今日観た映画の感想

映画館やDVDで観た映画の感想をお届け

これは“山崎貴版ゴジラ”だ!「ゴジラ-1.0」(2023)

ぷらすです。

ここ最近、映画ファンの話題の中心だった山崎貴監督最新作「ゴジラ-1.0」がついに公開。僕も初日初回に観てきました!

観る前は期待半分・不安半分でしたが、実際観てみたら歴代ゴジラの中でも1・2を争うくらい面白かったですねー!

というわけで、まだ公開したばかりの作品でもあるので、出来るだけネタバレしないスタイルで感想を書いていこうと思いましたが、色々言いたい事が多すぎるので、前半はネタバレなし、後半はネタバレありで感想を書いていこうと思います。

なので、「少しのネタバレもしてほしくない」という方はご注意ください。

https://eiga.k-img.com/images/movie/98309/photo/02bc5f6384d971b2.jpg?1698460091

画像出展元URL:http://eiga.com

概要

ゴジラ』シリーズの70周年記念作品で、『ALWAYS 三丁目の夕日』『STAND BY ME ドラえもん』シリーズなどの山崎貴が監督、脚本、VFXを担当するパニックムービー。戦後、焼け野原となった日本にゴジラが現れ、戦争の惨禍を生き抜いた主人公らに襲い掛かる。NHK連続テレビ小説「らんまん」などの神木隆之介浜辺美波が主人公とヒロインを演じ、山田裕貴安藤サクラ佐々木蔵之介などが共演する。(シネマトゥディより引用)

感想

初代・シンゴジ・ギャレゴジとも違う山崎貴ゴジラ

正直に言うと、僕はネットなどの評判を聞いて観るのをやめた作品も多数あるし、決して山崎貴監督のいいお客ではない。どちらかと言えばアンチ寄りの人間です。

なので、山崎監督がゴジラを撮ると聞いた時は期待よりも不安の方が大きかったし、映画関係者の試写会で大絶賛という話を聞いても、「ホントかな~?」と懐疑的な気持ちで今日の公開に臨んだんですね。

ところが、いざ観てビックリ。本作は1954年の初代とも、庵野監督のシン・ゴジラとも、ギャレス・エドワーズ監督のハリウッド版ゴジラとも違う、まさに“山崎貴ゴジラ“だったのです。

https://eiga.k-img.com/images/movie/98309/photo/91139476fd711568/640.jpg?1694660611

画像出展元URL:http://eiga.com

いや、そう言っちゃうと少し語弊があって、全体の設定やトーンはオリジナル版を踏襲しているし、シンゴジやギャレゴジ、なんならエメリッヒ版ゴジラからも色々オマージュしていて、さらには「ジュラシックパーク」や「ジョーズ」など、ハリウッドのモンスター映画からもオマージュするなど、良くも悪くもオリジナリティーにこだわらずに良いもの、好きな物を自分の作品に取り入れていく姿勢が、逆に山崎監督だけのオリジナリティーに繋がっているという。

そして、そんな本作は、間違いなくこれまでの山崎貴監督作品の集大成にして最高傑作で、なんならこれまでのフィルモグラフィーは、本作のための準備だったのではないかとすら思う程。歴代ゴジラの中でも1・2を争う大傑作でした。

観る前は「なぜ今?」と思った戦後設定も、それ自体が官僚でも軍人でも政治家でもない主人公・敷島を始めとした市井の人々が、ゴジラという驚異に立ち向かう展開を無理なく進めるための仕掛けだったのには感心したし、敷島という個人にスポットを当てて描くことで、これまでありそうでなかった、市井の人々から見たゴジラの恐ろしさや理不尽さを描くことに成功していると思いました。

初代も含めたこれまでのゴジラと比べ、本作のゴジラは人間の距離がかなり近いというか、少なくとも観客にそう感じさせるよう、アングルや映像を計算しているんですよね。

そんなゴジラが明らかな敵意を持って人間を喰らい踏みつぶし、電車や船を食いちぎる姿には、これまでの歴代ゴジラとは違う巨大生物としての生々しい恐ろしさがあって、山崎監督がゴジラを「怪獣」ではなく「モンスター」の文脈で描いてる事が分かるのです。

https://eiga.k-img.com/images/movie/98309/photo/07296deadf7e1646/640.jpg?1694660636

画像出展元URL:http://eiga.com

一方で、主人公・敷島が抱える後悔やトラウマをゴジラという怪物の姿と重ねることで、今まで置き去りにされがちだった、人間ドラマとゴジラの融合も見事に果たしているのです。

だからこそ、クライマックスのあの展開では、僕ら観客は敷島に感情移入して応援するんですよね。そして、そんな人間ドラマを下支えする神木隆之介を始めとした役者陣の熱演も素晴らしいと思いました。

もちろん、粗がないわけではないんだけど、少なくとも脚本や映像、そして役者陣も含めて僕は隙が無い素晴らしい映画だと思ったし、劇中何度もグッときてしまいましたよ。

というわけで、ここからネタバレです。

 

各シーン感想

ここからはシーンごとに細かく感想を述べていきたいんですが、まずは冒頭。

小豆島の基地に、ゼロ戦に乗った敷島が着陸~ゴジラに遭遇するまでの一連のシーン。

ここで、敷島が腕利きのパイロットでありながら、飛行機の不調を偽って特攻から逃げてきたことを短いセリフでサラリと説明する脚本が上手いと思いました。

その後のゴジラの登場と、敷島がビビッて気銃を撃てなかったことで島の隊員たちが全滅することで、敷島はゴジラというトラウマを抱える事になる。つまり戦争から逃げたという負い目がゴジラの姿に具現化して、戦後復員した彼を追いかけてくるわけです。

さらにこの時、もしも敷島がゼロ戦の機銃で撃っていたらゴジラは死に、東京に上陸することはなかったかもしれない。と、観客に思わせるよう、整備兵の橘に「20㎜弾が当たって死なない生物なんかいません」と言わせているのも後の展開に効いていると思いました。この”もしも”が入ることで、その後の敷島の心情と行動に説得力が増すんですよね。

https://eiga.k-img.com/images/movie/98309/photo/1ad6aec3d22a56f5/640.jpg?1694660666

画像出展元URL:http://eiga.com

次に、復員後に敷島が機雷除去の仕事につき、再びゴジラと遭遇するシークエンス。

戦後のドタバタの中、敷島は偶然出会った典子と、彼女が連れていた赤ん坊の明子と疑似家族を形成しながら、機雷除去の仕事で徐々に暮らしを立て直すんですが、この機雷除去の仕事で敷島は飛行機の操縦だけでなく機銃の腕もいい事がわかります。そして再びゴジラと遭遇するシーンでは、ゴジラの再生能力も見せていて、ここまででクライマックスのゴジラvs敷島のお膳立てを整えているのも実にスマートな作劇だと思いました。

そして、ついにゴジラが東京に上陸し復興途中の銀座を襲うシーン。

ビルの間からゴジラが姿を見せるタイミングで、お馴染み伊福部昭ゴジラのテーマが流れたあのシーンは個人的に爆上がりしてしまいました。

https://eiga.k-img.com/images/movie/98309/photo/387063244e0eabef/640.jpg?1694660636

画像出展元URL:http://eiga.com

そして初代同様にゴジラが銀座の街を踏み荒らし、ビルや電車を壊し、人を食い、踏みつぶし薙ぎ払う。

今回のゴジラは大きさ的に多分初代ゴジラとほぼ同じくらいで、歴代ゴジラの中でもかなり小さいんですよね。ただ、「サンダ対ガイラ」じゃないですけど、今回のあのサイズ感のゴジラを、逃げ惑う市井の人々の視点で撮っているから怖いんですよね。逆にあれ以上大きくなっちゃうと人間との釣り合いが取れず、怖さのリアリティーが感じられない感じがします。

さらに、ここで大切な典子を失うことで、敷島はゴジラに復讐を誓う=彼の戦争を終わらせる決意をするんですよね。

そんな彼が所属するのが、民間人で形成されたゴジラ討伐隊。

ここで、舞台が終戦直後の日本と言う設定が効いてくるわけです。

本来、ゴジラ討伐を行うべき軍や政治家は武装蜂起で機能していないし、日本を占拠していた米軍は、ソ連とのにらみ合いで積極的軍事行動がとれず。

そこで、米軍は押収していた駆逐艦を返還する代わりに民間人にゴジラ討伐を委ねるわけですね。しかもその民間人たちはほぼ戦争経験者。なので軍艦を動かせるのも不自然ではないわけです。もちろん、よくよく考えればかなり無理のある展開ではあるけれど、それを感じさせないテンポの良さで物語は進んでいくんですね。

https://eiga.k-img.com/images/movie/98309/photo/2491239e22c46306/640.jpg?1694660666

画像出展元URL:http://eiga.com

そして、野田が考えた「ワダツミ作戦」とは大量のフロンガスが入ったボンベをゴジラに巻きつけ、その泡でゴジラを包むことで一気に相模湾深海1500mの地点まで沈め、水圧でゴジラを殺すというもの。

大量の泡でゴジラを包むというのは、絵的には初代ゴジラの時のオキシジェンデストロイヤーのオマージュなんでしょうけど、天才科学者が考えた超兵器ではなく、現実にある化学と自然の力でゴジラに対抗するという発想は面白いと思いました。

さらに同時進行で、敷島は爆弾を積んだ飛行機でゴジラに特攻を企てている。

彼は“あの時“逃げてしまった自分への落とし前をつけるつもりなんですね。

それは作戦に参加した人々も一緒で「今度こそ役に立ちたい」と言う。

戦争で守れなかった大切な人々を、今度こそ守るためにゴジラ討伐に参加しているわけです。

ただ、両者が少し違うのは、他の人々が復員後家族を持って前に進んでいるいるのに対し、敷島の場合は特攻とゴジラから逃げてしまったという後悔にずっと縛られて前に進めず。だからこそゴジラに特攻=自らの命と引き換えに自分の戦争を終わらせようとしているのです。

そしてゴジラとの最終決戦。

ここはもうただただ熱く燃える展開。

作戦通り深海深く沈めるもゴジラを殺すには至らず。ならばとプランBを発動するも失敗。もうダメかと思った所に援軍が到着し再び作戦を決行するもゴジラが熱線に全滅か!と思った所で、敷島がゴジラの口に特攻。ゴジラは自らの熱線で自壊。そして敷島は寸前で脱出して無事だったわけです。

そして無事生還した敷島は電報を見せられ慌てて病院に。死んだと思っていた典子の姿を見て泣きじゃくる敷島という、まぁここは賛否分かれもな展開ですが、個人的にはまぁアリだと思いました。

まぁ、ゴジラとの決戦前に分かりやすく敷島が脱出する伏線が貼られているのでハラハラ感はなかったし、あの爆風で吹き飛ばされた(しかも大量の放射能被爆しているはずの)典子が生きているというのはいくら何でも――ではあるけれど、ゴジラに特攻をかましながらも生き残ることで、敷島は自分の戦争を終わらせた=生まれ変わったわけで、典子に縋りついての号泣は、そんな敷島の産声でもあるんですよね。
なので典子との再会は僕的には必要だと思うんです。

ただ最後、典子の「あなたの戦争は終わりましたか?」というセリフは余分だと思いましたねー。あそこはもう、ただ無言のまま終わって欲しかったです。

あと、典子の首筋の影を意味ありげにアップで見せるのは、ラストのラスト、ゴジラの肉片が再生するのとセットになってるファンサービスであり、続編への色気なんだろうけど、まぁ、アレも個人的には別にいらないというか、逆にノイズになっちゃったなーと思いました。

ゴジラ-1.0の持つメッセージ

そんな本作、舞台は戦争末期からスタートして戦争直後の東京が舞台でしたが、そこに敷島と言うある意味現代的な主人公を配置することで現代と繋げているんですよね。

敷島は戦争――というより自分から逃げ出した、いわゆる負け犬で、本作ではそんな敷島が数度に渡るゴジラとの対決を通して成長し自己実現を果たす物語になっています。その普遍性が、本作を昔の他人事ではなく、現代の自分たちにも通じる物語にしていると思うんですよね。

今の社会情勢を鑑みれば、僕ら、主語を大きく語るなら日本人もまた、数々の大きな理不尽を目の当たりにしながら何もできない無力感を感じ、諦めてしまっていることも多いじゃないですか。

山崎監督は、そんな僕らと敷島たちを重ねて描くことで明確なメッセージ性を入れ込んでいるのだと思いました。

気になったところと心配なところ

そんなこんなで、個人的にはかなり楽しんだし、ぶっちゃけかなり泣いてしまったんですが、そんな本作で個人的に気になったのは、ゴジラが熱線を吐くシーンでした。

いや、それ自体はカッコいい!ってかなり上がったんですが、その熱線で引き起こされた新宿の爆発が、まるで原爆のそれを連想させる映像になってたんですね。

ご存じのように、ゴジラの熱線は放射能を含んでいるし、ゴジラ自体が、原爆や水爆のメタファーでもあるわけですが、その後、ゴジラの熱線で焼け野原になった新宿を、人々が割と普通に行き来してるんですよね。ちょっと威力の強い爆弾くらいの感じで。

そこの描かれ方がですね、なんていうかハリウッド的というか、被爆国日本の映画としてはちょっと放射能描写が軽すぎやしないかな?と思ったりしたんですよね。

https://eiga.k-img.com/images/movie/98309/photo/91c89b6ae343ac16/640.jpg?1694660636

画像出展元URL:http://eiga.com

もちろん、そんな事は山崎監督自身十分に分かっていて、しかし、ここであまりリアルに放射能描写を入れると描くべきテーマからズレてしまうし、当時の人々の原爆や放射能に対してのリテラシーなども考えてた上での決断だったとは思いますが。

もう一つは、本作を戦争賛美の作品と捉える人が出るのではないかということ。

ここも、山崎監督はそういう風に取られないように、随所に戦争批判や(当時の)日本批判を入れ込んでいるんですが、主人公の敷島やその仲間たちがヒロイックに描かれていることで、逆の意味に捕らえる人もいるかもしれないとは思いました。

まぁ、典子を始めとした女性陣の描かれ方や、男キャラ同士のホモソーシャルな関係性など、やや今の時代に逆行している感じは否めないので、その辺も含めて批判が出そうな感じではあるんですよね。

とまぁそんな感じで、やや気になる部分はあるものの、前述したように個人的には大いに楽しんだし泣いたし、歴代ゴジラの中でも1・2を争うくらい大好きな作品でした。

興味のある方は是非!!