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細田守はアニメーターに徹した方がいい「竜とそばかすの姫」(2021)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、日本のアニメ界を牽引するトップランナーの一人、細田守監督最新作『竜とそばかすの姫』ですよー!

配信の都合かAmazonでも中々レンタルにならなかったり、なったと思ったらちょっとお値段が高かったりして観られなかったんですが、先日やっとブルーレイ・DVDのレンタル開始に合わせて普通の値段でレンタルが始まったので、観ることにしました。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

おおかみこどもの雨と雪』や、アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされた『未来のミライ』などの細田守が監督を務めたアニメーション。“もうひとつの現実”と呼ばれる巨大インターネット空間の仮想世界を舞台に、心に傷を抱え自分を見失った17歳の女子高生が、未知の存在との遭遇を通して成長していく。企画・制作は、細田監督らが設立したアニメーション制作会社・スタジオ地図が担当する。(シネマトゥディより引用)

感想

新作発表のたび賛否が分かれる細田守最新作

細田守といえば、今や日本のアニメ界を牽引するトップランナーの一人であることに異論のある人はいないでしょう。

しかし一方で、自身が脚本も務めるようになった「バケモノの子」以降は、賛否で言えば否の意見を多く見かける印象。

アニメーションに関して言うなら、作品を重ねるごとに映像の美しさやアニメーションの技術レベルが上がっているのは間違いなく、だとすれば批判ポイントはストーリーテリングにあると言わざるを得ず、また、その後ろに見え隠れする、細田守という作家が持つ思想の時代遅れ…というより時代錯誤感に対し、多くの観客が違和感や拒絶感を感じているのではないでしょうか。

細田守監督と僕は同い年なので、彼が影響を受け作品に影響を与えたコンテンツ、作品でやりたい事や言いたい事は大体分かるつもりではいますが、それでも、ストーリーテリング、特に「バケモノの子」~本作までの作劇については首を捻らざるを得ないんですよね。

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本作においては、Disneyアニメの「美女と野獣」をやりたかったというだけあって、主人公・鈴を演じたシンガーソングライター中村佳穂の歌声や、音楽と3Dアニメのコラボレーションは非常に素晴らしいんですが、ストーリーの方はあまりにもお粗末というか、特に誰もが指摘するクライマックス以降の展開は、「フィクションだから、アニメだから」では済まされない杜撰さで、さすがに容認できないと思いましたねー。

というわけで、ここから先はネタバレするので、まだ本作を観てない人や内容を知りたくない人は、映画を観てからこの続きを読んで下さい。

いいですね?注意しましたよ?

 

ざっくりストーリー紹介

17才の少女・内藤鈴(中村佳穂)は6歳の時に母を亡くしてから歌を歌えなくなり、役所広司)との関係にも溝が生まれていた。

作曲だけが生き甲斐となっていたすずはある日、ネットに詳しい親友ヒロちゃん(幾田りら)の手引きで、全世界50億人以上が登録するインターネット上の仮想世界〈U〉にベルというアバターで登録。自作の歌を披露し瞬く間に歌姫として人気を得るようになる。

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そんなある日、大規模ライブの最中に突如謎の竜が現れ〈U〉の自警団を相手に大暴れ。ライブはメチャクチャになり、怒ったファンによって「竜の正体探し」が始まる。

というストーリー。

本作の〈U〉は、明らかに「サマーウォーズ」のOZ(オズ)の焼き直しで、映像的には数段美しくなっているのに、何故か初めてOZを見た時ほどのワクワク感はありませんでした。

様々なノイズ

で、これも多くの人が指摘してますが、〈U〉にアバター登録をすると、勝手に生体情報などを読み取られて、自動生成されるアバターに反映するんですけど……え、それ普通に嫌じゃね?っていう。

例えば鈴のアバターであるベルのデザインには、鈴のそばかすが反映してるし、竜のアバターには正体である少年・佐藤健)が虐待を受けて出来た背中の痣が反映してるわけですよ。

それって、ネットのアバターに自身のコンプレックスが反映されるってことだし、それ以前に勝手に生体情報読み取られるとかめっちゃ怖くないですか?
僕だったらそんなSNSには絶対登録しませんけどねー。

これって、終盤で背中の痣が竜の正体探しのヒントになるっていう展開のための振りなんですが、結局作り手の都合で作られた、このヘンテコ設定が物語にとってノイズになってしまっているわけですよね。

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それにOZの時と一緒で、この〈U〉にも大量の雑魚アバターみたいのがいるわけですが、ユーザーの彼ら(彼女ら)は一体、現実の何を反映されてあの姿になったのかっていう疑問も生まれます。

竜の事で言えば、〈U〉の格ゲー?の中で、相手のデーターが壊れるくらい徹底的にアバターを破壊するくらい乱暴なヤツで、〈U〉の秩序を乱す者として自警団に追われ、〈U〉のユーザーたちからも忌嫌われてる――という設定なんですが、多分格ゲーでの彼の行為は嫌われる戦法ではあっても、データ改ざんなどの「違法」ではないハズなんですよね。(違法なら運営にBANされるハズだし)
むしろ格闘でデーターが壊れるなら、それは竜ではなく〈U〉のシステムに問題があるわけじゃないですか。

一方、竜の正体を暴いて〈U〉から追放しようとする自警団のリーダー・ジャスティ森川智之)は、撃たれると〈U〉に個人情報を晒される謎ビーム砲を装着し、竜の居場所を知ってると睨んだベルを監禁。「竜の居場所を言わないとこれでお前の正体を晒してやる」と脅迫する始末。

え、何でこの人BANされないの?っていう。

これだけ高度な仮想空間なら多分、全行動・言動のログも残ってるでしょ。

鈴の現実で言うと、彼女は高知県に暮らす少女でいわゆる「陰キャ」らしいんですが、普通に親友も友達もいるし、彼女の事を想う男の子もいるし、母親の友達のおばさんたちにも可愛がられ、お父さんにも心配されてる。

確かにルックは地味かもだけど、誰かにいじめられてるわけでもなく、他人とコミュニケーションのとれるごく普通の女の子なんですよ。

一方の恵(竜の正体)は家で父親に虐待を受け、誰にも助けて貰えず、(恐らく)障害を持つ弟を父親の暴力から守るため、一人奮闘してるわけで。

本来、この二人は鏡合わせのキャラクターにしたかったと思うんだけど、共通しているのは〈母親に捨てられた〉と思い込んでいるところだけで、それ以外の二人の環境は全然釣り合ってないというか、なので鈴(ベル)が恵(竜)にしてるのは共感ではなく同情でしかない。

だとしたら、ベルは竜の一体どこにどのように惹かれたのかがよく分からないんですよね。

で、物語的には〈U〉で鈴が歌姫ベルとして名を馳せていく流れと、現実世界で友達や知り合いと和気あいあいと暮らす鈴の日常の流れが終盤で合流するいつものヤツですが、例えば鈴と父親、鈴としのぶくん成田凌)、ルカちゃん(渡辺瑠果)と鈴、ベルと竜、鈴と母、鈴と恵など、色んな要素を持つ一つ一つのエピソードの繋ぎが荒く、物語がとっ散らかったまま無理矢理進むので、それがまたノイズになっちゃうんですよね。

特に中盤以降のインターネット表現なんかは、いかにもおっさんが聞きかじった情報をもとに考えたような、個人情報の取り扱いがしっちゃかめっちゃかで、ネットやSNSのマイナスイメージの方ばかりがクローズアップされてるし、結局自分を晒さないと信用生えられないっていう結論もまたオッサンくさいじゃないですか。

今の時代に合ってないというか、今現在のネットの流れみたいなものをちゃんと掴めてない感じなんですよね。

クライマックスと結末

そして問題の終盤からクライマックス。

竜の正体が父親に虐待された兄弟だと分かりライブチャットで会話するんですが、恵は鈴がベルだとは知らないので、彼女の「助ける」という言葉もただの冷やかしだと思って居場所を言わずに連絡を切ってしまう。

何とか二人の居場所を知りたいけれど、そのためには鈴=ベルだと恵に信用してもらわなければならない。

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で、しのぶくんが「正体を晒して歌うしかない」って言うわけですよ。

この時点でかなり無理矢理すぎる展開ではあるし、いかにもおっさん的なネット感だと思うけど、ここは100歩譲るとして

それで、〈U〉内で正体を晒し歌うことで恵との連絡が再開出来たわけですが、そこで恵が住所を言う前に恵の親父が部屋に踏み込んできて連絡を切られ、でもチャット映像や音の情報から何とか恵たちの居場所を特定。

母親の友達が警察か児童相談所に保護の要請をするも、規則でうんぬんかんぬん役に立たず。

その間に鈴はその場を飛び出し、電車に飛び乗って高知から東京近郊?まで一人で向かうわけですよ。

その駅まで車で送った母友「ホントに良かったのかな」……って。

いいわけねぇだろ!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ

それに対し、もう一人の母友「鈴が決めた事だから」

ふざけんな!(。・д・)ノ)´Д`)ビシッ

子供を虐待する親父のいる家に、17才の女の子一人で行かせるなんてダメに決まってるでしょ!

で、さらに電車の中で父親に「黙って出てきてごめんなさい」的なラインする鈴。
それに対し「合唱団(母友)のおばさんから連絡を受けた。お前にもお母さんと同じ様に優しい子に育ってくれて嬉しい」的な返信をする父親……って、

この映画にまともな大人は一人もいないのかーい!<(@Д@)>

恵のオヤジが虐待オヤジなら、鈴のオヤジはネグレクトオヤジだったよ!

もう一度いいますけど、相手は自分の息子を虐待するイカれたオヤジですよ?
そこに17才の娘を一人でいかせるとか、頭おかしいでしょ。

100歩譲って、止めるまえに電車に乗っちゃったっていうなら、せめて車で追いかけろよ!

で、案の定、虐待オヤジから二人を守ろうとした鈴は、虐待オヤジに引っかかれて頬っぺたから流血ですよ。

それでも二人を守るため虐待オヤジの前に立ちはだかった鈴の気力に気圧された虐待オヤジは(二人を残して)逃げるように家に戻り、鈴の行動に勇気づけられた恵は、これからは父親に立ち向かうと鈴に誓う―――って、何一つ解決してねぇええええ!!orz

 

(深呼吸・深呼吸)

いやね、別にこっちだってフィクションにリアリティーなんて求めてませんよ。
現実的にはいくら無理があっても、映画を観て間だけコッチが納得できる内容なら文句はいいません。

でもさ、これは流石にダメでしょ。

フィクションだからでは許容できない、ある意味あまりにも(大人の書く物語として)無責任すぎる。
細田監督的には、この展開をドラマチックで良き事みたいに捉えているのかもだけど、全然いい話じゃないし、むしろ周りの大人たちが役立たずっぷりにただ腹が立つだけでしたよ!
何してんだお前ら!と。っていうか、その場にいた友達も誰か一人くらいついてってやれや! しのぶくん、お前鈴の事好きなんちゃうんかい!

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前述したように、鈴が電車に乗っちゃったなら、車で父親が追いかけるとか、合唱団おばさんに連絡を受けた父親が駅で待ってて車で一緒に行くとか。
で、現地では鈴の父親が虐待オヤジに対して大人の知恵で対処するとか、いくらでもやりようはあったハズなのに、なぜよりによってこんな無茶苦茶な展開を選んだのかと。

結局、地元に戻ってきた鈴を駅で父親(と仲間たち)が待ってて、何となくハッピーエンドみたいになってるけど、何一つ解決もしてないし、終わってもいない。

虐待オヤジと恵たちのその後も、〈U〉で正体を晒した鈴のその後も全部投げっぱなし。

せめてエンドクレジットの止め絵でもいいから、物語に何かしらの決着(オチ)を付けてみせるのが創作者の責任ではないかと、僕は思うんですけどね。

もちろん、好意的に解釈しようと思えば出来ないことはないですよ。
でもね、そこまで受け手が負担を背負わなきゃならない作品ってどうなんですかね?

細田守は今後アニメーターに専念するべき

事程左様に、自身が監督と脚本を兼任するようになってからの細田作品のストーリーテリングはひどくなる一方。
それでも、これまではアニメーションの技術、映像の美しさで誤魔化されてきたけど、本作に至って、さすがにこりゃぁダメでしょって思いましたねー。

前述したように、細田守と言えばアニメーション監督としては日本でトップレベルなわけで、だったら今後はちゃんと脚本家と組んで、自身はアニメーションに専念した方がいいんじゃないかって強く思いました。

興味のある方は是非!

 

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