今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

最強の座組で描かれる湯浅版どろろ「犬王」(2022)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、古川日出男の原作小説「平家物語 犬王の巻」をアニメーション監督の湯浅政明がアニメ映画化した『犬王』ですよー!

タイミングが合わず、公開時に劇場で観られなかっらんですが、Amazonレンタルに入っていたので視聴しました。

https://eiga.k-img.com/images/movie/91393/photo/8a7a48f84abad6af.jpg?1647244461

画像出展元URL:http://eiga.com

概要

夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』などの湯浅政明監督が、古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」をアニメ化。室町時代に人々を魅了した実在の能楽師と、その相棒となった琵琶法師の友情を描く。脚本を『罪の声』などの野木亜紀子、キャラクター原案を「ピンポン」などの漫画家・松本大洋、音楽を『花束みたいな恋をした』などの大友良英が担当。ボイスキャストは、犬王をロックバンド「女王蜂」のアヴちゃん、相棒の友魚を『苦役列車』などの森山未來が務める。(シネマトゥデイより引用)

感想

最強の座組で描かれる時代絵巻

本作の原作「平家物語 犬王の巻」は、TVアニメ化された古川日出男原作の「平家物語」のスピンオフとして描かれた物語です。

南北朝から室町初期。後に能楽狂言として体系化される「猿楽」の家に生まれた子・犬王は、観阿弥世阿弥と並ぶ人気猿楽師として活躍。

ところが、観阿弥世阿弥と違い、現在犬王の謡曲は現在一つも残ってなくて、その人生も謎に包まれているらしいんですね。

本作ではそんな犬王を、呪いによって生まれた異形の子として描き、平家の亡霊の声を聴き、無き事にされた平家の物語を演舞することで体のパーツを取り戻していくという設定になっているのです。

https://eiga.k-img.com/images/movie/91393/photo/ca2cd23adc429231/640.jpg?1647244353

画像出展元URL:http://eiga.com

つまりは手塚治虫の「どろろ」と同じ設定なんですが、どろろが、体のパーツを奪った妖怪を倒すことで取り戻すのに対し、本作では時の為政者によって「無かったことにされた」平家の物語を、犬王が演じ舞うことで呪いを解き、自身のパーツを取り戻していくんですね。

それは、障害を持って生まれたことで「いない子供」にされた彼自身の境遇とも重なっているし、この設定自体が現代日本――というよりもっと普遍的な『世界』を映すメタファーでもあり、もっと言えばこの物語は創作や表現そのものを描いた物語でもあるのです。

そんな原作小説を、今や日本を代表するアニメ監督の一人である湯浅政明が監督し、脚本は数々の人気ドラマを手掛ける野木亜紀子、音楽を「あまちゃん」の音楽などで知られる大友良英が担当。

https://eiga.k-img.com/images/movie/91393/photo/769f1b50e61b2fb3/640.jpg?1647351211

画像出展元URL:http://eiga.com

犬王の声と歌を女王蜂のアヴちゃんが、犬王の親友となる琵琶法師・友魚(友一・友有)を森山未來が演じるなど、豪華すぎる最強の座組で制作されているのが本作「犬王」なんですね。

まるでロックコンサート!? 圧巻のライヴシーン

そんな本作の白眉は、何と言っても犬王と、友有と名を変えた友魚が立ち上げた「友有座」が、二人が出会った橋とその下の河原を使って繰り広げる圧巻のライブシーンではないでしょうか。

https://eiga.k-img.com/images/movie/91393/photo/030bae3e956f1d77/640.jpg?1647244353

画像出展元URL:http://eiga.com

女物の着物を着て化粧を施した友有が、バンド仲間と橋の上で犬王のこれまで(半生)を歌い(客の呼び込み?)、その下の河原では電飾を使ったように思わせるド派手なセットのステージがあり、その中で平家の亡霊から収集した物語をグラムロック調の音楽に合わせて犬王が歌い、舞う。

https://eiga.k-img.com/images/movie/91393/photo/eb463584504ca0a1/640.jpg?1647244353

画像出展元URL:http://eiga.com

天叢雲剣に込められた平家の呪いを受け盲目になった友有が、平家の呪いを身体に受けた犬王の半生を歌い、その犬王が平家の物語を演舞として語ることで己の身体を取り戻す。ライブでは観ている客を煽り、コールアンドレスポンスで大盛り上がり

まさにアニメだからこそ可能な表現というか、もしこれを実写でやったら、(時代考証的に)さすがに「そんなアホな」ってなると思うけど、アニメーションなら受け入れられるし、むしろブチ上がるシーンなのです。

とはいえ、このライブシーンに乗れるか否かが本作の評価の分かれ目というか、このアニメーションならではの飛躍に乗っかって楽しめる人は、「犬王サイコー!」となるだろうし、逆にこのシーンに乗れない人は(´ε`;)ウーン…ってなっちゃうかもです。

個人的に気になったところ

で、僕はと言えばこのライブシーン自体にはかなりぶち上がったんですけど、その一方で気になったのは、ライブシーンの映像、主に観客のリアクションなどのカットに使いまわしが多かったように見えたんですよね。

その辺は予算の問題なのかもだし、もしかしたら使いまわしではなく全部ちゃんと描いているのかもしれないけど、少なくとも僕には「あれ、このカットさっきも見たよな…」というのがノイズになったんですね。

このライブシーンは本作の一番重要なシーンでもあるので、なんなら他のシーンを削ってでも、ここにカロリーをかけて欲しかったなーと。

あと、歌詞がですね、よく分からないというか、聞き取れないところがあり。

何でも東京の劇場では歌詞付き上映があったらしいですが、折角アニメなんだからライブ演出の中に歌詞も盛り込んじゃえば良かったんじゃないかって思ったりしました。

ボカロの歌の歌詞をPVの中に出すじゃないですか。あんな感じ。

それで歌詞も分かれば、よりこのライブシーンの没入感が増したんじゃないかと思ったりしました。

その流れで言うと、湯浅監督のアニメ表現、野木亜紀子さんの作劇、大友良英さんの音楽、アヴちゃんのあの圧倒的な歌声、それぞれは素晴らしいんだけれど、四者の個性がまとまっていないというか、歯車がガッチリと噛み合っていない。やろうとしてることは分かるんだけど、少しだけ上滑りしてるような印象を受けたんですよね。

具体的にどこがどうとは言語化できないんですけども。

とまぁ、多少の個人的な残念ポイントはありながらも流石は湯浅監督。

ラストのあのシーンに至るまでずっと楽しませてもらったし、エンターテイメントに振りながらもかなり明確なメッセージ性が入っているのも、個人的には好みだと思いましたよ。

興味のある方は是非!!