアル」ないわば厨二的DCEU世界に、アッパーで楽しいヒーロー像やストーリーなど小5男子的世界を持ち込んだことで、DCEUに転機をもたらしたと言っても過言ではない作品でした。

しかし、その後のDCEUは、DCや親会社ワーナー経営陣の作品への介入や度重なる方向転換や梯子外しが相次ぎ大迷走。
その末に2022年にDCフィルムズに代わるDCスタジオを設立。CEOにジェームズ・ガンとピーター・サフランを任命し、DCEUもDCUとしてリスタートを切る事になったわけです。

そんな大迷走の真っ最中に制作されていたのが本作「アクアマン/失われた王国」で、噂で聞く限り、ジェームズ・ワンも作品以外の部分で相当苦労させられたのだとか。

そんな状況下でも本作をしっかり普通に面白い作品に仕上げたのは、さすがワン監督だなーと思いましたねー。

ジェームズ・ワンとは

そんな前作「アクアマン」とその続編となる本作「アクアマン/失われた王国」を監督したジェームズ・ワンは中国系でマレーシア・クチンで生まれ。幼少期にオーストラリアのパースへ移住し、メルボルンのロイヤルメルボルン工科大学でリー・ワネルと出会って、2人で映画製作をするように。

その後、低予算のため18日間という短期間で撮影された初の長編映画「ソウ」が世界的大ヒットとなり、その後、「デッド・サイレンス」「インシディアス」シリーズ「死霊館」シリーズなど、主にホラー映画で次々にヒットを飛ばす一方で、「狼の死刑宣告」やワイルドスピード7作目「ワイルド・スピード SKY MISSION」などアクション大作でも高い評価を受け、今や、ハリウッドを代表する監督・プロデューサーの一人になっているんですね。

そんな彼の作風はとにかくサービス精神が旺盛。観客が求めていると思えば他の映画監督がやりたがらないようなベタすぎてちょっとダサいストーリー展開や設定も衒いなく作品に盛り込んでいくんですね。

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基本、映画監督って引き算でスタイリッシュな作品を作りたがる傾向があると思うんですけど、ワン監督は逆で、お客さんが望むものは全部乗せていく足し算スタイルなのです。

なので、彼の事を職業監督的に思う人もいるかもですけど、決してそうじゃなく、ワン監督は本当にそれがカッコいい・面白いって思ってやっているし、むしろそれこそが彼独自の作家性に繋がっているのだと思います。

そして本作へ

そんなワン監督なので、本作でもとにかく盛って盛って盛りまくっています。

前作のヒロイン・メラと結婚して赤ん坊の父親になっているアクアマンことアーサー。冒頭ではアトランティスの王として会議に忙殺される一方、アクアベイビーの子育てにてんてこ舞いの様子が描かれています。

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そんな本作でメインヴィランとなるのは、ブラックマンタことデイビッド・ケイン。

父を見捨て死なせたアーサーへの復讐心は消えておらず、前作で破壊されたパワードスーツのようなアトランティス製のオーパーツを探し南極を探索。そこで偶然、闇の銛・ブラック・トライデントとアトランティスの超兵器を手に入れた彼は―――というストーリー。地球滅亡を防ぐため、アーサーは前作のヴィランで弟のオームと協力する事になるんですね。

そう書くと、いろいろ暗い要素や葛藤シーンが入りそうなもんですが、基本本作は単純バカで脳筋の兄アーサーに知能派?で真面目な弟オームが振り回される展開が続くんですよねw

そして、劇中では「スター・ウォーズ」を始め様々な映画の「オマージュ」というより、その要素を抜き出して物語に落とし込んでいたり、劇中登場する敵の母艦やメカのデザインは「海底二万里」や「宇宙戦争」などの古典SFを連想させる作りになっているもの楽しいです。

あと、本作では原作マンガでもアクアマンのサイドキックになるタコのトポも登場。これがメッチャ可愛いし、二人の関係はどこかルークとR2D2を連想したりもします。出来るならもうちょっとトポの活躍シーンが観たかったですねー。

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あとはもう、僕らが「こうなって欲しい」「こうなったらいいな」という展開は全部入っているし、最初から最後までアッパーな展開が続くのでずっとテンションが上がりっぱなしでした。

ただまぁ、前作ほどの衝撃はなくて、とにかく普通に面白かったという印象ではあるんですけども。そこはまぁ、前述したように制作中、あちこちから横槍が入ったり、もしかしたら当初3部作の構想で進んでいたのが突然2作で打ち切りになったなんて事もあったのかな?なんて邪推したり。

それでも、ワン監督は最後は職人的にしっかり物語を〆てみせたし、これからスタートを切るジェームズ・ガン率いるDCUへのいい橋渡しになっていたと思いましたねー。

興味のある方は是非!!