今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

アニメーション作家宮崎駿の自伝「風立ちぬ」(2013)

ぷらすです。

こ今回ご紹介するのは、前回の高畑勲監督「かぐや姫の物語」に引き続き、宮崎駿監督の『風立ちぬ』ですよー!

この作品を最後に引退を決めて臨んだ宮崎さん渾身の本作は、堀越二郎を自身に、飛行機をアニメーションに重ね合わせて、アニメーションを作る事の葛藤や苦悩を赤裸々に描いた、まさに(当時の)宮崎駿監督の遺言といえる(ハズの)作品でしたねー!

http://eiga.k-img.com/images/movie/77932/poster3.jpg?1396887131

画像出典元URL:http://eiga.com

概要

宮崎駿監督がゼロ戦の設計者・堀越二郎と作家の堀辰雄をモデルに、1930年代の日本で飛行機作りに情熱を傾けた青年の姿を描くアニメ。美しい飛行機を製作したいという夢を抱く青年が成し遂げたゼロ戦の誕生、そして青年と少女との出会いと別れをつづる。主人公の声には『エヴァンゲリオン』シリーズなどの庵野秀明監督を抜てき。ほかに、瀧本美織西島秀俊野村萬斎などが声優として参加する。希代の飛行機を作った青年の生きざまと共に、大正から昭和の社会の様子や日本の原風景にも注目。(シネマトゥディより引用)

感想

僕が本作を観るのは、今回が2回目になります。

宮崎さんの作品は個人的に「もののけ姫」あたりから、1回見ただけではピンと来なくて2回見てやっと物語が飲み込めるような作品ばかり(ポニョは除く)で、本作も公開時に劇場で観たとき、言わんとしている事は何となく分かるものの正直ピンとこなくて、今回改めて観て「こういう物語だったのか」と、やっと素直に飲み込めました。

アニメーター宮崎駿

それは多分、宮崎さんがストーリーテラーではなく、アニメーターであることが大きな要因になっていて、つまり物語を絵と動きで語るのが宮崎作品の大きな魅力なんですが、作品を重ねるごとにワンシーンに描かれる映像の情報量が増えていって、1度見ただけでは(少なくとも僕の)脳が宮崎さんの細かな映像演出を処理しきれなかったって事なんだと思います。

高畑さんはご自身が絵を描く人ではないストーリーテラーで、「物語を語るためにアニメーションを作るタイプ」の作家で、逆に宮崎さんは自身がアニメーターなので、「アニメーションを見せるために物語を作っていくタイプ」の作家なんですよね。

ただ、「もののけ姫」以降の宮崎作品では、宮崎さん自身の言いたいこと伝えたいことが前面に出てきていて、それをアニメーションで語ろうとするので情報量が増え、一度観ただけでは飲み込みづらくなってしまったのではないかと。

同時にそれは、アニメーション作家としての宮崎駿の苦悩や葛藤に直結していったのではないかと思ったりしました。

二人の宮崎駿

本作が、堀辰雄の小説『風立ちぬ』からの着想を得て、実在の人物でゼロ戦の設計者堀越二郎の半生を“完全なフィクション”として描いた作品なのは、今更説明するまでもないことですが、前述したようにこの作品を通して宮崎さんは自身を赤裸々なまでにさらけ出しています。

堀越二郎と飛行機の関係にはアニメーションとアニメ作家としての宮崎さんが、「風立ちぬ」の主人公「私」にはロマンチストの宮崎さんを。
宮崎駿という人間を構成する二つの大きな要素をそれぞれの物語の主人公に乗せて、本作の主人公 堀越二郎を作り上げていったのです。

祝福と呪い

劇中、次郎が尊敬するイタリアの飛行機設計士カプローニは、夢の中で繰り返し飛行機を作る事の祝福と呪いについて語ります。
それに対し次郎は「美しい飛行機が作りたい」と返しますよね。

それはそのまま、宮崎さんとアニメーションの関係を表していて、アニメーションやスタジオジブリは、アニメ作家宮崎駿にとって大きな祝福であると同時に、苦しめ続ける呪いでもあるのです。

転じて、宮崎さんが抱えるアニメーションへのそれは、(恐らく)ジャンルを問わず全てのクリエイターにとって同じ、普遍的な苦悩であり葛藤でもあるのではないかと僕は想像するんですよね。(クリエイターではないので想像する事しか出来ませんが)

またカプローニは次郎に「創造的な人生の持ち時間は10年だ」と言います。
それは、宮崎さんが作家として(実感を伴う)「老い」について語っているわけで、カプローニもまた宮崎さん自身なんですね。

公開時、本作がクリエイターの人たちに熱く支持されたのは、この作品が作家宮崎駿の自伝であり、クリエイト論だからなんだと思いました。

そんな自分語りのキャラクターに堀越二郎をあてたのは多分、宮崎さんが数千人の従業員を擁した一族が経営する「宮崎航空興学」の役員を務める一家に生まれたという事が深く関係してるように思うんですよね。

菜穂子との純愛

本作は、宮崎さんが初めて男女の純愛を真正面から描いたことでも話題になりました。

http://eiga.k-img.com/images/movie/77932/gallery/main2_large.jpg?1396887131

画像出典元URL:http://eiga.com

美しく活発な菜穂子でしたが、(当時は)不治の病である結核を患ってサナトリウムに入院。しかし、自らの死期を悟った彼女はサナトリウムを抜け出して、次郎の上司黒田の離れで短い結婚生活を送り、次郎に黙ってサナトリウムに戻っていきます。

現代の価値観で見れば、彼女は次郎にとって都合のいい女性に見えなくもないですが、美しい自分だけを次郎の記憶に残したいと願い、自ら身を引く彼女の矜持は「カリオストロの城」のクラリス以降、宮崎さんが描き続けてきた(芯の)強いヒロインの集大成と言えるでしょう。

あと、次郎が夢の中で菜穂子に「生きて」と言われるラスト。
あのセリフを巡って何か色々な都市伝説があるようですが、僕はあの菜穂子のセリフは、アニメーションの現場で長年共に戦い、亡くなっていった戦友の人たちを思いながら、宮崎さんが書いたセリフなのではないかと思いました。

同時に現代を戦う後輩たちへの、宮崎さんからの手向けの言葉でもあるのではないかと、そんな風に思ったんですよね。

宮崎駿高畑勲

前回の「かぐや姫の物語」でも書きましたが、宮崎さんと高畑さんは作品に対する姿勢もアプローチも真逆です。
高畑さんは主人公の向こうにある「世界」を描き、宮崎さんは「世界」の中の主人公を描くというか。

それって、小津安二郎黒澤明の作品に対するアプローチの違いにどこか似ていると思うんですよね。

まぁ、超面倒くさい人って意味では、高畑さんも宮崎さんも同類なんだろうと思いますけどもw

ともあれ、こうして高畑さんの「かぐや姫」宮崎さんの「風立ちぬ」を並べて観てみると、タイプは違えど二人が天才作家なのは間違いなく、そんな二人がスタジオジブリという場所で互いの作品を意識し合い影響を受けながら、こんなにスゴイ作品を作ったこと、それと同じ時代を生き、両者の作品をこうして観ることが出来るのは本当に幸せなことなんだって思いましたねー。

興味のある方は是非!!!

 

▼よかったらポチっとお願いします▼


映画レビューランキング

 

▼関連作品感想リンク▼

aozprapurasu.hatenablog.com

高畑勲の遺言「かぐや姫の物語」(2013)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、先日惜しまれながらこの世を去ったアニメ界の巨匠 高畑勲監督の遺作『かぐや姫の物語』ですよー!

僕は、劇場版の宮崎作品は一通り観ていますが、高畑さんの作品は「火垂るの墓」以降一本も観ていなかったんですね。
この作品が公開された時も観よう観ようと思いつつ、グズグズ観ないでいる間に高畑さんが亡くなったというニュースを知りまして。

もっと早く観ればよかったと後悔しつつ、この機会に本作をちゃんと観ようと思ったわけです。

で、実際に観てみたらとんでもなく凄い作品で、何故、公開時劇場で観なかったのかと激しく後悔しましたよ。つまり、僕の『罪と罰』は公開時に本作を観ずに、今後悔している事って事になるんでしょうね。(公開時に観ていたらここまでの衝撃は受けなかったかもですが)

http://eiga.k-img.com/images/movie/77933/poster2.jpg?1396888186

画像出典元URL:http://eiga.com

概要

数々の傑作を生み出してきたスタジオジブリの巨匠、高畑勲監督が手掛けた劇場アニメ。日本で最も古い物語といわれる「竹取物語」を題材に、かぐや姫はどうして地球に生まれやがて月へ帰っていったのか、知られざるかぐや姫の心情と謎めいた運命の物語を水彩画のようなタッチで描く。声優陣には、ヒロインかぐや姫にテレビドラマ「とめはねっ! 鈴里高校書道部」などの朝倉あき、その幼なじみを高良健吾が務めるほか、地井武男宮本信子など多彩な面々がそろう。(シネマトゥディより引用)

感想

別に言い訳ではないんですが、高畑勲ジブリで作る最新作が「竹取物語」と聞いたとき、僕も含めて「なぜ今更『竹取物語』なのか」って思った人は多かったんじゃないかと思います。

恐らくこの国に生まれた人なら知らない人はいないだろう、日本最古と言われる物語。

そんなの今更どう映画にするのか、新解釈と言っても何をどう解釈する余地があるのか。(市川崑の「竹取物語みたいにするのか?)そもそもそれは面白いのか。
正直に言うとそんな風に思ったし、個人的には「火垂るの墓」以降ちょっとした高畑作品アレルギーになっていた事もあって、中々この作品に手が出せずにいたんですね。

で、今回初めて本作をちゃんと観たら、そんなアレコレは全部吹っ飛んで、高畑勲宮崎駿を越える天才だったことを思い知りましたねー。

商業アニメーションの限界を越える表現

本作を観ていない人でも、予告などで断片的に本作のアニメーションを観た人は多いんじゃないかと思います。

背景の上にセル画に書いたキャラクターを動かす、いわゆる商業アニメの技法ではなく、本作では鉛筆で手書きされたキャラクターや背景の線に、水彩画のタッチで彩色され、線の震えや筆の滲みまでそのままアニメーションとして活かされているっていう、およそ2時間を越える商業アニメでは不可能とも思える手法を、田辺 修らジブリの凄腕アニメーターたちの途方もない労力よって実現したんですね。

そして、その表現方法自体が本作のテーマと深くリンクしているわけです。

特に圧巻なのは、翁に拾われたかぐや姫が赤ん坊になり、どんどん成長していく、物語で言えば起・承の部分。

http://eiga.k-img.com/images/movie/77933/gallery/sub02_large.jpg?1396888186

画像出典元URL:http://eiga.com

赤ん坊のかぐや姫が寝返りからハイハイ、カエルを見つけて飛び跳ねようとして縁側から落ちて立ち上がって歩き始める。
その一つ一つの過程で、かぐや姫が数ヶ月分成長していく細かい変化が目に見えて分かるんですよ。

そして、歩き始めたかぐや姫を翁が呼んで、近づいてくるかぐや姫への愛が溢れすぎて思わず自分から駆け寄って抱きしめるシーンの表情や動き、媼がかぐや姫にお乳を上げる時に僅かに若返るシーンなどなど。

見所満載すぎて、一度見ただけでは多分このアニメーションの本当の凄さは把握しきれないと思いましたねー!

高畑勲による竹取物語の新解釈

高畑さんは「竹取物語」を長編アニメーションにするにあたって、何を変えて何を変えなかったのかというと、基本のストーリーラインはそのままに、ただほぼ全編をかぐや姫の視点で描き直したんですね。

ぶっちゃけ原作の(というか僕らが絵本などで知っている)かぐや姫は、求婚者に無理難題を押し付けるお高く止まった意地悪なお姫様で、大騒ぎの挙句勝手に月に帰るっていうある意味身勝手なキャラクターに見えます。

http://eiga.k-img.com/images/movie/77933/gallery/sub01_large.jpg?1396888186

画像出典元URL:http://eiga.com

それを、徹底してかぐや姫の視点で語り直すことで彼女が何を考え、なぜそうしたのかと納得できる説明をつけながら、かぐや姫に現代女性の視点を持たせることで観客はかぐや姫に対して深く感情移入するように設計されています。

対して翁の方は、高い身分の男性の嫁にする事が娘の幸せであるという古い価値観を持つキャラクターなので、ここにかぐや姫の考える幸せとの齟齬が生じるわけですね。

そして、もう一つの変更点は(今更ネタバレもないと思うので書きますけど)、ラストでかぐや姫を迎えに来る月の使者。
彼らを見れば、月が死後の世界なのは一目瞭然で、つまり高畑さんはかぐや姫というキャラクターを通して人間が生まれてから成長し年老いて死ぬまで、人間の一生を描き、生きることの(苦しさや失敗も含めた)素晴らしさや尊さを観客に伝えようとしているんですね。

なので、帝に求婚されたあと翁と媼に「月に帰らなければならない」と告げるシーンは些か唐突に見えるかもですが、それは当然で、死とは誰の身にも唐突かつ理不尽に降り注ぐものだからです。

こうして文字で書いてしまえばほんの数行ですが、ストーリーラインは誰もが知っている竹取物語そのままに、視点の変更やほんの少しの変更で、僕が“知った気になっていた”古典を現代に通じる普遍的な物語へと変えてしまう高畑さんのストーリーテリング能力に、「やべぇ、この人天才だった!」と思い知って、思わず震えましたねー。

高畑勲の遺言

同時に、この物語を僕は高畑勲の遺言」なのだと思いました。

それは高畑さんが亡くなってからこの作品を観たからそう思うのかもしれませんが、上記のようなテーマの他に、アニメ監督としての高畑勲の姿勢や作品に対してのアプローチが入っているように思ったからです。

劇中、都に暮らすようになったかぐや姫は、屋敷の裏庭の畑に植物を植えます。
夏になり「草が伸びてきたわね」と言う媼に、かぐや姫が「こうやって観ると見え方が変わるの」と顔を地面すれすれにして草の隙間から覗くと、そこは草花を故郷の竹林に見立てた箱庭になっているんですね。

僕はこのかぐや姫の視点こそが、クリエイターとしての高畑さんの視点そのものなのではないかと思いました。

盟友でライバルの宮崎さんが、主人公を取り巻く「セカイ」を広げることでストーリーを構築しテーマや思想を描くのに対して、高畑さんは小さな「セカイ」を切り取って描くその先に大きな世界が広がっているというか。上手く言えないけどそういう感じがずっとしていて、本作の箱庭のシーンは、まさにそういう高畑さんのアニメに対する姿勢やアプローチを象徴しているように感じたんですよね。

風立ちぬ」が作家宮崎駿のクリエイター論であり(当時の段階で)遺書であるのと同じく、本作は作家高畑勲のクリエイター論であり遺書なのだと、そんな風に思いました。

なのでこれは両作を並べて観なければと思いまして、次は久しぶりに「風立ちぬ」を観ますよー!

興味のある方は是非!!

 

▼よかったらポチっとお願いします▼


映画レビューランキング

 

“シーザー三部作”の完結編として申し分なし!「猿の惑星 聖戦記(グレート・ウォー)」(2017)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、1960年代後半から70年代にかけて記録的大ヒットした映画「猿の惑星」の前日譚を描いた「創世記」「新世紀」に続く“シーザー”三部作完結編『猿の惑星 聖戦記(グレート・ウォー)』ですよー!

前作・前々作で、「抱かれたいエイプ ナンバー1」の地位を不動のものにした主人公シーザーと、絶滅危惧種となった人間たちが最後の戦いに臨む一大叙事詩です!

http://eiga.k-img.com/images/movie/86144/photo/f99311ad45274ba8.jpg?1505379625

画像出典元URL:http://eiga.com

概要

猿の惑星』の前日譚(たん)を描いた『猿の惑星:創世記ジェネシス)』『猿の惑星:新世紀(ライジング)』の続編となるSF大作。猿と人類が地球の支配者を決する戦いの一方で、自らの種族を守るべく行動する猿のリーダー・シーザーの心の葛藤も映す。シーザーは、前2作に続きアンディ・サーキスが演じる。共演は、ジュディ・グリアウディ・ハレルソンら。監督は前作と同じくマット・リーヴスが務める。(シネマトゥデイより引用)

感想

猿の惑星」とは

1963年フランスの作家ピエール・ブールが出版したSF小説猿の惑星』を、1968年にチャールトン・ヘストン主演で映画化。

宇宙飛行士を乗せた宇宙船が地球への帰還中、トラブルで謎の惑星に不時着したら、そこは進化した猿が人間を支配する惑星だったという内容と衝撃的なラストで大ヒット。
その後、5作に渡りシリーズ化された伝説的な映画です。

2001年にティム・バートン監督で「PLANET OF THE APES/猿の惑星」としてリブートされたものの評判は悪く一本で打ち切り。

2011年、オリジナル版の前日譚としてリブートされたのが、「猿の惑星 創世記」でした。
モーションキャプチャーでリアルに描かれた主人公シーザーや、仲間となる猿たちが人間の作り出した新薬によって進化、自由のために人間に反乱を起こすという内容で大ヒット。

2014年に公開された続編「~新世紀」では、人間との共存を図るシーザーと、人間に深い恨みを持つコバの対立や、猿インフルエンザウィルスの蔓延によって滅び行く人間との戦いを描き、昨年公開された本作では人間と猿との最後の戦いを描いているんですねー。

復讐の鬼と化したシーザーと大佐

本作は猿(エイプ)たちが暮らす森を兵士(人間)たちが急襲するシーンからスタート。過激派のコバが引き起こした戦争が、未だ続いている事がわかります。

多くの犠牲を払いながらも兵士を返り討ちにしたシーザー率いるエイプたちは、生き残った兵士に「自分たちを放っておけば、戦争は終わる」とリーダーである“大佐”(ウディ・ハレルソン)に伝えるように言って開放。

その日、安住の地を探しに出ていた息子ブルーアイズたちが戻り、エイプたちは翌日森を出て移動を開始する予定を立てます。

http://eiga.k-img.com/images/movie/86144/photo/c0671090a6c129bc/640.jpg?1498705281

画像出典元URL:http://eiga.com

しかしその夜、大佐率いる兵士の急襲によってシーザーは最愛の妻と息子ブルーアイズを失い、復讐のために大佐を追う――という物語なんですね。

http://eiga.k-img.com/images/movie/86144/photo/4aa59c37c5da2142/640.jpg?1498713011

画像出典元URL:http://eiga.com

そんな本作で鍵となるのが、ALZ113こと猿インフルエンザ。

元々はアルツハイマー治療の新薬として開発されたワクチンでしたが、実験のためエイプに投与したところエイプの知性が進化。しかし、エイプの体内でワクチンは変異し、多くの人命を奪う恐ろしいウィルスになってしまったんですね。

http://eiga.k-img.com/images/movie/86144/photo/6e45ce40155ce35c/640.jpg?1498705283

画像出典元URL:http://eiga.com / 張り詰めた物語の中、少女ノヴァ(アミア・ミラー)とモーリスの触れ合いにホッとする。

本作では、そのALZ113が更なる変異を遂げ……と、オリジナル版に繋がるブリッジの役割を果たします。

重厚な展開とシーザーの苦悩

前作で決定的に対立したコバとシーザー。激しい対決の末、シーザーはコバを殺してしまいます。
この事で、人間のようにはならないと誓い「エイプはエイプを殺さない」という掟を掲げたシーザーは自ら、人間と同じ原罪を背負ってしまうんですね。

そして本作でシーザーはコバの亡霊(幻影)に苦しむ事になります。

さらには、長く続く戦いで多くの仲間を失い、また人間側についたゴリラのレッドなどエイプの中にも裏切り者が出て、シーザーの心は限界まで磨り減り、大佐に息子と妻を殺されたことで、ついに闇落ちしてしまうんですねー。

このシリーズでのシーザーは、エイプたちを導くいわばモーセ的な立ち位置で、彼の前に立ちはだかる様々な困難をどう克服していくのかという物語でもあるので、良く言えば重厚、悪く言えばひたすら重苦しい展開が続くのは致し方ない部分ではあると思うし、そこが好き嫌いの分かれるところかもしれません。
また、2時間を越える長い作品の割にストーリーの進みは遅いので、鈍重と感じる人も多いのかもですね。

ただ、前作「~新世紀」で準備期間が短かったこともあって本作では、監督と脚本の二人は十分な準備期間を取り、戦争映画を始め多くの映画を観ながら本作の構想を練ったそうです。
なので、本作には「地獄の黙示録」「戦場にかける橋」「大脱走」「ベン・ハー」「十戒」など、映画好きな人が観ればそれとわかるようなオマージュも沢山盛り込まれていて、それがただのオマージュに終わらずに、本作の物語にとって重要な役割も果たしているんですよね。(もちろん元ネタは知らなくても楽しめます)

そういうアレコレも含めて、個人的には“シーザー”三部作の完結編として申し分ない内容だと思ったし、十分に楽しめましたねー。

それでもあえて言うなら、人間側の基地のセキュリティー甘すぎじゃね? とは思いましたけどもw

進化する映像表現とアンディ・サーキスの名演

このシリーズを支えたのは、何と言っても進化し続けるCG技術です。
「~創世記」で、特殊メイクではなくモーションキャプチャーによって描かれたリアルなエイプたちには本当に驚かされたけど、この6年間でCG技術はさらに進歩して、最早CGの凄さで驚くんじゃなく、普通にエイプたちに感情移入して物語に感動するところまで来てるんですよね。

そして、それはVFX技術だけではなく、モーションアクターとして主人公のシーザーを3作にわたって演じ続けたアンディ・サーキスの名演あればこそ。

「創世記」では青年期の、「新世紀」では中年期の、そして本作では白髪まじりの毛と皺の深くなった初老のシーザーをVFXによって見事に再現し、アンディ・サーキスの素晴らしい演技によって、実在感のある“一人のキャラクター”として観客はシーザーに感情移入して応援していたと思います。

 

ぶっちゃけこのシリーズは、「ロードオブザリング」や「スターウォーズ」などほかのシリーズものと同じで、1作づつではあまり評価出来なくて、あくまで3作で一本の映画として観たほうがいいんじゃないかなって思います。

なので、このシリーズをまだ観ていない人は、「~創世記」から3本一気に観るとより深く楽しめるんじゃないかと思いましたねー。

興味のある方は是非!!

 

▼よかったらポチっとお願いします▼


映画レビューランキング

 

▼関連作品感想リンク▼

note.mu

宮崎駿作品を語ってみる-1「ルパン三世カリオストロの城」(1979)【Res-C】

ぷらすです。

僕が火曜日を担当しているブログマガジン「RE-C」に記事をアップしましたー!

res-c.blog.jp

興味のある方は是非ご一読くださーい!(´∀`)ノ

NWR版、本当は怖いグリム童話?「ネオン・デーモン」(2017) *ネタバレあり

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ドライヴ」のニコラス・ウィンディング・レフン(NWR)最新作、『ネオン・デーモン』ですよー!

ブロンソン」「ヴァルハラ・ライジング」「ドライヴ」「オンリー・ゴッド」と、これまで男性を主人公にした映画を撮ってきたNWRが、ファッション業界を舞台に女性の美を描いて賛否両論巻き起こした本作。

どんな物語かなと思って観たら、「本当は怖いグリム童話」の現代版みたいな作品でしたねー。
、今回は悪口多め。かつ最初からネタバレを気にせず感想を書いていくので、「ネタバレは(乂'ω')No!!」という人は、映画を観てからこの感想を読んでくださいねー。

いいですね? 注意しましたよ?

http://eiga.k-img.com/images/movie/84620/photo/b3f10d076f521ad1.jpg?1477443332

画像出典元URL:http://eiga.com

概要

『ドライヴ』などのニコラス・ウィンディング・レフン監督が、『マレフィセント』などのエル・ファニングを迎えて放つ衝撃作。ロサンゼルスのファッション業界を舞台に、美にとりつかれた女性たちの飽くなき欲望を絢爛(けんらん)たる映像と共に描き出す。『ハンガー・ゲーム』シリーズなどのジェナ・マローンが謎めいたメイクアップアーティストを怪演。クレイジーで華やかな街で繰り広げられるダークな物語が病みつきになる。(シネマトゥデイより引用)

感想

さてさて、そうは言ったもののどう書けばいいのか悩むところなんですがw

この映画の内容を一言で言うと「美少女が調子に乗ったら悲惨なことになった」です。

http://eiga.k-img.com/images/movie/84620/photo/0526acbc54cfd804/640.jpg?1478683093

画像出典元URL:http://eiga.com

思った以上にストレートな物語すぎて、もしかして物語に隠された深い意味があるのでは? とネットレビューを色々読んでみたんですが、特に劇中で語られる以上の“何か”はないっぽいんですよねーw

ストーリー

ざっくりストーリーを説明すると、田舎から出てきた16歳の美少女ジェシーがファッションモデルになったら、あれよあれよという間に出世していきまして。
調子に乗ったジェシー「ワシがこのファッション界の頂点を牛耳っちゃるけんのー!(*゚∀゚)=3」と息巻いた途端、先輩モデルやレズビアンのメイクさんに食べられちゃった(比喩ではない)っていう物語。

ぶっちゃけ、「世にも奇妙な物語」1話分くらいのストーリーを、NWR独特の原色バリバリでケレン味たっぷりの映像とクリフ・マルティネスのドラッギーな音楽、そしてキアヌ・リーブスの無駄遣いで117分に無理やり引き伸ばしたという、なんとも歪でヘンテコな映画でした。

レフンの考える美

NWRは、以前から「美しさ」に焦点を当てた作品を制作したかったそうで、インタビューで彼は、

「真の美とは、“不完全さ”だ。だからこそ、ナルシシズムはいい。何故かって、自分自身を美しく思い、愛することで、例え本当は綺麗でなくても自分をだますことが出来るからね。手が加えられていない、不完全なままでいられる。?

整形は、僕にとってもはや“死”を意味する。だから整形した女性を魅力的で、美しいと思うことは、屍姦の感覚に近いと思ってるよ。」

 と語っています。

正直何言ってるのかよく分からないんですが、多分そんなNWRの思考が現れているのが、劇中のファッションショーの打ち上げパーティーでデザイナーとジェシーの彼氏が口論するシーン。

デザイナーが整形しているジジと天然の美しさを持つジェシーを比べるように、

真の美しさは、最も強い力を有している。それがなければ彼女の価値はない。」と言い、それに対して彼氏は「それは違う。あなたは間違っている」と反論。
デザイナーは「中身が大事か?」と問い、「もし彼女(ジェシー)が美しくなければ、そもそも目にもとめないだろう」と彼氏をあざ笑うんですね。

エル・ファニング問題

そんな、男女問わず見る者全てを虜にしてしまう魔性の美少女ジェシーを演じるのは、「マレフィセント」でオーロラ姫を演じたエル・ファニング

http://eiga.k-img.com/images/movie/84620/photo/871af8ef21f58cfb/640.jpg?1484215215

画像出典元URL:http://eiga.com

う、(´ε`;)ウーン…、この子もちろん手足も長いし美人ではあるけど、どっちかといえば童顔で可愛い系の顔立ちって感じじゃないですかね?

ぶっちゃけ美人度で言えば、彼女に嫉妬するパイセンモデルのジジ (ベラ・ヒースコート)やサラ (アビー・リー)の方が明らかに上に見えてしまうので、言葉でいくらジェシーが「この子は本物だー」とか「(人を惹きつける)“何か”がある」って言われても、ちょっと納得できないというか、映画「20世紀少年」の最後の方で、ケンヂの歌でみんなが一つになるのとくらい説得力がないんですよねー。

それは別にエル・ファニングが悪いんじゃなくて、そもそもジェシーの説得力を持たせられる女優さんなんて、ほんと数える程しかいないって思うわけですよ。
それは、世界を変える音楽とか、見ただけで涙が溢れる絵画とかと一緒で、そもそも映画的に難しいキャラ設定だと思うんですよね。
 

演出

本作ではこれまでのNWR作品同様、暗喩的なシーンが随所に登場します。

例えば、ジェシーが借りている安モーテルの部屋に山猫が入っているシーン。

これは、ジェシーが窓を開けっ放しにしていたために山猫が侵入したという事なんですが、窓を開けっぱなしにしているというのは、ジェシーの警戒心のなさ=幼さみたいな部分を象徴していて、山猫と山猫に荒らされた部屋は、彼女がこの後パイセンに成り代わってファッション業界を席巻いく事を暗に示しているんじゃないかと思いました。

このシーンの段階では、そうした彼女の少女性と内に抱える猛獣のような本性がせめぎ合っている状態ってことなんじゃないかと。

その後、大抜擢されたジェシーがファッションショーで逆三角形が3つ逆ピラミッド型に積み上がったネオン管の幻影を見るシーンで、彼女は完全に覚醒します。

彼女の背後には青いネオン、彼女が向かう先には赤いネオンがあり、赤いネオンの中では万華鏡のような三角形の鏡の中の自分にキスをするジェシー自身の姿が見えるんですね。

ちなみに、この三つの積み上がった逆三角形は3人の魔女(ルビー・ジジ・サラ)をそれぞれ表していて、三つの逆三角形に囲まれた真ん中の三角形は、ジェシーということみたいです。

で、この後レズビアンのルビーに迫られ拒絶するジェシー
可愛さ余って憎さ百倍、でもやっぱり食べちゃいたいくらい可愛い!という思いが爆発したルビーは、サラ、ジジと共にジェシーを殺害。美味しく頂いちゃうという衝撃の展開に。

ブラックスワン」かと思ったら「グリーンインフェルノ」だったよママン!

もちろん彼女たちの主食が人間ってわけではなく、ジェシーを体内に取り込んで若さや美しさを取り戻したいっていう呪術的な食人です。(ルビーは性的な意味かな?)

しかし、偽物(整形美女)のジジは体が拒絶反応を起こして、ジェシーの目玉を嘔吐した末に「彼女を体から出さないと!」と半狂乱となってハサミで自らの腹を割いて死亡。

この目玉はつまり、「深淵を覗くものは深淵からも~」的な事で、偽物のジジには本物のジェシーを身に取り込むことは劇薬を飲むような行為だったみたいなことなんでしょう。

対して、彼女が吐き出した(ジェシーの)目玉を拾い上げ飲み込んだサラは、ニヤリと笑います。

サラの方は元々、ジェシーが現れるまではナンバーワンのモデルだったわけで、つまり「本物」なんですね。
彼女に足りなかったのは若さだけで、失った若さの象徴であるジェシーを取り込んだことで、彼女は再び輝きを取り戻すわけです。

そしてエンディングでは、サラが夕暮れの荒野を一人歩くシーンで終了。

これは、「美という地獄」に彼女は一人残されたという暗喩なんでしょうね。

ちなみにルビーの方は最初から「自分美しくなりたい」わけではないので、特に問題はなかったようですw

ただまぁ、うっすら彼女はこれまでも、そしてこれからも同じことを繰り返すという事が暗示されててざわっとしましたねー。

持つものと持たざる者の物語

要は、この作品のテーマは「持つ者と持たざる者の悲劇」で、劇中ではファッション業界を描いていますが、他の世界でも通じる普遍的なストーリーなんですよね。

この作品の中では美はイコール才能で、才能を持たない者や才能が枯れかけている者が天才に嫉妬し執着するという、映画なら「アマデウス」を始め、星の数ほど描かれてきたテーマです。

もっとストレートに言うなら、童話「白雪姫」の現代版、魔女に毒殺されたあと、王子が現れなかったバージョンですよね。

それに、NWR独特な色彩やケレン味たっぷりの映像、ドラッギーな音楽などでゴテゴテに装飾した作品で、その演出自体、これまでのNWR作品ではプラスに働いていたと思うんですが、それがこの作品では活きてないっていうか、むしろダサく感じるというか。

http://eiga.k-img.com/images/movie/84620/photo/8a804ca98f42f9d2/640.jpg?1478683091

画像出典元URL:http://eiga.com
なんかこう…こじらせた美大生の卒業制作みたいな、薄っぺらい自己満足を大上段に振りかざしているように感じてしまいました。

多分、そもそもNWRがこの作品に込めた「美」というものに対する考え方に僕が乗れなかったって事なんでしょうけども。

ただ、このラストで一気に振り切る感じなんかはビックリしたし、ハマる人はハマる映画なのかもなーって思いましたねー。

興味のある方は是非!

 

▼よかったらポチっとお願いします▼


映画レビューランキング

 

▼関連作品感想リンク▼

note.mu

aozprapurasu.hatenablog.com

バンホーベン久しぶりの新作にして傑作!「エル ELLE」(2017)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、ポール・バーホーベン約10年ぶりの新作『エル ELLE』ですよー!
この作品、物凄く乱暴にジャンル分けするなら、“レイプリベンジムービー”って事になると思うんですが、そこは我らがバーホーベン。当然、一筋縄ではいかない作品になってましたねー!

http://eiga.k-img.com/images/movie/86143/photo/bda48635479d0a4e.jpg?1492655273

画像出典元URL:http://eiga.com

概要

『ピアニスト』などのフランスの名女優イザベル・ユペールと『氷の微笑』などのポール・ヴァーホーヴェン監督が組んだ官能的なサイコスリラー。『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』の原作者フィリップ・ディジャンの小説を原作に、レイプ被害者の女性が犯人を捜しだそうとする姿を描く。『ミモザの島に消えた母』などのロラン・ラフィットや『愛されるために、ここにいる』などのアンヌ・コンシニらが共演。欲望や衝動によって周囲を巻き込んでいく主人公を熱演するイザベルに注目。(シネマトゥデイより引用)

感想

イザベル・ユペールXバーホーベンが送るブラックコメディ

映画冒頭、真っ暗な画面に陶器やガラスの割れる音と女性の絶叫、男の荒い息が聞こえるという、衝撃的なOPから始める本作。

そして、ズボンを上げながら半ケツで逃げる目出し帽の男と、散らかった床に横たわる中年女性(ミシェル:イザベル・ユペール)という映像が映し出されて、冒頭の音声がレイプだったと分かるんですね。

http://eiga.k-img.com/images/movie/86143/photo/278af086e80e8e9e/640.jpg?1494815612

画像出典元URL:http://eiga.com / 映画冒頭のショッキングなシーン

と思ったら、立ち上がったミシェルの、顔にアザを作りながらも無表情で床に散らばった食器の破片を片付け、ゆったりと泡風呂に入り、寿司の出前を取ってやってきた息子を出迎えて一緒に出前の寿司を食べるという、まるで何事もなかったような行動に観ているこっちは再び度肝を抜かれます。

本作の主人公ミシェルはエロゲー会社の経営者で、共同経営者の夫と浮気していて、売れない小説家の夫とはずいぶん前に離婚、ボンクラ息子はファーストフード゚店アルバイトのくせに妊娠したビッチな彼女と結婚すると言い出し、年老いた母親は整形を繰り返しながら若いツバメを囲い、父親は八つ墓村なみの大量殺人事件を起こして投獄中っていう超カオスな設定。
前述の衝撃的なOPの後、ストーリーが進むうちに、そんな彼女の背景が少しづつ見えて来るわけですねー。

その後彼女は病院で性病やエイズの検査してもらいますが警察に通報はせず、自ら犯人探しを始めるというのがメインのストーリーで、ミステリー要素で観客の興味を引っ張りながら、彼女の抱える背景や周囲の人間たちとの関わりを見せていくわけです。

というと、ミステリーサスペンスなかと思われるかもしれませんし、もちろんそういう映画なんですが、この映画、基本的にはコメディー映画、しかもとびっきり意地悪なブラックコメディーなのです。

http://eiga.k-img.com/images/movie/86143/photo/3809de92e2656b13/640.jpg?1494815611

画像出典元URL:http://eiga.com / 「クビにされたくなかったらチンコを見せなさい」

(ほぼ)全員が容疑者

で、本作に登場する男たちは、ボンクラ息子のヴァンサン(ジョナ・ブロケ)を除いてほぼ全員がレイプの容疑者です。

共同経営者アンナ(アンヌ・コンシニ )の夫ロベールクリスチャン・ベルケル )は、不倫に嫌気がさしているミシェルとの関係を続けたい。

ミシェルの母親イレーヌ(ジュディット・マール)のツバメは自分に冷たい態度を取るミシェルを恨んでいる。

ゲームクリエイターキュルト(ルーカス・プリゾル)を始めとしたゲーム会社のスタッフの大多数は、ゲームもよく知らずに指示を出してくるミシェルが嫌い。

逆に同じゲーム会社のケヴィン(アルチュール・マゼ)はミシェルに惚れてるっぽい。

お隣のパトリック(ロラン・ラフィット)は、奥さんの レベッカ(ヴィルジニー・エフィラ )が敬虔なカトリック信者で欲求不満っぽい。

そんな中、製作中のエロゲーでレイプされるキャラの顔にミシェルの顔写真コラされた動画が社内のPCに一斉送信されたり、犯人からと思われるメールがスマホに送られてきたり、家に不審者が侵入したりして、ミシェルは自衛のため武器ショップで護身用のスプレーや手斧を購入したり、銃の撃ち方を訓練したりしつつ、元夫のシャルル(リシャール・カサマヨウ)・アンナ・ロベールに「この前レイプされたわ」なんてサラッと告白。

慌てふためきオロオロする3人の様子を見て「やっぱり言うんじゃなかった」と、うんざりした顔で言うんですね。

ミシェルが警察に通報しない理由

でも、この三人の慌てた様子に、観ている方は「そりゃそうだよ」と思うし、ミシェルは何故警察に通報しないのかと疑問に思うわけですが、その理由は、彼女が10歳の時に父親が犯した事件のせいで(自分も被害者にも関わらず)長年にわたり世間から理不尽な目に合わされてきたからです。

その中には、報道被害や(当然)警察からのセカンドレイプ的なこともあり、だから彼女はマスコミと警察に対して強い拒絶感を持っているんですね。

さらに、母親の方はそんな娘を気にもかけない様子で若い男を漁っていたと思われ、そんな中、彼女は努力によって今の地位に上り詰めてきたわけです。

つまり、彼女は10歳の頃からずっと、理不尽な暴力(レイプ)を受け続けてきたわけで、この映画を観ていると、ミシェルは強い女性のように見えますが、決してそうではなくて、強い女性に見えるように振舞わなければ、とても生きていけなかったのです。

とはいえ、自分を理不尽に押さえつけようとしたり、暴力や嫌がらせをする男達に対して泣き寝入りせずに、確実に報復するところはやっぱり強い!そして怖い! と思ってしまうんですけどねw

ラストの方の“あるシーン”で、ミシェルがニヤリと笑うシーンには、心底ゾッとしてしまいましたよ!((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタ

多面的なキャラクターたち

そんなミシェルだけでなく、本作に登場するキャラクターは誰も彼も、一面的な描かれ方をしていません。

例えば、ミシェルと絶賛不倫中のロベールはミシェルに対しては身勝手なクズの振る舞いをするけど奥さんのアンナには良き夫だし、ボンクラ息子のヴァンサンは役立たずで甘ったれだけど優しいし、逆にミシェルに惚れてるらしいオタク社員のケヴィンの愛情は歪んでる。

各キャラクターそれぞれをストーリーの為の一面的な駒ではなく、それぞれ多面性を持った人間として描くところは、さすがバーホーベンだなーと関心しましたねー。

下品になりすぎないバランス

これまで「ロボコップ」「ショーガール」「スターシップ・トゥルーパーズ」などショッキングなシーンやエロいシーンをバンバン描いてきたバーホーベンは、下品で露悪的で悪趣味な監督と思われがちですが、そうした描写を通して、いつも観客に人間の醜い本性や、恐ろしさを突きつける反骨精神を持つ監督です。

まぁ、それが行き過ぎて、下品・露悪的・悪趣味に見えることも多いし、本作も謎解きミステリーやサスペンスなどのエンタメ要素で観客を引き込みつつ、しっかり不謹慎で意地悪な笑い、エロやグロシーンも入ってるバーホーベン印の映画になってます。

が、決して下品になりすぎていないのは、主演にイザベル・ユペールの存在が大きいと思いましたねー。

http://eiga.k-img.com/images/movie/86143/photo/8528edb98ec8c221/640.jpg?1485142533

画像出典元URL:http://eiga.com

当初、この作品を米国で作ろうと考えていたバーホーベン監督ですが、オファーした有名女優にことごとく断られ、受けてくれたのがフランスの大女優イザベル・ユペールだったらしいんですね。

イザベル・ユペールはこの映画を撮影中はすでに63歳、でもビックリするくらい綺麗だし、それでいてミシェルという女性の芯の通った強さをしっかりと体現する圧巻の演技で僕は終始圧倒されっぱなしでした。

もちろん、レイプというデリケートな題材を扱っているし、何と言ってもバーホーベン監督なので好き嫌いはハッキリ分かれそうな作品ではありますが、個人的には超面白かったですよー。

興味のある方は是非!!

 

▼よかったらポチっとお願いします▼


映画レビューランキング

 

▼関連作品感想リンク▼

aozprapurasu.hatenablog.com

aozprapurasu.hatenablog.com

aozprapurasu.hatenablog.com

キング・オブ・カルト「アレハンドロ・ホドロフスキー」の世界【Res-C】

ぷらすです。

僕が火曜日を担当しているブログマガジン「RE-C」に記事をアップしましたー!

res-c.blog.jp

興味のある方は是非ご一読くださーい!(´∀`)ノ