今日観た映画の感想

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マッドマックスxゾンビ!「ゾンビマックス!/怒りのデス・ゾンビ」(2016)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、オーストラリア製ゾンビアクション映画『ゾンビマックス!/怒りのデス・ゾンビ』ですよー!

実はこの作品、前々からTSUTAYAでパッケージを見かける度に気になってはいたんですが、どうにも”地雷臭“がするので手を出すのを躊躇ってたんですよね。

でも、今回思い切ってレンタルしてみることにしましたよー!

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

ゾンビが蔓延した近未来の世界を舞台に、生き残った人々の壮絶な戦いを描いたオーストラリア製アクションホラー。「マッドマックス」を彷彿させる世界観やスピード感あふれるストーリー展開、これまでのゾンビ映画にはなかった独創的な設定で、世界各地の映画祭で話題を集めた。近未来、突如として謎の流星群が地球に降り注ぎ、人類のほとんどがゾンビと化した。妻子を亡くした整備工バリーは同じような境遇の人々に助けられ、彼らが所有するガレージに避難する。隕石の影響で燃料資源が使えなくなり困り果てていた人々は、やがてゾンビの血液がガソリンの代替になることを発見する。一方、バリーの妹ブルックはマッドサイエンティストに捕らえられ、ゾンビエキスを注入して強化人間をつくる実験の被験者にされてしまう。これが長編デビュー作となるキア&トリスタン・ローチ=ターナー兄弟が手がけた。ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち 2016」上映作品。(映画.comより引用)

感想

邦題問題

まぁ、僕が本作に中々手を出せなかった理由の一つに、本作の邦題がありましてね。

ゾンビマックス!/怒りのデス・ゾンビ」ってあんたw
1つのタイトルに「ゾンビ」が重複しとるがな。

っていうか、元ネタの「マッドマックス/怒りのデスロード」を何の臆面もなくパクってますからねw

もうこれ、絶対タイトル詐欺だろうと。(原題は「Wyrmwood: Road of The Dead」)

でも、それならそれでネタになるし、まぁいいかと思って観てみたら、思った以上にマッドマックスしてましたww

邦題つけた人、疑ってゴメン!w

ざっくりストーリー紹介

本作は、前半~中盤にかけて2本のストーリーが平行して描かれます。

1本は整備工のバリー(ジェイ・ギャラガー)の物語。
愛する妻子と幸せに暮らしていたバリーでしたが、ある日突然ゾンビウィルスが蔓延。
ゾンビになってしまった愛する妻と娘を殺し、自分も後を追おうとするんですね。
しかし、死にきれなかった彼は通りすがりのハゲに助けられ、ゾンビ騒動の直前に電話のあった妹ブルックビアンカ・ブラッドリー)がいるブラブラへ向かいます。

その途中、森の中でハゲは間違って撃ち殺され、バリーはハゲを誤射したベニー(レオン・バーチル)を相棒にブラブラに向かって車を走らせるんですが、途中でいきなり車が故障。

そこで車庫に立てこもっていたケルとフランクたちと合流するのです。
しかし、ケルたちの車も動かない。
何故か、突如ガソリンや軽油などの化石燃料天然ガスが全て燃えなくなってしまったというんですね。

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画像出展元URL:http://eiga.com

車庫に閉じ込められ、周囲には大量のゾンビ。
困り果てたその時、バリーたちは偶然ゾンビの血が燃えることに気づき、ゾンビを燃料に動く「対ゾンビ使用改造トラック」と、自分たちも対ゾンビ用の装備に着替え、再びブラブラに向けて出発するのです。

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画像出展元URL:http://eiga.com / マッドマックス感溢れる衣装は、監督兄弟の手作り

一方、妹でアーティスト?のブルックは、女友達をモデルにガレージで写真撮影をしているんですが、その女友達が突然ゾンビになって彼女に襲い掛かります。
何とかゾンビに襲われないよう、ゾンビの動きを封じるとガレージの梁に上り身を守る彼女でしたが、そこに軍人らしき男たちが現れゾンビを退治。
助かったかと思いきや、男たちに血液検査をされたブルックは捕まり、ゾンビで何かをしようとしている謎の施設に連れていかれ、人体実験の被験者にされてしまうわけです。(この辺は何だかバイオハザードっぽい)

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画像出展元URL:http://eiga.com / ブルック役のビアンカ・ブラッドリー。若干ミシェル・ロドリゲスに似てる。

ゾンビの血液を注入され、このままでは殺されると思った彼女でしたが、自分が同じ部屋のゾンビたちを操れる事に気づき――というストーリー。

ね?いかにもダメそうでしょ?
ところが、これが中々面白いんですよねー!

斬新な新設定

本作では、これまでにない幾つかの斬新なゾンビ設定が付け加えられています。

・ゾンビウィルスは空気感染するが、ある条件を満たした人間(血液型がRH-のA型)は、ゾンビに噛まれない限り感染しない。(らしい)

・地球上のガスや化石燃料は一切使えなくなるが、ゾンビの血液や彼らが口から吐くガスが燃料替わりになる。(ゾンビの活動エネルギーは地球から供給?)

・ゾンビは昼間ガスを吐いてるので動きが鈍いが、夜はガスを吐かないので素早く動く。(一粒で2度美味しい、ロメロ版ゾンビと「28日後」以降の走るゾンビのハイブリッド設定)

・人体実験で半ゾンビ化したブルックは周囲のゾンビを(複数)操れるようになる。

っていう。

要は、マッドマックスとゾンビも大好きなキア&トリスタン・ローチ=ターナー兄弟が、「美味しいもの+美味しいもの=超美味しいもの」理論で両者を合体させるために創り出したご都合設定なんですけど、これが思わぬ方向にプラス効果をもたらしてるんですよね。

また、本作を制作したターナー兄弟はお金を貯めて会社を辞め、トラックやバリーたちの衣装をDIYで作り、少ない人数で、ロケ地もガレージと郊外の道路、森で撮影した超低予算映画なんですが、撮影や編集が上手いからなのか、映画のルックはいわゆる自主制作映画にありがちな貧乏臭さがなくて、結構リッチ(というか普通のB級映画程度には)に見えるんですよね。ゾンビもバリエーションが豊かだったし、ゴアシーンもしっかり作りこまれてましたしね。

ストーリーの方も、主人公のバリーが苦悩する、いわゆる”ダレ場“は前半でサクッと終わらせて、中盤以降は妹のブルックを救うという目的に向かってまっしぐらなので、物語のテンポがよく、観ていてストレスがないのです。

とは言うものの

なんて書くと、超面白い映画っぽいですが、それはまぁ、色々な部分に目を瞑って良いトコだけ書き出しているからで、ぶっちゃけ本作は、ツッコミどころもかなり多い作品です。

テンポを優先しているためか言葉足らずなシーンも多く、映画を観ているだけだとよく分からない部分もけっこうあるんですよね。

例えば、軍がブルック(というかRH-の人間)を捕まえて何をしようとしているのかは、まったく分かりませんしねw

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画像出展元URL:http://eiga.com / 謎の研究をしてるマッド・サイエンティスト

あらすじを読んで初めて、「強化人間を作ろうとしてる」事を知りましたよ。

それに、あの軍らしき組織も、オーストラリア軍ではないっぽくて、多分、何某かの企業の私設軍&研究所だと思うんですが、結局、彼らの目的も最後まで明かされません。

 

でも、そういう粗をお互なって余りある圧倒的な熱量や、自由(過ぎる?)な発想で、本作を凡百のゾンビ映画とは違う、新鮮で斬新な作品に仕上げているのです。

ちなみに、オーストラリアでは本作の続編がテレビシリーズとして作られてるっぽいんですが、残念ながら日本では観れないっぽいです。(´・ω・`)

www.youtube.com

うわー、超気になるー!

興味のある方は是非!!

 

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反抗期のスーパーマン「ブライト・バーン/恐怖の拡散者」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のジェームズ・ガンが制作を務めたホラー?映画、『ブライト・バーン/恐怖の拡散者』ですよー!

みんな大好きジェームズ・ガン他、弟や従弟、旧知の仲間など彼の”ファミリー”が集結して制作されたアンチヒーロー映画なのです。

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概要

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズなどの監督であるジェームズ・ガンが製作を務めたホラー。異様な力を持つ12歳の少年が、周囲を恐怖に陥れる。『ハンガー・ゲーム』シリーズなどのエリザベス・バンクス、『シャッター』などのデヴィッド・デンマンらが出演。『インバージョン 転移』などのデヴィッド・ヤロヴェスキーがメガホンを取り、2019年に17歳でデビューアルバムをリリースしたビリー・アイリッシュが主題歌を担当した。(シネマトゥディより引用)

感想

反抗期のスーパーマンは手に負えない

本作は、子供の出来ない夫婦の前に宇宙から赤ん坊が落ちてくるところからスタート。
これ「スーパーマン」とまったく同じ設定です。

「スーパーマン」では、この赤ん坊を子供のいないケント夫妻がクラークと名付けて育てるんですが、本作では不妊に悩むカイル(デヴィッド・デンマン)とトーリエリザベス・バンクス)のブライア夫妻が、農場の裏山に落ちた隕石(脱出ポット?)の中にいた赤ん坊をブランドンと名付けて育てるわけです。

こうしてブランドン(ジャクソン・A・ダン)を迎えブライア一家は幸せいっぱいなわけですが、12歳になったブランドンは突如能力に目覚め、同時に反抗期もやってきたからさぁ大変――というストーリー。

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画像出展元URL:http://eiga.com

まだ少年とはいえブランドンの能力はスーパーマンとほぼ一緒ですからね。
そりゃもう大騒ぎですよw

しかもブランドン、中二病も併発してしまいまして、自分のイニシャル(BB)を基にオリジナルのマークをデザインしたり、若干クトゥルフっぽいマスクを自作して被ったり、エロスクラップの中にグロ系のが混じってたり。

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画像出展元URL:http://eiga.com

それでも、これが普通の男の子なら「まぁ、そういう時期もあるよね」って感じですが、彼はスーパーパワーとアホみたいに強靭な肉体を持っていてそれを自覚しちゃってますからね。

ボクは特別なんだー」とか言いだして、自分の気に入らない人間を感情に任せてサクサク殺し始めちゃうわけです。

リミテッドシリーズ

いわゆるアメコミには、ヒーローごとに描かれ続けている正史シリーズの他に、「もしも〇〇がXXだったら」みたいなifの世界を描くアンソロジー的な「リミテッドシリーズ」ってのがありまして。
例えば「もしもスーパーマンソ連に落ちていたら」という世界を描いた「スーパーマン: レッド・サン」とかね。

そういう意味で本作は、「もしもスーパーマンが邪悪だったら」というリミテッドストーリーとも言えるわけです。

まぁ、オフィシャルではないので二次創作とかパロディ・オマージュって言った方が正確で、ある意味DCヒーローをモデルにしたヒーローたちを描いた「ウォッチメン」に近いかもしれません。

つまり本作は、近年のマーベルやDC映画のヒットで、マニアではない一般の人たちにもヒーロー映画リテラシーがある程度広まったから成立する作品でもあるわけですね。

家族の物語

一方で、本作は家族(親子)を描いた作品とも言えます。

可愛い我が子が反抗期に入って、急に乱暴な口を利いたり暴力を振るったり、まるで別人のようになってしまい戸惑う――なんてことは、お子さんを持つ人なら多かれ少なかれ経験すると思うんですね。

本作は「我が子がたまたまスーパーマンだった」という設定にして、そんな思春期の子供を持つ親の不安や悩みをカリカチュアすることで、どこの家でも起こる子育て問題をアンチヒーロー的ホラーというジャンルに落とし込んでいるわけです。

一見、生まれながら邪悪な本性を持った子供に見えるブランドンですが、愛する母親と好きな女の子の一言が全ての発端だったり、その女の子の裏切り?がブランドンのその後の行動を決定してしまったり、ブランドンの異物としての予兆が見え始めた時に、彼と正面から向かい合い正しい道へと導く大人がいなかったことで、彼の行動はどんどんエスカレートしてしまう。

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画像出展元URL:http://eiga.com

まぁ、ブランドン自身にもサイコパス的なところもあるわけですが、もし、誰かひとりでも彼と真正面から向き合っていたら結果は違っていたかもしれないと思ったりしました。

つまり、本作は正義のヒーロー・スーパーマンになり損ねた主人公と、(クラーク・ケント育ての親)ジョナサン&マーサ・ケントになり損ねた両親の物語なんですね。

ジェームズ・ガン本来の資質

大傑作「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の大ヒットで、メジャー監督の仲間入りをしたジェームズ・ガンですが、映画人としての彼のキャリアは「悪魔の毒々モンスター」などで知られるB級映画専門制作会社トロマ・エンターテインメントからスタート。
メジャー映画では「スクービー・ドゥー」 (2002)や「ドーン・オブ・ザ・デッド」 (2004) で脚本を担当はしているものの、監督としては「ガーディアン~」までは低予算のインディー映画しか経験がありません。

そんな彼が2011年に監督した作品が「スーパー!」で、気弱でうだつの上がらない男が、子供番組に感化されて自前のコスチュームを着て“クリムゾンボルト”というヒーロー(というか自警団?)になるという内容。

でもこの男、自称ヒーローなので、別に能力も何もなくて悪党(町のチンピラ)をレンチでぶん殴るっていう、はたから見ればただのアレな犯罪者。
奥さんをケヴィン・ベーコン演じる町のギャングに奪われたと思い込んでいるけど、奥さんは男に嫌気がさして自らギャングと付き合い始めただけなのです。

そんな感じで「スーパー!」は「リアルに(自称)ヒーローがいたらこんなんですよ」っていう「キック・アス」をもっと救いがなくて痛々しくしたようなアンチヒーロー的なブラックコメディーなんですね。

つまり、ジェームズ・ガンの資質って、本来そっち側なんですよ。

本作の内容にも、そんなジェームズ・ガン本来のテイストが反映してる感じがしましたねー。(まぁ、彼がどれくらい本作の中身に関わってるかは分かりませんけども)

で、エンドクレジット後のポストクレジットシーンでは、マイケル・ルーカー(ヨンドゥの人)演じるYouTuberがブランドンのような「謎の存在たち」を紹介していく中に、ワンダー・ウーマンやアクアマンっぽいのとか、前述のクリムゾンボルトっぽいのがいるっていうちょっとしたお遊びもあったりするんですが、どうやらこれ、続編というかジェームズ・ガン・ユニバース“への布石っていう噂もあって、個人的にワクワクが止まらないですよ!

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面白いけど語りすぎ「アス」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、黒人差別を題材にしたホラー映画ゲット・アウト」でアカデミー脚本賞を受賞したジョーダン・ピール監督の新作ホラー『アス』ですよー!

ホラーと言ってもワッ!と驚かされる系の「お化け屋敷映画」ではないので、ホラーが苦手という人でも安心して観られるんじゃないかと思いましたねー。

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画像出展元URL:http://eiga.com

概要

第90回アカデミー賞脚本賞を受賞した『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督と、製作を務めたジェイソン・ブラムが再び組んだスリラー。休暇で海辺にやって来た一家が、自分たちにそっくりな人物に遭遇する。『それでも夜は明ける』で第86回アカデミー賞助演女優賞に輝いたルピタ・ニョンゴが主演を務め、『ブラックパンサー』などのウィンストン・デューク、ドラマシリーズ「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」などのエリザベス・モスらが共演。(シネマトゥディより引用)

感想

ドッペルゲンガーもの

この作品を一言で言うと「“自分の分身”に襲われる家族」を描いた、いわゆるドッペルゲンガーものです。

ドッペルゲンガーとは自分とそっくりの姿をした分身で、自分のドッペルゲンガーを見た人間は死ぬとか、分身に取って代わられると言われていて、怪談や都市伝説のネタとして有名ですよね。

本作では、前作「ゲット・アウト」で(表面化しない)黒人差別を描いたホラーで評価されたジョーダン・ピールが、ドッペル・ゲンガー(=自分の分身)に襲われる家族の恐怖を描いた異色のホラー映画なのです。

ざっくりストーリー紹介

1986年の夏、両親とともにサンタクルーズにある行楽地を訪れたアデレード・ウィルソンルピタ・ニョンゴ )は、ビーチに建てられたミラーハウスに迷い込んで自分にそっくりな少女と出会うんですね。
ミラーハウスから戻った彼女はそのトラウマから失語症になってしまいます。

そして2019年、失語症を克服し2児の母になったアデレードは、夫ゲイブ(ウィンストン・デューク)、長女ゾーラ(シャハディ・ライト=ジョセフ )、長男ジェイソンエヴァン・アレックス)と夏休みの家族旅行でサンタクルーズにあるビーチハウスを訪れるんですね。

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画像出展元URL:http://eiga.com / バカンスに来たせいでひどい目に遭ってしまうウィルソン家のみなさん

ゲイブは嫌がるアデレードを説得し、4人でビーチに出かけ友人のタイラー一家と落ち合います。

その夜、ビーチハウスに戻ったアデレードはゲイブに、昔この場所で起こった出来事によってトラウマを負ったことを打ち明け、ゲイブはそんな彼女をなだめるんですが、突然停電が起こり、ジェイソンが玄関先に4人の不審者が立っていると言いに来て――というストーリー。

もちろん、玄関先に立っているのはウィルソン家のドッペルゲンガーで、4人はそれぞれ自分を殺そうと襲ってくるドッペルと戦うハメになるんですねー。

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画像出展元URL:http://eiga.com / ウィルソン家を襲うドッペルゲンガーたち。本作ではメインキャラを演じるキャスト全員、一人二役を熱演してます。

重要なキーワード

そんな本作ではいくつか、物語を象徴する重要なキーワードが登場します。

・11:11

映画冒頭、幼少期のアデレードがミラーハウスに向かう横に浮浪者が立っているんですが、彼が持っている段ボールの切れっぱしに書かれているのが「11:11」です。

これは「エレミヤ書」という旧約聖書の一書で、エレミヤさんという人の書いた預言書らしいんですね。
で、その11章11節に書かれているのが、

それゆえ主はこう言われる、見よ、わたしは災を彼らの上に下す。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない。」です。

平たく言うと「私を裏切った彼ら(民族)に災いを与えるし、助けを求めたってガン無視する」って神様が言ってるよ。ってこと。

本作の中で”神を裏切った彼ら“が誰なのか、彼らに与えられた“災い”とは何かってところが、本作のメインストーリーでありテーマでもあるんですね。

また「11:11」という数字は作中、ジェイソンが夜に指さした時計が表示していた時刻や、救急車のナンバーなどにも記されているんですが、これはまぁ、ドッペルゲンガー=自分と対になる分身であることの象徴で、”彼ら“の武器がハサミなのも、左右対称の2枚の刃が繋がっているからだと思います。

・うさぎ

本作では、冒頭のシーンで檻に入れられた大量のうさぎが登場します。
うさぎはキリストの復活とも関連付けられているイースターの象徴。
で、これまた旧約聖書の一書「レビ記」では、
野うさぎ、これは、反芻するけれども、ひずめが分かれていないから、あなたがたには汚れたものである。(11章6節)
これらはあなたがたに忌むべきものであるから、あなたがたはその肉を食べてはならない。またその死体は忌むべきものとしなければならない。(11章11節)」という記述があるんですね。
ここでも間接的に「11:11」がキーワードとして出てくるわけですが、汚れたウサギの肉を食べている(食べさせている)ということが、前述のエレミヤ書とリンクしてくるわけです。

・ハンズ・クロス・アメリ

これも冒頭、部屋で映っているテレビのCMで流れているんですけど、アメリカで行われたチャリティーイベントなのだそうです。

ニューヨークからカリフォルニアまで、参加費10ドルを払った何百万人もの人々が手を取り合って一列になり、飢餓への支援基金を募るというイベントらしいんですが、本作ではかなり意地悪な使い方をしています。

映像特典のインタビューでもピール監督はこのイベントに対して「やらなければいけない事から目をそらして、良いことをした気になってる」(意訳)とバッサリw

多分ですが、子供のころにこのイベントを観た監督は、単純に(カルト的な)「気味の悪さ」を感じていて、だから本作ではある種の恐怖演出と皮肉を込めてこのイベントを引用しているのだと思います。

そんな感じで本作では、聖書やアメリカで実際に行われたイベントなどを劇中で引用してて、キリスト教国のアメリカ人ならピンとくるんでしょうが、日本人的にはちょっと分かりにくいかもしれません。

テーマ

そんな本作のテーマを一言で言うと、格差と差別です。
本作に登場するドッペルゲンガーたちはアメリカ国内の貧困層、被差別人種であり、大国アメリカに搾取されている(されてきた)国々の人たちなど、いわば”持たざる者“のメタファーであり、本作はいつかそんな彼らと自分の立場が逆転するかもしれないという、他民族国家アメリカ(特に富裕層・中流層)の潜在的な恐怖や格差・差別による分断の危うさを描いているんですね。

前作「ゲット・アウト」でも同様のテーマを描いているピール監督ですが、本作ではよりハッキリとテーマ性を打ち出していると感じましたねー。

ただ、個人的にはテーマを上手くエンタメに落とし込んだ前作と違って、本作はストーリーやエンタメ性よりテーマや主張がやや前に出すぎているなー(´ε`;)ウーン…とも思いましたけど。

まぁ、元々社会的主張の強い監督ではあるし、スパイク・リーとも仲良しだから、つい言いたいこと・伝えたいことが溢れちゃったのかな?

蛇足感

序盤~中盤までは不気味さや笑いを入れ込みながら、いい感じに進んでいたんですけど、中盤~後半にかけてドッペルゲンガーの正体についての説明などは正直クドいと思ったし、ハッキリ蛇足だなって思いました。

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画像出展元URL:http://eiga.com

いや、最後のどんでん返しのために必要な描写なのも分かるし、「ネタ晴らし」することでテーマ性は強まるんだけど、ホラー映画としては全てに理屈が通っちゃうと興醒めしちゃうじゃないですか。

説明パートをまるっと削ってドッペルの正体はぼかしても本作のテーマはちゃんと伝わると思うし、むしろ作品としての切れ味は増すような気がしました。

とはいえ、だからつまらないという事ではなくて、むしろ映画として十分面白さの基準を満たした作品だけに「何かもったいない」と思ったって話で。

特に前半の超ウザいパパが子供や奥さんに冷遇されてるって件は、元コメディアンであるピール監督のセンスが光るお気に入りのシーンでしたw

興味のある方は是非!!

 

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映画史に残る傑作「殺人の追憶」(2003)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、「パラサイト」で外国人監督として初めてアカデミー監督賞&作品賞を受賞したポン・ジュノ監督2003年の作品『殺人の追憶』ですよー!

てっきり観たと思い込んでいたんですが、よくよく考えたら未見だったと気づいて慌ててレンタルしてきましたよ。

結論から言うと、ビックリするくらい面白かったです!

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概要

実際に起きた未解決連続殺人事件をテーマにした衝撃サスペンス。韓国で560万人を越える動員数を記録。事実を基に綿密に構成された脚本と緊迫感あふれる映像で、犯人を追う刑事たちの焦燥感が身近に迫る。東京国際映画祭アジア映画賞受賞。主役は『シュリ』JSA』で知られる、韓国の名優、ソン・ガンホ。田舎町の少々、愚鈍な刑事を演じるため、体重を10kg増やし役作りした。監督・脚本は『ほえる犬はかまない』のポン・ジュノ。(シネマトゥディより引用)

感想

天才監督ポン・ジュノ、未解決事件に挑む!

本作は、1986年から1991年にかけて韓国・京畿道華城郡(ファソン)周辺の農村地帯で実際に起こった、本作公開時の2003年当時の段階で未解決だった連続強姦殺人事件を基にしたサスペンス映画。

本作が公開された2003年当時、まだ事件は未解決ということで、ポン・ジュノ監督は本作を“犯人捜し”のミステリー映画ではなく、犯人を追う二人の刑事や警察組織にスポットを当てて、当時の韓国情勢と事件が迷宮入りした背景にある社会の歪みを描いているんですね。

そして2019年、韓国警察は別件で刑務所に収監されていた男を犯人と特定したと発表。
しかし、一連の事件は2006年4月2日に公訴時効が満了しているため犯人は罪に問うことは出来ないのだそうです。(犯人は別件で無期懲役だそう)

ざっくりストーリー紹介

1986年10月、農村地帯華城市の用水路から束縛された女性の遺体が発見されます。

地元警察の刑事パク・トゥマンソン・ガンホ)とチョ・ヨング(キム・レハ)が捜査にあたるんですが捜査は進展せず、2か月後、線路脇の稲田で新たな遺体が発見されるのです。

パク刑事らは二人の女性の関係者を片っ端から取り調べるんですが、スーツ姿の男にはそれなりに丁寧に、しかしそうでない低所得者らしき男には乱暴な取り調べを行います。

そんな中、パク刑事は二人目の被害者の恋人からの情報で、知的障害を持つ焼肉屋の息子グァンホ(パク・ノシク)に目をつけ、暴力的な取り調べや誘導尋問や証拠の捏造を行う。

そこへソウル市警の若手刑事ソ・テユンキム・サンギョン)が赴任。
グァンホの自供で事件解決かと思われるも、ソ刑事は遺体の状況からグァンホの麻痺した手では犯行は不可能であると断定。同時期に警察の拷問による自白強要が問題化し課長を解任。新たに赴任したシン課長(ソン・ジェホ)はソ刑事の主張を支持し、グァンホを釈放します。

ソ刑事は、犯行が雨の日に行われている共通点を指摘、現在行方不明の女性が殺害されていると進言します。
これを受けて大掛かりな捜査の結果、行方不明女性の腐乱死体が発見され、さらに第4の女性の遺体も発見される。

警察の捜査を嘲笑うかのように犯行は続き、犯人像はまったく見えてこない事にいら立つ捜査員たち。
そんな時、女性警官がラジオで「憂鬱な手紙」という曲が流れる日に犯行が行われる事に気づき――というストーリー。

民主化前夜

次々に浮かび上がる犯行の共通点や容疑者たち。
しかし、夜とはいえまだ浅い時間(7時~9時の間)の犯行にもかかわらず目撃者がまったくいないことから警察は犯人の特定に難航します。
その理由の一つが、全斗煥政権末期の学生らによる民主化デモの鎮圧で、そのため捜査に割ける人員が圧倒的に少なかったんですね。
また劇中では、北朝鮮との緊張状態から夜間外出禁止令?によって人の目が極端に少なかった様子も描かれています。

本作は、この田舎の村で起こった連続強姦殺人事件を通して、軍事政権から民主国家に移り変わる韓国社会の歪みを炙り出しているんですね。

反発しあう二人

ソン・ガンホ演じるパク刑事は、そんな退廃した旧体制の警察を象徴する存在。
部下のチョ・ヨングと共に拷問による自白強要、証拠の捏造などやりたい放題。

一方、ソウルからやってきたソ刑事は、4年生大学を卒業したインテリで冷静かつ論理的な若者で民主化後の韓国を象徴する存在です。
書類は嘘をつかない」と、これまでの捜査書類を洗い直し、犯行の共通点から事件が同一犯による連続事件であること、行方不明とされていた女性も被害に遭っていることを見抜くんですね。

そんなソ刑事の存在がパク刑事は面白くないし、ソ刑事も旧態然としたパク刑事のやり方が気に入らないので、二人は当然反発しあいます。

本来、憎まれ役的な立ち位置なハズのパク刑事を、観ているこっちが(間抜けとは思うけど)憎めないし彼に乗れるのも、件の取り調べシーンがコントのようにコミカルに描かれている事と、パク刑事がボケ役、ソ刑事が冷静なツッコミ役になっているからなんですね。

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画像出展元URL:http://eiga.com

そして、更なる事件をキッカケにソ刑事は暴走、パク刑事が彼を止める役になるという、二人の立場が逆転するクライマックスに、観ているこっちは思わず息を呑んでしまうのです。

計算されつくした映像

そんな本作を盛り上げているのが、ポン・ジュノ監督によって入念に計算された映像の設計です。
ぱっと見、無造作に撮影しているように見えて、要所要所でハッとするような映像が差し込まれるし、本作では、フィルムの質なのかカメラワークやライティングなのかは分からないんですが、刑事たちが事件を追う1980年代を映す映像は(今から17年前の作品にしても)昔風というか1980年代的というか、後日談となる2003年のシーンの映像とはハッキリ違いを出しているように感じたんですよね。

多分ですが、そこも計算のうちで、ポンジュノ監督は画質の違いで時代の空気感みたいなものを出しているのではないかと思いました。

あと、観た人全員の記憶に残ること間違いなしの、ソン・ガンホの表情が大映しになるラストショット。
この物語が全て、あのショットに集約されるように作られているのが分かる、映画史に残る見事なショットでした。

よくある話なのに目が離せない

本作をざっくり一言で言うなら「猟奇的な連続殺人犯を追う刑事の物語」で、それ自体はこれまで数多の映画で使われているし、僕もこれまで死ぬほど観た、いわゆる手あかのついたプロットと言えるし、実際の事件を扱う以上結末も分かっている

なのに、本作がラストシーンと対になるアバンから最後まで目が離せないのは、ストーリー・テラーとしての観客を引き込んでいくポン・ジュノ監督の練りに練った構成を、前述の計算された映像設計による極めて映画的語り口で見せていく見事な手腕あればこそなのだと思いました。

これまで僕が観たポン・ジュノ作品はどれも面白かったですけど、個人的には本作が一番面白かったですよ!

興味のある方は是非!!

 

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美少年をストーキングするオッサンの物語「ベニスに死す」(1971)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、イタリア映画界の巨匠ルキノ・ヴィスコンティが、美少年への思いを募らせた老作曲家の苦悩を格調高く描いた文芸ドラマ『ベニスに死す』ですよー!

まぁ、僕もたまには「名作」と言われる作品も観てみようと思ってレンタルしてきたんですが、結論から言うと観ている間ずっと眠気との闘いでしたねーw

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画像出展元URL:https://www.amazon.co.jp

概要

イタリア映画界の巨匠、ルキノ・ヴィスコンティが、美少年への思いを募らせた老作曲家の苦悩を格調高く描いた文芸ドラマ。作曲家グスタフ・マーラーをモデルに描かれたトーマス・マンの原作を基に映画化。少年へ恋焦がれるあまりに破滅へと向かう作曲家を演じるのは、『召使』『ダーリング』などのダーク・ボガード。美少年を演じたスウェーデン出身のビョルン・アンドレセンの美ぼうも話題になった。マーラーの音楽と共に描き出される芸術的で退廃的な世界観を堪能したい。(シネマトゥデイより引用)

感想

ドイツ三部作

本作はドイツの作家トーマス・マン作の同名小説を、イタリア映画界の巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督が映画化した作品です。

ヴィスコンティロベルト・ロッセリーニヴィットリオ・デ・シーカなどと共にネオレアリズモ主翼を担った監督で、本作はそんな彼が監督した「地獄に堕ちた勇者ども」「ルートヴィヒ」と並ぶ「ドイツ三部作」の第2作なんだそうですね。

ちなみに僕は、恥ずかしながらヴィスコンティ監督作品は今回が初見だったりします。

で、本作の内容をざっくり一言で言うなら「美少年をストーキングするオッサンの物語」でしたよ。

ざっくりストーリー紹介

1911年、イタリアのベニス。
心労から病に倒れてしまった事で静養に訪れた作曲家のアシェンバッハダーク・ボガード)が本作の主人公。

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色々あって疲れ果てた彼は療養のためベニスを訪れたんですが、ベニスは季節風の影響から驚くほどの暑さと、バカンスに訪れている観光客で賑わっていたためアシェンバッハはうんざりします。

しかし、ホテルの中で偶然、絶世の美少年タジオ(ビョルイン・アンドレセン)に目を奪われ、自身の中に特別な感情が芽生えたことにアッシェンバッハ本人はまだ気づいていないんですね。

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タジオは家族とともに同じホテルに滞在していたため、レストランでの食事中も、窓を開けると見える海岸でも、気持ちのよい潮風が吹くビーチでも、アッシェンバッハはタジオを目で追ってしまうのですね。

そんなある時、エレベーターでタジオは自分が見つめられていることを知ってか知らずか美しい笑みを浮かべながら振り向き、見つめ合った瞬間、アッシェンバッハは彼の圧倒的な美の魅力の虜になってしまったことに気づくのです。

動揺した彼は、慌ててホテルを引き払いミュンヘンに帰ることを決めるも、手違いで別の場所に荷物が送られてしまったため、再びベニスのホテルに舞い戻ることに。

そこで、タジオを見つけた彼は、再会をひそかに喜ぶんですねー。

そんなアッシェンバッハがホテルのロビーで海外の新聞を読んでいると、ベニスでの感染症に注意するようにと警察からの勧告を発見し――というストーリー。

僕は「ベニスに死す」がオッサンが美少年に恋する物語という程度しか知らなかったので、今回見て観光地ベニスに伝染病が蔓延という内容にビックリしてしまいしたよ。

イムリーすぎんだろ。

美と生への渇望

本作では、ベニスでのアッシェンバッハと同時進行で、彼がベニスに来ることになる経緯が語られていきます。

ドイツで作曲家として名声を手に入れ、美人の奥さんと可愛い一人娘にも恵まれ幸せの絶頂だったアッシェンバッハ。
しかし、不慮の事故か病気で娘を亡くしただけでなく、老いと共に仕事も上手くいかなくなって病に臥せってしまった彼は、静かな環境で療養するためベニスを訪れますが、そこでタジオと出会ったことで、自分がどんなに努力しても叶わない美しさと生の輝きにすっかり心を奪われてしまうんですね。

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その感情は恋とか愛とかではなく、彼がタジオに激しく惹かれるのは、身も心もすっかり年老いてしまったアッシェンバッハが求め続けた美と生への「渇望」だったのだと思います。

最初はタジオを目で追う程度だったアッシェンバッハでしたが、次第に行動はエスカレート。タジオを探してホテルやビーチ、ベニスの街をウロウロしたり、白髪交じりの髪や口ひげを黒く染め、白粉に紅をさして若作りし始める始末。

真っ白なスーツやハットで身を固める彼はまるでピエロのようで、何ともいたたまれない気持ちになってしまいましたよ。

一方、アッシェンバッハに忍び寄る死の影
本作ではベニスでタジオと出会った瞬間、アッシェンバッハの運命は決まったかのように描かれています。
つまり、タジオはある意味で、アッシェンバッハを破滅に向かわせるファム・ファタール(主人公を破滅に向かわせる魔性の女)であり、彼を黄泉の国に誘う美しい死神のような存在でもあるわけです。(あくまでアッシェンバッハから見て)

一度は死神の手から逃れたかに見えたアッシェンバッハでしたが、荷物の手違いでベニスに戻らざるを得なくなった時、文句を言いながらも彼の顔はにやけているんですよね。そんな彼の向こうでは、やせ細った一人の男が今にも死にかけている。
この時点で、アッシェンバッハは忍び寄る死の影に捕まったのです。

環境ビデオのよう

とまぁ、本作でヴィスコンティ監督がやりたい事は何となく分かるし、シネスコサイズ(2.35:1)で撮られた映像も非常に美しかったです。
しかし、その美しい映像にアッシェンバッハのモデルになった作曲家マーラーの音楽も相まって、まるで環境ビデオを観てるような134分、僕はもう眠気を堪えるのに必死でしたよw

アッシェンバッハの心情の変化やタジオとの距離感をじっくり時間をかけて描く演出も、本作が公開された71年ならともかく2020年のテンポに慣れきってしまった今となっては、かなり辛いものがあるんじゃないかと思いましたねー。

興味のある方は是非!

 

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“王と父”がタッグを組んだ伝説の奇作「クリープショー」(1986)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、モダンホラーの王スティーブン・キングとモダンゾンビの父ジョージ・A・ロメロがタッグを組んだ伝説の奇作『クリープショー』ですよー!

僕は学生時代に1度観て以来なので、ずいぶん久しぶりに本作を観たんですが、今観ると色んな発見がある作品でしたねー。

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概要

スティーヴン・キングの原案を基に、コミックマガジン形式で繰り広げられるオムニバス・ホラー。父の日に墓から甦る死者、不貞を働いた妻と愛人を干潮の砂浜に顔だけ出して埋めた男に訪れる恐怖、大学の片隅に眠る木箱に潜む謎の怪物、隕石に触れたため身体中が奇怪な植物に覆われてしまう男の悲劇、潔癖症の老人を襲うゴキブリの群れの5つのエピソードが、文字通りのコミック・タッチで描かれる。(allcinema ONLINEより引用)

感想

王と父が「グリッター・ジャンル」を蘇らせる

本国アメリカで1982年に公開された本作は、強権的な父親が息子が隠し持っていたホラー漫画を発見、本を取り上げてゴミ箱に捨てるプロローグからスタートするオムニバス形式のホラー映画です。

脚本を務めるのはデビュー作「キャリー」を始め数多くの小説作品を生み出した「モダンホラーの王」スティーブン・キング

監督は「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」「ゾンビ」などを生み出した、「モダンゾンビの父」ジョージ・A・ロメロ

盟友でもあった二人がタッグを組んで、グリッター・ジャンルコミックを蘇らせたのが本作なんですね。

グリッター・ジャンルとは

「アメコミ」と聞くと、多くの人はマーベルコミックやDCコミックなど、スーパーヒーローが活躍するコミックを連想するんじゃないでしょうか。

しかし、1960年代以前には、大小取り混ぜた無数の出版社からファニーアニマル(動物の擬人化)・西部劇・恋愛・恐怖・戦記・犯罪などなど、多種多様なグリッター・ジャンル(ヒーローコミック以外の漫画)コミックが出版されていたんですね。

ところが、「コミックに描かれた暴力やホラー描写が青少年を非行に走らせる」という研究書をドイツ人心理学者のフレデリック・ワーサム博士が発表したのをキッカケに、アメリカコミック界で「コミックス・コード」という自主規制に発展。
グリッター・ジャンルを扱うコミック出版社は壊滅状態に追い込まれるんですね。

その代表格が主にホラーや犯罪漫画を扱っていた「ECコミック」で、本作で登場するコミック誌の絵はECコミックのアーティスト、 ジャック・ケーメンが担当していて、本作のアバンでは、見る人が見ればコミックコード前後の家庭の様子を描いている事が分かるんですね。

キングはホラー作家であり、ロメロはゾンビ映画やホラー映画の監督として有名。
そんな二人がホラーコミックを実写映画で復活させるアイデアには、当時の(そして恐らく彼ら自身への)偏見や規制という時代の流れに対する皮肉が込められているのだと思うんですよね。

5本の短編からなるオムニバス形式

そんな本作は父子のプロローグとエピローグの他に、5本の短編からなるオムニバス作品になっています。

第1話『父の日

毎年“父の日“に会する富豪の親戚一同。
彼らは、横暴な家長だった父親(ジョン・ローマー)を殺害した大叔母ベドリアヴィヴェカ・リンドフォース)の到着を待っています。
彼女は親戚達の元へ向かう前に父親の墓を訪れるのだが――というストーリー。

この横暴な父親は猟でベドリアの恋人を事故に見せかけて撃ち殺したという過去があり、年老いてからはベドリアに介護を強要してるわけです。
今風に言うなら老々介護ってやつですね。しかし、もとより横暴な男なので父の日のケーキを強要し、しまいには娘のベドリアをビッチ呼ばわりする始末。
ついに堪忍袋の尾が切れたベドリアは大理石の灰皿で父親を撲殺。
メイドと共謀して事故死に見せかけるのです。

キングやロメロが意識したかは分かりませんが、1982年の段階で毒親問題や老々介護を扱っている先見性に驚かされましたねー。

第2話『ジョディ・ベリルの孤独な死

農夫ジョディ・ベリルの家先に隕石が落下。
まだ熱いそれに触れたジョディは、指先に火傷を負ってしまいます。
彼は隕石が金になると期待するんですが、触れた指先から体に異常が現れ始め――というストーリー。

ちなみに本作の主人公ジョディ・ベリルをユーモアたっぷりに演じたのは、若き日のキングなんですよねw
(父親にホラー漫画を取り上げられる少年はキングの長男ジョー・ヒル

第3話『押し寄せる波

ある朝ハリー(テッド・ダンソン)を初老の男が訪れます。男はハリーの不倫相手ベッキーゲイラン・ロス)の元夫リチャードレスリー・ニールセン)。
リチャードに「ベッキーに”想像を絶する一大事”が起った」から脅されたハリーは、リチャードに従い砂浜へと向かうのだが――というストーリー。

リチャードを演じるのは「裸の銃を持つ男」などで知られるレスリー・ニールセンで、コメディ俳優のイメージが強い彼ですが、本作では間男と不倫妻への復讐に燃える恐ろしい男を演じています。

そして、最初はスリラーかと思って観ていると、後半に驚きの展開が待っているんですね。

第4話『

大学の守衛が落としたコインを暗い階段下の網付きの物入れに転がしてしまい、そこで古い木箱を発見します。

一方、パーティの席で英文学教授ヘンリーハル・ホルブルック)の妻ウィルマエイドリアン・バーボー)は酒に酔って若い数学教授夫妻に絡んだり、公衆の面前でヘンリーを怒鳴り嘲ったり。そんな彼女にヘンリーは殺意を抱くも、気が弱い彼はウィルマを殺す妄想をするだけで何も言えません。

そんなパーティーの最中、守衛から電話を受けたヘンリーの友人デクスター(フリッツ・ウィーヴァー)は大学へ向かいます。
守衛が見つけた木箱には「1834年6月19日北極」のラベリングが。

デクスターは守衛と二人、研究室に運び出した木箱を開けるのだが――というストーリー。

これも、147年前の木箱を開けるデクスターと、鬼嫁に殺意を抱きつつ逆らえないヘンリーの物語がクロスしていくんですね。

第5話『奴らは群がり寄ってくる

短気で傲慢な会社社長アプソン・プラット(E・G・マーシャル)。
潔癖症の彼は無菌のペントハウスに暮らしていますが、何故か部屋にGが出てくる。
見つけては退治する彼でしたが、Gは減るどころかどんどん増え続け――というストーリー。

要は潔癖症の男が大量のGに襲われるだけの物語なんですが、劇中の電話を通して彼の無慈悲で傲慢な性格を描き、Gと彼が見下す人々をリンクさせているんですね。
また、潔癖症でGを憎むに至る背景が分かる構成で、短い物語に厚みを持たせているのです。
ただ、それはそれとして、大量のG(本物)が動き回る絵面は生理的に来るものがあり、苦手な人は絶対ムリって感じでしょうか。(((((( ;゚Д゚)))))ガクガクブルブル

そしてエピローグでは、ホラー漫画を取り上げられた息子が父親にある復讐をして物語は終了するんですね。

意外と社会派?

ジョージ・A・ロメロ監督は、ゾンビ映画ばっかり撮ってるのでゲテモノ映画専門の監督と思われがちですが、「ゾンビ」の大ヒット後にはホラー監督という肩書からの脱却を目指し社会派ドラマやラブ・ストーリーなども監督しているし、そもそも彼のゾンビ映画には、公民権運動や大量消費社会への警告など、その時代の社会問題が必ず織り込まれていたりするんですよね。

本作でも民主主義の権化のような男だったり、毒親、鬼嫁、時代錯誤な強権的な父親などが登場していて、その辺は脚本のキングのアイデアかもですが、いわゆるB級ホラーではあるものの、今観ると意外と社会派なテーマや、現代に通じる先見性があったりして驚きましたねー。

もちろん40年近く前の作品なので、恐怖描写はわりと牧歌的というか、いかにも作り物っぽさがあるのは確かなんですが、実はこの映画が公開された1962年当時でも特殊メイクや造形、撮影技法など「ゆるいなー」と思ってた記憶があります。

その辺は、前述したように「ホラーコミック」オマージュということで、わざとポップでキッチュな映像にしているんでしょうね。

興味のある方は是非!!

 

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死霊のナイトミュージアム「アナベル/死霊博物館」(2019)

ぷらすです。

今回ご紹介するのは、MCU・レジェンダリーと共に「世界3大ユニバース」の1本と呼ばれている「死霊館」ユニバース最新作『アナベル/死霊博物館』ですよー!

実在の心霊研究家エド&ロレイン・ウォーレン夫妻の自宅に収蔵されている、呪われたあれやこれやが、3人の少女を襲う一夜の物語です!

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画像出典元URL:http://eiga.com

概要

死霊館』シリーズのスピンオフ第3弾。超常現象研究家夫妻の家で保管されていた呪いの人形アナベルの封印が解かれる。ウォーレン夫妻をおなじみのパトリック・ウィルソンヴェラ・ファーミガ、彼らの娘を『gifted/ギフテッド』などのマッケナ・グレイスが演じる。シリーズに携ってきたジェームズ・ワンが製作を務め、『アナベル』シリーズの脚本を担当してきたゲイリー・ドーベルマンがメガホンを取った。(シネマトゥディより引用)

感想

死霊館」ユニバースの歩み

*これ、新作が公開されるたびに毎回書いているので「またか」と思われた方は読み飛ばしてくださいw

シリーズ第1作「死霊館」は、映画「悪魔の棲む家」の元ネタとして有名な「アミティヴィル事件」など多くの超常現象を調査・解明してきた、アメリカで有名な超常現象研究家ウォーレン夫妻が1971年に体験したという実際の事件を基に、「ソウ」や「アクアマン」などのジェームズ・ワン監督が制作したホラー映画です。

実在の人物・事件を題材にした作品ということもあって「死霊館」は大ヒット。

このヒットを受け、ワンは監督を自分の仲間に任せて自身は制作に回り、

・2014年「死霊館」に登場した史上最凶と言われる呪いの人形”アナベル”をフューチャーした「アナベル/死霊館の人形

・2016年に本編続編でアミティヴィル事件を描いた「死霊館/エンフィールド事件」をそれぞれ公開。

死霊館」を起点に、ウォーレン夫妻が主役の死霊館」シリーズと呪いの人形アナベルをメインにしたアナベル」シリーズ、「死霊館」に登場するサブキャラクターを描いたスピンオフ作品に枝分かれしていきます。

その後、

2017年にはアナベルシリーズ第2弾「アナベル/死霊人形の誕生

2018年に悪魔ヴァラク修道院シスターの闘いを描く「死霊館」のオリジン的作品「死霊館のシスター

2019年には「アナベ/ 死霊館の人形」のペレス神父が登場する「ラ・ヨローナ〜泣く女〜

と、約1年1本ペースで作品が公開され、(現行)シリーズ最新作が第1作「死霊館」冒頭シーンの直後からスタートする本作なのです。

死霊館」から派生したこれらの作品はすべてが一つの世界観を共有する”ユニバース”になっているんですね。

MCU(マーベルシ・ネマティック・ユニバース)の成功によって、雨後の筍のように作られた”ユニバースもの”でしたがその殆どは興行的に失敗。
実質成功と言えるのは本家のMCU、レジェンダリー制作のゴジラキングコングを有する「モンスターユニバース」、そしてこの「死霊館ユニバース」くらいなんですねー。

これが俗にいう、世界3大ユニバースです。(嘘)

ざっくりストーリー紹介

前述したように、時系列で言うと本作はシリーズ第1作「死霊館」の冒頭シーンの直後からスタート。

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最凶の呪い人形アナベルの厄災を防ぐため、ウォーレン夫妻は人形を自宅の地下で、いわくつきの品物を収蔵しているコレクションルームに厳重に封印・保管します。

その一年後、ウォーレン夫妻は用事で外泊することになり、もうすぐ11歳の誕生日を迎える娘ジュディ(マッケナ・グレイス)をシッターのメアリー(マディソン・アイズマン)に託します。

誕生日間近ということもあり、メアリーはジュディと誕生日を祝う準備をしていますが、そこにメアリーの友人ダニエラ(ケイティ・サリフ)も参加。

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画像出典元URL:http://eiga.com

実はダニエラ、ある過去が原因でウォーレン夫妻のコレクションルームに興味津々なのです。
そんなダニエラ、ジュディとメアリーが出かけた隙に、こっそり地下のコレクションルームに潜入し、事もあろうにアナベルの封印を解いてしまったからさぁ大変。

地下室の死霊たちが、ジュディ、メアリー、ダニエラの3人に襲い掛かる――というストーリー。

序盤で、エドパトリック・ウィルソン)とロレインヴェラ・ファーミガ)のウォーレン夫妻が久しぶりに登場した時はテンション爆上がりでしたが、蓋を開けてみれば本作は2人の娘ジュディと、メアリー&ダニエラがメインの物語だったんですねー。

死霊のナイトミュージアム

そんな本作、コレクションルーム=博物館を抜け出て暴れまわる死霊(悪霊)に右往左往する3人の少女の一夜を描いているところが、映画「ナイトミュージアム」を思い出しましたねーw

悪魔の依り代になっている人形アナベルを始め、狼男、アコーディオンを弾く猿のおもちゃ、数秒後の未来を映し出すテレビ、勝手に演奏を始めるピアノに勝手に文字を打つタイプライターなどなど、収蔵・保管されている“いわくつき“の品々が次から次へと動き出す様子は、まさに「死霊のナイトミュージアム」ですよw

また、本作は少女3人が主人公ということで、これまでの「死霊館」作品よりグッとライトかつポップな仕上がりになっていて、本格ホラーというよりアトラクション的「お化け屋敷映画」といった感じ。

中盤までは制作のジェームズ・ワンお得意のJホラー表現もあり、じわじわ怖い、いつもの「死霊館」テイストなんですが、死霊たちが次から次へと登場する後半~クライマックスにかけては、何か別作品を観てるようでした。

また、本作では3人の少女それぞれが抱える悩み?を反映したお化けが登場。

父親の死後自分を責め続けるダニエラには呪いのウエディングドレスを着た血まみれの花嫁。(幽霊)

幼い頃に喘息で死線を彷徨ったメアリーには、三途の川を渡る舟の船頭フェリーマン。(死神?)

母の能力を受け継ぐ娘ジュディには、彼女の魂を狙うアナベル(悪魔)がそれぞれ襲い掛かってくるんですね。

そして、本作は3人が協力しながら襲い掛かる苦難を乗り越えちょっぴり成長するという、青春映画でもあるのです。
その辺はちょっと「IT/イット」っぽさもあったりしましたねー。

なので、これまでの作品群と比べて怖さは控えめだし、ラストは爽やかな後味もあるので怖いのが苦手という人でも結構楽しめるかもしれません。

興味のある方は是非!!

 

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